先週もレノボジャパンの新製品ThinkPadシリーズに関連し、同社の内藤氏に話を伺ったが、今回も引き続き、ThinkPad新シリーズについて掲載する。新しいXシリーズ、Tシリーズを短期間ながら試用できたため、個人のモバイルユーザーに身近なXシリーズを中心にした簡単なレビューに、取材時にレノボジャパンから得られたコメントを交える形でお伝えしたい。 ●あくまでもThinkPadのカタチにこだわった新シリーズ
昨今、各社のノートPCも大きく様変わりした。特にモバイル機に関しては、パーソナル指向の強い製品から、企業内で使われるビジネス向けの色が濃くなってきている。実際の使われ方としてはさほど変化していないが、実際にオフィスの外で仕事をする社員に対して、より積極的に鞄の中に入れて持ち歩くノートPCを使わせようという潮流が、IntelのCentrino戦略以降にあるためだろう。 その間には個人情報保護法の施行など、モバイルコンピューティングへの流れにブレーキをかける事象もあるにはあったが、大まかな流れは変わっていない。こうした流れの中で、これまではコンシューマ向けが中心で、あまり企業向けには積極的ではなかったソニーのVAIOも、本格的にビジネスツールとしてのモバイルPCに取り組むなど、市場の中の勢力地図も少しずつ変化している。 以前は個人で購入するビジネスモバイルPCの代表格だったLet'snoteシリーズも、今やモバイル分野限定では企業向け案件で有力な選択肢の1つになっているし、昨年から本格的に企業向けに参入しはじめたVAIOも、最新のVAIO Type S(SZ)では指紋認証センサー、TPMチップに対応し、セキュリティクライアントソフトをプリインストールするまでになった。 ThinkPadシリーズは、言うまでもなくビジネスツールとして企業向けに設計されているノートPCである。そこに「コンシューマ」という意識はほとんどない。しかし、ビジネスツールとして、モバイルコンピューティングに求められる要素を詰め込んできたからこそ、“個人で購入するビジネスモバイルPC”という、実に分類しがたいカテゴリにおいて人気機種であり続けた。 これはおそらく、作り手側が“自分が使うならこんな製品がいい”という気持ちを乗せて作っているからだろう。そしてそのポリシーがブレないからこそ、毎回、“ThinkPadらしい”製品なのだ。 今回も新機軸を求めているユーザーには不満だろうが、“より優れたThinkPad”を求めるユーザーには、十分にアピールする製品になっていると感じた。それは、ThinkPadらしいデザインにもあるが、なによりバランスの良いビジネスツールとしての在り方に現れている。 ●期待以上の快適性を持っていた新Xシリーズ 手元に届いたThinkPad X60には1.83GHzのIntel Core Duo T2400、512MBメモリ、東芝製の80GB HDDといった構成。無線LANはPCI Express対応のAtheros製モジュールで、Bluetooth非搭載。このときはまだ、通信用にPCI Expressスロットが2個搭載されているとは知らなかったのだが、あとから確認してみると2つ目のスロットにはコネクタが装着されていない(T60ではあらかじめコネクタが装着されている)。バッテリは2.6Ahの18650バッテリセルが4本で、電源は4本直列の14.4V仕様だ。
レノボの発表会では標準モデルとしてはIntel Core Duo T2300(1.66GHz)が使われるとアナウンスされていたが、BTOオプションの変更によりT2400も利用可能との事である。またBluetoothも標準モデルには内蔵機が設定されていないが、こちらもBTOオプションとしての追加が可能である。 と、この時点で気になるのが、はたしてバッテリはどの程度もつのか、手元はデュアルコアの熱で熱くならないのか、の2点であろう。 バッテリの持続時間に関しては、ある程度セーブしながらの使い方であれば、おおむね3時間半、無線LANをオフにすれば4時間程度、つまりスペック値にかなり近い使い方はできそうな印象である。おおむね“1セルあたり1時間ぐらい”とアバウトにとらえておくのが良いだろう。どっちにしろ、バッテリはへたってくるものだ。長時間の駆動が望みなら、約200g重くなる8セルバッテリを使うべきだろう。 懸念される問題は熱さ、いや暑さだろう。発熱が操作時の不快さにつながらないのだろうか。デュアルコア、ましてや通常電圧版である。 ところがこれがまったく熱くない。これは他社製のIntel Core Duo搭載機にも言えることだが、拍子抜けするほどに発熱が少ない。3Dベンチマークをループで流しながら、別途、数値演算ソフトを長時間走らせ、両コアの利用率をかなり高いレベルまで上げてみたものの、手元はもちろん底面の温度もほとんど上がらない。
右手のパームレストがやや熱くなってくるので、“まさかこんなところにCPUがあるわけがない”と思いつつカバーを開けてみると、そこにあるのは電圧レギュレータと無線LANカードだった。なお、レノボ開発陣によると、この問題はすでに対策を施しており、製品版では温度が下がるとの事だった。 ちなみに軽量版として発表されているThinkPad X60sでは、アセロス製ではなくIntel製の無線LANカードが搭載され、Centrinoブランドが使われる。こちらは発熱がより少ないそうで、無線LANカードからの熱を感じる可能性はないとのことだ。 なんにせよ、通常電圧版のIntel Core Duoが搭載されたというのは、パフォーマンス指向のB5モバイル機ユーザーには朗報だろう。パフォーマンスと軽量さのバランス点として、X60のポジションは実にユニークだ。買い換え先のマシンを見失っていたX30系のユーザーは、X60へと自然に移行できるだろう。それと同時に、X40系ユーザーはX60sが受け皿になっていくものと思われる。 ●ただの軽量版ではなかったX60s
