塩田紳二のPDAレポート

Bluetoothって便利?



 Bluetoothと聞くと、話題ばかりで、実物を見たこともないという方も少なくないと思う。PDAやノートPC、携帯電話に搭載されていることもあるが、接続する機器がないので使ったこともないという人も多いだろう。

 いろいろと言われてきたBluetoothだが、機材をそろえて使ってみると、これが意外に便利。それはワイヤレスであることに尽きる。携帯用音楽プレーヤーを使っていて、ヘッドフォンケーブルがこんがらがってイヤになったことはないだろうか? 携帯電話を使って通信するときにケーブルを忘れて困ったことはないだろうか? そんなイライラをBluetoothは解決してくれる。

 今回はこのBluetoothについてもう一度基本からレポートしてみよう。

●Bluetoothは誤解されている?

 Bluetoothとは何なのか? それは「ケーブルリプレースメント」である。つまり、有線のケーブルを無線化する技術であり、無線LANのようなネットワークシステムとは違うものだ。Bluetoothなどの近距離無線通信機能をひとまとめにしてPAN(Personal Area Network)と呼ぶことがあるが、これが誤解の原因である。PANというからLANという発想になってしまうのである。

 もう1つは、仕様が不十分で環境もない時期に製品が1回登場してしまったことに問題がある。「全然売れなかった」という話も聞くが、Windowsにしてみれば、SP2でようやく正式にMicrosoftがサポートした状態。いわば、初期のUSBと同じようなことが起こっていたのである。そんなときにBluetooth機器を出しても売れるはずがない。なにせ接続相手がいないのだから。

 Bluetoothの仕様は、1.1で確定したといってもいい。初期の1.0や1.0B、1.0B+CEといったものは、現在の1.1/1.2/2.0とは互換性がない。登場時に、このように規格が揺れたことも普及を妨げた原因だろう。

 新しいインターフェイスであるため、機器の組み合せによってはつながらないなどということがある。規格書の解釈にあいまいなことろがあるのか、あるいは認定が甘いのか、そのあたりは判然としないが、特にPCとの接続では、機種(というよりBluetoothスタックソフトウェア)とBluetooth機器の組み合せによっては、うまくいかないことがある。ある意味、未成熟なところがあるような感じだ。

 だが、実際に使ってみるとケーブルがないことはそれなりに便利でメリットがある。たとえば、ヘッドフォンをつないだ機器を机の上に置いたまま、うっかり立ち上がって歩き出してしまったことはないだろうか? ケーブルに引っ張られて、机から機器が落下なんてことはたまにある。しかし、無線で接続されているならその心配はない。

 また、同じような装置なのにコネクタの違いなどで何種類もケーブルやインターフェイスを購入したことはないだろうか? 筆者は、携帯電話の接続ケーブルをPDA用やPC用合わせていくつ買ったか覚えてないぐらいだ。同じように、筆者宅にはワイヤレスマウスのUSBドングルも似て非なるものがいくつも転がっている。

 無線であるBluetoothは、もうコネクタ形状やスロットの種類には無関係だ。少なくともPC側はBluetoothインターフェイス1つあれば、マウスもキーボードもヘッドセットもこれ1つで接続できる。

 特に便利さを感じるのは外出時である。取材だと、待合室のようなところや乗り物の中でノートPCを使わざるを得ないことがあるが、そのときにマウスやヘッドセットがワイヤレスだと何も気をつかわなくていい。また、ノートPCにBluetoothが内蔵されていると、USBコネクタからデバイスが飛び出すこともなく、心理的に安心感がある。

●Bluetooth理解のために

 ここで、ちょっとBluetoothについてわかりにくそうなポイントを中心に解説しておこう。

 まず、ハードウェア的なところだが、Bluetoothとは2.4GHz帯を使った通信技術であり、周波数ホッピング(FH)と呼ばれる通信方式を採る。これは、送信周波数を短い時間で次々と変えていくもの。こんなことすると面倒なだけと思えるが、定常的に出ている他の電波の影響が少なくなり、また、低電力でも通信が可能になるというメリットがある。こういう通信をスペクトラム拡散通信といい、携帯電話のCDMAなどもこの仲間である。

