前回までで、KHR-1の基本的な機能の紹介は一通り終わったが、せっかくKHR-1を手に入れたのだから、1人で動かしたり、人に見せて自慢しているだけでは面白くない。そこで今回は番外編として、4月3日に大阪で開催されたKHR-1ベースのロボット競技練習会「ロボゴング」に挑戦してきたので、その様子をレポートしたい。 ●初心者でも気軽に参加できる競技練習会&交流会「ロボゴング」
KHR-1のようなホビーロボットは、あくまで趣味として楽しむことが目的であり、日常生活に特に役立つというわけではない。しかし、自分でロボットを組み立てて、モーションを作ってロボットに命を吹き込んでいく作業は、とても楽しい。その楽しみをさらに広げてくれるのが、ロボット競技会である。 二足歩行ロボットによる格闘大会は、人間の闘争本能を刺激するのか、見ているだけでも面白いが、自分のロボットで参加できればもっと楽しめるはずだ。二足歩行ロボットの格闘大会としてはROBO-ONEが有名だが、ROBO-ONEのレベルは高く、初心者が気軽に参加できるようなものではない。 エルエルパレスのロボットフォース事業部が主催する「ロボゴング」と「ロボファイト」は、参加対象ロボットをKHR-1ベースに限定していることが特徴で、その分、参加へのハードルが低くなっている。なお、次回から参加資格が変更され、KHR-1ベース以外のロボットの参加も可能になった。 特に、ロボゴングは、競技練習会&交流会という位置づけになっており、勝敗よりも参加者同士の交流を重視したイベントだ。筆者はロボットに関しては素人だが、なかなか面白そうだと思って、「ロボゴング大阪1」に参加してみることにした。 ロボゴング大阪1は4月3日に、大阪産業創造館の会議室で開催された。エルエルパレスでは、社内にロボットバトル用の常設フィールドを設置しており、ロボゴング参加者向けに開放している。東京在住の筆者は、前日に飛行機で家族と共に大阪入りしたので、エルエルパレスにお邪魔して、常設フィールドでスパーリングを少しさせてもらった。 筆者のロボット「fighting-α」は、基本的に今までの連載で紹介してきたものだが、前後方向のみジャイロセンサーを搭載している(ジャイロセンサーや新たに発売された加速度センサーについては、次回紹介予定)。ジャイロがどれくらい効いているのか不明なところもあるが、以前よりも多少倒れにくくなったようだ。 ロボット大会に参加するには、持って行く機材もかなり多くなる。今回筆者が持って行った機材は、 ・KHR-1本体 だ。KHR-1本体はフェレットなどの小動物を運ぶためのキャリーバックに入れて、ハンドキャリーで機内に持ち込むことにした。もちろん、工具類は機内に持ち込めないので、預ける荷物に入れておく。
参加者受付は10時からだが、少し余裕を持ってホテルを出たところ、9時半くらいに到着。すでに何人かの参加者が開場を待っていた。10時過ぎに受付が開始された。受付で名前を告げて、対戦表や首に掛ける名札、ステッカーセットなどを受け取る。参加ロボット1台に対して、机が1つずつ割り当てられ、参加者はそこで最終調整などを行なうことになる。 対戦フィールドとして、本戦フィールドが1つと予選フィールドが2つ用意されていたが、ロボゴング大阪1では、試合は全て中央の本戦フィールドを使って行なわれた。フィールドの大きさは180×180cmだが、周囲30cmずつが場外エリアとなっており、実際のフィールドサイズは120×120cmとなる。エントリー台数は16台だったのだが、1台棄権したので、15台で争われることになった。試合時間は5分で、5ダウン制である。
