●Longhornはいつ出荷されるのか 4月に開かれたWinHECでMicrosoftが発した最大のメッセージは、2006年のクリスマスシーズンに必ずLonghornを間に合わせる、というものだったと筆者は確信している。プレス関係者向けのセッションに登場したグループバイスプレジデントのJim Allchin氏は、はっきりとLonghornにおける優先順位(プライオリティ)が品質、スケジュールの順であると述べた。すなわち、スケジュールを守るために品質を犠牲にすることはしないが、スケジュールを守るために機能(フィーチャー)を犠牲にすることはあり得る、という宣言である。 Windows 95がDirectXの完成を待たず見切り発車し、後に追加したように、Longhornも機能の受け皿だけ用意しておいて、機能そのものは後からService Pack等で追加する、ということがありそうだ。すでにWinFSが最初のリリースに間に合わないことが明らかになっているが、NGSCB(Next-Generation Secure Computing Base)も最初は部分的な実装になるのではないか、という気がしている。 今回のWinHECで、TPM 1.2を用いたSecure Startup(OSの機能としてTPMをサポートし、ハードディスクを丸ごと暗号化しておくことで、データの安全性を保証するもの)が、NGSCBの一角をなすものとして紹介されながら、NGSCBの全体像に関しては驚くほど語られなかったのも、それを示唆しているように思えてならない。 ●今のPCは“Longhorn Ready”の条件を満たすのか それはともかく、Longhornは間違いなく出る。ひょっとして、2007年初頭にずれ込むことはあるかもしれないが、そのあたりで必ず出る。となると気になってくるのは、今使っているPCはLonghornに移行できるのか、これから買おうとしているPCはLonghornに移行できるのだろうか、ということだ。 最近筆者は、OSの移行、あるいはアップデートという行為に懐疑的になりつつあるが、それでも新しいOSが動かないハードより、動くハードを買っておきたいと思う。アップデートしなくても、インストールし直しすることは十分考えられるからだ。何より、今これから新しいハードを買うのに、Longhornに対応できない製品をわざわざ選ぶことはない。 これから発売になるPCであれば、ロゴプログラムは間違いなく1つの参考になるだろう。どれくらいのPCベンダが賛同するのかは不明だが、Microsoftは2006年からLonghorn Readyプログラムを開始する。同プログラムの目的は、Longhornを快適に利用できる能力を持ったPCであることを明確にすることにある。要するに Longhorn ReadyのロゴマークのついたPCなら、Longhornがリリースされた後、アップデートしても快適に利用できる、というわけだ。
しかし残念ながらこのLonghorn Readyのロゴが認められるハードウェアのスペックについては、公開されていない。おそらくまだ最終決定していないのだと思う。現状では漠然とした情報しか提供されていない。 ここで注意したいのは、Readyの条件はLonghornを快適に(Great performanceで)利用可能であることであり、Longhornが動作する最低条件を満たしていることではない、ということだ。Longhornを利用するのに、DirectX 9対応のグラフィックスカード、大量のメモリ、デュアルコアのプロセッサ、といったハードウェアは、あればあるに越したことはないものの、ないからといって動作しないわけではないのである(そもそもこれらを必須にしてしまうと、膨大なアップグレード市場が消えてしまう)。 となると、これから買おうとするハードウェアがLonghornに対応可能かどうかを判断することがますます難しくなる。Ready PCなら確実かもしれないが、オーバースペックかもしれない。また、これから購入するPCにはReadyロゴがあるにしても、すでに利用しているPCにロゴプログラムはない。ましてやパーツ(コンポーネント)単位となると、さらに難しくなってくる。そんな疑問に答えるため、ではないのかもしれないが、こうした疑問に答えてくれそうなツールがLonghornには添付される。Windows System Assessment Tool、略して「WinSAT」がそれだ。 ●Longhorn付属の評価ツール「WinSAT」 WinSATは、システムの構成、サポートする機能、その能力を評価するツール。今時珍しい? コマンドラインのツールで、何をどうやって評価するかは、すべてコマンドラインのオプションとして指定する必要がある。使い方はコマンドプロンプトから > winsat <assesment name> <assesment Parameters> <-xml ファイル名>と入力する。末尾の-xmlオプションは結果を指定したファイル名でxmlファイルに吐き出すためのスイッチで、基本的にすべての評価に共通するオプションである。 WinHECで配布された資料によると、現在assesment name(評価分野)として定められているのは、 ・dwm の5つだが、将来的には動画再生など、さらに増える予定らしい。この5つを簡単に説明しておくと、dwmはLonghornのユーザーインターフェイスである「Aero」と、そのテーマである「Aero-Glass」(Aero-Expressとも呼ぶらしい)との適合性をみるもの。