大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Apple、QuickTime担当フランク・カサノヴァII氏インタビュー




 動画再生ソフトQuickTimeの最新版であるQuickTime 7は、H.264をサポートすることで、より鮮明な動画再生を可能とした。米Apple ComputerでQuickTimeを担当するインタラクティブ・メディア・グループ、プロダクトマーケティングのフランク・カサノヴァIIシニア・ディレクターは、「QuickTimeは、iPodや携帯電話、そして、HD-DVDなどの幅広い環境で利用できる。同時に、Appleのすべてのプロダクトを底辺からしっかりと支える役割を担うプロダクトともいえる」と位置づける。

 来年には、国産Windows PCへのQuickTimeの標準搭載も予定されていることを明らかにし、標準的な動画再生ソフトとしての地位を確める狙いだ。


-- QuickTimeの最新版であるQuickTime 7では、H.264をサポートし、さらに、7.0.3ではその機能が拡張されているようですね。H.264をサポートする意義について教えてください。

フランク・カサノヴァII氏

カサノヴァII QuickTimeは、ここ数年に渡って、業界標準の動画圧縮技術をサポートすることに力を注いできました。MPEG-4や、3GPP、そしてH.264というようにです。QuickTime 7ではH.264をサポートすることで、高精細のビデオコーディックが利用できるようになった。このことを、まだビデオ業界の人はあまり気がついていないようなのですが(笑)、これによって、あらゆる動画のニーズがサポートされる。MPEG-2とほぼ同じレベルでの再生が可能ですから、高精細の動画が閲覧でき、さらに、これをビデオiPodや携帯電話にも落として持ち出せる。広く配布されているQuickTimeで、H.264がサポートされたということは、H.264の普及にも大きなインパクトがあるといえます。

-- 確かに、QuickTime 6での3GPPによる携帯電話での動画対応に続き、QuickTime 7でのH.264による高精細動画への対応によって、QuickTimeがサポートできる機種は格段に増えますね。

カサノヴァII 自由度が格段に広がったといえます。動画に対応したデジカメや、PCに接続したカメラで簡単に撮影して、それをビデオiPodで持ち運んで見たり、ネットで送信して、コミュニケーションをとることができる。動画をより身近なものにしたといえます。実は、今朝起きたら、あまりにも富士山がきれいに見えたので、小型のムービーカメラで、富士山を撮影してクパチーノ(Appleの本社がある場所)に送信しましたよ。こうした使い方も簡単にできる。コミュニケーションの手段も変わることになる。近い将来には、次世代の光ディスクであるHD-DVDの世界がやってきますが、こうしたハイディフィニションの世界においても、QuickTimeが果たす役割は大きいといえます。こうした新たな技術を搭載するたびに、我々が思いつかないような使い方がされるんですよ。それが楽しみです。

-- 改めて質問しますが、QuickTimeは、Appleにとってどんな位置づけの製品なのですか。

カサノヴァII 一言でいえば、底辺を支えるプロダクトですね。あるいは、コインの表と裏のような関係です。決して、前面に出ていくプロダクトではないんですが、とはいえ、なくてはならない製品であることは多くの人が感じているはずです。Appleのすべての製品、他社のビデオプレーヤー、PC、セットトップボックス、携帯電話、そしてWebページやソフトウェア。至るところで、QuickTimeが利用されている。また、ハリウッドでもQuickTimeは欠かせない技術となっている。私は、ハリウッドのことを「QuickTime TOWN」と呼んでいるのですが(笑)、ハリウッドのデジタルムービースタジオではQuickTimeなしには、映像の製作ができない状態にある。また、100機種以上のデジタルカメラがQuickTime対応となっていることからもわかるように、世の中に広く普及している。Appleだけでなく、世の中にとっても、底辺を支える、なくてはならない動画ソフトだといえます。

-- 今のAppleには、ホームランバッターともいえるiPodやiTunes Music Storeといったビッグプロダクトが目白押しです。そのなかで、QuickTimeは何番バッターの役割を担いますか(笑)

カサノヴァII うーん、バッターというよりも、コーチでしょうかね(笑)

-- 意外な答えですね(笑)。それはなぜですか。

カサノヴァII QuickTimeは、さまざまなプロダクトで利用されます。すべてのバッターと接点を持つプロダクトともいえます。だから、コーチという表現が適切だと思うんですよ。

-- 開発チームのモチベーションはどうやって引き上げているのですか。

カサノヴァII 1つは、毎日65万コピーが配布されていることからもわかるように、多くの人が利用している製品に携わっているというで、開発チームのモチベーションはきわめて高い。コンテンツの製作を変える製品であり、プロードキャスティングを変えることができる製品を、自分たちで作っているという自負もあります。そして、もう1つは、iPod、iTunesをはじめとするAppleの成長を支える製品が売れることによって株価があがる。それを下支えしているのがQuickTime。株価があがることでのモチベーションも重要です。

-- 先日、Windows PCにQuickTimeをインストールしようとしたら、いきなり、「iTunesSetup.exe」というファイルが出てきてびっくりしました。QuickTimeがiTunesの下に位置づけられたようにも見えましたが。

カサノヴァII 確かに、それはびっくりされたかもしれません。開発チームがそのメッセージの部分まで手が回らなかったための混乱だといえます。これは、改善するように検討しましょう。もともとiTunesをダウンロードすると、QuickTimeも一緒にダウンロードされます。これは、iTunesを利用する人にとって、QuickTimeは欠かせないツールだからです。同様に、QuickTimeを利用するユーザーにとっても、iTunesは欠かせないだろう、利便性が高まるだろうという判断から、こうした手法をとっています。QuickTimeとiTunesは一体のものとして提供していくことになります。

-- QuickTimeをWindows PCに標準搭載する可能性はありますか。

カサノヴァII アジア市場向けに出荷しているHewlett-Packardのコンシューマ向けWindows PCは、すでにQuickTimeを標準搭載しています。今、さまざざなPCメーカーとQuickTimeの搭載について、話し合いを進めています。今回の来日も、実は、この件に関して、日本のPCメーカーと話し合いの場を持つという狙いがありました。

-- そうなると、来年にはQuickTimeを標準搭載した国産Windows PCが日本でも登場すると。

カサノヴァII そういうことになると思っていただいていいですよ。私たちの願いとしては、QuickTimeだけでなく、iTunesに関しても、なるべく多くのPCメーカーにバンドルをしていただきたいとは思っています。

-- ところで、来年は、'91年にQuickTimeバージョン1.0が登場してから15年目となりますね。何かイベントは用意していますか。

カサノヴァII 記念の年ですから、なにかしら企画をしたいですね。正直なところ、まだなにも考えていないので、本社に帰ってからチームのメンバーと早速検討しますよ(笑)。


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【10月13日】Apple、「QuickTime 7 Pro」で新iPod用の動画が作成可能に(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20051013/apple4.htm

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(2005年12月14日)

[Text by 大河原克行]


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