International CESにおいて、Intelは新しいデジタルホーム向けのプラットフォームブランドとなるIntel Viiv Technology(以下Viiv)を発表した。 開発コードネーム“East Fork”の名前で呼ばれていた頃から、このViivを追いかけてきた筆者としては、そのViivがどのようなものであるのかはかなり気になるところ。そこで、早速Viiv対応PCを入手して、そのメリットを確認してみたいと思う。 OEMベンダーからリリースされているマシンをチョイスするという手もないわけではないが、やはり“ネタ”になるという意味においても、Viivマシンの自作に挑戦してみたいと思う。 ●自作も可能なViiv Viivは、Intelの新しいブランド名で、ある条件を満たしたPCにつけられるブランド名だ。Pentium MやCore Duoを搭載したマシンが、ある条件を満たすとCentrino Mobile Technologyのブランド名を与えられるのと基本的には同じだと考えてよい。日本ではすでにViivブランドのPCが、NEC、富士通、日立製作所、MCJの4社からリリースされている。 その具体的な条件だが、次のようになっている。
これらの条件を満たせば、ユーザーレベルでもViiv対応PCを自作することは可能だ。すでにIntelからはViivに対応したマザーボードが発売されている。具体的には「D945GPM」(microATX)と「D945GBO」(microBTX)で、いずれもIntel 945Gチップセットを搭載し、サウスブリッジにICH7-DHを搭載している。有線LANにはIntel PRO/1000 PM(Intel 82573L)、オーディオコーデックとしてHDオーディオコーデックであるSigmaTelの922xを採用しており、7.1chの音声出力が可能になっている。現時点では市場で入手できるのは、この2製品ぐらいだが、今後マザーボードベンダーなどからViivに対応したマザーボードが続々とリリースされることになる。今回筆者はD945GPMを秋葉原のPCパーツショップで、18,000円(税込)で入手した。 Viiv対応マザーボードがあれば、要件のうち、チップセットと有線LAN、オーディオの3つを満たすことができる。残る要件は、CPU、HDD、ソフトウェアの3つとなる。CPUに関しては、D945GPMはLGA775ソケットなので、必然的にPentium Dから選ぶことになった。今回は、最も安価なものとしてPentium D 820(2.8GHz)をチョイスした。HDDに関しては、手持ちの中からNCQに対応したMaxtorのDiamond MAX 10(6B250S0)を選んで利用した。 残るはソフトウェアだが、Windows XP Media Center Edition 2005は、OEM版として販売されているものを利用し、Windows Updateを利用してUpdate Rollup2を適用した。Viiv対応のプラットフォームドライバは、D945GPMのパッケージに付属していたが、IntelのWebサイトからダウンロードすることも可能だ。 インストールするのは次のソフトウェアで、
Viivソフトウェアの実体は、C:\Program Files\Intel\IntelDH\binにインストールされる“IntelDH.dll”というdllファイルで、このdllファイルがそのプラットフォームがViivに対応しているかどうかをチェックしている。PCがViivの要件を満たしている場合、このdllがWindows XP MCEのメディアオンラインと連携し、Viivに対応したコンテンツサービスをメディアオンラインのメニューに表示させる役目を果たす。 Matrix Storage Consoleは以前RAIDのユーティリティとして導入されていたソフトウェアで、RAIDないしはAHCIモードが有効になっているとインストールして利用することが可能になっている。このため、Viiv対応PCを自作する場合には、BIOSセットアップで、HDDの動作モードをAHCIに設定しておく必要がある。Quick Resume Technology Driverは、後述する“退席中モード”を利用するのに必要なドライバソフトウェアとなっている。 これらをインストールすると、Viiv対応マシンになる。その作ったPCがViivに対応しているかどうかは、IntelのWebサイトよりダウンロードできる“Intel Viiv Technology Test Utility”でチェックできる。きちんとすべての条件が満たされていれば、Viivのロゴが表示される。だめなら、問題点となる箇所が表示され、それを修正するように求められる。 ●現状ではViiv専用コンテンツを3つ利用できることだけがメリット それでは、Viivに対応したWindows XP MCEマシンと、対応していないWindows XP MCEマシンでは具体的に何が違うのだろう。現時点では、メディアオンラインに見えるコンテンツサービスが異なることと、“退席中モード”が利用できるという2つの点だ。 メディアオンラインでは、次の点が異なっていた。 ・「BIGLOBEストリーム」にViivロゴがつく 「BIGLOBEストリーム」は、Viivに対応していないPCでも表示されるサービスだが、Viivに対応しているPCでは、“Enjoy with Intel Viiv Technology”とロゴマークが表示されるという違いがある。ただし、利用できるサービスそのものには違いはないようだ。 DETECTIVE OFFICEの提供する「探偵事務所5」はネット配信を前提に作成されたドラマで、現在第8話まで配信されている。SD解像度(画面比16:9)ながらビットレートは3Mbpsになっているのが特徴で、ネット配信のコンテンツとしてはなかなか力の入ったものとなっている。ユニークなのは、コンテンツがダウンロード形式になっていることで、あまり高速ではないネット環境でも楽しめることができることがポイントだ。なお、形式はWMVで、HDDにダウンロードしたコンテンツはWM DRMにより保護されている。 「zzz.tv」は、吉本興業の子会社にあたるベルロックメディアが提供しているお笑いコンテンツを提供するコンテンツサービスで、Intelが出資していることでも知られている。これまでインパルス、ガレッジセール、二丁拳銃、レイザーラモンHGなどが出演するお笑いコンテンツをWebサイトで提供してきたが、その10フィート版としてzzz.tvは運営されている。これまでのコンテンツを閲覧できるほか、最近話題のお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」による新しいコンテンツが公開されている。zzz.tvだけで公開されている6Mbpsという高ビットレートのHDコンテンツは、WMA Professional 9の5.1chオーディオにも対応しているのが特徴となっている。 音楽レーベルavexが提供する「PRISMIX」は音楽クリップのダウンロードサービスで、現在プレサービス中。倖田來未、TRF、浜崎あゆみなどavex所属のアーチストの音楽クリップをストリーム再生することができる(ただ、筆者の環境ではなぜか再生できなかった)。 ●Quick Resume Technologyによる新しい“退席中モード”が利用可能に Viiv対応PCでは、Windows XP MCE 2005のUpdate Rollup2でサポートされているAway Mode、日本語では“退席中モード”と呼ばれる新しい状態が利用することができるようになる。
これは、ACPIで規定されているOSの状態であるSステートを変更することなく、PCを一種の待機状態にするための新しいモードだ。実際、前出の“Quick Resume Technology Driver”をインストールすると、コントロールパネルの電源オプションのプロパティに“退席中”という新しいタブが追加され、退席中モードが利用可能になる。 ただ、“一種の”としたのは、実際のところはこの退席中モードは待機状態(いわゆるサスペンドやハイバネーションなど)には移行していないからだ。というのも、退席中モードは実際には実際にはOSはS0ステート、つまりバリバリの通常動作状態にあるからだ。 待機中モードが有効な時に、ユーザーがリモコンやPCの電源スイッチを押すと、OSはディスプレイ出力とオーディオの出力をオフにする。このため、ユーザーからはPCがオフになっているように見えるが、実際にはCPUやメモリには完全に電源が入っており、PCはそのまま録画などを続けることが可能になっている。実際、電力計を利用して退席中モード時と通常モード時の消費電力を計測してみたが、全くと言ってよいほど変わらなかった。単に出力をオフにしているだけだから、当たり前と言えば当たり前だ。 2005年の8月に米国で行なわれたIntel Developer ForumでIntel デジタルホームグループジェネラルマネージャ兼副社長のドナルド・マクドナルド氏は、Viiv対応マシンで家電機並のON/OFFができるようになるとアピールしたが、当然それはこの退席中モードのことを指していると思われる。確かに、ON/OFFは高速だが、実際にはほとんどOFFでは無いわけで、せいぜい「画面・音声オフ」ぐらいの言い方がが正しいと思う。 それでも退席中モード自体は意外と便利ではある。筆者の家では、ほとんど24時間何らかの番組をWindows XP MCEマシンで録画しているし、番組を録画していない時にも、動画をエンコードさせるなど、何らかの処理をさせていることが多い。PCをサスペンド状態にすることはできないのだが、ディスプレイ出力とオーディオ出力だけはオフにしたいというシーンは結構ある。 もう1つ言うなら、これはMCE固有の問題なのだが、ライブTVを見ていて、それを停止ボタンで停止状態にして放っておくと、あとで自動でTV再生が勝手に開始されていることがよくある。これは、ライブTVを停止したまま、予約録画が開始されると同時に再生も始まってしまうというMCEの“仕様”であり、次期バージョンではぜひ改善して欲しいところだ。夜中にこれをやられるとかなりうるさいのだが、退席中モードにしておくことで防ぐことができる。 ●本領発揮は今年の後半にリリースされるバージョン1.5からになる 以上のように、現状のViivは、言ってみればWindows XP MCE 2005に、新しい3つのコンテンツサービスと退席中モードを追加しただけで、そんなに大きな差かと問われれば、「あんまり変わってないっすね」としか言いようがないのが正直なところだ。