 無線LANや電子レンジと同じ周波数帯を使うため、これらが近くにあると通信が影響を受ける。ただし、Ver.1.2からは、AFH(Adaptive Frequency Hopping)という技術が使われており、混信する周波数を避けるように周波数が変化するようになっている。

 送信出力によりClass1~3まであり、一般的なのは、10m程度の有効距離を持ち送信出力が2.5mWのClass2。これに対して、Class1は、送信出力が100mWと大きく、有効距離は100m程度、逆にClass3は、送信出力が1mWと小さく、ごく狭い範囲にしか届かない。

 データ転送レートは、Bluetooth Ver.1.2までは、理論値で1Mbps、Ver.2.0+EDRという仕様で2~3Mbpsとなっている。ただし、プロトコルのオーバーヘッドなどがあるため、実際の転送レートは、Ver.1.0で700kbps程度である。

 Bluetooth Ver.2.0+EDRは、ごく最近、仕様が確定したため、ようやく出荷が開始されたところ。現在主に使われているのは、Ver.1.1か1.2である。

●Profile

 さて、Bluetoothで問題になるのはProfile(プロファイル)という用語だろう。これは何かというと、Bluetooth SIGによれば、「製品の製造業者が特定の使用状況に対して Bluetooth 無線技術を実装する方法を完全に定義したもの」である。簡単にいうと、Bluetoothで接続される両端の機器の仕様やその間の通信プロトコルなどを定義したもの。

 有線のケーブルで機器間を接続することを考えてみよう。この場合、ケーブル両端のコネクタが、接続可能な機器を既定している。また、個々の機器には、いろいろな規格で定義されている。たとえばモデムなら、RS-232C(現在の正式名称は、TIA-232F)や、制御用のATコマンドなどである。

 Bluetoothは無線なので、コネクタで接続機器を区別するというわけにもいかないし、無線特有の設定などが必要になる。それで、周辺機器などが提供する機能をサービスと呼び、それを提供、利用するために必要な機能や仕様をプロファイルという形で定義する。それゆえ、個々のプロファイルにはサービスが対応しており、たとえば、「ダイヤルアップモデム」というサービス(機能)を提供、利用するために「DUN:Dial Up Network」というプロファイルが作られている。

 ここで重要なのは、Bluetoothで規定するサービスを利用するためには、通信する両端の機器が同じプロファイルをサポートしていなければならないことだ。これは携帯電話だろうが、PCだろうがみな同じで、Bluetoothでは、対応しているプロファイル以外のサービスは、たとえ電波が到達したとしても利用することができないのである。

 さて、PCとモデムの間の通信を考えたとき、1つの通信ではあるが、パソコンが行なっていることとモデムが行なっていることは違っている。つまり、それぞれ役目が違うわけである。Bluetoothでは、通信する両端の機器の違いをRoleと呼ぶ。Roleには、この例のように違うものもあれば、両端が対等でまったく同じ(たとえば、シリアルケーブルでPC同士を接続した場合などは両者の役割に違いはない)こともあれば、お互いに立場を交換できるRoleもある。これはプロファイル内で定義される。

 ヘッドセットやマウス、キーボードといったBluetooth機器では、それぞれのプロファイルの1つのRoleしか実現しないが、PCなどでは両方のRoleを実現することがある。マイクとヘッドフォンからなる「ヘッドセット」のプロファイル(HSP:HeadSet Profile)では、片方が音源(AG:Audio Gateway)、片方が再生機器(HS:Headset)となる。携帯電話の場合なら携帯電話がAGであり、ヘッドセットがHSだ。

 しかし、PCは、ヘッドセットプロファイルの2つのRoleのどちらにもなることができる。AGになれば、ヘッドセットに音を出すことができるし、HSになれば、携帯電話の音声をスピーカーから出し、PC側のマイクから入力した音を携帯電話に送ることができる。

