情報筋によれば、IntelはViivテクノロジの正式発表日をInternational CESの初日である、来年1月5日に決定したとOEMベンダに伝えてきたという。もっとも、この1月5日という発表日自体は、この日にIntelのポール・オッテリーニ社長兼CEOの基調講演が行なわれることもあり、“想定の範囲内”ということになるだろう。 だが、徐々に姿を見せてきたViivテクノロジの概要そのものは、やや後ろ向きな驚きを多くの関係者に与え始めている。Intelが1月に発表するViivテクノロジを搭載したPCは、当初IntelがViivで実装するとしてきたすべての機能を実装しているわけではないということがわかってきたからだ。 ●未だ解決の道が見えてこないWindows XP Media Center Edition問題 日本市場におけるViivテクノロジ(以下Viiv)の最大の課題はWindows XP Media Center Edition 2005(以下Windows XP MCE)が必要条件になっていることであることは、以前の記事でもお伝えしたとおりだ。Viivプラットフォームでは、コンテンツのネット配信に、Windows XP MCEでサポートされているAPIを利用するため、OSとしてWindows XP MCEが必須になってしまっているのだ。 だが、日本の大手PCベンダでMCEを採用しているところは、ダイレクト系のメーカーをのぞくとわずかで、採用していても1製品のみのところが多い。なぜ、そうなってしまったかはすでにこの連載でもさんざん指摘してきたが、すでに日本のメーカーは独自の10フィートUIとTVチューナーカードを利用してPCを製造してきたため、Windows XP Home Editionに比べてコスト増になるWindows XP MCEへ移行することが難しかったこと、さらには機能面でWindows XP MCEよりも進んだ機能を実装してしまっていたことがあり後戻りができないこと、などがあげられる。 こうした問題は依然として解決していない。ラインナップの問題に関しては、Windows Vistaのリリースを待つ必要がある。Windows VistaにおいてMicrosoftはMCEの機能を、4つある家庭向けのSKU(スキュー、製品ラインナップのこと)である、Starter Edition、Home Basic Edition、Home Premium Edition、Ultimate Editionのうち、Home Premium以上に設定している(ちなみに、 Starter Editionは発展途上国など新興市場向けとされており、日本などの成熟市場には投入されない見通し)。当然のことなら、Ultimate Editionが最も機能をたくさん搭載しており価格も最高で、以下Home Premium、Home Basicの順で機能が削られ、価格も下がっていく。 この見直しにより、ローエンド向け製品(例えばCeleronやSempronベースのPC)にはHome Basic Editionを、ハイエンド向け製品(例えばPentium DやAthlon 64ベースのPC)にはHome Premium Editionをというように製品に合わせたOSの採用が可能になる。つまり、Vistaになれば、デュアルコアCPUがその要件となっているViivのターゲット市場となるハイエンドPCのOSはHome Premium Editionとなるので、問題は解決していく可能性が高い。だが、逆に言えば、Vistaのリリースまではどうにもならない、ということでもある。 ●メディアセンターの機能問題が解決するのは2007年の“ダイヤモンド”待ち また、Windows XP MCEの機能が、現在OEMベンダが採用している10フィートUIよりも機能が低い、という問題は開発コードネーム“ダイヤモンド”として開発されている新しいメディアセンター(現在は、開発コードネーム“エメラルド”で開発されたバージョン)がリリースされるまで解決されない。このダイヤモンドでは、日本市場向けにカスタマイズ可能なバージョンが用意され、これにより日本のOEMベンダが訴えているカスタマイズできないなどの問題の多くは改善される。 ただし、OEMベンダ筋の情報によれば、MicrosoftはOEMベンダに対してダイヤモンドが市場に投入されるのは2006年後半のVistaのタイミングには間に合わず2007年になる見通しだと伝えているという。このため、メディアセンターの機能問題に関しては2007年まで解決しない、ということになる。 また、メディアセンターが日本のデジタル放送に対応していない問題も、ダイヤモンドまで待つ必要がある。情報筋によれば、現在Microsoftは調布にある研究所において日本のデジタル放送をメディアセンターに対応させるべく開発を続けているという。だが、これはWindows Vistaには間に合わず、ダイヤモンドがリリースされる2007年を待つ必要がある。なぜ対応できないのか、そこまでの詳細は伝わってきてはいないが、ダイヤモンドを待つ必要があるということは、おそらくエメラルドではソフトウェア側の何らかの理由によりコンテンツ保護の機能が実装できないなどの理由ではないだろうか。 すでに日本のハイエンドPCの多くはピクセラのデジタル放送受信ボードをベースにデジタル放送のフル実装を実現している。このため、仮に2006年後半にWindows Vistaでメディアセンターへ移行したとしても、デジタル放送問題は2007年まで課題として残されることになる。 ●DTCP-IP対応DLNAサーバーの機能などは2006年の後半までリリースされない Windows XP MCE以外にも、Viivが厳しい船出を強いられる理由はある。