●ワンストップとは正反対の戦略
ワンストップショッピングが店舗の王道といわれるなか、九十九電機はあえて逆の戦略を選択した。ワンストップショッピングを具現化する超大型店「ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba」と正反対に、超専門店を巡って買い物をするというコンセプトだ。 ●2005年に入り好調な売れ行き続く 「昨年年末までは売り上げも伸び悩んでいたが、2005年に入り、ナショナルブランドのPC、オリジナルPC、パーツのいずれもが好調。特に夏は自作系PCの売り上げが好調だった」と九十九電機販売促進課の後藤大和担当部長は説明する。 「とにかく取材も多かった。『電車男』の影響か、初めて取材を受ける媒体も多く、これまで秋葉原に足を踏み入れていなかった人に向けてのガイドブックの取材を受けることもあった。つまり、秋葉原に対する注目が高まっていたのが2005年の夏だったのではないか」 売り上げが好調である背景には、ヨドバシカメラが秋葉原に店舗をオープンすることを受け、「自社の強みとは何か」を深く追求したことがあげられる。 「実は秋葉原の前に、4年前に札幌地区でヨドバシカメラと対決した経験がある。札幌には当社としては規模の大きい300坪ほどのショップをオープンしていたのだが、駅前にヨドバシカメラがオープンした結果、次第に客足が減ってしまった。その後、店舗のコンセプトを変更。プライベートブランドのPC、自作系のパーツ類、独自の保証制度など専門店にしかできないサービスを打ち出していった結果、現在では黒字店舗となっている。秋葉原についても、ヨドバシカメラと同じ商品を置くのではなく、当社の強みであるパーツ系の販売を前面に出すことで、アピールができるのではないかと考えた」(後藤部長) 札幌で顧客の変化を痛感したからこそ選択した、自社の強みであるパーツ系に特化した戦略。秋葉原でも早い時期から、「PCパーツの殿堂!」と銘打った店舗「ツクモex.」を中央通り沿いにオープンするなど、PC専門店としての強みを追求するのが同社の戦略だった。 ここ1、2年その戦略をさらに加速するために誕生したのが、よりカテゴリーに特化した店舗やフロアである。専門店を越えた“超専門店”というべきだろうか。このカテゴリー特化戦略を九十九電機では、「王国戦略」と名付けている。
●専門性を打ち出す「王国戦略」 秋葉原にあるツクモ本店の3階は、ロボット関係の商品の専門フロア「ロボット王国」、ツクモ本店IIの4階にはデジタル映像関連の専門フロア「キャプチャ王国」、本社があるビルの1階には自作PCを作る際に必要な筐体の専門店「ケース王国」がある。 その他、パソコン本店の2階は「モニタ王国」、本店IIの2階が「ドライブ王国」だ。どの王国が何のパーツの専門店か一目瞭然である。 「自作PCを作りたいという場合、1つの店舗ですべてを揃えることも可能だが、『お客さん、ケースだったら、ケース王国に行くといろいろな商品が揃っていますよ』とアドバイスするようにしている。ツクモは、それだけ、こだわった店作りをしているんだということをお客さんに理解してもらうのが狙い」(後藤部長)
実際にケース王国には、300種類のケースが並んでいる。こうしたケースの一部は、他のツクモの店舗にも、同じ値段で置かれている。他の店舗に行くのが面倒臭いという場合は、1つの店舗で買い物を済ませてしまうのも可能だ。 「だが、あえてそのパーツの専門のお店をもつことで、自分の足で歩いてお店を覗けば、他店にはない品揃え、専門知識をもったスタッフに出会うことができる。ワンストップショッピングとは逆の、専門店を回るショッピングの楽しさというのが秋葉原の特色でもある。秋葉原の面白さをお客さんに知ってもらいたいというのが王国戦略の狙い」(後藤部長) 王国戦略がスタートしたのは、2003年頃。「その頃から、ヨドバシカメラの秋葉原への出店は告知されていた。そこで、専門性を理解してもらう特化した構成の店作りが始まった」という。
どれだけ専門特化しているかをアピールするために、インターネットも積極的に活用している。 「同じ商品であっても、中身を分解してレビューして、詳しく紹介するとその商品の売れ行きはネットでも、店舗でも伸びる。この辺はニュースサイトと共通するところがあるのかもしれないが、単にスペックと写真を紹介するだけでは駄目。写真のカット数を増やして、思い入れを持って紹介したものはやはり成果もあがるという結果が明らかに出てきている」(後藤部長) 商品の紹介はメーカーのサイトにも掲載されている。だが、パーツ類の場合、メーカーサイトが存在していなかったり、存在していたとしても、商品の細かい部分までは紹介されていない場合も多い。そこで、「ツクモの店舗にしかないものについては、ネットで詳しく紹介していくことで、店舗にもプラス影響が生まれる」わけだ。
こうした専門性の追求は、ヨドバシカメラの店舗オープンに合わせて、短期的に価格を引き下げてお客さんを呼び込むというという考え方とは対極の、長期的視野にのっとった戦略だ。九十九電機は昭和22年に秋葉原で通信機器の販売を始めたのを皮切りに、ちょうど30年前となる昭和52年にアップル製品の販売を開始した。それ以来30年間、PCを販売してきたという自負が同社にはある。 専門店に特化するという戦略は、この自負があるからこそ成り立っているものでもある。 ●ツクモを知ってもらうための手段 とはいえ、専門性を追求するとともに新たに秋葉原を訪れた人や久しぶりに秋葉原を訪れた人に対しても、九十九電機という専門店をアピールすることも必要となる。そこで同社では駅前などで、ティッシュと「ツクモshopガイド」という小冊子を配布している。 「ツクモshopガイドは、まさにツクモというショップをどう利用すればいいのかを全く知らない人にも、ツクモを知ってもらうためのガイドとなっている」(後藤部長) 4ページ構成になっているこの小冊子には、秋葉原の地図が記載され、ツクモの各店舗を紹介すると共に、4ページ目の最終ページではツクモの歴史を紹介する「ツクモ雑学辞典」が掲載されている。雑学辞典には、「ツクモ」の語源や、30年前にPCの販売を始めたことなどが記され、さらにお勧め製品や、ツクモのハウスカードであるツクモex.カードの紹介などが掲載してある。 「文体についても、初めてツクモという店を知る人が読むことを意識したわかりやすいものとした。久しぶりに秋葉原を歩くんだという人にも、理解してもらえるような内容であることにも意識した。この小冊子がきっかけとなって、ツクモを知る人が少しでも増えれば」と後藤部長は期待している。
□九十九電機のホームページ (2005年9月28日) [Reported by 三浦優子]
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