多和田新也のニューアイテム診断室

新世代アーキテクチャを採用したATI「RADEON X1800」




 「R520」のコードネームで呼ばれてきたATIの次世代ハイエンドGPU「RADEON X1800」シリーズが、現地時間の10月5日に発表された。ライバルのNVIDIAが「G70」こと「GeForce 7800」シリーズを順調に出荷するなか、ようやく対抗できる製品が登場したわけだ。

 さらに、RADEON X700/X300の後継となる製品も合わせて発表しており、全ラインナップを新世代へ切り替えてきた。これら、各セグメントの製品をテストする機会を得たので、ここでベンチマークの結果をお届けしたい。

●ラインナップを一新したRADEON X1800/X1600/X1300シリーズ

 RADEON 9700シリーズ以降、基本的なアーキテクチャはそのままに機能拡張が続けれてきたのが、ATIのGPUだ。だが、新RADEONは、Shader Model 3.0に対応する、まったくの新設計をとったGPUであることが1つの特徴だ。

 ピクセルシェーダパイプラインはRADEON X850 XTなどと同じ16本で、4個のピクセルシェーダユニットを1ユニットとしたコアを4個搭載する構造になっており、GeForce 7800 GTXと似た仕組みとなる。

 加えて、「Ultra-Threading」と名付けられたピクセルシェーダのマルチスレッド処理機能や、メモリ同士を2本の256bitバスで接続する「Ring Bus」と呼ばれる新たな仕組みを設けたメモリコントローラ、事前に発表された動画再生支援機能「AVIVO」の採用など、新たなアーキテクチャ多く盛り込んだ製品となっている。

 特にUltra-Threadingについては、プログラマブルシェーダの処理が効率よく並行実行されるならば性能は飛躍的に向上する可能性があり、GPUにおける新しい流れとして期待したい。

 今回発表された新ラインナップは表1のとおり。ハイエンドからバリューまで、すべてのセグメントに向けて新製品が投入され、各ラインナップで、コア/メモリクロック、メモリ容量の違う製品が用意される。

【表1】RADEON X1800/1600/1300シリーズの仕様
製品名 開発コードネーム コアクロック メモリクロック メモリ容量 ピクセルパイプライン バーテックスシェーダユニット テクスチャユニット 最大スレッド数 価格
RADEON X1800 XT R520 625MHz 1.5GHz 512MB 16本 8個 16個 512 549ドル
256MB 499ドル
RADEON X1800 XL 500MHz 1GHz 256MB 449ドル
RADEON X1600 XT RV530 590MHz 1.38GHz 256MB 12本 5個 4個 128 249ドル
128MB 199ドル
RADEON X1600 PRO 500MHz 780MHz 256MB 199ドル
128MB 149ドル
RADEON X1300 PRO RV515 600MHz 800MHz 256MB 4本 2個 4個 128 149ドル
RADEON X1300 450MHz 500MHz 256MB 129ドル
128MB 99ドル
RADEON X1300 HyperMemory 450MHz 1GHz 32MB/128MB 79ドル~

 ここ数年、GPUの新製品はハイエンドがまず投入され、次いで同じアーキテクチャを用いた廉価製品をリリースする傾向にあり、トップトゥボトムで一気に新製品が発表されるのは久しぶりである。

 今回試用するのは、「RADEON X1800 XT」、「RADEON X1800 XL」、「RADEON X1600 XT」、「RADEON X1300 PRO」の4製品である。

 最上位モデルとなるRADEON X1800 XTは、2スロットを占有する大型のクーラーを装備(写真1)。クーラーは化粧カバーに隠れているが、RADEON X850 Xのものを一回り大きくしたような形状だ。さらに、VRM部の面積も広くなっているので、ボード長が若干長くなっている。

 RADEON X1800 XLは、1スロットで収まる薄型のクーラーが採用される(写真2)。DVIコネクタなど細かい部品の差異は見られるものの、PCB自体はRADEON X1800 XTと同じである。クロックが低い分、発熱が少なく、小さなクーラーでも冷却ができるのだろう。

 両製品ともブラケット部にはDVI×2、ビデオ入出力を装備(写真3)。RADEON X850 XTまでは裏面に実装されていた「Rage Theater」は表面のクーラーの下に実装されるよう変更され、裏面に目立ったチップは実装しない(写真4)。

