多和田新也のニューアイテム診断室

512MBのビデオメモリを搭載した
「RADEON X800 XL 512MB」




 カナダ時間の5月4日、ATIはRADEON X800 XLのビデオメモリ512MB搭載版を発表した。コンシューマ分野では貴重な512MBのビデオメモリだが、実際にどの程度効果があるのだろうか。従来のRADEON X800 XLや、対抗製品等と比較してみたい。

●リファレンスボードには大きな変化が

 今回発表された「RADEON X800 XL 512MB」は、基本的には従来の256MB搭載版と同等のスペックになる。0.11μmプロセスで製造され、コアクロックは400MHz。ピクセルパイプラインは16本となる。

 メモリクロックも980MHzと従来モデルと同じであり、変更されたのはメモリ容量だけというわけだ。ということは、性能に差が出るとすれば、メモリ容量が増えてことでローカルのフレームバッファが増え、メインメモリとのアクセスが減ることによる影響ということになるだろう。

 しかしながら、そのリファレンスボードは従来のRADEON X800 XL 256MB版とは大きく異なる。RADEON X800 XL 512MBの外観を写真1~4に。さらに、256MB版との比較を写真5~6に示した。

【写真1】RADEON X800 XL 512MBのリファレンスボード 【写真2】リファレンスボードの裏面。メモリチップ上にもアルミの放熱板が貼られている。RAGE Theaterを搭載するのも特徴だ 【写真3】ブラケット部。DVI×2+Sビデオ入出力端子の構成。クーラーは厚みが薄いので1スロットで装着可能
【写真4】リファレンスカードの末端部。メモリチップ上にまで及ぶクーラーは256MBと比べて大型化された。また新たに外部電源端子を装備している 【写真5】512MB版(左)と256MB版(右)。大きなところでは、クーラー、ブラケット部の構成、外部電源端子の有無が異なる 【写真6】512MB版(下)と256MB版(上)。512MB版はメモリチップの数を増やすことでメモリ容量を上げていることが分かる

 主だった変更点を挙げていくと、

・クーラーの大型化
・出力がアナログRGB+DVIからDVI×2へ変更
・RAGE Theaterによるビデオ入力のサポート
・電源端子の追加

といったところだ。

 まずクーラーの大型化についてだが、256MBではメモリ上にヒートシンクを設置していなかったのに対し、512MB版ではメモリも冷却可能な大型のヒートシンクへ変更された。裏面のチップも簡単な放熱板で覆われている。

 また、ヒートシンク自体の素材が大型化による重量の問題もあってか銅からアルミへ変更されているほか、ファンが一回り小さなサイズへ変更されるなど、大幅に変更が加えられている点といえる。

 倍増されたメモリチップの配置は写真6から分かるように、256MBの隙間を縫うようにチップが配されている。つまりチップ自体の容量は増やさず、数を増やしたわけだ。それに伴う発熱の上昇のために、ヒートシンクを大型化したのだろう。

 チップ自体の型番は確認できなかったが、16個のチップが搭載されている点や、メモリクロックが同一である点を考えれば、従来の256MBのリファレンスボードと同じ、SamsungのGDDR3メモリ「K4J55323QF-GC20」と考えていいだろう。このチップは256Mbit(32MB)のチップで、16個を搭載して512MBとなっているわけだ。なお、Samsungでは512Mbit(64MB)のGDDR3チップも出荷しているが、今回は使われていないようである。

 出力周りでは、DVI×2への変更と、RAGE Theaterの搭載によるビデオ入出力のサポートが特徴となる。同社がフラッグシップと位置付ける製品にのみ採用してきたものであり、このあたりからは256MB版よりも上のセグメントを狙った製品であることを感じさせる。

 もう1つの大きな特徴が、外部電源端子の追加だ。しかも、付属のケーブルが、さらに特徴的なのだ(写真7~8)。RADEON X850/X800 XTなどで採用されているのは、ドライブ用のペリフェラル電源×2を利用し、12Vラインを2系統入力する仕組みになっていた。しかしながら、今回付属してきたケーブルは、入力コネクタ1つで12Vラインを1系統のみになっているのだ。

 ここで気になるのは、従来の12V×2のケーブルが使えるかどうかだ。この点をATIに確認すると、入力を制御する仕組みが盛り込まれているとのことで、問題なく利用できる。すでに、ビデオカード用コネクタを備えているATX 2.01/SFX 3.01以上に準拠した電源ユニットも多くなっているが、心配なく利用できるようだ。

 さらに変更された点は、電源コネクタを接続しない場合の動作だ。RADEON X800/X850 XTでは、コネクタを接続せずに電源を投入すると、ビデオBIOSの段階で警告を発し接続を促される仕組みだった(写真9)。また、GeForce 6800シリーズの場合は、とりあえずWindowsの起動などには問題ないが、ForceWareがコネクタ接続の有無を認識し、接続されていない場合はWindows起動時点で警告が発せられる。そして3D描画時でもクロックが上がらない仕組みだった。

 しかしながら、本製品では、こうした警告が一切発生しない。コネクタを接続しなくとも普通に起動するし、ドライバをインストールした後もとくに警告は発生しない。ただ、3D描画中に画面が一時的に消えるなどの現象が起こり、電力不足となっている動きは見せる。どの段階で警告を発するかはメーカーのポリシーにもよるだろうが、気が付かずに使用して表示が途切れるいうことも考えられるわけで、何らかの警告は必要ではないだろうか。

