第289回
新フォーマット“Metro”は、PDF対抗技術か



 「WinHEC 2005」の基調講演で発表され、AdobeシステムズのPDF対抗か、と囁かれているMicrosoftの新文書フォーマットMetro。XMLで構造化されたデータフォーマットで、画面表示と印刷結果を一致させることが容易な上、高速で柔軟性があり、さらに文書ファイルとしてのポータビリティもあるという。

 しかしMicrosoft関係者は一様に「誤解されやすいかもしれないが、MetroはPDF対抗のフォーマットではない」と話す。では、Metroとはどのようなフォーマットなのか。

●Avalon内部で扱う構造化されたデータオブジェクト=Metro?

 まずMetroに関する基本的な情報を整理しておこう。

 MetroはXMLで記述された文書フォーマットで、Avalonが動くOS上のブラウザで開くことで高速に表示、閲覧が可能なデータ形式だ。新しいグラフィックと印刷の仕組みであるAvalonは、当初Longhornだけに提供される予定だったが、現在はWindows XP、Windows Server 2003にも提供される事になっているため、既存のWindows XPマシンでもMetroを扱うことができる。

 高速な表示、閲覧できるのは当然で、MetroはAvalon内部で扱うビジュアルツリーなどの描画オブジェクト構造を基礎にXMLスキーマが定義されている。このため、MetroのXMLデータをそのままAvalonの描画クラスに引き渡せば、何のデータ変換や文書の分析を行なうことなく、そのまま画面上に表示できる。データ形式の変換が伴わないため、当然ながら描画がずれたり、意図しない結果になることもない。

 また基調講演ではLonghorn上で動作するInternet ExplorerでMetroファイルを表示し、それをXeroxのカラープリンタへと印刷するデモも行なわれた。プリンタ側にはMetroを直接解釈、ラスタライズして印刷するMetroインタープリタが搭載されており、間に異なるプリント言語を挟むことなく印刷できる。

 このインタープリタをMicrosoftと協力して開発したのは、実は米Xeroxではなく日本の富士ゼロックスだ。キヤノン、リコー、エプソンなど主要なプリンタベンダーには同時にMetroの仕様をオファーしたようだが、最初に動作できるインタープリタを実装したのが富士ゼロックスだという。

 富士ゼロックスの関係者によると、従来、特殊な属性を持つ描画オブジェクトが存在していると、ページ記述言語で正確に表現できない、あるいは正しく変換することが難しいなどの理由で異なる印刷結果となることもあったそうが、Metro対応とすることでAvalonの豊富な描画機能をフルに使っても正しい印刷を得られるようになるという。

●MetroはPDFの対抗フォーマットか

 ではMetroはPDFの対抗フォーマットなのだろうか。

 印刷結果と同一のデータをコンパクトにまとめたフォーマットという意味では、MetroのファイルはPDFに近いとも言える。またMac OS XにおけるQuartz(PDFベースに拡張されたグラフィック描画が行なわれる)とPDFの関係が、AvalonとMetroの関係に近いと感じる人もいるだろう。

 しかしPDFは文書セキュリティやフォーム入力、自動化スクリプトなどのソリューションを含むのに対して、Metroにはそうした機能はない。Metroは純粋に印刷に必要な情報と印刷イメージのライスタライズを行なう手順を記したXMLファイルである。その意味ではDisplay PostScriptとPostScriptの関係に近い。

 MicrosoftによるとMetroは昨年のWinHECでも、一部の構想について言及していたという。筆者はそのセッションに出ていなかったが「NG Spool File Format」として紹介されていたもの。NGはNext GenerationつまりAvalonでのプリントスプールファイルを示す。つまりMetroはAvalonにおける印刷用スプールファイルの仕様を公開し、プリンタメーカーにそれを直接印刷する機能を実装してもらうことで、画面表示との一致性が高い印刷結果を得る仕組みということになる。

MetroはAvalonでプログラミングされたアプリケーションの印刷スプール仕様を公開したもの。Avalon対応アプリケーションからは印刷される。また従来のWin32対応プリンタドライバにはフォーマット変換の仕組みが提供される 従来のWin32での印刷とAvalonでの印刷の関係。ここでNG Spool File Formatと書かれているのがMetro

 ただしプリンタに搭載するMetroインタープリタの開発は、プリンタベンダーに任されている(場合によってはインタープリタの実装によって結果が異なることもあるかもしれない)。ベンダーに公開されているのはMetroの仕様書のみであり、印刷装置側のインタープリタもAdobeが提供するPostScriptとはかなり位置づけが異なることがわかる。つまりMicrosoftはMetroをDTPワークフローの中で使うために提案したのではなく、あくまでもLonghornに実装する新しい印刷システムの中で生まれたものということだ。

 ただし単純にポータブルドキュメントとしてのみの切り口では、MetroはPDFと競合するかもしれない。Mac OS XユーザーがPDFをネイティブファイルとして高速かつ軽く扱えるのと同じように、Avalonが動作する環境のユーザーはPDFよりもMetroの方が高速かつ軽い文書フォーマットになるからだ。もちろん、フォーマット変換が不要ということを考えれば、Avalonベースで開発されたアプリケーションとの相性も良い。

●作られたPDF対Metroの構図

 上記のような事情を考えれば、結果的にどのように動くかは別として、MetroがPDF対抗を目指して作られたものではない事は明白だろう。そもそも、元からしてポータブルドキュメント化やePaperソリューション用の技術として開発されたものではない。AdobeがPostScriptをベースにPDFを作ったように、将来、Metroを拡張してPDF対抗のフォーマットとして提案する事はあるかもしれないが、現時点でこれらをライバルと評するのは時期尚早、あるいは恣意的すぎるだろう。

 先日、AdobeがMacromediaの買収を発表して以来、Microsoftの新しいライバル誕生と騒がしい。特に北米の報道では、Adobe対Microsoftをさまざまな切り口で煽っている。Metroに北米メディアが敏感に反応したのも、おそらくはそうした“Adobe対Microsoftキャンペーン”の一環だと見られる。

 ユーザー側の立場からは企業間の覇権争いといった切り口ではなく、アーキテクチャの変化で印刷の仕組みがどのように変化するかの方が興味深いだろう。

 画面との一致性に関しては述べたとおり。AvalonではMetro形式のデータをプリンタドライバに直接渡し、Metro対応プリンタはそれを直接解釈して印刷を行なう。通常のインクジェットプリンタのようなラスタープリンタには、別途ラスタライズを行なうモジュールが提供され、その上でラスタライズした後にミニポートドライバを通じて印刷が行なわれる。

 またMetro非対応のプリンタは、従来通りのWin32ドライバモデル対応ドライバを用いれば、Avalonの内部機能がMetroからWin32プリンタドライバモデルのスプールフォーマットに変換してくれる(その場合、画面との一致性は失われる)ため、従来ドライバもそのまま利用できるようになる。

 今はまだそれ以上の意味を持たせても、推測にしかならないだろう。

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WinHEC 2005レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/winhec.htm

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(2005年4月28日)

[Text by 本田雅一]


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