【写真1】RADEON X1800 XTのリファレンスボード。2スロットを占有する大型クーラーは、RADEON X850 XTよりも一回り大きい。外部電源端子は備えているが、RADEON X850などに存在したボード末端部のビデオ入出力端子は廃止されている 【写真2】RADEON X1800 XLのリファレンスボード。こちらは1スロットで収まる薄型のクーラーを採用。化粧カバーに隠れているがヒートシンクの素材は銅である
【写真3】RADEON X1800 XT(左)/XL(右)のブラケット部。両製品とも共通でDVI×2+ビデオ入出力のレイアウト 【写真4】RADEON X1800 XT(左)/XL(右)の裏面。RADEON X850などでは裏面にRage Theaterが実装されていたが、本製品では表面に実装されるレイアウトになった。裏面にメモリチップは実装されておらず、表面に8枚を実装。RADEON X1800 XTは512Mbitチップ×8枚で計512MB、RADEON X1800 XLは256Mbitチップ×8枚で計256MBということになる

 CATALYST上からコア/メモリの各クロックを確認してみると、RADEON X1800 XTで、コアクロックが630MHzとやや高めの動作クロックが示されるほか、おそらくサンプル版のCATALYSTであることが原因だと思われるがメモリクロックが正常に表示されないトラブルが起きている(画面1)。RADEON X1800 XLはスペックどおりの動作クロックとなっている(画面2)。

【画面1】RADEON X1800 XTの動作クロック。メモリクロックの表示がおかしく、コアクロックも定格625MHzに対して、表示が631MHzとやや開きがある 【画面2】RADEON X1800 XLの動作クロック。コアクロックはほぼ定格どおりの503MHz。メモリクロックも定格どおり1GHz(500MHz DDR)となっている

 RADEON X1600 XTとRADEON X1300 PROは、表面の外観にほとんど違いがなく、クーラーも同一のものが採用される(写真5、6)。RADEON X1800シリーズと比べてボート長も短く、外部電源端子も不要となっている。

 ブラケット部はRADEON X1600 XTがDVI×2+ビデオ出力、RADEON X1300 PROがD-Sub15ピン+DVI+ビデオ出力という構成になっているが(写真7)、これはあくまでリファレンスボードの構成であって、RADEON X1300シリーズでもDVI×2の製品は可能である。また、リファレンスボードには搭載されていないが、Rage Theater用と思われる空きパターンがそれぞれに用意されている。

 ただし、裏面のレイアウトは若干異なる(写真8)。RADEON X1300 PROにはメモリチップが実装されているが、RADEON X1600 XTの裏面にはメモリを実装するパターンすら用意されていない。

 これは、RADEON X1300 PROのようにローコストセグメントに向けた製品では、最大8個まで搭載できるようリファレンスボードで設計しておくことで、やや古めで集積度が小さいDDRメモリなどを利用した256MB搭載製品も実現可能となるわけだ。実際の製品をリリースするベンダーが柔軟にメモリチップを選択できるよう、配慮されているのだろう。

 ちなみに搭載されているチップは、RADEON X1600 XTが512MbitのGDDR3メモリであるSAMSUNGの「K4J52324QC-BJ12」(写真9)。RADEON X1300 PROが256MbitのGDDR2メモリである、Infineonの「HYB18T256161AF-25」となっている(写真10)。

【写真5】RADEON X1600 XTのリファレンスボード。ボードサイズはRADEON X700 PROのリファレンスボードと同じだが、クーラーは大型化され、銅製へと変更されている 【写真6】RADEON X1300 PROのリファレンスボード。ボードサイズ、クーラーともにRADEON X1600 XTと同じ。ただし、PCB上のレイアウトは異なる 【写真7】RADEON X1600 XT(左)/RADEON X1300 PRO(右)のブラケット部。RADEON X1300 PROはD-Sub15ピンを採用している点が特徴。両製品ともRage Theaterは搭載していないのでビデオ入力には非対応だが、リファレンスボード上にチップパターンは用意されている
【写真8】RADEON X1600 XT(左)/RADEON X1300 PRO(右)の裏面。RADEON X1600 XTは裏面にメモリチップの実装がなく、表面の4枚のみ。RADEON X1300 PROは表面、裏面にそれぞれ4枚の計8枚が実装されている 【写真9】RADEON X1600 XTのリファレンスボードに実装されているメモリチップは、SAMSUNGの「K4J52324QC-BJ12」。512MbitのGDDR3メモリで、4枚搭載して総容量256MBとなっている 【写真10】RADEON X1300 PROのリファレンスボードに実装されているメモリチップは、Infineonの「HYB18T256161AF-25」。256MbitのGDDR2メモリで、これを8枚搭載して総容量256MBとなっている