【写真7】512MB版に付属してきた電源ケーブル。ドライブ用端子はオス/メスが備わっており、ビデオカード用コネクタとの分岐ケーブルの形状になっている 【写真8】左が今回付属してきたケーブルで、右がGeForce 6800 GT搭載製品に付属してきた、RADEON X850 XTなどでも使われる従来型ケーブルのコネクタ部。黄色いラインが12Vとなるが、RADEON X800 XL 512MBに付属のケーブルは1系統のみ供給していることが分かる。余談だが、このコネクタのスペック上は、写真の向きでいうと上段3つを使って最大12V×3系統まで供給できる 【写真9】従来のRADEONシリーズの外部電源端子を備えるものは、コネクタを接続しないと電源投入直後に、こうした警告文が表示されて起動しない。しかし、RADEON X800 XL 512MBはコネクタを挿していなくても起動するので、3D描画を行なわない人には便利といえる仕様に変更された。ただ一度として警告を発しない点は再検討も必要ではないだろうか

●条件によってはパフォーマンスがアップ

 それでは、この512MBメモリの実力を見てみたい。テストに用意した環境は表のとおりだ。テスト条件はいつものとおり、1,024×768/1,280×1,024(Unreal Tournamentのみ1,280×960)/1,600×1,200ドットの解像度で、それぞれアンチエイリアシング(AA)や異方性フィルタ(Aniso)をまったく適用しない状態、4xAAのみ適用した状態、4xAAに8x異方性フィルタを適用した状態をテストする。

 さらに、もう一段階テクスチャ処理量を増やすために、6xAA+16xAnisoの条件も追加した。テクスチャ量が増えたときに256MBと512MBの差が発生しやすいと考えたからだ。ただし、この条件はGeForceでは適用できないため、RADEON各製品のみテストしている。

【表】テスト環境
GPU RADEON X800 XL(512MB)
RADEON X800 XL(256MB)
RADEON X850 XT PE(256MB)
GeForce 6800 GT(256MB)
ビデオドライバ CATALYST 5.4(6.14.0010.6525) ForceWare 71.89(6.14.0010.7189)
CPU Pentium 4 Extreme Edition 3.73GHz
マザーボード Intel D925XECV2(Intel 925XE)
メモリ PC4300 DDR2 SDRAM 512MB×2
HDD Seagate Barracuda 7200.7(ST3120026AS)
OS Windows XP Professional(Service Pack 2/DirectX 9.0c)

 それでは、順にテスト結果を見ていこう。まずは「3DMark05」である(グラフ1)。512MBと256MBの違いとしては、やや512MB版のほうが良いスコアとなる傾向にあるが、それほど大きな差ではない。明確なのは、1,280×1,024/1,600×1,200ドットの6xAA16xAnisoの条件の場合程度だ。

 ここで、以前に行なったこちらのテストとの結果の違いが大きい点が気になる。GeForce 6800 GTが高解像度/フィルタ適用時にパフォーマンスを大幅に上げ、RADEON X800 XL 256MBに逆転している。環境の違いがあるので、絶対性能の向上は当然だが、他のビデオカードとの性能差の逆転となると、ドライバの違いが影響しているのだろう。

【グラフ1】3DMark05 Build 1.2.0

 さて、話が逸れたが、RADEON X800 XL 512MBの検証に戻りたい。次のテストは「3DMark03」だ(グラフ2)。ここでも、やはり解像度の上昇や、AA/フィルタの適用により512MBの性能が引き出されているものの、低解像度の環境では同等である。

 GeForce 6800 GTとの性能差については、先に紹介した以前のテストと似た傾向で、低解像度でAA/フィルタの適用が弱い条件ではGeForce 6800 GTが強く、負荷が上がるにつれてRADEON X800 XLが良い性能を見せている。その意味では、RADEON X800 XLが高負荷に強いという性格が、512MB化によってさらに強まったという見方もできそうだ。

【グラフ2】3DMark03 Build 3.6.0

 次の「AquaMark3」(グラフ3)と「DOOM3」(グラフ4)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ5)は、256MB/512MBでほとんど変わらない傾向になっている。多少、512MBのほうがスコアの良い傾向はあるものの、解像度やフィルタによる影響がほとんど表れないばかりか、(誤差とも思える範囲内ながら)256MBのほうが良いスコアを出している結果も散見され、512MBの効果があるとは言い難い結果になっている。

【グラフ3】AquaMark3 【グラフ4】DOOM3
【グラフ5】FINAL FANTASY Official Benchmark 3

 最後に「Unreal Tournament 2003」(グラフ6~7)の結果だ。Flyby、Botmatchともに、高解像度・フィルタ適用時に512MBの効果が見られる傾向にある。

【グラフ6】Unreal Tournament 2003 - Flyby 【グラフ7】Unreal Tournament 2003 - Botmatch

●現状ではクオリティを求める人のみのプレミアム製品

 ここまで見てくると、解像度が高く、フィルタ適用を高くした、クオリティ重視の設定において、512MBの効果が表れる場合があるという結果になっている。逆にいえば、クオリティを上げない限りは、現状のアプリケーションにおいては従来の256MBでも十分ということだ。

 高解像度やAA/フィルタの適用により、ローカルフレームバッファの容量が活きて、RADEON X850 XT PEに迫れる場合もあるかと思ったが、その絶対的な性能差を埋めるほどではなく、やや中途半端な位置付けの製品という印象は強い。

 また、価格も問題だ。512MBのサンプル市場価格は449ドルとなっており、国内の自作市場では5万円を超えるの価格となるだろう。3万円台から購入できる256MB版との価格差は大きなものになる。

 現状では、高クオリティを求める限られた人のみにメリットのある製品といえる。

□関連記事
【2004年12月22日】【多和田】ATIのPCI Express向けハイエンドGPU第2弾「RADEON X850 XT PE/X800 XL」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1222/tawada40.htm

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(2005年5月13日)

[Text by 多和田新也]


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