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見えてきた次世代ゲームコンソールの姿




●収束するゲームコンソールのアーキテクチャ

 5年に1度の据え置き型ゲーム機、ゲームコンソールの世代交代の時期がやってきた。しかし、今回の次世代ゲームコンソールは、前回とちょっとパターンが異なる。アーキテクチャ的には“なんでもアリ”的な色彩が強かった現行世代と違い、今回は、各社のアーキテクチャがある程度揃ってくる。まるで、試行錯誤の時期が終わり、全員がゲームコンソールの最適なアーキテクチャを見いだして、そこへ向かって走り始めたように見える。

 今年末からリリースラッシュとなる据え置き型の次世代ゲームコンソールには次のようなポイントがある。

 (1)ゲームコンソールのアーキテクチャ上の親和性が高まる、(2)コンピュータ業界の標準が取り入れられる、(3)ハードウェアだけでなく、プラットフォームとしてソフトウェアとサービスの比重が高まる。

 現在想定される3社の次世代ゲームコンソールのハード面の概要を下に比較してみた。

 PS3
(SCE)
Xenon
(Microsoft)
Revolution
(任天堂)
CPUCell
3.xGHz?
Multi-core(9)
PowerPC
3.xGHz?
Multi-core(3)
PowerPC
?
?
GPUNVIDIA
DX9+α
ATI
DX9+α
ATI
?
メモリXDR DRAM
256MB
GDDR2/3?
256MB
?
?
ビデオメモリeDRAMeDRAMeDRAM?
ドライブBDDVD?

 チップを見ると3社ともがIBMアーキテクチャのカスタムCPUを採用し、3社ともグラフィックスはNVIDIAとATIというGPUベンダー2強の技術のGPUを採用する。

 現行世代のコンソールのメインCPUは、PS2が独自拡張のMIPS64コア(+VLIW型ベクタプロセッサコア)を載せたASIC「Emotion Engine(EE)」、XboxがスタンダードなPentium IIIほぼそのまま、GCがPowerPC 750ベースのカスタムCPU「Gekko」。命令セットもマイクロアーキテクチャも回路設計もカスタマイズ度合いも、見事なほど三者三様だ。

 それが次世代では、3社ともが、IBM製カスタムCPUへと足並みを揃えると見られる。少なくともメインCPUコアの命令セットはPower系になり、命令セットレベルではある程度互換性が強くなる。いずれもASICではなく高速ロジック回路設計になることで、動作周波数もPC CPUクラスに上がるだろう。

 CPUアーキテクチャも各社同期している。少なくともMicrosoftとSCEはマルチコア型アーキテクチャを採る。これは、PC&サーバー向けCPUのマルチコア化と軌を一にしている。アーキテクチャトレンドも、業界の流れに乗っている。

●PCグラフィックスベンダーへと流れる

 グラフィックスも同様だ。現行のグラフィックスは、PS2が独自開発の多パイプ+eDRAM(組み込みDRAM)のレンダリングチップ「Graphics Synthesizer(GS)」、XboxがNVIDIAのGeForce 3(NV20)を拡張したDirectX 8世代の「XGPU(NV2A)」、GCがATIに吸収されたArtXの開発したeDRAM混載メディアプロセッサ「Flipper」。3プラットフォームでアーキテクチャの方向性からして大きく異なった。

 それが次期ゲームコンソールでは、世代的には“DirectX 9+アルファ”のアーキテクチャで揃うと見られる。少なくとも、XenonとPS3については、このクラスのProgrammable ShaderのGPUを載せてくることがわかっている。Revolutionはまだわからないが、グラフィックスアーキテクチャのポイントは、おそらくシェーダプログラマビリティだろう。Revolutionのグラフィックスを担当する旧ArtXチームは、Nintendo 64のグラフィックスではプログラマブルアーキテクチャを設計した経験がある。

 ソフトウェア戦略も、大枠では似通ってくる。MicrosoftとSCEは、おそらく比較的リッチなOSとライブラリを準備し、ミドルウェア重視の姿勢を打ち出す。現行世代では、PS2がハードを直接叩かせるアプローチだったのに対して、XboxはWindows 2000サブセットカーネル+DirectXとお馴染みのソフト層を用意した。

 次世代のグラフィックス回りのAPIは、XenonがDirectXのD3Dでシェーディング言語がDirectXの「HLSL(High Level Shading Language)」、PS3がOpenGLの組み込み版APIであるOpenGL ESとNVIDIAのシェーディング言語「Cg」。いずれも業界標準のAPIと言語をベースにする。さらに、MicrosoftはPCの世界で同社が成功させたプログラミングフレームワークの手法を、「XNA」としてゲーム業界にも持ち込む。

 そして、その上でのサードパーティのミドルウェア&ゲームエンジンのリクルーティング。Microsoftはもともとミドルウェア&ゲームエンジンの利用が盛んなPCゲームの流れを継いでいるため、これらエンジンベンダーとの関係作りに熱心だった。しかし、昨秋あたりからはSCEがミドルウェア&ゲームエンジンベンダーと熱心に接触しているという話が聞こえてきている。ソフトウェア生産性を上げる、こうしたモデルをPS3上でも繁栄させていと考えているようだ。

●ゲームコンソールは依然としてテクノロジドライバ

 こうして見ると、次世代ゲームコンソールは、PC業界側から見ると、どこかで見たようなハードとソフト構造の組み合わせになるわけだ。また、冒頭で述べたように、次世代ゲームコンソールは現行世代と比べると、ゲームコンソール同士の類似性が高まる。

