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NECのフラッグシップデスクトップPCといえば、水冷PCというイメージがすっかり定着した。現在のPCの持病とも言える高い消費電力が引き起こす廃熱の問題を、ファンの騒音を増大させることなく処理できる水冷PCは、普段はメーカー製PCにはあんまり興味がない、というユーザーであっても興味が引かれる製品ではないだろうか。 その水冷PCが、今回の秋モデルで大きなバージョンアップを果たし、モデル名も“X”へと変更した新モデルとして投入。新モデルでは、熱設計消費電力(TDP)が130Wに昇るPentium Dに対応するため、水冷の仕様も更新されている。今後のIntelのロードマップを見る限り、CPUの消費電力は130Wで頭打ちとなる可能性が高く、そうした意味で本シリーズは“史上最強の水冷PC”となる可能性が高い。 今回は、この「VALUESTAR X」を取り上げて、レビューしていきたい。VALUESTAR Xは水冷による静粛性はもちろんこと、PCそのものの性能もフラッグシップPCにふさわしい仕様にまとまっている。レビューに利用したのはVX980/DDという店頭販売用のモデルで、20型のワイド液晶がバンドルされている。 ●水冷システムをCPU冷却だけに集中することで130Wの壁を突破 今回取り上げるVALUESTAR Xは、NECがリリースしてきた水冷PCとしては第3世代にあたる製品だ。従来までの第2世代と、今回の第3世代の大きな違いは、電源周りの廃熱設計の違いにある。 水冷PCは、CPUに装着されているジャケットから、冷却水のチューブを伝導してきた熱はラジエータに送られ、ラジエータに装着されているファンによって冷却されるしくみだ。 同社の前モデル(第2世代)では、このラジエータのファンは、電源供給ユニット(PSU)の熱を外部に廃熱する役目も担っていたため、PSU内部の熱のため、ラジエータの放熱効率が若干低下してしまっていた。 そこで、第3世代となる本製品では、CPUを冷やすラジエータと、PSUの放熱機構は完全に分離され、ラジエータはCPUを冷やすだけに集中し、PSUの熱や本体内部の熱は、PSUに別途装着された大型のファンをゆっくり回すことで放熱するという仕様に変更された。これにより、ファンの数そのものは従来製品に比べて増えてしまっているが、両方とも大型のファンを低速で回しているため、静粛性は従来製品とほとんど変わっていない。 なぜ、このような仕様変更を行なってまでラジエータの廃熱効率を上げるかと言えば、CPUの消費電力が上がってしまったからだ。第2世代製品では、Pentium 4 5xx/6xxをCPUとして採用していたが、これらの熱設計消費電力のピークは、最高グレードの製品でも115Wだった。 ところが、今回本製品が採用したデュアルコアPentium Dの熱設計消費電力は130W。つまり、15Wも増えてしまったので、その分をカバーしなければならなかったわけだ。そこで、今回のような手法がとられたとみていいだろう。 ただ、依然として本製品では前面にはファンが採用されていない。一般的なPCのデザインでは、前面のファンで吸気して、背面のファンで排気というデザインが多い。しかし、前面に吸気用ファンがあるとそれだけ空気の循環性では有利だが、どうしてもノイズが上昇してしまうという問題がある。 本製品では、前面のフレーム部分にできるだけ多くの通気口をあけるなどしてその代用としており、PSUの側面にあるファンだけで廃熱を可能にした。こうして文字にするとたいしたことの無いように思えるだろうが、こうしたデザインできちんと放熱するというのが、実は一番難しい。それをやってのけた点は高く評価していいだろう。
●ファンレス動作が可能なGeForce 6200TCを採用 第1世代の初期製品では問題点の1つとして、GPUファンの騒音が挙げられていた。これは第1世代の途中からファンレスのビデオカードを採用することでクリアしてきたが、本製品でもファンレスのビデオカードが標準で採用されている。このためビデオカードの騒音は全くない。 採用されているGPUは、NVIDIAの「GeForce 6200 with TurboCache」だ。GeForce 6200 with TurboCacheは、ピクセルシェーダエンジンが4パイプ構成のメインストリーム向けGPUだが、シェーダモデル3.0に対応するなどGPUとしては最新の世代に属するGPUだ。 GeForce 6200 with TurboCacheの特徴は、PCI Expressを経由してメインメモリの一部をビデオメモリとして利用できることだ。ビデオカード上には64MBのみが搭載されているが、この機能を利用すると、合わせて256MBをビデオメモリとして利用できるようになっている。 さらに、3Dゲームのために、3Dの描画性能にこだわりたいというのであれば、BTO可能な直販モデルを選択すると、8パイプのピクセルシェーダエンジンを備える「GeForce 6600 GT」を選択できる。これにより3D描画性能は大幅に上昇することになるので、3Dゲーマーであれば、こちらを選択するとよいだろう。ただ、GPUのクーラーはファン付になってしまうので、静粛性はやや落ちることになる。 なお、NVIDIAのビデオ再生時表示品質を改善する機能である“PureVideo”にも対応している。PureVideoを利用するにはPureVideoに対応したデコーダソフトウェアが必要になるが、本製品ではインタービデオのWinDVD 7が採用されている。WinDVD 7はNVIDIAのPureVideo Decoderと同じようにPureVideoをサポートしており、WinDVDやWindows Media Playerでの再生時にPureVideoの機能が有効になり、MPEG-2再生時の品質などが大きく改善されている。
