松下電器産業の「Let'snote」が、ビジネスモバイルPCにおける台風の目となっている。 NEC、富士通などの国産メーカーが、相次いでビジネスモバイルPCの投入を明らかにするなど、松下電器への対抗を強めている。果たして松下電器は、Let'snote事業をどう拡大させるのか。2006年のLet'snote事業への取り組みを、松下電器パナソニックAVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツ事業部 高木俊幸事業部長に聞いた。 -- 2005年のLet'snoteの事業を振り返ると、どんな成果がありましたか。
高木 Let'snoteは、'96年の発売以来、ビジネスモバイルという分野に特化し、それを実現するため、長時間駆動、軽量化という点にフォーカスしてきました。しかし、モバイルを追求していくと、「タフ」という要素が重要であることがわかります。2005年は、このタフという意味を追求し、それを徹底的に訴えた。Let'snoteはタフだ、という印象が少しずつ浸透してきたといえます。 ただ、このタフということが、今は、耐100kgという部分だけを強調している。まずは、我々のメッセージを伝えるために、わかりやすいものとしてそれを訴えたのですが、松下電器が追求するタフというのはそれだけではないのです。これからは違うタフというメッセージも伝えていかなくてはならない。 -- それはどんな点ですか。 高木 例えば、バッテリに対するタフという考え方もある。バッテリを長時間駆動させるという点は、これまでにも取り組んできましたが、別の観点からいえば、充放電をうまくコントロールして、バッテリそのものの寿命を長くするということも重要です。 実は、毎日のようにモバイル環境で使っているLet'snoteユーザーから、充電を繰り返しているのでバッテリ性能の劣化が早く、結果として、毎年バッテリーパックを買い換えているという声がありました。確かに12時間の長時間駆動を実現していたとしても、バッテリが劣化していては、思うような性能が発揮できません。また、ユーザーにも買い換えるという大きな負担をかけます。 そこで、2005年の夏モデルから、「エコノミーモード」という仕組みを導入しました。充電を80%程度に留めることで、バッテリ駆動時間は短くなりますが、バッテリーパックの劣化率が減少し、寿命が長くなる。公称では寿命が1.5倍になるということですが、実際には2倍程度伸びるのではないでしょう。 事実、エコノミーモードを1年使用していただいたお客様のバッテリを測定したところ、劣化率は極めて少なかった。12時間駆動のTシリーズを例にした場合、3年間使い続けると5時間程度になってしまう。しかし、エコノミーモードでは、80%の充電率なので、最初から10時間弱しか駆動しないが、3年後でも8時間程度の連続駆動が可能になる。これもタフという観点での重要な要素だと思っています。それと、2006年は、耐100kg級ということについても、異なる「タフ」のメッセージを発信していきたいと思っています。 -- 別のメッセージとは。 高木 Let'snoteでは、W4やT4で耐100kgを実現していますが、これは平加重であれば、実際には150kgぐらいまで大丈夫なんです。しかし、それにも関わらず、なぜ当社は耐100kgという言い方をするのか。それは、日常的に利用している環境で100kgの加重に耐えられる、ということをいっているからなんです。 満員電車に乗って会社に着いたら液晶が割れていたという話をたまに聞きますが、当社では、満員電車ではどんな加重がかかるのかを、実際の満員電車に乗って実験してみた。首都圏の私鉄のご協力を得て、圧力センサーを身体中につけた社員が満員電車のなかで、どんな風に圧力がかかるのかを測定した。満員電車のなかでゴソゴソやることになるので、「怪しいものではありません」と断りながらやりましたが(笑)。 その結果、約100kgの加重とともに、微妙な振動が加わり、液晶が割れてしまうということがわかった。そのデータをもとに、同じような振動と圧力を再現できる加圧装置を自作し、これによって、満員電車の状況を再現した。Let'snoteが耐100kgといっているのは、こうした満員電車でも液晶が絶対に割れませんよ、大丈夫ですよ、ということを証明するための数字なのです。Let'snoteがいうタフとは、構造そのものがタフであるのと同時に、タフな利用シーンでも、安心して使ってもらえるということが含まれています。2006年は、むしろ、「タフなシーンでも使えるビジネスモバイル」ということをアピールしたいですね。
-- 最近、新幹線のなかでもLet'snoteをずいぶん見かけるようになりました。企業の一括導入も増加しているようですね。 高木 そうですね。2004年は、ある製造業のお客様で6,000台の一括導入という商談がありましたし、2005年も、2,000台、1,000台、500台という単位での商談がかなり増えてきました。 Let'snoteは、もともとビジネスパーソナルと呼ばれるような、個人で購入し、それをビジネスシーンに使っていただくという利用が多かったが、そのうち、PCを外に持ち出して利用するような営業部門だけが、例外的な措置として、Let'snoteを一括導入するという動きが出てきた。持ち運ぶ上で、バッテリ駆動時間が長くなくてはいけない、堅牢でなくてはいけない、ということでLet'snoteが部門限定という形で選ばれるようになってきたんですね。そのうち、IT部門が、A4ノートPCはこれまで通りだが、B5ノートPCはLet'snoteでもいいというようになってきた。そして、さらに今年あたりからは、Let'snoteを企業の標準機としてIT部門が選定するようになってきた。 -- IT部門が、これまでの取り引きやサーバー導入の延長線上でメーカーや機種を選定したのではなく、現場からあがってきた声をもとに決定したという強みがありますね。 高木 実際に利用する現場の方々が、Let'snoteを推してくれています。また、ご指摘のように、新幹線や、外出先のカフェなどでLet'snoteを使っている人を数多く見かけますから、IT部門も、Let'snoteを導入しても間違いがない、というようになってきたのでしょうね。累計出荷で100万台という実績も、IT部門に認めていだたける要素の1つだといえます。
