●3事業部に主力を統合したMicrosoft 米Microsoftは9月20日、それまで7つあった事業部を3つに統合するリストラを発表した。同社Webサイトを見る限り、すでにこのリストラは実施されているようで、役員プロフィールもすでに更新されている。 このリストラ以前のMicrosoftの事業部構成は、3つの分野に分類される7つの事業部で構成されていた。すなわち以下の7つだ([]内は分野、()内は事業部長)。 [PC eXPerience] [Server & Business] [Consumer & Devices] それぞれの事業部の分類は、9月7日に東京で開かれたプレス向け説明会(2006年度方針説明会)で用いられたもので、少なくともこの時点において20日のリストラは日本法人に伝えられていなかったのではないかと思われる(9月20日に知った、という人が多いようだ)。いずれにしても、この3つはあくまでも分類であり、それぞれの分類毎に責任者がいたわけではない。 この7つが次の3事業部、Microsoft Platform Products & Services Division、Microsoft Business Division、Microsoft Entertainment & Devices Divisionに集約された。が、それぞれの事業部を解体して再編成したというより、上の7つを3つに分類し直した、という形に近い。つまり、以下が新しい分類兼事業部構成となる。 Platform Products & Services Division
Business Division Entertainment & Devices Division
7事業部時代の分類と異なり、この3つが事業部であり、それぞれに事業部長がいる点が大きな違いだ。 ●意図がわかりにくい機構改革 さて今回の機構改革の狙いだが、正直に言って筆者には、まだ把握できていない。プレスリリースには「ソフトウェア戦略およびサービス戦略の実行における機敏性をさらに高めるため」と書かれているが、ある意味、この種の機構改革を行なう際の決まり文句的な部分もあり、本当の狙いが何であるかはハッキリとしない。
見方によっては今回の機構改革により各事業部とトップ(CEO)の間に、もう1階層増えたと見えなくもないし、事業部が大きくなった(肥大化した)と考えられなくもない。その一方で、3人の新事業部長により、CEOであるスティーブ・バルマーに集中し過ぎた権限が分散される、という捉え方も可能だろう。 そもそもMicrosoftの事業部は、外からではわからないことが多い。たとえば、Platform Product & Services Divisionの事業部長である2人(なぜ2人なのかは後述)だが、ケビン・ジョンソンの前職は、Worldwide Sales, Marketing and ServicesのGroup VPということになっているが、そのようなGroup(事業部)は、今回の機構改革には存在しない。また、ケビン・ジョンソンの後継としてWorldwide Sales, Marketing and ServicesのGroup VPに誰が就任した、とも発表されていない。 同様のことはジム・オールチンにも当てはまり、彼の前職、Platforms GroupのGroup VPの後任は発表されていないし、Platforms Groupなる事業部は今回のリリースに登場しない。おそらくは、Windows ClientとServer and Toolsにまたがる組織なのだろうと思うが、事業部としての実態があるのかどうかは不明だ。ジム・オールチンがClientとServer両方のOSを統括するために作られたポジションなのだろう。 Microsoftの役員プロフィールなどを見ていると、上の7事業部以外のGroup、たとえばWindows Core Operating System Developmentなどが登場する。こうしたGroupと事業部の業務分担などについても、筆者のような外部の人間にはわかりにくいことの1つだ。 新事業部長人事にしても、Business DivisionとEntertainment & Devices Divisionはわかりやすい。前者の事業部長に就任したのは、統合された2事業部のうちInformation Worker Groupを率いていたジェフ・レイクスで、もう1人の前事業部長であったダグ・バーガムは、ジェフ・レイクスに業務報告を行なう立場になる。 同様にEntertainment & Dvices Divisionも、新事業部長に就任したのは旧Home & Entertainment Group(Xboxおよびマウス/キーボード)のロビー・バックで、Mobile & Embedded Devices(Windows CEをはじめとする組み込みOS、組み込み機器)のピーター・クノックは、ロビー・バックの部下という形になる。
これに対して、Platform Products & Services Divisionの事業部長に就任した2人は、いずれも統合された3事業部の事業部長ではない。この事業部だけ事業部長が2人いるのは、来年リリースされるWindows Vistaの提供後、2006年末をもってジム・オールチンが退職するからだ(以後はケビン・ジョンソンが事業部長)。 3人の前事業部長のうち、MSN担当のデビッド・コールは、新事業部長の下で引き続きMSNを担当することが明らかにされているものの、Windows Clientのウィル・プールについてはプレスリリースで触れられていない。もう1人のエリック・ラダー(Server and Tools)は、Visual Studio 2005とSQL Server 2005の提供後、ビル・ゲイツ会長直属の新しい任務を担当する、とされている。
最も大きく変わる(人の出入りが最も激しい)のがPlatform Products & Services Divisionであることは間違いない。普通に考えれば、ここに狙いがあると見るべきだろう。本来、「今後10年の基盤」と呼ぶWindows Vistaのリリースを1年以内に控え、その担当事業部の機構改革を行なうのは、あまり望ましいことではない。それだけに、何らかの必然性があると考えられる。 それをストレートに考えれば、長年プラットフォーム事業を支えてきたジム・オールチンの退職シフト、ということになる。ジム・オールチンといえば、2000年にポール・マリッツが退任した後、1人でWinHECやPDCといった開発者向けイベントを背負ってきた印象が強い。それだけに現在のMicrosoftに取って代われる人材はなく、ポスト オールチンの育成は急務だ。1年かけてケビン・ジョンソンが引継ぎを行なうことになるだろう。 新しい事業部長の顔ぶれを見ると、技術畑の出身者がほとんどいないことに気づく。ケビン・ジョンソンは'92年の入社以来、セールス・マーケティング畑を歩んできたし、ロビー・バックはMicrosoft入社前は金融会社(モーガン・スタンレー)のアナリストである。ジェフ・レイクスは、Appleでソフトウェア開発マネージャーを務めていた経歴があるが、Microsoft入社後は、これまたセールス・マーケティング畑一筋である。 今回の機構改革では、コーポレートCTOのレイ・オジーが、現在の職務権限を拡大し、新しい3事業部を支援する新たな責任を担うとされている。これも事業部長がみなセールス・マーケティング畑出身者になることを補う措置だと考えられる。 ●背水の陣を敷いたWindows Vista 今回のリストラの直後に、Microsoftの30周年記念行事が発表された。その意義はさておくとして、そこで強調されたのは今後18カ月の間に出荷予定の新製品のラインナップの強力さである。 その中心となる製品は、なんといってもWindows Vistaであり、その登場はジム・オールチンの退職日という形で、最終的なゴールが決定した。いや、すでに決定していたことであるのだが、さらに背水の陣を敷いたというべきだろう。ジム・オールチンが率いる開発グループは、たとえ、どのような仕様になろうとも、2006年の内にWindows Vistaの製品化を成し遂げなければならないのだ。 □米Microsoftのホームページ(英文) (2005年9月29日) [Reported by 元麻布春男]
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