●デュアルコアのPentium Dを採用して高い処理能力を実現
むろん、本製品はNECのフラッグシップPCとしてかなり強力な性能を秘めた仕様となっている。 すでに述べたように、CPUはIntelのPentium Dが採用されている。今回試用した店頭モデルではPentium D 820(2.8GHz)が搭載されている。Pentium D 820は、デュアルコアCPUで、それぞれのコアに1MBのL2キャッシュが搭載されている。 クロック周波数だけ見れば、前モデルでは3GHzを超えていたので性能が低下しているように見えてしまうが、実際には複数のアプリケーションを同時に動かしたり、デュアルコアに対応したアプリケーション(マルチスレッド対応)を利用することで、従来型CPUよりも高い性能を発揮する。 特に、本製品のようにTVチューナで録画したビデオを、別のコーデックにトランスコーディングしたり、というCPUに高い負荷がかかる用途に利用した場合、従来型のCPUよりも高い性能を発揮する。 チップセットはIntel 945Gが採用されている。Intel 945GはPCI Expressに対応したチップセットで、メインメモリとしてDDR2をサポートしている。このため、本製品でも、メインメモリにはDDR2-533が採用されている。なお、メモリスロットは、本体の底部に用意されているが、底部からネジで止められている蓋をはずすだけで簡単にアクセス可能だ。 光学ドライブは、DVD±RW、±R/RW 2層、DVD-RAMの読み書きが可能ないわゆるDVDスーパーマルチドライブが採用されている。DVD-RAMが最大5倍、2層のDVD±Rが最大4倍、DVD±Rが最大16倍、DVD-RWが最大6倍、DVD+RWが最大8倍での書き込みが可能となっている。 このように、PCの基本性能としては、メーカー製のコンシューマPCとしてはハイエンドの仕様と言っていいだろう。 ●多くのコンテンツをPCに保存しているユーザーの強い味方“RAID5” 光学ドライブだけではない、HDD周りも本製品をハイエンドPCと特徴づける1つとなっている。というのも、本製品では出荷時にHDDがRAID5構成になっているからだ。すでに本製品のチップセットはIntel 945Gであると説明したが、サウスブリッジに関してはICH7Rがチョイスされている。ICH7RはSerial ATAのRAID機能を備えており、ICH7Rでは新たにRAID5構成も可能になっているのだ。 そもそもRAIDというのは、Redundant Arrays of Inexpensive Disksの略で、複数のディスクドライブを1つのHDDとして取り扱う技術のことを意味している。RAIDにはいくつかの方式があり、代表的なところではデータを複数のドライブに交互に書き込んでいくことで書き込みや読み込み速度を高速化させるRAID0(ストライピング)、全く同じデータを2つのドライブに書き込むRAID1(ミラーリング)、各ドライブにデータとともに他のドライブに書き込まれているデータのバックアップ(パリティ)も書き込むRAID5などがある。本製品では、このうちRAID5が採用されている。 これまで、ソニーのVAIO type RなどでRAID0構成にしたメーカー製PCなどはあったが、本製品のようにRAID5が採用されている例は少なかった。その理由は、RAID5が最低でも3台のHDDを必要とするため、コスト的に厳しかったからだ。 しかし、RAID5には1台のドライブが壊れても、そのドライブさえ交換すれば、データを保持し続けることができるというメリットがある。本製品でもIntelのRAIDユーティリティがインストールされており、3つのうちどれかのドライブに問題が生じた場合、このユーティリティが起動し、壊れたドライブの交換が示される。それに従って壊れたドライブを交換すれば、正常なドライブのパリティを元にデータが修復される。データのバックアップやOSの再インストールをしなくてもそのまま利用可能だ。 本製品のように、メディア再生などに利用するPCの場合、PCの内部にデジタルカメラで撮影した写真や、録画したTVコンテンツなど、ユーザーのデータがたくさん貯まることになるだろう。一度でもHDDのクラッシュでデータを無くしたことがあるユーザーであれば、この利便性はすぐに理解できるのではないだろうか。 なお、今回レビューに利用した店頭販売モデルでは4つ用意されているHDDベイに200GBHDDが3台搭載されており、400GBのHDDとして利用することができる。なお、直販モデルでは4つのHDDによるRAID5構成や、もう少し容量の大きなドライブによる構成も可能になっている。