-- あちこちで多く見かけるようになったことで、競合他社がこの分野に目をつけてきましたね。 高木 そんなに大きな市場ではないので、あまり目をつけてもらっては困るのですが(笑)、これは、我々がやってきたことが間違いではなかったという証にもなりますね。ただ、市場そのものは縮小傾向にある。調査会社の発表でも、2kg以下のノートPC市場は、当初の182万台の見込みから、前年並みとなる165万台へと下方修正したほどですからね。 -- 松下電器の事業計画も下方修正ですか。 高木 いや、当社の場合は前年比20%増程度で伸びています。上期のシェアは約18%で、計画通りの動きです。ぜひ、来年は20%のシェアをとり、この分野でのトップとなりたいですね。ただ、これも数字を追うことが前提ではありません。ビジネスモバイルという領域において、Let'snoteの良さが受け入れられれば、結果として20%の数字に到達すると考えています。 -- 生産ラインを増強しましたが。
高木 神戸工場の生産ラインは、これまでLet'snoteで4ライン、「TOUGHBOOK」で3ラインあったものをそれぞれ1ラインずつ増やし、合計9ラインとしたほか、SMTラインも10ラインから11ラインとしました。これによって、月産5万台、年間60万台の体制としました。これまでの生産ラインでは年間50万台でしたから、ほぼ2割増強したといえます。 それと10月に、電波暗室を新たに設置しました。いまは、空中にさまざまな電波が飛び交っていますから、正確なデータを測定するには従来の施設では限界があった。それまでは、技術者の勘といったものがあって、データを測定しても、「でも、本当はこうだろう」と、結局は長年の経験を持った技術者の発言力の方が強いということもあった。でも、この電波暗室を利用することで、きっちりとしたデータが測定できるようになり、技術者に対しても、「データはこうだ」と出せるようになった。この変化は大きいですよ。 -- 電波暗室への投資額はどのぐらいですか。
高木 約3億円です。この投資は、松下電器が、この神戸での生産にこだわり、ここで事業を発展させる、という決意だと思ってもらっていいですよ。生産数量を増やすために、安易に海外展開をしたり、ODMに任せるということはしないという決意、そして、常に日本のお客様に近いところでビジネスをやるという決意の表れです。「メイド・イン・神戸」を貫き通しますよ。日本人に生まれて良かった、日本で物づくりに携わって良かったと思える工場にしていきますよ。 -- 来年はどんな製品を我々に提供してくれますか。 高木 タフという点はさらに追求していきます。「タフ」における改善ポイントはまだまだありますからね。もちろん、長時間駆動、軽量化も重要な要素ですから、これも改善していく課題のひとつです。処理性能とともに熱容量があがるCPUを、いかに長時間駆動、軽量化の中で実現するかが鍵ですから。お客様からは、Wシリーズで1kgを切ってほしいと言われるのですが、これは2006年中にはちょっと無理ですね(笑)。 一方で、北米、欧州向けの事業拡大がもう1つのポイントです。今年10月からT4とW4の2機種を北米、欧州に向けて出荷を開始しました。これは日本で発売しているT4とW4と比べて、ちょっと仕様が異なるんです。LANやUSB、外部モニターなどの各種コネクターなどをまとめて、Let'snoteと接続できるミニポートリプリケータを用意したり、ハードディスクの取り外しができるような構造の採用や、片手で持てるハンドストラップを付属したりといったことをしています。 それと、T4にはタッチパネルをつけたものを用意しています。タブレットPCではないのですが、ワンタッチで作業ができるということで評判がいいですね。HDDの取り外しは、修理などの際に、手元にHDDだけは置いておきたいというユーザーの要求を反映したものですが、その分、構造上の問題から、日本で出荷している製品よりは、少し重たくなっています。今、Let'snoteにおける国内と海外の比率は10:1ですが、来年には5:1ぐらいになっていると思いますよ。 -- この海外向けLet'snoteは、日本でも販売するのですか。 高木 今は予定はありませんが、要望があれば対応していくような体制は作りたいと思っています。2005年度のLet'snoteの出荷計画は37万台、TOUGHBOOKは25万台。2006年度は約2割の成長を見込みます。海外出荷が強化される分、Let'snoteの伸びの方が少し高いですね。 -- ところで、2006年は、Let'snoteの発売からちょうど10年ですね。なにか、記念モデルは用意していますか。 高木 記念の年なので予定はしていますよ。10周年ということで、新たな製品を投入するのか、それとも既存モデルのカラーを変更するといった形の記念モデルにするか、検討しているところです。同時に、キャンペーンの実施なども考えてはいます。記念の1年として、いろいろなことをやっていきたいですね。楽しみにしていてください。
□関連記事 (2005年12月19日) [Text by 大河原克行]
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