 現時点で確定しているプロファイルの一覧を表に示す。実際には、プロファイルには相互に依存関係がある。特に

・GAP(Generic Access Profile。基本的な通信などを実現するためのプロファイル)
・SDAP(サービス発見プロトコルアプリケーションプロファイル。Bluetooth機器がどのようなサービスを持っているのかを調べるための機能を定義したプロファイル)
・SPP(Serial Port Profile。Bluetoothによる通信を実現したもの。Bluetoothを使ってシリアルケーブルで接続された状態を実現するためのプロファイル)

は、基本的なプロファイルであり、Bluetooth機器は基本的にこれを実装している。

【表】プロファイル一覧
カテゴリプロファイル名略称解説主な対象機器
基本General Access ProfileGAPデバイスの発見や接続。
他のプロファイルの基本となるもの
-
Service Discover
Application Profile
SDAPサービス探索を使うアプリケーション用-
Serial Port ProfileSPPBluetooth上でのシリアルポート
接続エミュレーション
-
V1.1定義Headset ProfileHSP携帯電話用ヘッドセット
(モノラル/双方向)
ヘッドセット、携帯電話
Dial-up
Networking Profile
DUNダイヤルアップネットワーク接続
(モデムエミュレーション)
携帯電話、ワイヤレスモデム
FAX ProfileFAXFAX送受信携帯電話、ワイヤレスモデム
Object Push ProfileOPPオブジェクト転送PDA、携帯電話
File Transfer ProfileFTPファイル転送PDA、外部記憶装置
Syncronaization ProfileSYNCH機器間での情報同期PDA
Codeless
Telephone Profile
CTPコードレス電話機接続コードレス電話機
Intercom ProfileICP内線通話機能コードレス電話機
(LAN Access Profile)LAPLANとの接続LANアダプタ
AV
プロファイル
Advanced Audio
Distribution Profile
A2DPオーディオデータ転送ヘッドフォン(ステレオ)
Video Distribution ProfileVDPビデオデータ転送ビデオカメラ、デジタルカメラ
AV Remote Control ProfileAVRCPAV機器リモート制御リモートコントローラ、AV機器
その他Hands Free ProfileHFPハンズフリー接続携帯電話
SIM Access ProfileSAPSIMカード情報アクセス携帯電話
Basic Print ProfileBPP印刷機能(印刷機能を持たない
機器からのプリンタ出力)
携帯電話、PDA
Basic Imaging ProfileBIP静止画機能デジタルカメラ
Personal Area NetworkPANBluetoothによるネットワークPC、LANアクセスポイント
Human Interface
Device Profile
HIDHID機器キーボード、マウス
Common ISDN
Access Profile
CIPISDN機器への接続ISDNアダプタ
(CAPI。主にヨーロッパ向け)
Hardcopy Cable
Replacement Profile
HCRP印刷機能を持つ機器と
プリンタの接続(ケーブル代用)
プリンタ、プリンタ用
Bluetoothアダプタ

【図1】Bluetoothのスタックとハードウェア。Host Controler Interfaceの部分がちょうどUSBやPCMCIAのようなホスト側とのインターフェイス部分になる。緑の部分がプロファイル、青がプロトコル。黄色がハードウェア(ファームウェアを含む)である

 これらのプロファイルとBluetoothシステムとの関係は図1のようになっている。ここでHCI(Host Controler Interface)の部分には、USBやPCMCIAなどのPC本体と接続部分になり、この下がいわゆるBluetoothのハードウェア、この上がソフトウェアである。図1では、グリーンでプロファイルを、青でプロトコルを示してある。これでわかるようにGAPやSDAP、SPPおよびGOE(Generic Object Exchange profile)といったプロファイルは他のプロファイルの下にあり、これらのプロファイルを実現するために必要なものになっている。



●音声を扱うプロファイル

 Bluetoothの提案メンバーには携帯電話会社が入っており、ワイヤレスのヘッドセットは重要なアプリケーションであった。そのためBluetoothでは、エンコードしたデジタル音声データをハードウェアで直接転送するようになっている。このための転送方式をSCO(Synchronous Connection Oriented links)という。これは、リアルタイム性の高い音声データを転送するためのもの。一定間隔でデータを送信するようになっている。

