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本田雅一のE3レポート
SCEI 久夛良木健社長兼CEOインタビュー
~Cellが家庭にもたらすパワー

久夛良木健 社長兼CEO

5月17日~20日(現地時間)開催

会場:LA Center Studios



 ソニー・コンピュータ・エンタテインメント(SCEI)社長兼CEOの久夛良木健氏へのインタビュー。前編では主にPS3のコンセプトについて話していただいたが、後半は家庭内でどのような役割をPS3が担っていくのかを中心に伺っている。

 ネットワーク指向のプロセッサCellが、家庭の中に入る第一歩となるPS3。それらがネットワークでつながっていく時、どのようなエンタテインメント機能がユーザーに提供されるのか。巨大なコンピューティングパワーを必要とする問題解決に使われてきたスーパーコンピュータやグリッドコンピューティングのメソッド。それらをモチーフとするCellとCellコンピューティング、我々にどのような夢を見せてくれるのだろうか。


AV機器的なデザインセンスのPS3
PS3はAV機器として家庭内に自然に存在できる製品を意識したデザインや仕様になっているように見えます。

【久夛良木】それは当然ですよ。なぜならPlayStationはゲーム機ではないからです。今まで1度もPlayStationがゲーム機という発言はしたことがありません。最近はディスプレイが固定画素系へと変化し、フルHDをリアル解像度で出力できる家庭向けディスプレイも増えてくるでしょう。ならば、1080p出力を2系統持つというのも自然な流れです。

AVエンタテインメントといった切り口で見た時、PS3を中心としたCellコンピューティングは、どのような機能を提供してくれるのでしょう。

【久夛良木】家庭の中でスーパーコンピュータを手軽に利用できる世界が実現したらと想像してみましょう。Cellはそれを実現してくれます。PS3をはじめ、Cellを組み込む機器にはネットワークを通じたCellコンピューティングの基盤が仕込んであります。スーパーコンピュータを使えば、どんなことが可能でしょうか。

 たとえば我々は内部で“熟成”と呼んでいるんですが、ネットワーク上のストレージサーバでコンテンツを寝かしておくと、そのコンテンツをCellが利用されていない間に熟成させ、元の品質よりも良いものにする。たとえばSD(標準解像度)の映像を熟成させ、細かなディテールを復活させてHD映像へとアップコンバートするといったことも可能になります。コンテンツを収納するGigabit EthernetやRAIDを備えたネットワークストレージ“Cellストレージ”に収めます。いろいろな計画がありますが、Cellストレージは必ず提供するつもりです。



 このコメントは実に興味深い。

 ソニーは将来、Cellを内蔵したBDレコーダの発売を計画している。Cellに内蔵されたSPEは、60~70%ぐらいの負荷でフルHDのMPEG-2デコードが可能だ。おそらくH.264のフルHDでも、SPEのパワーは余るだろう。もちろん、音声のデコードなどにも利用でき、さらにいくつかのビデオフィルタやオーディオフィルタをCellで行なえるはずだ。

 Cellにはセキュアレイヤがあるため、ネットワーク経由でも安全にコンテンツを受け渡しできる。Cell内蔵BDレコーダとCellストレージがネットワークでつながっていれば、レコーダがCellストレージを外部ストレージのように使うこともできるだろう。もちろん、その逆も可能だ。

 録画データ、あるいはインターネットからダウンロードしたコンテンツをCellストレージやCell BDレコーダに蓄積しておき、それをCellのパワーで空き時間を徹底的に利用し、さらにはネットワーク経由でつながったCellをも使い、徹底的にデータ解析を行なうというわけだ。

 久夛良木氏はSDをHDにアップコンバートする例を上げているが、動画のアップコンバートは昨今、非常にその品質が高くなっており、本来の映像では見えてこないディテールを取り出せるようになっている。動画に含まれるテクスチャを時間軸方向にも展開して分析を行ない、本来のディテールを浮かび上がらせる。線形補完などでピクセルを水増しするのではなく、動いている映像の中から多次元的に情報を復活させるのである。

 同様の技術はIntelもデモしたことがあるが、実現にはメニーコアの並列演算が必要だとしていた。Cellを用いれば、それをリアルタイムで処理しながら再生したり、あるいは久夛良木氏の言う“熟成”というメソッドを使うことで、より深い分析でより多くのディテールを取り出すといったことができる。

 さらにPS3、Cellストレージ、Cell BDレコーダなどが協調しあえば、同じ時間でより多くのコンテンツを処理したり、あるいはより深い分析で画質をさらに高めることも可能になってくる。Cell組み込み製品が増えれば増えるほど、個々の機器の付加価値が高まるわけだ。

 上記は映像分析技術を応用する例だが、世の中にはさまざまな特定用途の分析、解析メソッドがある。それらをCellの上に実装して行なった時、ホームネットワークの中で何ができるのか。想像力を掻き立てられる。

