●Samsungが16Gbitフラッシュメモリの開発を発表
9月8日に発表された「iPod nano」は、そのバイト単価の低さで、他を圧倒した。 特に4GBモデルのバイト単価は、デジタルオーディオプレーヤーばかりか、CFカードをも凌駕している。この4GBモデルに韓国のSamsung(Samsung Electronics)のNANDフラッシュチップが採用されていることは、本誌でもレポートされている。 使われているメモリチップは「K9WAG08U1M」という16Gbit NANDフラッシュチップが2個。型番で3番目の「W」はSLCのフラッシュメモリダイを4枚スタックした構成であることを意味している(SLCはSingle Level Cell、要するに多値技術を用いてないということ)。つまりiPod nanoの4GBモデルは、4Gbit NANDフラッシュメモリのダイを2チップ計8枚用いていることになる。この16Gbit NANDフラッシュチップは、まだSamsungのWebサイトではサンプル出荷中というステータスになっているが、大口顧客のAppleに向けてまず量産出荷した、ということなのだろう。
そのSamsungが韓国ソウルで12日に開催したプレスカンファレンスで、16Gbit NANDフラッシュメモリの開発に成功したという発表を行なった。発表によると、16Gbit NANDフラッシュメモリは50nmプロセスにより300mmウェハで製造される。60nmプロセスを用いた8Gbit NANDフラッシュメモリに比べ、ダイサイズは25%小さいという。 今回発表された16Gbit NANDフラッシュメモリは、どうやら多値技術を用いたもののようだ。多値技術を用いたフラッシュメモリは、256MB~512MBクラスのSDカードあたりではすでに実用化されているものの、1GB~2GBクラスのハイエンドSDカードでは主流になっていない。 発表によると、3D構造のトランジスタを採用したことで、十分なマージンを確保したということだから、信頼性についても問題ないのだろう。 表1は、2000年以降に同社が発表したNANDフラッシュメモリの開発、量産、実用化をまとめたものだが、開発発表、量産、実用化(最終製品の登場)がほぼ1年間隔で実現されている。iPod nanoに使われている70nmプロセスによる4Gbit NANDフラッシュは2003年に発表され、昨年後半から量産に入ったものだ。そして、それを搭載したおそらく初の最終製品がiPod nanoということになる。 【表1】SamsungのNANDフラッシュの開発ロードマップ(「?」がついたもの以外は実績)
●16GB iPod nanoも2年後には実現 表1で分かるのは、同社が毎年NANDフラッシュメモリの容量を倍増していることだ。半導体業界には有名な「ムーアの法則」があるが、これは18カ月でトランジスタの集積度が2倍になるというもの。このムーアの法則を上回る12カ月で2倍の容量を実現するペースを同社では「黄(ファン)の法則」と呼んでいる。この「ファン」とは、Samsung半導体総括社長である黄昌圭(ファン・チャンギュ)氏の名前からとったものである。 さて、この表をiPod nanoにあてはめてみると、8Gbit品が使える2006年の今頃は同じ価格、同じサイズで8GBのiPod nanoが実現することになる(8Gbitのダイを8枚搭載)。2007年なら今回発表の16Gbit品の実用化が可能で、16GBのiPod nanoが登場しても不思議ではない。 iPod miniの大きさまでいかなくても、現在のiPod nanoより若干厚みが増す程度で、32GBや64GBといった大容量のiPodをフラッシュメモリで作ることも十分可能になるだろう。価格も、ダイサイズの縮小まで考えれば、Apple級の大口顧客なら、今の4GBモデルとほとんど変わらない価格で16GBモデルをリリースできる可能性がある。 ちなみに現時点で最大容量のiPodは、1.8インチHDDを採用した「iPod Photo」の60GBである。しかし、1.8インチHDDが2年後に2倍の容量120GBを達成できるかと言われると、ここ最近の停滞を考えると疑問符がつく(現時点で2.5インチHDDの最大容量が160GBである)。それを考えれば、今回のSamsungの発表の「意味」(衝撃)が多少は身近に感じられるかもしれない。 ●HDDレスのノートPCも目前に 1.8インチHDDは、何もiPodなどの音楽プレーヤー専用ではない。いわゆるモバイル向けのPCでは、2.5インチHDDに代わり、1.8インチHDDが使われていることが多い。16Gbit NANDフラッシュの時代(といってもわずか2年後)になれば、1.8インチHDDのフォームファクタがあれば、32GBや64GBといったフラッシュストレージが簡単に作れるだろう。現在ノートPCで主流となっているHDD容量は、1.8インチ/2.5インチを問わず40GB程度だから、十分、置き換えることが可能になる。 スピンドルモーターのないフラッシュストレージは、HDDに対し省電力である上、物理的なクラッシュを起すことがないから、それを採用したノートPCは、バッテリ駆動時間が長く、信頼性も高い、ということになる。
今年の4月に開催されたWinHECでMicrosoftのBill Gates会長は、1日中使える小型PCとして、Ultra Mobile 2007という概念をアナウンスした(この2007年というのが「まさに」な感じ)。8月のIDFではIntelのOtellini社長が、同じく1日中使えるHand TopというモバイルPCのモックアップを公開している。こうした超小型のPCに使われるストレージがフラッシュメモリであっても驚くべきことではなさそうだ。 またMicrosoftはHDDに不揮発メモリを併用するハイブリッドディスクをWinHECで提唱したが、今の勢いなら逆にフラッシュストレージにHDDを併用するビジョン(OSやデータはフラッシュに置き、ページングファイルやテンポラリをHDDに書く)の方が妥当かもしれない。 このようにNANDフラッシュメモリによって、既存の記録メディア、HDD、光ディスク、さらには紙さえも、をすべて置き換えていく、というのがSamsungのビジョンだ。同社ではこれをデジタルペーパーと呼び、デジタルペーパーにより「第2の紙革命」が起こると考えている。 実は、こうしたフラッシュメモリによる記録メディア(特にHDD)の置き換えを叫んだのは、Samsungが最初ではない。'90年代半ば、インテル日本法人の西岡社長(当時)は、同社のフラッシュメモリ(今回のNAND型と違いNOR型だが)は、いずれHDDを置き換えるだろうと予言した。残念ながら'90年代後半、HDDの記録密度はムーアの法則を上回るペースで向上し、この予言は当たらなかった(これについて西岡社長は、潔く予測が外れたことを認め、謝罪したことを筆者は記憶している)。が、デバイスがNORからNANDに変わり、再びフラッシュメモリがHDDに挑戦しようとしている。西岡氏はちょっとばかり時代を先取りしすぎたのかもしれない。 今回のiPod nanoの出現により、数GBクラスのストレージは磁気記録から半導体に置き換わることが明確になった。磁気記録が有効性を維持するには、同等以下のコストでフラッシュメモリより2桁くらい上の容量を実現する必要があるだろう。現時点で、2.5インチ以上のHDDはこれを満たしているが、このままでは1.8インチ以下のサイズのHDDは存在意義を失うことになる。果してHDDメーカーの逆襲はあるのか、この1年余りが勝負だろう。 □ニュースリリース(英文) (2005年9月20日) [Reported by 元麻布春男]
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