 機器の制御などは、SCOではなくACL(Asynchronous Connection-Less)と呼ばれるリンクが使われる。

 ヘッドセットやハンズフリープロファイル(HFP)では、制御は、HS(またはHFU:Hands Free Unit)へSPPを介してATコマンドを送ることで実現されている。ワイヤレスなので見えないが、AG側(携帯電話など)とHS/HFUは、音声用のケーブルと制御用のシリアルケーブルで接続されていると考えると理解しやすいかもしれない。

 HFPは、HSPを強化したもので、HFU側からのダイヤル指示やAG側から発信元電話番号を受け取って表示するなどの機能が強化されている。これに対してHSPは、単純にイヤフォンマイクを無線化したもの。

 ステレオ音声を扱うA2DPなどはまとめてAVプロファイルと呼ばれることがある。こちらは、SCOを使わずにACL上でデータを転送する(AVDTP:AV Disribution Transport Protocolを使う)。というのは、SCOは、転送データレートの上限が定められており、高品質音声データの転送ができないからである。また、最大1Mbpsでは、高品質のステレオデータの転送にはデータレートが不足するためデータ圧縮が使われる。このほか、AV機器の制御を行なうためにAVRC(AV Remote Control profile)も用意されている。このA2DPに対応した機器は最近ようやく製品が登場したところ。そのため対応しているWindows用のBluetoothスタックは少ない。

●ペアリング

 Bluetoothを使うときに必ず必要になるのがペアリングと呼ばれる動作である(古い機器ではボンディング:Bondingと呼ぶこともある)。これは、相互に相手のアドレス(Bluetoothでは個々の機器は、すべて32bitのBluetoothアドレスを持っている。EthernetとMACアドレスと同じ)を登録し、以後の接続を許可するためのもの。無線なので、電波が届けば、どのBluetooth機器とも通信は可能だが、勝手に接続されてしまうと問題がある。それで、ペアリングを行ない、相手を登録し、接続は、登録した相手のみと行なうことにする。

 ペアリング時には、Bluetooth機器双方で同じパスキーを設定して行なう。PCなどでは、文字や数字入力が可能だが、ヘッドセットなどでは数字を入力することもできない。このような場合には、機器に予めパスキーが設定されており、これをPC側などで入力する。たいていは000などの簡単な数字がファームウェアに組み込みになっているが、なかには、1つ1つ違ったパスキーを持つ製品もある。前回紹介した「SU-1B」なども個別のパスキーを持っている。

 また、PCなどでは、いくつもの接続先を記憶できるが、ヘッドセットやマウスなどではいくつもの接続先を覚えることはできない。最低でも1つは記憶できるが、それ以上可能かどうかは機器により違う。複数の相手と同時にペアリングできる機器は、同じ瞬間に接続しないのであれば、個々の機器と通信が可能だ。たとえば、ヘッドセットを外出先では携帯電話、自宅ではPCと接続させるなんてこともできる。ただし、このとき、携帯電話とPCの両方から電波がヘッドセットに届く状態だとうまく接続できないことがあるので、片方はBluetoothを止めておく必要がある。

 Bluetoothではセキュリティを高めるために暗号化した通信を可能にしているが、そのためには、事前にパスキーを使ったペアリングを行なっておく必要がある。ただ、簡易的には、お互いのMACアドレスを登録しておくだけで、パスキーなしで接続させることも可能。ただし、このときには、暗号化通信は行なわれない。マウスなどでは、接続性を高めるためにこうした仕様になっていることが多い。

 ペアリングのため、すべてのBluetooth機器は、ペアリングモードになることができる。このとき、自身からペアリングを要求できる機器とそうでない機器がある。不思議なことに、ペアリングのときにどちらの機器からペアリングを要求するかによってうまくいくときといかないときがあるようだ。

●Bluetoothのある生活

 筆者は、現在、デスクトップPC、ノートPC、PDAのそれぞれでBluetoothを使っている。かつては、国内でBluetooth機器は手に入りにくかったが、最近では、割と手に入りやすくなった。いくつかは海外取材の折りに入手したものだが、国内でもショップなどが直接輸入するなどして入手できるものが少なくない。