【久夛良木】将来的にはCellを用いたCellホームサーバのようなものが家庭内に入り、CellホームサーバがCellストレージの中にあるコンテンツを自動メンテナンスするといったイメージになるでしょう。Cellのセキュリティ機能を使えば、DVDなどの著作権付き映像をリッピングしてストレージに置き、それを寝かして熟成させるときれいな映像になるといったこともできます。

デジタルコンテンツの時代が本格的にやってくれば、ホームネットワークの中はデジタルデータで埋め尽くされるようになります。たとえばデジタルカメラの写真などは、撮影数が多すぎて、とてもとても、自分で整理することができません。TV番組も音楽もそうでしょう。それらコンテンツのディレクトリを管理し、簡単に探し出す仕組みも、イメージ解析などで解決できるかもしれないですね。その上、分析結果、検索結果を効率よくビジュアライズしてユーザーにプレゼンテーションする部分も、PS3をフロントエンドにすれば3Dグラフィック機能を用いてわかりやすくナビゲートできそうです。

【久夛良木】安心してください。それは私自身が一番欲しいと思っている機能ですから、PS3を出したら早速、すぐに開発に取りかかるつもりですよ。動画、静止画、音声など、さまざまな情報を解析する技術は、世の中にあまり知られていない研究も含め、膨大な数のメソッドがあります。スーパーコンピュータの力があれば、それらを家庭内で応用できるのですから。

デジタルメディアのコントロールセンターとしてのPS3を考えてみると、SDカードスロットが標準で搭載されている点は興味深いと思います。これは(SCEIではなく)ソニー製品には見られない特徴ですが、これはプレミアムコンテンツのメディア配信といった部分でオープンな姿勢を示しているのでしょうか。

【久夛良木】確かにソニー製品と言えばメモリースティックとATRACで、それ以外の自社技術ではないものには興味を持たないイメージがあると思います。しかしSCEI、そしてPlayStationは、もっとオープンに世界の標準、世界中の技術者がもっとも良いと評価するものを積極的に使っていきます。ですからメモリースティックでもSDカードでも、どちらでも同じ。等価なものとして扱いますし、独自路線には走りません。

 またコーデックといった視点では、リアルタイムの高品質なトランスコードを軽々こなすパワーがCellにはありますから、ストレージ上にどのような形式で収められているかは、あまり重要ではなくなるでしょう。その時々に最適な技術を使えるようになります」

PS3のズバリの価格は話していただくのは難しいでしょうが、PS3の償却モデルはPS2と同様の形になるのでしょうか。たとえばPSPは多くの人が想像していたよりも安かったですが。

【久夛良木】PSPは安いと多くの方に評価していただきましたが、それでも24,900円です。内製化比率を高めていたり、さまざまな要素もあって無理のない範囲できちんとキャッシュフローができるコストモデルになっています。

 同様のことがPS3にも言えますが、PSPとPS3では圧倒的にPS3の方が販売台数が多くなるでしょう。しかし、前述したようにPS3にゲーム機という意識はありません。エンタテインメントのための、付加価値の高いコンピュータを売りたいというのが我々の目標でした。

 おそらく今回のPS3は、そのパワーが欲しいという人には20万円でも売れる付加価値があると思っています。欲しいという人は、値段を聞いて買うか買わないかを判断するといったことはしないと思います。もちろん、それでは多くの人に楽しんでもらえませんが、ゲーム機を基準に考えると値段は高めに思う人もいるかもしれません。しかし、PS3は圧倒的に欲しい製品になっています。車だってTVだってそうでしょう。欲しくて、欲しくてたまらない。作った自分たち自身も欲しい。そんな製品を作ったつもりです。



 若干補足すると、SCEはパートナーに対してPS3の価格は4万円を切ると話しているようだ。これまでPlayStationは、いずれも39,800円で販売がスタートしており、決して特別高価というわけではない。しかし、PSPが今後の値下げ計画を含まない“最終価格”だったように、PS3がその後も値下げをしない最終価格として、39,800円という線はあり得そうだ。いずれにせよ、PS3の価格は発売当初、投入直後のPlayStationとして常識的な範囲内に収まることは間違いない。

最後に家電へのCellの応用について、具体的な例をいくつか挙げていただけますか。

【久夛良木】これまでに例として挙げた画質やデジタルメディアの検索といった切り口以外にも、静止画を高速で分析し自動的に最適に補正して表示や印刷を行なったり。あとは家庭内にあるCellが増えれば、ユーザーが知らない間に目の前のTVの質が高まっているということもあるかもしれません。

 また、Cellストレージも重要です。単純にコンテンツを溜め込むだけならば普通のNASで良いのですが、それだけでは面白くないでしょう。映像や映像の音声を分析し、その中身を判別した上で意味付けを行なえるようにする。元々、メタ情報を持たないものに対して、自動的に意味づけを行なうには膨大なパワーが必要になりますが、Cellが問題解決のカギになるでしょう」

□E3Expoのホームページ(英文)
http://www.e3expo.com/
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(2005年5月21日)

[Text by 本田雅一]

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