最初にX60を見て通常電圧版のIntel Core Duoが搭載されているのを見て驚いた。なにしろ、開発中の時点で行なったインタビュー時には「次は低電圧版のデュアルコアを入れたい」と話していたからだ。ところがふたを開けてみると、低電圧版どころか通常版まで搭載できている。ちなみに発表された一連のIntel Core Duo搭載機の中で、B5サイズのコンパクトな筐体を守っているのはX60およびX60sのみである。 さぞ苦労したのだと思いきや、実はさほど苦労はしていないのだとか。「今回は出荷直前に電圧が上がったり、熱設計電力が増えたりといった仕様変更がなく、実際のサンプルもスペック通りどころか、それ以下の消費電力だったため、比較的楽に搭載できました。特に動作時の消費電力が少ないため、実利用時の発熱は少ないはず」とのこと。
もちろん、そうはいっても熱設計電力はデュアルコア化で1.5倍程度にまで増えている。「マージンを見て設計していたことと、実際の発熱が少なかった事ですんなり入りましたが、しかしこれだけ大きく分厚い銅製の冷却装置を入れたのですから、大変は大変です」。 なるほど、軽量版のX60sが200g以上も軽くなっているのは、それが主たる理由なのかと思いきや、実はX60sは単なるX60の仕様違いではなく、高コストモバイル特化仕様なのだという。 レノボによると、欧州や米国では軽量化に対するニーズは比較的少なく、性能と薄さを求める傾向が強いという。それに対して日本でのニーズは、バッテリ持続時間と軽量化がトップに来る。そこで両方のニーズを満たすため、主に日本市場を見据えたモバイル機として作られたのがX60sというわけだ。 ではどのあたりが違うのか。 まず液晶パネルに70~80g軽量で、開口率の上がった別仕立てのものを採用し、軽量化と20%の輝度アップを果たした。これは同程度の明るさならば省電力である事を意味している。これらに加え、低電圧版のIntel Core Duo L2300(1.50GHz)を採用することで、薄型アルミヒートシンクへと変更。さらにはHDDを1.8インチとするなどで軽量化を図っている(BTOでは2.5インチHDDを選択可能だが、その場合は当然重くなる)。 なお、X60sに関しては試用していないため、バッテリ持続時間がどの程度延びるのかはわからないが、スペックを見る限り、若干延びる程度で大きな違いはなさそうだ。 さて、それ以外にも、キーボードデザインの若干の変更(Widnowsキーとアプリケーションキーの追加)など若干の変更点はあるが、基本的な使い勝手に違いはない。キータッチは比較的軽めのX40系列タイプだが、現在Xシリーズを使っているユーザーなら、どんな機種から乗り換えても全く違和感を感じないはずだ。 ●徹底的に強化された“硬さ”のTシリーズ
最後にTシリーズに関しても少し触れておきたい。従来機よりも若干重くなり、また日本ではモバイル機というよりはモバイルもできるデスクトップリプレース的に使われている事も多いTシリーズだが、その違いは持った瞬間に感じ取れる。 何しろ“硬い”。左側、ウルトラベイのスロットがある側の角をつまんで持ち上げてみても、ねじれる様子1つ見せない。キーボードやパームレストを取り払うとその理由は明白で、本体部に補強用の橋梁を入れた成形がなされており、捻れが実に少なくなるよう設計されている。百聞は一見にしかずで、これこそは実物で剛性を確かめてみるべきだ。 また熱設計そのものは、より小型のX60シリーズよりもT60の方が厳しかったようだ。というのも、ATIの最新ノートPC用GPUを入れる事を最初から決めていたからだ。今回、たまたまIntelから供給されたプロセッサの熱が予定よりも少なかったが、その一方でGPUに関しては全8種類に対応できるよう配慮しつつ、どの程度の消費電力になるのか最後まで確定せずと、不確定要素が多かったためである。 しかし今後、GPUの消費電力は拡大し続ける。「設計屋にとってみれば、メインCPUが2個あるようなもの」ということで、IntelプロセッサだけでなくGPUの熱設計ロードマップを気にしながら設計を行わなければならないが、近い将来のCPU、GPUに対しては十分に対応できる熱設計になったという。 もっとも、開発陣の悩みは今年年末に登場するMerom世代にあると予想される。Napaプラットフォームの低発熱、低消費電力は以前から噂されていたが、Meromが使われる次、チップセットも新しくなるその次と、かなり熱設計電力が上がる見込みになっている。平均消費電力は上げないが、熱設計電力は上がるというのが、今年年末以降の大きな流れだ。 というわけで、Xシリーズ、Tシリーズの両開発陣は、Yonahよりも増えるMeromの熱設計電力にどのように対応していくか。特にXシリーズは通常電圧版Meromを今のX60筐体に入れられるかどうか、頭を捻る毎日が続くだろう。 □関連記事 (2006年2月8日) [Text by 本田雅一]
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