ロジクールの「Bluetooth Optical Mouse MX900」。コードレスマウスの充電台がBluetoothアダプタになっている。専用ソフトウェアSetPointをVer.2.31にアップデートするとBluetoothスタック(WIDCOMM)がアップデートされ、Ver.3.0.1になる。このバージョンは、BIP(Basic Imaging Profile)がサポートされている

 デスクトップ周りでは、ロジクールのBluetoothマウス「MX900」を利用している。というのは、これに付属する充電スタンド兼Bluetoothユニットが、わりと幅広くプロファイルをサポートしているからだ。また、最近まで頻繁にBluetoothスタック(PC側のソフトウェア)がアップデートされていたからでもある。同じく入手が簡単なマウスにMicrosoftのものがあるが、こちらはBluetoothスタックにXPのSP2を使うため、Bluetoothスタック入手という点ではメリットがない。

 デスクトップでのおもな利用方法は、携帯電話やPDAとの同期やデータ転送、ヘッドセットを使っての音声通信などである。Bluetoothでは、10m程度の有効距離があるため、これらの機器は、同じ部屋にあれば通信可能な状態になる。これがケーブルだと、パソコンから1~2m以内にないと使えない。筆者は仕事柄多数のPDAを使うことがあるため、机の上にクレードルに載ったPDAが並んでいて、墓地のような状態になっていた。だが、Bluetoothを使えば、別の机の上に置いてあってもちゃんと同期できる。

 ヘッドセットもちょっと机のまわりで作業しながらなんて場合にも付けたままでいいからすごくラク。


 しかし、Bluetoothの便利さを実感するのは、やはりモバイルでの利用シーンだろう。いま、Bluetooth内蔵のノートPC(東芝「Dynabook SS/MX」とIBM「ThinkPad A31P」)とPocket PC(HP「rx3115」。これについてはいずれレポートする)を使っている。

 PDAでは、先ほどの同期以外では、折りたたみキーボード、携帯電話との接続で利用している。また、HPのBluetoothヘッドフォンを使ってMP3プレーヤーとしても利用している。

 ノートPCでは、モバイルマウス(Bluetakeの「BT500」)を使う。これは背面に電源スイッチを持つコンパクトなマウスだ。

BluetoothとIEEE 802.11b無線LANを内蔵したHPの「iPAQ rx3115」。国内で販売されている「rx3715」からカメラ機能などを省略したモデル。アップデートでWindows Media Player 10が入り、HPの「Bluetooth Stereo Headphone」と組み合わせてワイヤレスでステレオ再生が可能 Stowawayの折りたたみ式キーボード。グレーの部分が外側に開いてPDAなどを立てるスタンドになる。また、この部分は分離可能。Pocket PCやPalm、Simbian系携帯電話に対応。ちょっとした裏技がいるが、702NKでも使える
国内未発売のHPのBluetoothヘッドフォン。つるの部分が首の後ろにまわるネックバンドタイプ。ただし折りたたみはできない。iPaqシリーズ用のBluetoothスタックのアップデートCDが付属する。AVRC(AV Remote Control)プロファイルに対応しており、Windows Media Playerの制御がヘッドフォン側から可能 Bluetakeの「BT500」。背面に電源スイッチがあり、モバイル向き。横にあるのはSDのダミーカード。小さいのでカバンに入れてもかさばらず便利。製品パッケージには、マウス単体とBluetoothアダプタ付きの2種類ある

 これはカバンに入れっぱなしなので、自宅で使うときには、前述のLogicoolのMX900を使う。同じマウスでも複数の接続を設定しておけるし、いちいちインターフェイスを交換するなんて手間もいらない。自宅では、BluetoothワイヤレスキーボードとしてApple Wireless Keyboardを使っている。AppleキーがWindowsキーになるのはご愛敬という感じだが、ちゃんと使えるのはさすが。ただしNUM Lockキーがないので、テンキーはカーソルキーのままだ。

 ノートPCだとポートレプリケーターやドッキングステーションというオプションがある。一部機種では、ホットプラグが可能だが、ボタンを押すとか、取り外し時などにちょっとした作業がいる。しかし、Bluetooth内蔵ノートなら、ACアダプタだけつなげば、ネットワークは無線LAN、マウスやキーボードは、Bluetooth経由で接続できるため完全なホットプラグ/アンプラグが可能である。出かけるときも、ACアダプタだけ抜けばそれでおしまいである。