だが、この点はすでに筆者が昨年指摘した通りで、特に驚くべきことではない。 やはり、Viivの本当の威力は、業界でバージョン1.5と呼ばれている新しいViivソフトウェアがリリースされて以降になるだろう。このバージョン1.5のViivソフトウェアでは、Intelは新たに“Viivゾーン”と呼ばれるサービスを提供する。このViivゾーンを利用することで、ユーザーはViiv対応PCだけでなく、Viivに対応したDMA(Digital Media Adaptor)などからViivに対応したコンテンツサービスにアクセスすることが可能になる。PCが無い部屋からでも、DMAさえ導入すればViivに対応したコンテンツが利用できるようになるのだ。 これ以外にも、多数の新しい機能がバージョン1.5では追加される見通しとなっている。そうした意味で、Viivの本格的な評価は、このバージョン1.5がリリースされる今年の半ばを待つ必要があるだろう。なお、すでにViiv対応PCを持っているユーザーは、今後Viivの新しいソフトウェアがリリースされた場合は、IntelのWebサイトなどからダウンロードしてアップグレード可能になる予定であるとIntelは説明している。 そして、これは繰り返し述べていることになるが、Viivが本当に成功するかどうかは、いかに魅力的なコンテンツサービスをPC向けに用意してもらえるかになると思う。やはり、こうしたエンターテインメントプラットフォームが成功するかどうかは、コンテンツの充実にかかっている。 現在メディアオンライン向けに提供されている5つ(BIGLOBEストリーム、ロイター、Gyao、MSNミュージック、バンダイch)と、Viiv専用の3つ(探偵事務所5、zzz.tv、PRISMIX)では十分とは言えない。これを今後いかに増やしていけるかが、Viiv成功の鍵となる。 ●Viiv専用コンテンツという売り方は本当に正しいのか、もう一度検討して欲しい 最後に、1つだけ付け加えておきたいことがある。それは、先の話とはやや逆説的な物言いになるが、Viiv専用のコンテンツサービスはできれば今後は無くして欲しい、ということだ。 Viiv専用コンテンツといっても、本当にViivのハードウェアでなければ再生できない必然性はなく、あくまでViivのプレミアム感を高めるために専用にしているというのが実態だ。以前、Intelが試みてうまくいかなかった「WebOutfitter」というサービスを思い出す。 Intelがコンテンツサービスに何らかの資金的な援助を与えているのは想像に難しくなく、だからこそViiv専用にしたい、という気持ちはわかる。しかし、考えてみて欲しい、もしIntelがCentrinoモバイル・テクノロジを導入したときに、CMT専用のホットスポットというのがあったらそうしたホットスポットを利用するユーザーは今のように急速に広がっていただろうか。おそらくそうではなかったはずだ。 確かにCMTのキャンペーンが無線LANのホットスポットを飛躍的に増やしていったのは事実だが、そのホットスポットに接続されたのはCMTベースのPC以外、それこそPentium MやCeleron MのノートPCも、AMDベースのノートPCも、果てはPDAや携帯電話までも接続されそれらが相乗効果になり増えていったのだ。その結果、さらにノートPCが増え、CMTの売り上げも上がっていく、そういうことだったと筆者は思う。 筆者がこの連載で繰り返し訴えているように、Viivが目指しているところ(いや目指すべきところと言い換えた方がいいかもしれない)は、PC製品を中心とした新しいデジタルコンテンツのエコシステムを確立することである。そうした時にViivのライバルになるのは、ViivではないPCやAMDのCPUを搭載したPCではない。TV放送というエコシステムの一部であるHDDレコーダだし、放送受信機としてのTVそのものだ。相手は家電なのだ。 それらと今後競争していく上で、コンテンツを供給する側、つまりコンテンツサービスプロバイダ側から見て、供給するプラットフォームがViivに限られているよりも、PC全体となっているほうが明らかに魅力的であるはずだ。そうした考えに立てば、決して「Viiv専用コンテンツ」などという考え方には至らないはずだと筆者は思う。 そして、結果的にそれらの市場を奪うことができれば、Pentium DやCeleronよりもViivにすることで得られる儲けや、AMDから市場を奪う、というPC業界という小さなパイを奪い合うよりも、より大きなパイを得ることができるはずだ。そしてそれは、Intelにとってだけではなく、パートナーとなるMicrosoftやOEMベンダーにとっても良いことなのだ。 Intelは、Microsoftと並ぶ誰もが認めるPC業界のリーディングカンパニーの1つである。もしIntelがPC業界のリーダーであると自認するのであれば、ぜひそうした考えた方に立って欲しいと筆者は願う。 □Viivのツールとソフトウェアダウンロードページ (2006年1月30日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|
|