社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会とヤフー株式会社を幹事とする『インターネット知的財産権侵害品流通防止協議会』が設立された。個人でも簡単にさまざまな商品を売買することができるネットオークションの悪用を防ぎ、消費者はもちろん、著作権利者、オークション事業者などの利益を守っていくためのものだという。 ●適切な個人情報の開示を議論する この協議会の活動は、とりあえず2006年3月までに設立メンバーの間で意見を集約し、ある程度のガイドラインを作ることを目的に進められる。今、何をするかではなく、これからどうすればいいかを考えるために設立されたということだ。最終的なゴールとしては、行政への働きかけによる法律の改正、あるいは、新法の成立までが目論まれている。 こうした協議会が発足する背景には、オークションに偽ブランド品やソフトウェアのコピー品など、知的財産権を侵害する品物が出品された場合であっても、現行の法律制度の元では権利者が出品者の身元を確認し、法的に責任を追及しなければならないため、告発がきわめて難しいという点がある。 そこで、権利者からオークション事業者に出品者に関する開示の要求があった場合、個人情報をどのように開示するのが適切であるのかを検討しようというのだ。もちろん、そのために、オークション事業者そのものが、出品者情報をどのように正しく把握すべきかも議論される。 また、あわせて、知的財産権侵害の拡散を防止するために、オークション事業者が海賊版や模倣品の出品停止を安心して行なうことができるための仕組みや制度のあり方についても検討されるという。 これらの検討のため、民間の権利者や権利団体とオークション事業者で構成される組織でありながら、制度提言を行なうにあたっての助言確保のため、警察庁、経済産業省、総務省、内閣官房知的財産戦略推進事務局、文化庁がオブザーバーとして参加するとのことだ。 ●事業者ごとに異なる個人情報収集 幹事として記者会見に出席したヤフーの別所直哉法務部長は、出品者の身元確認の方法がオークション事業者ごとに違うことに言及、メール確認にとどまるところもあれば、銀行口座を確認したり、書類郵送によって住所を確認するところまでいろいろで、水準もまちまちであるとし、この状態が、知的財産侵害品出品防止のために、このままでよいのかどうかを検討しなければならないという。つまり、著作権者が抱えている問題を解決するために、オークション事業者にできることを考えていくというのが協議会のスタンスだ。 また、コンピュータソフトウェア著作権協会の葛山博志戦略法務室室長は、この協議会はあくまでも民間の機関であって、その活動等が強制力を持つわけではないことを強調、民間だけで解決できない問題は関係行政機関に働きかけるという戦略をとると明言した。あまりにも多元的な利害関係が存在するため、協議会は互いが持っている知恵を出し合う場としていきたいという方針だ。 ●現行法律でカバーしきれないオークション事情 こうした協議会が発足した大きな理由は、現在のプロバイダ責任制限法がオークション出品による著作権利侵害をカバーしきれないからだ。この法律は2001年に交付された『特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律』の通称で、もともと違法なコンテンツがホームページなどにアップロードされていることを想定してできたものだ。オークションに関しても、この法律が適用されるのかどうかが論点となっている。 法律全文は総務省のサイトで参照できるが、その第4条は、 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。 一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。 となっている。 アップロードされたコンテンツそのものが著作者の権利を侵害している場合は直接的な因果関係を追求するのはたやすく、容易に権利侵害を立証できるが、複製物の販売意向情報だけではその適用は難しい。権利侵害の明白性が要件では、そこにある情報だけで権利侵害品であるかどうかを証明できないケースもあり、その場合、開示ができなくなってしまうことの懸念があるわけだ。 出品された時点ではモノは売られていないわけで、その時点では権利は侵されていない。しかも、かつてはCD-Rにコピーして売るといったことが明確に記載されていた出品情報も、最近は、本物であるかのような写真を掲載するなど、受け取ってみないとわからないケースが増えているという。こうした侵害を未然に防ぐためには、なんらかの手だてを考える必要があるというのが協議会発足の趣旨だ。 ●守られるべきは誰なのか ただ、健全なオークション成長の予感に喜んでばかりもいられない。オークション事業者は、今までよりも至極簡単に権利者(団体)などに、出品者の個人情報を開示することができるという状況ができあがる。「場」を提供する側にとって、落ちてくる火の粉を振り払うのは仕方がないことだからだ。一歩間違えば、いとも簡単にプライバシーが暴露されてしまう。 著作権法の一部が改正され、輸入盤CDの環流禁止項目が盛り込まれたときのようなことがあった場合、各権利者(団体)は、それを振りかざし、各オークション事業者に対して出品者個人情報の開示を求めるようになりかねないという懸念もある。以前も書いたように、悪いのはヒトなのに、インターネットが悪者になる風潮は強い。ケンカは別の場所でどうぞといいたくなるのは当然の成り行きだ。 著作権とは無関係だが、2004年にはヤフーオークションでカスミ網を販売した出品者を、日本野鳥の会の元会員が自ら落札して出品者の身元を確かめ、警察に届けるといったケースが報道された。全国野鳥密猟対策連絡会のサイトを見ると、そのニュースのほか、 この10月には、カスミ網がオークションに出品されていることを届けられた京都府警がヤフーに対して強硬に申し入れて出品停止を勝ち取ったというニュースもある。 大きな報道がないから気がつかないだけで、こうしたケースは氷山の一角であり、水面下では、いろいろなことが行なわれているのだろう。でも、強硬に申し入れたから個人情報が明かされるというのではなく、明確なルール作りは必要だ。 著作権利者を守るだけではなく、本来は、社会のルールからはずれた出品を取り除く方法論が議論されなければならないし、出品者と購入する消費者の権利もあわせて守られ、安心してオークションに参加できるような志の高い議論が行なわれるべきだろう。この協議会の設立が、知的財産権という大義名分だけにしばられない有意義な活動につながっていくことを望みたい。 □コンピュータソフトウェア著作権協会のホームページ
(2005年12月2日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
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