 Skypeを使うときや、録音したデータを聞くときには、Bluetoothヘッドセットを使う。いま外出先で使っているのはJabraの「BT200」(以前「買い物山脈」にて紹介)で、デスクトップでは、Plantronicsの「M1000」を使っている。音楽も聴けないわけではないがヘッドセットの音声転送レートは、64kbps程度なので、音質は「着うた」並である。とりあえず、SkypeやICレコーダで録音したスピーチを聴く程度ならこれでもなんとかなる。屋外で使うときにもヘッドフォンケーブルを気にしなくていいのはラクだ。

 携帯電話には、Bluetooth内蔵のボーダフォンの「702NK」(NOKIA 6630)を使っている。これは、前述の折りたたみ式キーボードも接続できるし、前回レポートしたSU-1Bも使える。以前は、普通のFOMAにハギワラシスコムの「F-access」を付けて使っていたのだが、使うときにいちいち取り付けなくてはならないので、ケーブルレスのBluetoothのメリットを感じられなかった。コネクタ部分が弱そうで付けっぱなしにできるようなものではなかったからである。

 それと702NKは、DUN以外にOPPやHSP/HFPに対応しているため、いろいろとBluetooth機器を接続して利用できる。すべての環境でBluetoothによるダイヤルアップ接続が可能になったので、PHSも解約、ついでにFOMAも解約した。

JabraのBluetoothヘッドセット「BT200」。この製品は、ハンズフリーとヘッドセット両方をサポートしている、比較的初期に出たBluetoothヘッドセット。ハンズフリーでペアリングするとリダイヤルなどがヘッドセット側から可能になる PlantoronicsのBluetoothヘッドセット「M1000」。形といい色つやといいなんだか南米あたりのカブトムシを思い出すデザイン。同社の製品は、現在ではM2500やM3500に切り替わっている。この手の機器にしては珍しく、個々にパスキーを持っている
ボーダフォンの「702NK」は、Symbianを搭載し、マルチタスク動作が可能。OPP(Object Push Profile)でファイルなどのやりとりが可能。また、ヘッドセットと接続すると、音量や着信音などを定義した「プロファイル」を自動的に切り替えることができる ハギワラシスコムのFOMA用Bluetoothアダプタ「F-access」。FOMAに接続することでDUN(Dial Up Network profile)などが利用できるようになる。ただしHSP/HFPには未対応。細いコネクタで接続するため、付けっぱなしにできないのが難点。なお、IMT-2000ではコネクタも規定しているので、FOMAの拡張コネクタはボーダフォンの3G対応機のものと同じ。制御方法に違いがあるのか、ボーダフォンの「V801SA」では使えなかった

 Bluetoothのいいところは、機器を接続するときにコネクタのような物理形状に依存しないことだ。同じキーボードを携帯電話にもノートPCにもPDAでも接続できる。だから、携帯電話やノートPCを交換したたとしても、Bluetoothがあれば、同じ機器を接続できるわけである。

Bluetoothを使ったステレオヘッドフォン「iPhone」。ヘッドセットプロファイルにも対応していて携帯電話に着信するとヘッドセットに切り替わる。A2DPに対応しているとのことだが、iPAQ rx3115とは接続できなかった

 最近ワイヤレスUSBが規格が確定したが、ワイヤレスUSBは、あくまでもUSBのケーブルリプレースメントであるため、必ずPCと周辺機器との接続になる。なので、非PC分野では使うのが難しいだろう。たとえば、ワイヤレスUSB機器は、同じものをPCにも携帯電話にも接続して使うといったことはならないと思われる。

 さらに、最近では、Bluetooth応用機器だが、PCやPDAも不要といったものがある。たとえば、BluetakeのBluetoothワイヤレスヘッドフォン「iPhone」などである。これはステレオの音声出力をBluetoothに変換し、ヘッドフォンへ伝送するもの。同時にヘッドセットとして携帯電話との接続にも利用できる。筆者は、ポータブルオーディオプレーヤーと組み合わせて外出中に音楽を聴くときに使うのだが、青いLEDが点滅するので、夜道ではちょっと不気味な感じである。