 前世代までは、ゲームコンソールはそれぞれ全く異なるアプローチでハードとソフトを作っていた。そのため、互いのアーキテクチャ親和性も少なかった。PS2やゲームキューブ(GC)のようにPCとはかけ離れていたり、逆にXboxのようにほぼPCアーキテクチャを踏襲したりとばらけていた。

 だが、今回は、汎用コンピューティングの世界にある程度近いものの、PCとは異なるアプローチへと揃って着地する。PS3はよりPCワールドにより近いアプローチになり、逆にXenonはWindows PCの世界からある程度離れる(CPUで言えばむしろMacintoshに近い)。まるで、これまで試行錯誤を繰り返していたのが、最適解を見いだして収束して来るようだ。そのため、以前のような、各社のハードやソフトのアーキテクチャのユニークさは薄らぎつつあるように見える。

 とはいえ、次世代でもゲームコンソールとPCの違いはまだまだ大きく、それぞれのゲームコンソールアーキテクチャのアプローチの違いもまだ大きい。

 ゲームコンソールとPCが異なるのは、PCがソフトウェア資産の継承という“呪縛”に縛られているのに対して、ゲームコンソールでは継承性は“必須ではない”点だ。特に、PCが既存アプリケーションソフトの性能を上げ続けなければならないのに対して、ゲームコンソールではその必要がないことは大きい。ゲームコンソールでは、互換性を維持する場合も、5年前の性能を保証すればいいだけなので、ハードルは低い。

 そのため、ゲームコンソールでは大胆なアーキテクチャを取れる。新ハードアーキテクチャに合わせて、ソフトウェア側も一新されるからだ。その結果、互換性に縛られたPCではなく、ゲームコンソールが半導体のテクノロジドライバになるという傾向は、ますます強まっている。それを象徴するのが、ヘテロジニアス(異種混載)型マルチコアを採用したPS3のCellプロセッサだ。

●抜きん出るCellの高パフォーマンス

 PC&サーバー向けのマルチコアCPUは、現在は同アーキテクチャのCPUコアを載せたシンメトリックなマルチコア形態を取っている。それに対して、Cellは、制御とデータ処理それぞれの用途に分化したシンプルCPUコアを9個載せるラディカルなヘテロジニアス型マルチコアを採用した。8個ものデータ処理プロセッサコアを並列に動作させることによって、4GHz時に256GFlopsと非常に高い浮動小数点演算性能を達成する。

 それに対してPC向けCPUでは、既存アプリケーションの性能を向上させるためにムダが多く肥大化したCPUコアになっているため、同程度の大きさのダイ(半導体本体)には2個程度のCPUコアしか載せられない。そのため、同じコストのCPUでは、Cell並の性能を達成することがどうしてもできない。PS2のEEの時は、高パフォーマンスではあっても、PC CPUが比較的短期間に追いつけるレベルだった。だが、Cellの場合は、性能差が大きいため、生パフォーマンスでPC CPUが追いつくのは難しそうだ(PC CPUもヘテロジニアスマルチコア型の構造を採用すれば追いつける)。

 GPUにも違いがある。PC&ワークステーション向けGPUはいずれも外付け高速DRAMをビデオメモリとして使う。それに対して、ゲームコンソール向は、基本的にはeDRAMと広帯域の外付けDRAMの組み合わせを採る。メインメモリはCPUとグラフィックスで共有する。

 eDRAMを使うのは、低コストに最先端グラフィックスに必要な高メモリ帯域を実現するためには、この方法しかないからだ。現行世代ではXboxだけはeDRAMを採用していないが、おそらく次世代では3社ともeDRAMへと揃うだろう。それは、メモリ帯域の必要がますます高まるからだ。

 ゲームコンソールとPCのもうひとつの決定的な違いはコスト構造だ。PCは同価格&コストで性能を伸ばして行く、それに対してゲームコンソールは同性能で価格とコストを引き下げて行く。最終的に100ドル台前半で売らなければならないゲームコンソールの場合、コストの締め付けは極めて厳しい。だが、逆に、半導体の微細化で将来的にコストを下げられるチップ類は、当初は高コストかつ高性能にできる。そのため、PCと比べると、コストが下げられるCPUやGPUの性能は高いが、コストが相対的に下げにくいメモリの容量やディスクドライブ数は限られるといったアンバランスが生じる。

 ゲームコンソール同士の違いも、厳然と存在する。現世代と比べると、基本的な部分では親和性が強まるものの、やはりアーキテクチャはかなり異なる。

 その理由は、ハードの進歩とソフトウェアの親和性のどちらを優先するか、その基本的な部分で考え方が2つに割れたからだ。簡単に言えば、ハードの進歩を優先したのがPS3で、ソフトウェアの親和性を優先したのがXenonだ。そのため、パフォーマンスはPS3の方が高くなるが、ソフトウェア開発はXenonの方が親しみやすくなると推定される。これに、さらにコストを最重視すると見られるRevolutionが加わると、三者三様の違いが浮き彫りになるだろう。

 また、ゲームコンソールの違いは、もはやハードの単純な比較では効かなくなりつつある。それは、ソフトウェアやサービスも含めたプラットフォームとしての違いの影響の方が大きくなりつつあるからだ。では3社のハードとソフトとサービスはどのように違うのだろう。

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(2005年4月6日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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