9月13日から、米国カリフォルニア州ロサンゼルスのロサンゼルスコンベンションセンターにおいて、Microsoftのソフトウェアプログラマ向けのイベントPDC(Professional Developer Conference)が開催されている。 PDC05の最大のテーマは、リリースまであと1年となった次世代Windowsである“Windows Vista”と、“Office 12”の開発コードネームで知られる次世代Officeに関する話題だ。 実のところPC業界は、Windows VistaとOffice 12の登場を、首を長くして待ち望んでいる。というのも、Microsoftがリリースするこの2つの製品が、低迷続くPC業界にとって、まさに“キラーアプリケーション”だからだ。 だが、それと同時に、Windows VistaとOffice 12がリリースされる2006年後半までの約1年、どのようにPCを販売していくのか、という悩みも抱えている。 ●Windows 95+Office 95の再来を期待するソフトウェア業界 米国で行なわれるカンファレンスにはさまざまな種類があるが、PDCほど参加者が熱いイベントというのはそうそうない。今回も、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSAやジム・オルチン副社長の基調講演で、Windows VistaやOffice 12についてのデモが行なわれるたびに、聴衆から熱烈な拍手が繰り返された。 そもそもPDCというイベントは、Professional Developer Conferenceという名前からもわかるように、MicrosoftのOSや開発ツールを利用してソフトウェアの開発を行なうプログラマを対象にしたイベントで、テクニカルセッションでは、プログラムの方法などを具体的に説明するといった、割と実践的なものとなっている。だから、参加しているのは、言ってみれば“Microsoftシンパ”のプログラマであり、Visual C++などを利用してバリバリとソフトウェアを書いているような人々だ。 そうしたプログラマの人などと話していて、筆者が感じたのはとにかくWindows VistaとOffice 12に対する関心と期待が非常に高いということだ。例えば、たまたま会場へ向かうバスの中で隣に座ったプログラマの一人は「オルチン副社長が基調講演でも言っていたように、Windows Vista+Office 12の組み合わせは、Windows 95+Office 95の時の盛り上がりに匹敵するものになると思うんだ。だから、我々プログラマとしてもそれに乗り遅れたくない、というのはあるよね」と語ってくれた。 ●最初の24カ月のうちに4億7,500万台の出荷が予想されるとオルチン氏 Windows Vista+Office 12を待ち望んでいるのは、プログラマやソフトウェア業界だけではない。ハードウェア業界、具体的にはPCベンダも、Windows Vista+Office 12を首を長くして待ち望んでいる。その理由は、もちろんこれらが、新しいPCの購入動機となり、需要を掘り起こしてくれるという期待があるからだ。つまり、Windows 95+Office 95で巻き起こしたような、“Windowsバブルよ再び”を期待しているいるわけだ。 実際、Windows Vista+Office 12は、エンドユーザーにとって新しいPCを購入する動機になる可能性は高い。 例えば、ゲイツ会長は、自身の基調講演の中で“ユーザーインターフェイス”という言葉を実に22回も繰り返し使った。ゲイツ氏の基調講演では、フォントを変更するとライブでプレビューができたり、2D、3D、動画などを1つの画面で取り混ぜて利用できる新しいソフトウェアといったことがデモされたが、そうしたユーザーインターフェイスの改良により、エンドユーザーが簡単に、かつ直感的にはWindowsやOfficeを使うことができるという点に主眼が置かれていた。 このことは、エンドユーザーに対するアピールという意味で、非常に重要だ。というのも、ユーザーインターフェイスというのは、言ってみればOSの見た目だ。OSの内部がどれほど変わっていても、外側の見た目が同じであれば、ユーザーは同じものと考えてしまうだろう。
だが、仮に見た目が大きく変わっているのであれば、多くの一般的なユーザーにとってはOSの内部構造が革新的に変わる(例えば16bit OSから32bit OSになる)よりも、大きな変化だと感じてくれる可能性は高い。 Windows 95では、実際には16bitコードが残ったOSであったが、ユーザーインターフェイスが大きく変わったことで、一大ブームを巻き起こした、ということを覚えている読者も少なくないだろう。 オルチン氏は、基調講演の中で、「アナリストは、Windows VistaをインストールしたPCは最初の24カ月以内に4億7,500万台以上の出荷があり、さらに最低でも2億台のPCがWindows Vistaへのアップグレードが行なわれるだろうと予測している」と述べている。調査会社により具体的な数字は異なるが、2004年度の総出荷台数が1億8,000万台程度だと言われているので、業界としては現状を上回る台数のPC出荷がWindows Vistaにより見込めると考えているということができる。 ●従来と同じようにアップグレードキャンペーンが開始される見通しだが…… だが、Windows Vista+Office 12を待つということは、PC業界にとってはよいことばかりではない。なぜなら、Windows VistaやOffice 12がリリースされるのは、2006年の後半であり、あと1年以上あるからだ。 例えば、日本のPCベンダの場合、リリースまでに春モデル、夏モデル、秋モデルと3回の商戦期を、現在のWindows XP+Office 2003で乗り切っていく必要がある。もっとも怖いのは、エンドユーザーがWindows Vistaを待つことにより、買い控えが発生してしまうことだ。PC業界としては、なんとしてもそれを最小限に食い止める必要がある。 そうした事態を避ける意味で、MicrosoftはOEMベンダと共同で、“Longhorn Ready PC Program”(LonghornはWindows Vistaのコードネーム)の実施を、5月のWinHECで明らかにしている。これは、毎回OSのバージョンアップ時に行なわれているプログラムと同じもので、新しいOSが動く条件を満たしていると認められたPCに対して、新しいOSのライセンスを与えるというものだ。新OSのリリース直前になると、新OSへのバージョンアップを保証するPCが販売されるが、こういったプログラムに基づいて行なわれているものだ。 だが、実際にはこのようなプログラムも焼け石に水だという関係者は少なくない。OS以外でも、何かPCを購入してもらう動機を作らない限り、後1年は厳しい状況が続いてしまう、ということになる。 ●さまざまなマーケティングプログラムで、“あと1年”を乗り越えていくPC業界 こうした状況に、業界は実にさまざまな手を打っている。例えば、Microsoft自身は“2nd PCキャンペーン”というマーケティングプログラムを実施しており、ユーザーに2台目のPCを持つメリットを訴えている。 また、本連載でもたびたび取り上げている、East ForkことIntel Viiv Technology(IVT)もその1つだと言える。IVT自体は、Intelの製品を元にしたPCということになるが、別の側面としてユーザーに対して、リビングで使うPCという、新しいスタイルを訴求するというマーケティングプログラムの側面ももっている。仮にIVTが成功すれば、これまでPCが苦手としていたリビングにPCが入っていくこととなり、新しいマーケットチャンスを獲得できる可能性がある。 ただ、どれもインパクトの点では、Windows Vista+Office 12にかなわないのも事実。PCベンダの担当者にとっては頭の痛い状況だろう。このため、あと1年、PCベンダの担当者はまだ見ぬWindows Vistaに期待を抱きつつ、その影と格闘する、つらい日々を過ごすことになりそうだ。 □関連記事 (2005年9月16日) [Reported by 笠原一輝]
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