●問題も無いわけではない

 最初のほうで少し書いたが、Bluetoothを使っていると問題を感じることもある。現在提供されているBluetoothスタックには、WIDCOMM、ITV、東芝、ソニーのものなどがある。ところが、実際にいろいろなBluetooth機器との組合せを行なってみると、必ずしもすべて接続できるとは限らない。しかも、Bluetoothスタックなのか、Bluetooth機器のどちらに原因があるかはっきりしない。やはりなんらかのリファレンス環境は必要だろう。

 もう1つは、PC用のBluetoothスタック自体がまだ発展途上にあり、USBのBluetoothアダプタやBluetooth内蔵PCなどでは、サポートされているプロファイルにバラツキがあること。ライセンス契約の関係もあって、Bluetoothスタックのバージョンアップがあっても、それをユーザーに提供するかどうかはOEMメーカー次第。筆者のThinkPpad A31PもIBMが提供するBluetoothスタック(WIDCOMMのOEM)は古いままでいまだにマウスなどが使えないまま。逆にLogicoolのMX900は、バージョンアップで新しいプロファイルに対応できている。

 そんな状況の中で、Windows環境でメジャーだったBluetoothスタックの開発元であるWIDCOMM社が、Bluetoothチップも製造する半導体メーカーBroadcommに買収され、同社製チップ専用のBluetoothスタックとなってしまった。

 一部メーカーは、他社のBluetoothスタックに切り替えているが、すでに出荷した製品まで切り替えるところは少なく、新しいBluetoothスタックが欲しければハードウェアごとを買い換える必要がでてきた。もっとも、USBのBluetoothアダプタなら数千円程度なのでそれほど懐も痛まないが、ノートPCなどではちょっと問題がありそう。すでに販売した製品に対してまでライセンス料を払ってBluetoothスタックをアップデートするとは考えにくい。

 さらに、現在は、Microsoftを含めて各社が独自にBluetoothスタックを実装しているために、上位層とのインターフェイスが統一されていない。なので、アプリケーション側は、特定のBluetoothスタックをターゲットにして実装するしかない。それでBluetooth対応のアプリケーションがほとんど作れない状態にある。作れるのはWindowsで仮想COMポートによるエミュレーションが行なわれるプロファイルぐらい。これにはSPPやFAXプロファイルなどがあるが、対応できるのは、シリアルポートを使うアプリケーションぐらいであって、あまり使い道がないのが実際のところ。

 Microsoftによれば、Bluetoothへの完全な対応はLonghornで行なわれるとのことなので、こうした状況は少なくとも2006年末ぐらいまで続くと思われる。もっとも、Longhornが出てしまうと、サードパーティのBluetoothスタックは存在する余地がなくなってしまう。

 非Widnows環境向けBluetoothスタックか、せいぜいあり得るのはLonghornで提供されるBluetoothスタックの中に組み込まれる特定のプロファイル用ドライバを開発するぐらいしかなくなってしまう。そうなると、逆にBluetoothスタックメーカーとしてはなんとか生き残りの道を探すしかない。BroadcommによるWIDCOMM買収の裏にはこういう状況があったと推察される。

 ようやくBluetooth製品がいくつか登場しており、普及の兆しは見えるが、PCでのBluetoothが本格的に利用可能になるのは、Longhorn以降。ここにきて、PCへのBluetooth搭載を断念するような話もあるが、Windowsがちゃんと対応してないのだから、Bluetooth搭載にメリットが感じられなくて当然である。

 このままだと、Longhornが登場してもBluetoothを搭載するメーカーが残っているかどうか。USBアダプタという道は残っているが、せっかくのケーブルリプレースメント技術なのに、片側とはいえUSBコネクタにアダプタをさすのはなにか違和感を感じる。Bluetoothがネガティブスパイラルに落ち込むのか、それともポジティブへ転ずるかは、Longhornにかかっているといっても過言ではないだろう。

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(2005年6月7日)

[Text by 塩田紳二]


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