ソーテックは1月25日、記者会見を行なった。昨年7月に社長に就任した山田健介氏の体制になってからは、初めての記者会見。その発表内容は、法人向けPC事業への本格展開である。新たに、「e-three(イースリー)」というブランドを立ち上げ、企業向けPCを投入するとともに、新規にシンクライアント市場へも参入することを明らかにした。 だが、会見を開いてまで山田社長が訴えたかったのは、実は、本題の「法人市場参入」ではなかったといえそうだ。 それは、一言で言えば、自らPCを製造しないファブレスメーカーのソーテックからの決別だったといっていい。 会見後、山田社長を直撃した。「本当に言いたかったことは法人事業への参入ではなく、物づくりに対する方針転換ですか」との問いに、山田社長はニヤリと笑いながら、大きくうなずいた。 ●本音はファブレスメーカーからの脱却 山田社長は、会見の挨拶の中で、次のように話した。 「ソーテックは、これまでの創業以来22年間、自ら製造をしないファブレスメーカーとして経営を進めてきた。バブルの瓦礫から立ち直るための方策としてファブレスはもてはやされてきたが、本当にそうなのか。むしろ、物づくりを他人任せにしたことで、腰が据わらない経営をしてきたとはいえないか。 ユーザーに対して高い品質の製品を提供したり、サプライヤーや株主に対して誠意ある姿勢を見せるという点で課題が残る経営手法であり、それが、無責任な企業文化として根付いてきたともいえる。こうした企業文化から決別することが必要だ。真正面から物事を捉えて、企業行動が取れるように変えていきたい。それが利益が生み出せる企業、社会に認知される企業になるための取り組みだといえる」
今回の法人市場への参入に伴って、ソーテックは、横浜市金沢区福浦にある関連子会社のソーテック・イーサービスで法人向けPCの最終組立を行なうことを明らかにした。 これまで台湾、中国、そして一時期は韓国でも生産していたものを、国内組立へとシフトするのだ。 「法人向けPCのすべての製品を、ソーテック・イーサービスで組立、検査、エージングを行なった上で出荷する。信頼性の高いPCを出荷できる体制が整う」と山田社長は語る。 ソーテックの発表によると、2006年度の計画で、法人向けの出荷比率は約12%。そして、ウェブによる個人向けの直販が21%。全体の33%が国内組立によるものとなる。これを2008年度には法人向けで21%、個人向け直販で27%のあわせて48%を国内組立で賄おうというわけだ。 「国内組立が過半数となるのはまだ先の話になるかもしれないが、国内での組立にはこだわっていきたい」(山田社長)という。 量販店ルートを通じた製品に関しては、引き続き、デスクトップPCはAOpenに、ノートPCはASUSに生産委託することになる。 「現在、中国の生産拠点に3人の技術者を派遣し、生産技術を高めている。これまでは量産前の検査を疎かにしていたが、これを徹底して行なうこと、また、日本に入荷した段階で抜き取り検査をすることで、製品品質を高めることができる」
量販店を通じたBTOもこれから開始することになるが、これも、国内組立の比重の引き上げに影響する。 「店頭にBTOの申し込み用の端末を置き、そこから注文する形を予定している。4月以降、まずは量販店1社でこのサービスを開始することになるが、複数の量販店から問い合わせをいただいており、量販店BTOの展開を広げていきたい」(ソーテック営業本部・村井誠本部長)という。 まずは、法人向けPC、および個人向け直販PC、量販店店頭からのBTO対応PCに関して、自社組立で対応することで、ファブレスメーカーからの脱却への第1歩を踏み出す考えだ。 ●半年で一気に刷新された経営体制 ソーテックは、山田社長の就任以降、体制を大幅に刷新した。 むしろ、その体制を見ると、かつてのソーテックとは別の企業体質になっているといっていいかもしれない。 実は、山田社長をはじめ、営業本部長の村井氏など、主要なポジションには旧シャープOBが就いている。 すでに、山田社長の体制になってから、8人のシャープOBがソーテック入りして、経営改革に乗り出しているのだ。 外野からは、「まさに、ミニシャープ」という声が聞こえるほどで、もともとソーテックが持っていたベンチャー的な体質から脱却しつつある。 そして、組立およびサポートを担当するソーテック・イーサービスの代表取締役社長には、東芝グループ出身の土肥健一氏が就任している。 「電話によるサポートについては、まだ、ユーザーにご迷惑をかけるような受け答えもある。もっと改善していかなくてはならない」と山田社長は語るが、それでも、今回の法人向けPCの本格的展開にあわせて、標準で3年間の無償保証、365日のテクニカルサポート体制、法人向けPC専用電話窓口の設置、さらに、オプション保証として3年間、4年間、5年間の延長引き取り修理や、5年までの出張修理サポートといったサービスを用意した。 さらに、組立についても、出荷前の全製品で6時間のエージングによる出荷検査を実施するなど、品質向上に向けた取り組みを強化した。 ●本当のPCメーカーへの第1歩を踏み出す
ソーテックの復活を左右するのは、この法人向けPC事業の成否にかかっているといっても過言ではない。 「法人向けPC事業への参入だと、一言ではいえるが、これは相当の覚悟がないとできない」と山田社長は手綱を引き締める。 法人向けブランドとして、「e-three」という新ブランドを立ち上げ、これを量販店ルートには一切流通させないと宣言したのも、生産、品質、サポート面において、これまでのWinbook、PC Stationとは生い立ちが異なるPCであることを明確にする狙いがあるといえよう。 「一気に法人事業を立ち上げようとは思っていない。今のソーテックができるところから着実にやっていく。将来的にはサーバーの投入も視野に入れるが、それも焦ってはいない。着実に一歩一歩事業を拡大させていくことが大切だ」とも語る。 昨年10月に発足した法人営業部は、現在10人の体制。「来年度の新卒採用者5人は、法人営業部を担当させるなど、徐々に増員を図っていくことになる」(村井本部長)。 法人分野における信頼度を高めることで、それを個人向けPC事業にも波及させるという、これまでのソーテックにはなかった戦略が、山田流のソーテック再生術となる。 e-threeには、エンタープライズのeという意味とともに、threeには、量販店ルート、直販ルートに続き、法人事業をソーテックにとって3番目の事業の柱に育てるという意味を持たせている。 まずは、初年度で、どこまで法人事業を拡大し、そこで、どれだけの信用を得られるかが鍵となる。それが、ファブレスメーカーではない、本当のPCメーカーとしてのソーテックの第1歩となる。 □関連記事 (2006年1月26日) [Text by 大河原克行]
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