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次世代Xboxのためのゲーム開発プラットフォーム「XNA」




●次世代のXboxの土台となる開発プラットフォーム

Robbie Bach氏
 Microsoftが発表したのは次世代Xboxではなく、次世代プラットフォームのための開発プラットフォームだった。

 米サンノゼで開催されている「GDC(Game Developers Conference)」のキーノートスピーチで、Microsoftは今後のゲーム環境のための統合的な開発プラットフォーム「XNA」の構想を発表した。いかにもMicrosoft的なネーミングのこの新しいプラットフォームは、Microsoftのすべてのゲームプラットフォーム(Windows、Xbox、Windows Mobile関連機器)のために、ハードウェア依存のない開発環境を提供するものだ。

 つまり、Windows PCと次世代Xboxの間のハードウェアレベルの互換性が低くても、簡単に共通したタイトル開発ができるようにするものだ。また、XDAが提供された時点でXDAベースで、WindowsやXboxのタイトルを開発すれば、それは次世代プラットフォームへもシームレスにポートできるようになる。

 GDCに参加しているある開発者によるとXenon(ゼノン)のコードネームで知られる次世代Xboxは、現在αキットが提供されている段階だという。その内容は、さまざまな報道の通りで、現在のXboxとは異なり、Windows PCとはバイナリレベルの互換性が完全になくなる。XNAの第一の目的は、その世代のタイトル開発を支援することにあるのは間違いがない。

 MicrosoftがXNAで強調したのは、タイトル開発の負担の軽減。MicrosoftのRobbie Bach氏(Senior Vice President, Home and Entertainment Division)はゲームタイトルに対するさまざまな要求は高まる一方なのに、価格は49.50ドル以上にできないジレンマを指摘。高騰するゲーム開発費が、業界の大きな問題になっていると説明した。

 その上で、Bach氏は、実際には現在の開発努力の80%はConstruction、つまり、ゲームの土台部分の作成に費やされており、創造的な部分には20%しか投入されていないと語った。つまり、もっと省力化ができる無駄な部分への投資が、ゲーム開発を圧迫している。そして、この問題に対してMicrosoftが提示した解がXNAというわけだ。

増える期待に対して販売価格は一定のまま 高騰する開発費 開発努力の8割が土台部分に

●XNAでツールやインターフェイスを統合へ

J Allard氏
 XNA自体の説明は、スキンヘッドにヘアースタイルを変えたJ Allard氏(Corporate Vice President, Chief XNA Architect)が行なった。XNAはグラフィックス&オーディオのツールとインターフェイス、入力デバイスとインターフェイス、ネットワークの3要素で、クロスプラットフォームの統合を提供する。この夏にSDKが提供されるという。

 例えば、グラフィックス&オーディオツールでは、現在Xbox環境向けに提供されている解析ツールである「PIX」がWindowsでも利用できるようになり、Windows環境でDirectX9の一部として提供されている「HLSL(High Level Shading Language)」が、Xboxでも利用できるようになる。もっとも、次世代XboxがDirectX 9世代グラフィックスを搭載するので、これは当然の話ではある。

 入力関連では、Microsoftは全プラットフォームに共通のコントローラのリファレンスデザインを提供する。APIとボタン規格を統一することで、XboxとWindowsで共通のコントローラを使用できるようにする。

 ネットワークでは、Xbox LiveがXbox専用ではなく、Windowsにも公開される。Xbox Liveを軸に、XboxとWindowsのゲーム環境が融合するわけだ。Microsoftは段階的にXbox LiveのPCとの連動を進めているが、XNAでそれは新しいステップに上がることになる。

 また、キーノートスピーチではXNAプラットフォームの成果のデモも行なわれた。その内容はXNAのホームページでも公開されている。

XNAを発表するAllard氏 複数のプラットフォームを統合 XNAによって開発努力の8割を創造に

●明瞭になってきたMicrosoftの戦略

 というわけで、次世代Xbox戦略の第1歩であるXNAをMicrosoftは発表した。ゲーム開発者が集まるGDCという場は、XNA発表には適した場ではある。もっとも、MicrosoftがXNAをうまくアピールできたかというとそこには疑問が残る。

 例えば、XNAの売りである開発負担の軽減とプラットフォーム非依存性については、具体的な例が何も示されなかった。プラットフォーム依存をどうやって軽減して行くのかも、細かな説明は行なわれていない。本当なら、Windows PCと次世代Xboxを並べて、同じソースからの出力したコードを走らせて、クロスデバイスでタイトルが走ることを見せるべきだが、それも行なわれなかった。

 また、原則的にはハードウェアの抽象化が進むと、パフォーマンスは削がれる。その問題はどう見るのかもあまり言及されなかった。現状では、公開された情報がまだ概念的過ぎるため、開発者側も評価の下しようがない状況だろう。

 しかし、明確になった点も多い。特に、XNAが明瞭に示したのは、Microsoftの全体戦略の中に、Xboxをより深く組み込もうという姿勢だ。強力なAPIレイヤーの提供と、それによるソフトウェア開発負担の軽減というのは、Microsoftの成功の源泉。Microsoftの戦略を一貫する方向性だ。Microsoftは現行Xboxの時からそれを強調していたが、XNAでさらにその方向性が明瞭になった。

 もうひとつ明確になったのは、次世代ゲーム機をドライブする要素はソフトウェア/開発環境だとMicrosoftが考えていることだ。従来のゲーム機は、ハードウェアが注目されたが、ハードウェアの複雑化やネットワーク化のために、今後はOSや開発ツール、ネットワーク回りなど、ソフトウェア面が重要になる。そこがうまく作れないと、ハードウェアを活かすことができなくなる。Microsoftは、その点を認識していることをXbox Liveと今度のXNAで示した。

 ちなみに、DNAをもじったXNAという名前で思い出すのは、'97年にMicrosoftが発表した「Windows DNA(Distributed interNet Application)」。これは、ネットワーク対応アプリケーションを開発しやすくするために、分散処理が容易になる3層アーキテクチャを提示した。うがった見方をすると、ネットワーク分散化をやりやすくするための仕掛けも今後のXNAに含まれるという想像もできる。

●次世代Xboxのハードルは?

 しかし、Xboxの抱えるチャレンジは、実は違うところにある。最大の問題は、いくら開発しやすい環境を整えても、そのプラットフォームが普及しないと意味がないことだ。いくらソフトウェアを開発しやすくても、一定の開発費はかかる。売れるプラットフォームに対してなら、デベロッパーは開発に苦労しても投資をする。しかし、タイトルが売れる見込みがないプラットフォームに対しては、開発費が安くても投資ができない。ところが、ハードの普及には、魅力的なタイトルが必要だ。

 そのために、コミットメント(金銭的援助)を出してラウンチタイトル(ハードウェアと同時発売されるタイトル)を開発してもらうわけだが、その際に、開発者のやる気を引き出し、エンドユーザーの期待をあおるには仕掛けが必要になる。つまり、次世代ゲーム機の魅力を、強力にアピールする必要がある。SCEIと比べるとMicrosoftはこれがうまくない。

 前回のXboxでも、Xbox Liveでも、Microsoftはその点のアピールがうまくなかった。一般には、Microsoftのマーケティングフォースは強力だと思われているが、少なくともXboxについてはそうとは言えない。今後の課題は、次世代Xboxではその点を改善して、プラットフォームのラウンチ前にムードを盛り上げることができるかどうかにかかっている。


□XNAのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/xna/
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【3月23日】次期ゲーム機のカギを握るのはOSとネットワーク
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0323/kaigai076.htm

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(2004年3月25日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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