今回開催されたロボゴング大阪1は、KHR-1ベースのロボットの大会だが、改造規定を逸脱しない範囲で、自由にカスタマイズが可能だ。ほとんどノーマルという機体もあったが、中川電機さんの「MJS-6PZAQ-II」や、たなかせいじさんの「スコープドック」のように、見事な外装を装着している機体もあった。 また、ロボゴングでは、発射体に関するルールが規定されており、3発までの発射体(ミサイルのようなもの)を装備することが許されている。発射体は、発射直前に技名をコールしてから撃たなければならないが、相手ロボットに当てるだけで1ダウンをとることができる(最終ダウンは除く)。なかなか面白いルールだが、どうやって発射体を実現するかが工夫のしどころだ。 今回の参加者の中で、唯一発射体を装備していたのが、thinkmoverさんの「thinkmover2005」だ。thinkmover2005は、右肩にミサイルを1発装備しており、頭のサーボを利用して、ミサイルを打ち出すことができる。実際のバトルでは、なかなか相手ロボットにミサイルを当てることは難しいようだが、準決勝では見事に、相手のイカ・デ・スカラーにミサイルをヒットさせていた。thinkmoverさんは、ロボットの操縦にウェアラブルPCとヘッドマウントディスプレイを使っていたこともユニークだが、これについては別途紹介する。 なお、イカロスさんのイカ・デ・スカラーは、3月に開催された第4回ROBO-ONE J-classで3位となったロボットだが、ROBO-ONE J-classの参加規定を満たすために、電池を標準のニッカド電池から7.4Vのリチウムポリマーに変えたり、カーボンファイバー製の大型足裏パーツを搭載したりしている。そこで、今回のロボゴングでは、その分のペナルティとして1ダウンまたは2ダウン(決勝戦)が最初から与えられた。
KHR-1では、最大40種類のモーションを内部のフラッシュメモリにダウンロードでき、そのモーションを随時指定して実行していくことで、操縦する。もちろん、40種類全てのモーションを用意しておく必要はないが、20~30種類程度のモーションを用意している人が多かったようだ。 ちなみに、筆者は、移動系モーションが14種類(起きあがりモーション2種類含む)、攻撃系モーションが6種類、その他のモーション(挨拶など)が5種類で、合計25種類のモーションを用意していた。 ユーザーインターフェイスとして何を使うかも人によってさまざまであった。筆者は、基本的にキーボードショートカットだけで操作していたが、マウスとキーボードを併用する人やUSBジョイパッドを利用する人、自作コントローラを利用している人もいた。 また、発射体を実現していたthinkmoverさんは、ザイブナーのウェアラブルPC「Mobile Assistant V」を腰に装着し、目にはヘッドマウントディスプレイを装備するという、サイバーなスタイルで注目を集めていた。
ロボゴング大阪1は、午前中に1回戦8試合が行なわれ、昼食後、1回戦の敗者によるランブル(バトルロイヤル)、休憩を挟んで、準々決勝、準決勝、3位決定戦、決勝戦、1回戦勝者によるランブルというスケジュールで進行していった。なお、無線コントローラ利用時に混信しないようにするために、無線コントローラ利用者に対しては、最初にクリスタルの割当が行なわれた。 バトルのレフリーは、ロボフォース事業部の篠崎氏、解説は同じくロボフォース事業部代表の岩気氏がつとめた。ロボフォースがロボットイベントを主催するのは、今回が初めてだが、ジャッジメント、解説ともになかなか上手で、進行もスムーズであった。特に、岩気氏は、KHR-1でのバトルのノウハウが豊富であり(社内の常設フィールドで日夜取り組んでいるようだ)、ユーモアを交えた的確な解説で、観客をうまく盛り上げていた。 午前中の試合の結果については、下の写真と動画を見てほしい。筆者は第2試合に出場したのだが、残念ながらダウンポイント2-0で惨敗してしまった。相手のthinkmover2005は、ジャイロを搭載しており、安定性が非常に高かった。体重をかけて倒れ込んでも、なんなく持ちこたえられてしまったのはショックだった。 また、うまく背面をとったので、ここから攻撃を仕掛けようと思った瞬間、背後へ攻撃してくるなど、thinkmoverさんの操縦スキルも高く、まさに完敗であった。thinkmover2005は、ベスト4まで残ったので、まあ仕方のないところか。なお、下の動画では、thinkmover2005が肩のミサイルを発射するシーンも映っている(このときは外れてしまったが)。