2006年の1月にリリースされるViiv対応PCは、これまでIntelがViivの機能として説明してきたものをすべて実装しているわけではなく、2つのエンジンがある飛行機なのに、1つのエンジンだけで飛んでいる状態になりそうなのだ。 IntelはViivのメリットとして、大きく言えば以下の2つの点を上げている。 (1)インターネットからダウンロードしたコンテンツをリモコンなどで気軽に楽しめる だが、実際には後者の機能は最初の世代のViivでは実装されない。なぜかと言えば、IntelがOEMベンダなどに供給するソフトウェア(IntelではViivプラットフォームドライバと呼んでいる)が1月のリリースには間に合わないからだ。 実はすでにこの事実はひっそりと発表されている。Intelが12月1日に発表したプレスリリースの中で、「2006 年後半には、パーソナル / プレミアム・コンテンツ・サービス、アプリケーション、機器と協調するIntelのソフトウェアを利用できるようになり、ホーム・ネットワークを介して、Intel Viiv テクノロジに対応する機器間でコンテンツを共有できるようになる予定です。」(原文ママ)と発表している。 IntelはViivプラットフォームドライバとして、DTCP-IPに対応し、DLNAと互換性があるメディアサーバーをOEMベンダなどに提供していく(このViivプラットフォームドライバをインストールすることはViivの要件となっている)。ところが、このDTCP-IPの機能が入ったViivプラットフォームドライバは、2006年の後半になってから提供される予定となっているのだ。 このため、1月からリリースされる最初の世代のViivは、プレミアムコンテンツをホームネットワークに出力するという機能を持っておらず、“片方のエンジンだけで飛ぶ飛行機”状態として出てくることになるのだ。 こうした状況であるため、メディアセンター問題の解決が2006年後半にリリースされる予定のWindows Vistaまで待たなければならないことと合わせて、Viivの本格的な離陸は明らかに2006年後半以降になるだろうと多くのPC業界関係者は考えている。 ●時間がかかる放送とコンテンツの問題、Intelはそこまで我慢できるのか このように、今のところViivという新たな船を取り巻く波は決して穏やかというわけではない。しかし、Viivが目指そうとしている方向性そのものは、間違っていない。PC業界にとって、コンテンツ配信は将来へのキーアプリケーションとなりうるし、IntelやMicrosoftがその核となって新しいエコシステムを作っていこうということそのものは支持できると思う。 ただ、現在Viivが置かれている状況を見ればわかるように、その道筋は穏やかではなく、言ってみれば嵐の連続だ。最大の難関は、やはり放送という壁をどう突き破っていくかだ。特に、日本のコンテンツは、著作権的にも、資本的にも放送事業者の影響下にある。こうした仕組みが変わらない限り、今後もコンテンツホルダーの軸足をネット配信に持ってきてもらうというのは、楽天やライブドアの例からもわかるように並大抵のことではない。 放送事業者の側から見れば、我々IT業界がやろうとしていることは“早すぎ”で、我々IT業界の側から見れば放送事業者は“遅すぎる”という認識の“乖離”を埋めていくことは実に難しい。 そしてもう1つ指摘しておきたいことは、こうしたことは各国により事情が異なるということだ。前回の連載でも指摘したが、日本と米国ではコンテンツビジネスのビジネスモデルが全く異なっている。ハリウッドを説得できればかなりの問題が解決する米国とは異なり、日本では放送事業者と渡りをつける必要がどうしてもある。おそらく他の国でもまた異なる事情があるだろう。こうした問題が解決できるようになるには(いやもしかすると解決は不可能なのかもしれない)、かなりの時間がかかることになる。 重要なことは、Intelがそうした問題が解決するまで我慢できるのか、という点だ。Viivの構想では、何よりもコンテンツが重要だ。仮に、今後も優良なコンテンツは放送からしかこない、という状況が続けば、Viivのアドバンテージはあまり見えてこない。この問題はIntel一社がどれだけがんばっても解決できない問題でもあり、時間はIntelが思っている以上にかかるかもしれない。そうした時に、投げ出すのではなく、多少持ち出しになっても我慢できるかどうか、筆者はそれがViivが成功するかどうかの分かれ目になると思う。 ●もっと各国の事情にも配慮した戦略に取り組んで欲しい もう1つ、各国の事情に配慮する、という点も課題として上げておきたい。日本にいる筆者からすれば、やはりIntelは米国の事情ばかりを優先して他の国での事情の優先度はかなり低いと見えてしまう。 例えば、消費電力の問題がここまでおざなりにされた件などはその代表例だし、そもそもViivの日本語読みである“ヴィーヴ”もある意味その象徴といってよい。 実はViivの読みは米国では明らかに“ヴァイヴ”だ。それが日本語ではなぜ“ヴィーヴ”にしなければならなかったのかIntelの関係者もはっきりとは教えてくれないので置いておくとしても、例えば日本ではゴロが悪いからどうしても読みを変えなければならないのなら、なぜ日本側の要望を聞いて、最初から別のブランド名にしなかったのだろうか、と素直に考えてしまう。 繰り返しになるが、Viivが目指す、コンテンツも巻き込んで新しいエコシステムを作っていく、という方向性は間違っていないし、筆者もPC業界の次のステップとして必要なものだと支持している。だが、そこに至るまでには実の多くの課題があり、そのためにIntel自身も変わってもらわないといけない。Intelにはそうした覚悟を持って、Viivに取り組んでいって欲しいと願うばかりだ。 □関連記事 (2005年12月5日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
|
|