資料を読む限り、将来的にはこのdwmアセスメントを使って、Aero-Glassを有効にした方が良いかどうかの判定も可能になるようだ。同じグラフィックス関連でもd3dアセスメントは、ゲーム向けの機能や性能を見るもの。基本的にはPixel Shader 2.0以降のサポートで、dwmとこのd3dの出力はfps(フレーム/秒)で行なわれる。 mem、disk、cpuの3つについては、その内容はズバリ名前から推測されるもの。memならキャッシュの有効/無効、バッファサイズの指定などができるし、diskは内周から外周までをリージョンに分け、それぞれのリージョンごとに転送速度を表示する。CPUなら利用モデルを暗号化とデータ圧縮のどちらかを選択する、といった具合だ。 本当は、ここに書ききれないほど、細かな指定を行なうパラメータがある(たとえば同時に開くウィンドウの数を指定したり、テストをシングルスレッドで行なうか、など)。特に機能の複雑なdwmやd3dについては、さまざまなコマンドラインオプションが用意されている。いちいち説明するより実行してみた方が、どんなアプリケーションなのか分かりやすいだろう、ということでWinHECで配布されたDVD-ROM(Longhornのイメージサイズは1GBを超えており、配布媒体はDVD-ROMであった)からPreview版Longhornをインストールしてみると、資料に書かれていたように、WinSAT.EXEが\windows\system32フォルダに用意されていた。 違っていたのは、Preview版に同梱されていたWinSAT.EXEは、配布された資料、WinHECでのセッションで紹介されたものより、明らかに古いバージョンのものだった、ということだ。配布資料等では、上述した5つのアセスメントが利用できるハズだったのだが、実際に配布されたバイナリがサポートするアセスメントはmemとdiskのみ。この2つ以外のアセスメントをオプションにつけても、未知のアセスメントとしてエラーになってしまう。 早速diskとmemを実行してみた。diskの実行パラメータは、シーケンシャルで(-seq)、読み出し(-read)のテストをシステムの1台目のドライブ(-n 0)に対して行なう、というもので、テスト結果は標準出力(コンソール)に、内周から外周まで8つのゾーンごとに出力される。もちろんオプションとしてランダム(-ran)や書き込み(-write)、2台目のドライブ(-n 1)を指定することもできるし、さらにオプションとして読み書きのサイズや発行するI/O命令の数を指定することも可能だ。 memはいたってシンプルで、何の引数もなく、単にwinsat memで実行することができる。“-xml”は、結果を標準出力だけでなくxmlファイルとしても出力せよというオプションで、このオプションはmemアセスメントだけでなく、他のアセスメントにも共通して指定することができる。ほかにもオプションとして、非キャッシュ領域を指定したり(-nc)、スレッドを強制的にシングルにしたり(デフォルトはコアあたり1スレッド)など多くが用意されている。出力したxmlファイルはExcelで開くことができる。
以上のようにWinSATは、Windows(Longhorn)のシステムに即した機能や性能を計測するツールとして、極めて有用なものになるポテンシャルを秘めている。ベンチマークテストへの応用も十分考えられるし、何せMicrosoft自身がリリースしたツールなのである。 WinSATの利用法は、ユーザーが自らのシステムの機能や性能評価に使うだけでなく、さまざまな移行の際の判断を助けるツールとしても考えられている。すでに見たようにWinSAT自身はコマンドラインのプログラムで、実はWindows XP上でも利用できる。したがって、WinSATをまずXP上で実行し、その結果でLonghornへの移行を行なうかどうかを決める、という使い方ができる。 また、Longhornをインストールすると、初回起動時にWinSATが自動的に実行され、その結果でシステムがユーザーに対し適切な設定をサジェストする、という利用法が考えられているようだ。古いビデオカードを利用しているシステムに対しては、Aero-GlassはOFFにした方がいいですよ、といった助言をしてくれるらしい(余計なお世話だと思うユーザーもいるだろうが)。さらに初回インストール時だけでなく、ビデオカードを交換した際にも、新しいビデオカードの追加を検出してWinSATを自動起動し、再評価と助言を行なう、ということも検討されている。
加えてWinSATは、PCベンダのWindowsロゴ取得用にも使われる可能性がある。LonghornではロゴプログラムはPremiumとStandardの2段階に変更される(Longhorn発表前のReadyロゴは1種類)。Premiumの取得には、WinSATの○○アセスメントのスコアがいくつ以上、といった条件がつく可能性もある。今後のベータ版等で、どのようにWinSATが進化していくのか、注目される(ポータビリティを損なわない範囲で、最低限のGUIは欲しいと思うのだが)。 □関連記事 (2005年5月23日) [Reported by 元麻布春男]
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