 両製品のコア/メモリクロックの表示だが、RADEON X1600 XTはRADEON X1800 XTと同じようにメモリクロックが正しく表示されていないが、コアクロックはほぼ定格どおり(画面3)。RADEON X1300 PROはコア/メモリともに、ほぼ定格どおりの値が表示されている(画面4)。

【画面3】RADEON X1600 XTの動作クロック。コアクロックはほぼ定格どおりの591MHz。メモリクロックは正しい表示がなされなかった 【画面4】RADEON X1300 PROの動作クロック。コアクロックはほぼ定格どおりの601MHz。メモリクロックも同様に、802MHz(401MHz DDR)とほぼ定格どおりだ

●GeForce 7800シリーズと比較

 では、ベンチマークの結果を紹介したい。テストに利用した環境と比較対象は表2のとおり。RADEON X1800/X1600/X1300用として入手したドライバは旧モデルでは利用できなかったため、RADEON X850 XT PE/X700 PROについては、テスト時点で最新のCATALYST 5.9を利用している。

【表2】テスト環境
  RADEON X1800 XT(512MB)
RADEON X1800 XL(256MB)
RADEON X1600 XT(256MB)
RADEON X1300 PRO(256MB)
RADEON X850 XT PE(256MB)
RADEON X700 PRO(256MB)
NVIDIA GeForce 7800 GTX(256MB)
NVIDIA GeForce 7800 GT(256MB)
NVIDIA GeForce 6800 GT(256MB)
VGA Driver 6.14.0010.6571 Catalyst 5.9 ForceWare 78.01(6.14.0010.7801)
CPU Pentium 4 Extreme Edition 3.73GHz
マザーボード Intel D925XECV2(Intel 925XE)
メモリ PC2-4300 DDR2 SDRAM 512MB×2
HDD HGST Deskstar T7K250(HDT722525DLA380)
OS Windows XP Professional(ServicePack 2、DirectX 9.0c)

【お詫びと訂正】初出時、表2が抜けておりました。お詫びして訂正いたします。

 解像度等の条件については、過去の本連載と統一しているが、ATIの各製品についてのみ、6xAA+16xAnisoの条件を追加している。NVIDIA製品では、この条件を指定できないためテストを省いている。

 では、「3DMark05」の結果から順に見てみたい(グラフ1)。RADEON X1800 XTは、ビデオカード単体でXGAにおけるスコアが8000オーバーという驚愕のものであり、GeForce 7800 GTXをすべてのテスト条件で上回る素晴らしい結果となった。ただ、解像度向上に対するスコアの低下はGeForce 7800 GTXと同程度だが、AAや異方性フィルタなどを適用したときのスコアの低下は若干大きめとなっている。

 RADEON X1800 XLの結果は、GeForce 7800 GTと拮抗している。ただ、RADEON X1800 XTと同様、フィルタを適用した場合のスコア低下が大きめであるため、フィルタ非適用時はRADEON X1800 XL、適用時はGeForce 7800 GTに分があるという結果となった。

 ちなみに、RADEON X1800 XT/XLともに、従来モデルであるRADEON X850 XT PEのスコアは完全に凌駕しており、とくに異方性フィルタ適用時のスコア低下が小さいのが特徴的だ。

 RADEON X1600 XTに目を向けてみると、RADEON X850 XT PEには及ばないものの、GeForce 7800シリーズの登場までハイエンド向けだったGeForce 6800 GTと近いスコアを出している。

 これも、フィルタを適用した場合のスコア低下が大きめで、フィルタ非適用時はRADEON X1600 XT、適用時はGeForce 6800 GTが勝る結果となっている。コアアーキテクチャの違い以外に、メモリインターフェイスのバス幅の違いもあるためか、RADEON X1800 XL/GeForce 7800 GTの時以上に、フィルタ適用時の差が顕著に表れている。

 RADEON X1300 PROについては、RADEON X700 PROに近いスコアを出している。世代が変わったことで、1つ上のセグメントの製品に近いパフォーマンスを期待できる結果だ。異方性フィルタ適用時のパフォーマンス低下が小さいのは先述のRADEON X1800 XT/XLと同様であり、新しいアーキテクチャによってこの点が大幅に改善されたという印象を受ける。

