●新規顧客層の開拓には成功
11月18日に横浜西口にオープンしたヨドバシカメラ マルチメディア横浜。その開店前日に行なわれた同店の報道関係者向け内覧会の帰り際、ヨドバンカメラの藤沢昭和社長と、数分間、2人で立ち話をする機会を得た。 当日は横浜の新店舗の取材であったため、当然、記者の質問は新店舗に集中したが、やはり気になったのは9月にオープンした秋葉原の店舗のことだ。 内覧会が終わり、周りに他の記者もいなかったので、あえて秋葉原の店舗について聞いてみた。 筆者の質問に対して、藤沢社長は少し考えたあと「点数をつけるとしたら、まぁ、75点ぐらいかな」、と答えた。 予想外に厳しい採点だ。 あれだけの集客をしていながら、なぜ75点なのか。藤沢社長は、こんな風に語りはじめた。 「新しい顧客層を獲得できたことについては、100点以上の出来だったといっていい。だが、やりたいことや、もっと完成度を高めたいことがまだまだある。だから25点のマイナスだ」 100点以上の出来だったとする新たな顧客層の獲得とは、ファミリー層、女性層の顧客獲得を指す。 秋葉原には、もともとファミリー層の来店が目立っていた時期もあったが、この十数年、PCやアキバ系と呼ばれるフィギュア/アニメ系店舗の進出と、その一方で見られた郊外型量販店の増加もあって、ファミリー層が訪れにくい街となっていた。 また、女性層の来店についても同様だ。秋葉原のイメージが、どうしてもマニア層の集積地という感じで受け取られ、自然と女性が訪れにくいという雰囲気を持っていたからだ。 秋葉原に拠点を置く、ある企業の人事担当者が、女性アルバイトを募集するために、秋葉原駅からが最も近い立地であるにも関わらず、「秋葉原から徒歩○分」とするよりも、少し遠い「お茶の水駅から徒歩○分」と大きく表示した方が求人しやすい、と話していたのを思い出すが、それだけ秋葉原と女性の結びつきは薄かったといえる。 だが、ヨドバシAkibaはそれを覆した。 1階のコーヒーショップには女性の姿を多く見かけるし、レストラン街にも家族連れの姿が目立つ。ここ十数年の秋葉原には見られなかった様相だ。 家族連れに受けるレストラン店舗の入居、女性が気持ちよく利用できる女トイレの設置、そして、玩具売り場や、ゴルフ用品売り場、化粧品売り場をそれぞれ設置するといったように、家電、PC以外にも、家族で興味を持てる売り場づくりに力を注いだ点も見逃せない。 新たな顧客層によって、秋葉原の新店舗を活性化させるという点で、藤沢社長の思惑通りの店づくりができたといえるのだろう。
●発展途上のブランド別展示 一方、25点のマイナスとなった、「やりたいこと」や、「もっと完成度を高めたいこと」とは何か。 藤沢社長は、「ブランド別展示方法のさらなる改善だ」という。 横浜の新店舗の会見でも、藤沢社長は、改めてブランド別展示に力を注いでいることについて言及している。 「従来の展示方法は、冷蔵庫、洗濯機、TVといったように、製品別に展示するのが当たり前だった。だが、これからはブランドを選び、そこから単品の製品に辿り着くという製品の選び方を提案したいと思っている。この展示方法には、賛否両論があるのは知っているし、私のところにもさまざまな声が届いている。だが、日本のメーカーは、すばらしい製品、良い商品を開発し、ブランド力を高める努力をしている。そうした製品を、価格訴求が中心となる韓国や中国、東南アジアなどの製品と一緒に並べてしまうのはいかがか、と私は思っている」と、ブランド別へのこだわりをあえて訴えて見せた。
そして、横浜の店舗では、新たにブランド別展示と製品別展示を、明確に切り分けることに挑んでいる。これは「ブランド別展示の進化」と藤沢社長は位置づける。 大画面/薄型テレビや、DVD/HDDレコーダー、洗濯機、冷蔵庫などの製品はブランド別展示とする一方、ミニコンポやアイロンといったメーカーごとの差別化がしにくかったり、ブランド力による選択よりも、価格訴求が前面に出るような製品は、製品別展示としたのだ。
「ミニコンポやアイロンといった製品は、ブランド別展示ではどうしても製品が埋もれてしまい、販売が難しいという傾向がわかった。こうした製品は、製品ごとに展示した方が来店客も選択しやすい。また、マッサージ機のように、製品別展示にした方が、展示に迫力が出るというものもある。ブランドを強く訴えられる製品はブランド別展示に、そうではない製品は製品別展示として、それぞれに存在感を出すのが得策と考えた」 横浜の店舗では、2つの展示方法を組み合わせることで、より来店客が選択しやすい環境を作り出そうというわけだ。 だが、これも実際には実験の段階であり、その成果を導入後1週間で推し量るのは時期尚早だといえる。 「横浜でうまくいけば、秋葉原の店舗でも導入したい」と藤沢社長は語るが、初めてのブランド別展示の完成度をいかに高めていくかは、これからの同社の課題だといえよう。 ●ヨドバシが作り上げた新しい「型」 だが、秋葉原、横浜での相次ぐ開店によって、ヨドバシカメラは1つの「型」を作り上げたといえる。 それは、家族連れや女性客が気軽に来店できる店づくりだ。 梅田や川崎の店舗でも、その方向性を指向していたが、秋葉原で、その手法が1つの完成を見せ、そして横浜で、その「型」をさらに進化させようとしている。 それぞれの店舗での成功体験を別の店舗に積極的に移植しているという点でも、その完成度は加速度的に進化しているといえるだろう。 今のところ、競合店舗のなかでは、ビックカメラが一部店舗において、PCなどの製品でブランド別展示を行なっているが、ヤマダ電機、コジマなどの家電量販店では、その取り組みについて追随する動きは見せていない。 追随が少ない背景には、ブランド別展示を行なうためには、一定の店舗スペースなども必要になるため、これを展開できる店舗が限定されるということもあるだろう。 これがヨドバシカメラ独自の手法で終わるのか、それとも他の店舗にも波及するのか。 もしかしたら、競合他社にもブランド別展示が広がった時に、藤沢社長はこの展示方法に初めて100点を与えるのかもしれない。 ブランド別展示の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
□ヨドバシカメラのホームページ (2005年11月24日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|
|