Microsoftは米シアトルで開催されているWinHEC 2005で、年内にもLonghornがβ2まで進む目標を立てている事を明らかにしたが、それに伴って実際のLonghorn搭載PCをユーザーにとって魅力的な製品にするための改善目標をいくつか立てている。その中でも、モバイルPC向けの改善はもっとも重要な改良点のひとつになる。 WinHECはハードウェア開発者向けイベントということもあり、どういったユーザーターゲットに対して、どのような機能やデザインで売り込むか、といった生々しいマーケティングプランも聞こえてくるが、その背景にはもちろんLonghorn自身の機能が控えている。 モバイルPCユーザーにとってのLonghornについて、WinHEC時点で明らかになっていることをまとめてみた。 ●MicrosoftがモバイルPC市場を重視する理由
LonghornがモバイルPC向けの機能改善を目指している理由はいくつかあるが、もっとも大きな理由はOEM先(つまりPCベンダー)のビジネスチャンスを拡大し、ユーザーのLonghornへのアップグレードを促すためだ。Microsoftはガートナーが今年3月に出した市場予測の値を引き合いに、モバイル市場の重要性について話した。 デスクトップPCの出荷台数は今後2008年までの間に平均4%成長すると予想されているのに対して、ノートPCは15%伸びるという(グラフは出荷数。製品単価の違いを考慮すれば金額ベースの市場規模でノートPCが大幅に増えるだろう)。しかしその一方で、企業向け、家庭向けともにデスクトップPCは7%、ノートPCは8%も平均単価が落ちるとの予測も出ている。 こうした動向に対して業界はどのような対応を施せばいいのか。Microsoftはいくつかの提案を行なっているが、そのうちのひとつが「Multiple PCs」というマーケティングプランだ。つまり家庭内にセカンドPCを置いてもらう、あるいは携帯用のモバイルPCをメインPCとは別に買ってもらうなどのためにどうするのか? ひとつの方向としてモバイル機能の強化を目指している。 別途IDCが出典元の資料では、今後ノートPCは小型機の需要が増加し、2004年は7%程度だった10~12.1型クラスのウルトラポータブル(日本で言うサブノートPC)が2008年までに31%にまで増加するという。また5~8型の液晶パネルを搭載する900g以下のウルトラモバイル(日本でのミニノートPC)も2008年には3%にまで増加する予測だ。これら小型機ユーザーの多くは、サイズの大きなノートPCやデスクトップPCと併用するため、ユーザーが利用するPCの数が増え市場が拡大する。 こうした予測をさらに加速させ、市場でのチャンスを広げるとともにLonghornへの移行を促進させようというのがMicrosoftの考え方のようだ。そうした予測が正しいかどうかはともかく、モバイルPCのユーザーからすればこうした動きは歓迎すべきことだろう。
PCで管理している情報を外出先で参照しようという場合、どのようなデバイスが便利だとユーザーは思うか? おそらく素早く必要な情報を取り出すという切り口で見ると、どのPCも合格点はもらえないだろう。 PCのリッドを開き、サスペンド、あるいはハイバネートからの復帰を待ち、アプリケーションを開いて情報を探す。もちろん、フル機能のPCは起動し、キーボードやポインティングデバイスが使いやすい状況にさえあれば、高機能なアプリケーションで自在に情報を取り出すことができる。しかし、ちょっと情報を参照しよう、少しだけ使いたいといった時にすぐに応答してくれるかというと、まだ不満は残る。
そこで計画しているのが、サスペンドもしくはハイバネートからの復帰を高速化する事だ。これはWindows 2000やWindows XPでも取り組まれ、ある程度は改善してきた点ではあるが、いくつかの改良を行なうことでさらに時間を詰めることができる。 サスペンドからの場合、復帰時間のターゲットはコンスタントに1~2秒を実現することだ。これはすでに近い性能をWindows XPでも実現しているが、さらにLonghornの新しいドライバモデルに対応することで高速化される。LDDM(Longhorn Device Driver Model)はサスペンドからの復帰時の処理シーケンスが見直され、応答の遅いデバイスがあっても制御がユーザーに素早く戻る。 ただしサスペンド状態は信頼性が低いという側面もある。さすがに最近のPCでは、サスペンドからの復帰に失敗するケースはほとんど見られないが、たとえばバッテリが切れたり、低確率で発生するメモリ化けが起こると、それまでの状態が失われてしまう。そこで状態保存をメモリとHDDの両方に行ない、復帰時にはメモリからの復帰を優先させ、失敗した場合にだけHDDへの保存データを利用するという手法で、サスペンドとハイバネートの両方のメリットを活用できるようになる。 このほかBIOSの改良やHDDの高速化、キャッシュにフラッシュメモリを用いるハイブリッドディスクなどの活用で、ハイバネートからの復帰で5~10秒、電源オンからのコールドブートでも10~15秒の高速ブートもサポートする。 もっとも、いくらこれらを高速化したところで現在のPCの延長線上にしかない。そこでMicrosoftが注目しているのが液晶パネル裏に取り付けるセカンダリディスプレイ(正確にはAuxiliary Display)を活用する方法だ。 ●ややズレている? モバイルPC向け機能