【グラフ1】3DMark05 Build 1.2.0

 続いて「3DMark03」の結果であるが、こちらは3DMark05とはかなり違った傾向を見せている(グラフ2)。RADEON X1800 XTとGeForce 7800 GTX、RADEON X1800 XLとGeForce 7800 GTの差は、どちらもATI陣が優位な点に変わりはないが、その差がさらに広がった。また、解像度向上やフィルタの適用によって、さらに差は広がる傾向にあり、このテストにおいては、RADEON X1800 XT/XLが無類の強さを見せつけた格好になっている。

 一方、RADEON X1600 XTとGeForce 6800 GT、RADEON X1300 PROとRADEON X700 PROの比較では、それぞれNVIDIA陣に分がある結果で、こちらはいずれも1セグメント上の従来製品が優位に立っている。

 また、3DMark05ではあまり気にならなかったが、3DMark03においては、RADEON X1300 PROのUXGA解像度におけるフィルタ適用時のスコア低下が大きい。このあたりはメモリ帯域幅の差が大きく影響したと想像され、バリューセグメント向け製品ゆえの特徴といえる。

【グラフ2】3DMark03 Build 3.6.0

 「AquaMark3」は、全体的な傾向は3DMark03に近い(グラフ3)。ただ、各製品の差はそれほど大きくなく、とくにRADEON X1800 XLとGeForce 7800 GTが、特にビデオカードの処理性能が求められる高解像度/フィルタ適用の条件において、ほぼ拮抗するスコアとなっている。

【グラフ3】AquaMark3

 「DOOM3」は、もともとGeForceシリーズに最適化されているアプリケーションでもあり、さすがにGeForce勢が強い(グラフ4)。RADEON勢のみで結果を比較してみると、ここではRADEON X850 XT PEの性能の良さが光り、6xAA/16xAnisoの条件以外であればRADEON X1800 XLを上回る結果を見せている。RADEON X1800 XLを上回るパフォーマンスを見せるアプリケーションは限定されるものの、新製品の登場に伴って価格が低下するであろう本製品を狙う人も現れそうである。

【グラフ4】DOOM3

 最後に「Unreal Tournament 2003」の結果であるが、この結果は世代に関係なく、セグメント上位の製品が好スコアを出す結果となった(グラフ5、6)。本アプリケーションはDirectX 8.1世代であり、今となっては古めのアプリケーションとなる。そのため、シェーダの性能云々以上に、ハイエンドGPUのコアクロックの高さに伴う、T&Lやフィルレートのパフォーマンスの良さが活きた結果といえるだろう。

【グラフ5】Unreal Tournament 2003 ~ Flyby
【グラフ6】Unreal Tournament 2003 ~ Botmatch

●GeForce 7800シリーズに対抗できる素晴らしいパフォーマンス

 ハイエンドからバリューまでラインナップが一新されたRADEONの新ラインナップをテストしてきた。とくに最上位モデルとなるRADEON X1800 XTは、多くのテストでGeForce 7800 GTXを上回るスコアを出しており、素晴らしいポテンシャルを持った製品といえる。

 ただ、今回、各製品のCrossFire Ediitonの投入は見送られているようだ。計画自体はあるようで、いずれは登場することになるだろう。もっとも、先に行なったCrossFireのテスト結果から推測するに、RADEON X1800 XTのCrossFire Editionが登場したとしても、現在のプラットフォームでは性能のすべてを発揮できないのではないだろうか。

 そのため、GeForce 7800 GTXのSLI構成という選択肢があるNVIDIA、RADEON X1800 XTの単体パフォーマンスが優秀なATI、というハイエンドユーザー向けの図式が成り立つように感じられる。

 このほか、今回のRADEONシリーズは冒頭で少し触れたとおり、Ultra-Threading、メモリコントローラのリングバスなど、革新的なアーキテクチャを盛り込んでいるのも興味深い。今後、こうした流れはトレンドとなっていくのか見守りたい。

□関連記事
【9月27日】【多和田】ついに姿を表したATIのマルチGPU技術「CrossFire」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0927/tawada60.htm
【9月20日】ATI、動画再生支援の新プラットフォーム「AVIVO」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0920/ati.htm

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(2005年10月6日)

[Text by 多和田新也]


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