お昼の休憩時には、ロボットフォースから参加者と事前登録した見学者に、おにぎりやカツサンド、たこ焼き、ペットボトルのお茶などが無料で振る舞われた。会場の産業創造館は、オフィス街に立地しているため、日曜日には周囲で昼食を取れる場所が少ないためだというが、実に嬉しい心配りだ。 休憩後、まず、チアガールロボットの近藤K子ちゃんによる応援デモンストレーションが行なわれた。モーションの作り方がうまく、見事なチアガールぶりであった。
次に、1回戦を敗退したロボット7体によるランブル(バトルロイヤル)が行なわれた。このランブルは、5分間終了後に、フィールドの中央に一番近い場所で自立しているロボットが勝ちというシンプルなルールだ。いわばロボット同士の押しくらまんじゅうみたいなもので、倒れたロボットは操縦者の手によって、場外エリアの境まで戻され、そこから再スタートとなる。シンプルだが、ロボット同士がぶつかりあう様子がなかなか面白く、観客からも歓声や笑い声が聞こえた。運の要素も大きい競技ではあるが、残り時間を見ながら、うまく位置取りを進めていったところ、幸運なことに筆者の勝利となった。
準々決勝以降の結果についても、下の写真と動画を見てほしい。途中でビデオカメラのバッテリが切れてしまい、肝心の準決勝以降が撮影できなかったのだが、結果だけ紹介すると、準決勝第1試合のthinkmover2005対イカ・デ・スカラーは、イカ・デ・スカラーの勝利。準決勝第2試合のGUARDIAN対ムカイガーは、GUARDIANの勝利。3位決定戦は、ムカイガーの勝利。決勝戦では、GURADIANが勝ち、イカ・デ・スカラーが2位となった。 優勝したGURADIANの製作者mabotanさんは、3月15日にKHR-1を購入したばかりだというが、エルエルパレスの常設フィールドでスパーリングを繰り返すなど、着実に準備を重ねてきたことが、優勝という成果に繋がったのであろう。 最後に、ビルの1Fにあるシアトルベストコーヒーのコーヒーが参加者や見学者に振る舞われ、和やかにイベントは終了した。
今回のロボゴング大阪1は、規模が小さめなこともあって、非常に和気あいあいとした雰囲気の中で進行していった。参加者、スタッフ、観客が一緒に作り上げていく、手作りのイベントという感じだったので、皆が楽しめたのではないだろうか。ロボゴングは、勝敗を重視するよりも、ユーザー同士の交流を深めるために開催されるイベントであるが、その目的は十分に達成できたといえるだろう。 なお、筆者は帰りの飛行機の時間もあって参加できなかったが、イベント終了後に親睦会も開催され、参加者同士の交流がさらに深まったようだ。 ROBO-ONEなどに比べると、まだまだレベル的には未熟であろうが、それでも観客は楽しんでいたようだ。筆者も参加する前は、KHR-1ベース同士だと、似たような動きばかりでつまらないのではないかと思っていたのだが、実際に戦いを見てみると、モーションに製作者の個性が現れており、なかなか楽しめた。 個人的に印象に残ったロボットは、中学2年生のトモキ君が製作した「SFR-1」だ。他の参加者の多くが、オプションのラージソールや拡張4自由度ユニット(足裏のサイズはラージソールと同等になる)を装着していたのだが、SFR-1はノーマルの足裏のままで、バランスが難しい駆け足歩行を実現していたのにびっくりした。ホームポジションの重心バランスが優れているのであろう。トモキ君は、モーションを作るセンスも素晴らしく、ランブル中に股割りや足を前後に開いて閉じることによる旋回など、ダイナミックなモーションを披露していたのには感心した。ラージソールを装着すれば、かなり強敵になりそうだ。 なお、5月8日は、日本橋でんでんタウンにあるインデペンデンスシアター2ndで、「ロボファイト大阪1」が開催される。こちらは、公開競技会という位置づけであり、ロボゴングよりもエンターテインメント性を高めたイベントとなる予定だ。KHR-1ベース以外のロボットの参加も認められたので、レベルも上がりそうだが、1回戦で惨敗してしまって悔しかったので、そのリベンジとして、ロボファイトにも参加してみるつもりだ。 □ツクモロボット王国のホームページ
(2005年4月7日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
|
|