だがMicrosoftが提案しているモバイルPC向け機能強化の中には、首をかしげたくなる要素もいくつかある。そのひとつが上記のセカンダリディスプレイだ。 液晶パネル裏にセカンダリディスプレイを設けようというコンセプトは、Intelが最初に提唱し始めたものだった。確かにアイディアとしては面白い。しかし液晶裏にセカンダリディスプレイを取り付けるスペースを作らざるを得ず、またPDAライクな機能をPCシステムとは別に内蔵しておく必要もある。 Microsoftによると、セカンダリディスプレイで表示できる情報は、あらかじめフラッシュメモリなどに同期しておくのだそうだ。つまりPDAを内蔵させているようなもので、果たしてそこまでする必要があるのか? という疑問を感じずにはいられない。 コスト面でもPDAを1台おまけで付けるぐらいのコストアップにはなるという。サイズ面でも余裕のない小型ノートPCには搭載するデメリットもあり、セカンダリディスプレイを搭載する事のトレードオフが大きすぎると感じてしまうのだ。 ただMicrosoftはBluetoothを用い、携帯電話でPC内の情報を参照する技術も提案している。PCシステムとは別に情報参照用にPDAライクな機器を統合する手法に比べると、起動時間(セカンダリディスプレイならばPDAと同等のゼロ秒起動が可能)には難が出るかもしれないが、日本での現実解は携帯電話をリモートディスプレイとして利用する方法かもしれない。 またMicrosoftの提案は、自社が強力にコミットして普及を目指しているTablet PCに関連するものも多い。今回のWinHECでもTablet PC向けのポインティングデバイスや筐体構造の提案を行なったり、Tablet PC向けに無償提供するツールパッケージの紹介などに時間を割く場合が多く、現時点でユーザーの多い一般的なノートPCユーザー向けのメッセージが相対的に弱く見える面もあった。 むろん、長期的にTablet PC普及に取り組んでいるMicrosoftとしては当然のことなのかもしれないが、Longhornの離陸を成功させるには、もう少し現状ユーザーの足下に近い部分の提案も増やして欲しいところだ。
WinHECのモバイルPC向け技術トラックは数多く、そのすべてをカバーはできないが、最後にNV Diskについても触れておきたい。NV Disk、あるいはHybrid Hard DriveとMicrosoftが呼んでいるのは、不揮発性メモリ(フラッシュメモリ)を組み込んだHDDを用いることで、モバイルPCの使い勝手を向上させようというものだ。 Microsoftの調べによると、モバイル用途でPCを使っている間、HDDが消費している電力は全体の10~15%に達している。またHDDの消費電力を抑えようとすると、頻繁に停止させる必要があるため、ディスクアクセスがひとたび開始されると回転が安定するまでに2秒以上の時間がかかる。 またHDDはシークが頻繁に発生するような場合はパフォーマンスに影響が出る上、信頼性や衝撃に対する弱さといった問題も挙げられる。 そこでフラッシュメモリにデータを蓄積しておき、これらの問題の解決策としようとしているわけだ。1台あたりに搭載されるフラッシュメモリの量は最低64MBで、128MBが推奨になる。 Longhornではメモリ管理の手法を最適化し、HDDアクセスが可能な限り減るようにメモリを利用する仕組みが導入されているというが、書き込みデータに関してはカバーできない。そこで書き込みに関してはフラッシュメモリを利用し、シークやディスクスピンアップによる操作遅延を軽減する。 ユーザーが日常的な作業を行なう中で発生するデータ量は、短い時間で区切ってみるとおおむね64MB以下になるため、それ以上のフラッシュメモリがあれば操作性の改善につながる。またディスクへの反映を時間的にずらし、まとめて行なうようにすれば消費電力の軽減にもなる。 さらに起動やハイバネートからのレジューム速度を高速化する効果も、NV Diskのキャッシュにはある。起動時にBIOSがディスクの初期化を行なってから、実際にHDDが利用可能になるまでには2~5秒の時間がかかる。 LonghornではNV Diskのキャッシュに起動時に必要なデータを保存しておき、HDDが利用可能になるまでの間を活用して少しでも早く起動・レジュームするのが狙いだ。システム起動時には起動に必要なファイルを効率よく読むためのキャッシュデータをロードし、シークを減らして起動を高速化するアイディアもあるという。 話だけを聞けば期待できそうなNV Diskだが、問題はどこまでHDDベンダーがNV Diskの開発に協力的になってくれるかだろう。コスト面ではどうしても高くならざるを得ないため、すべてのHDDをNV Diskにするわけにもいかない。 MicrosoftはHDDにフラッシュメモリを内蔵させる以外にも、マザーボード上にフラッシュメモリを搭載して通常のHDDを透過的にNV Diskとして扱う方法や、マザーボード上にフラッシュメモリコントローラとフラッシュメモリを搭載し、キャッシュ専用ドライブとする手法なども提案しているが、いずれも基板への実装面積の面で不利になるため、小型のPCには採用しにくいだろう。 Microsoftが現時点でNV Diskの商品化について話し合っているのは、Samsung、日立グローバルストレージ、Seagateの3社。このうちフラッシュメモリ部門も抱えるSamsungとの作業がもっとも進んでいるようで、すでに商品化に向けての開発がスタートしているという。他2社に関しては、現時点で消費電力や起動高速化の評価を行なったり、スペックを決める上での相談をしている段階で、具体的な商品計画はないようだ。 □関連記事 (2005年4月29日) [Text by 本田雅一]
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