●1,680×1,050ドット表示の20型ディスプレイを採用 フラグシップにふさわしい仕様と言えば、バンドルされている液晶ディスプレイもフラッグシップにふさわしいと言える。 本製品に付属している20型ワイド液晶の特徴は、1,680×1,050ドットという高精細になっていることだろう。フルHD解像度(1,920×1,080ドット)まではいかないものの、1,680×1,050ドットは20型液晶という大きさにしては十二分な解像度と言える。特に、Excelのような見通しが必要なアプリケーションを使う場合には効果を発揮するだろう。また、採用されている液晶は、NECがスーパーシャインビューEX2液晶と呼ぶ液晶ディスプレイで、高輝度、高コントラストが特徴だ。 PCとの接続はDVIケーブル、USBケーブル、オーディオケーブルで行なうようになっている。オーディオケーブルは液晶部分に内蔵されているためで、液晶の両脇に4W×4Wのステレオスピーカー、台座部分には6Wのウーハーが用意されている。
●デジタル1つとアナログ1つで2番組を同時録画可能 TVチューナ周りに関してもフラッグシップPCにふさわしい仕様だ。本製品はデジタルチューナ×1、アナログチューナ×1という構成になっている。 アナログチューナに関しては、NECの最新エンコーダチップ「VISITAL」を搭載。VISITALは入力された画像をフルデジタルで処理するため、画像の劣化が少なく、高画質を実現することが可能という特徴を持っている。なお、下位モデルの「VX700/DD」では、デジタルチューナの変わりにアナログチューナ×2が搭載され、地上波アナログTVの2番組同時録画が可能だ。 デジタルチューナボードに関しては、ユーザーアクセスバス上のデータを保護するための権利処理LSIを搭載していない従来型モデルとなっている(ただし、HDDに格納するときにデータを保護する権利処理LSIは搭載されている)。このため、放送受信機器の仕様を決定している「ARIB」の規定により、録画自体はフルHD(1080i)で行なわれるが、ディスプレイへの出力時には480pにダウンスケーリングして出力されることになる。 これはARIBの仕様によるためだが、最近リリースされている他社製品では権利処理LSIを搭載することでこの問題をクリアしているので、ぜひ次期モデルでは権利処理LSIを搭載したTVチューナボードに変更して欲しいものだ。 余談になるが、この権利処理LSIを搭載せず480pに落として出力するという仕様は、2005年12月までの暫定仕様なので、どちらにせよ来年にリリースされる次期モデルでは何らかの対応が行なわれるだろう。 なお、本製品ではリモコンに「ネット映像」というボタンが用意されており、これを押すことで、「BIGLOBEストリームサービス」と呼ばれるオンラインコンテンツ配信のサービスに接続して、さまざまなコンテンツを楽しむことができる。こちらに関しては別記事を参照されたい。 【お詫びと訂正】初出時、上位モデル「VX980/DD」のアナログTVチューナは2基と記述しておりましたが、正しくはデジタル×1、アナログ×1となります。お詫びとともに訂正させていただきます。
●デスクトップPCではまだ珍しいExpressCard/54が標準装備されている NECは最新の仕様を意欲的に取り込むPCベンダの1つだが、本製品でも、まだデスクトップPCでは珍しいExpressCardをサポートしている。本体の下部にはExpressCard/54(34としても利用可能)のスロットが用意されており、フルサイズ、ハーフサイズのExpressCardを利用できる。 もちろん、現時点では対応しているカードはフラッシュメモリアダプタ程度で、あまりメリットは大きくないかもしれない。しかし、将来ExpressCardがPCカードに変わってメインストリームになるのは間違いなく、従来のPCカードがPCIバス(133MB/sec)程度の転送速度だったのに対して、ExpressCardではPCI Express x1(250MB/sec)の転送速度が可能になっており、性能面でのメリットは大きい。また、ExpressCardの下部にはType2のPCカードスロットも用意されており、従来タイプのPCカードも利用可能だ。 また、ExpressCard、PCカードスロットの上にはSDカード、メモリースティック(PRO/PRO Duo)、xD-Pictureカードの共有スロットとして利用できるフラッシュメモリ用スロットも用意されている。
●直販モデルでは10万円強から購入可能でコストパフォーマンスも兼ね備える VALUESTAR Xは、デュアルコアCPUを採用しながら、水冷システムによる高い静粛性を実現し、RAID5による高い信頼性、デジタル+アナログTVチューナ、高解像度な20型ディスプレイなど、フラッグシップPCという名に値する高い性能を実現している。 さらに注目したいのは、直販モデルであるVALUESTAR G タイプ Xの存在だ。CPUはCeleron Dでチューナなしというモデルを選択すると、なんと104,790円という低価格で先進の水冷システムを搭載したPCを購入することができる。 本製品が採用しているような信頼性の高い水冷システムを自作PCで実現するのはかなり難しい。例えばこのベースモデルを購入して自分でカスタマイズするという選択肢も有りだろう。 そうした観点から、本製品は手厚いサポートが付いてくるメーカー製PCを必要とするような初級者からミドルユーザーはもちろんのこと、静粛性を重視したいパワーユーザーまで幅広いユーザー層にお奨めできる製品と言うことができるだろう。 □関連記事 (2005年10月18日) [Reported by 笠原一輝]
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