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見えてきたMicrosoftの次世代Xbox戦略(1)




J Allard氏

 次世代Xboxをにらんだプログラミングフレームワーク「XNA」を発表したMicrosoft。ゲーム開発の世界に、Microsoft得意のフレームワークを持ち込むことで、どんな次世代ゲーム開発を目指しているのか。Microsoft社内で、XboxプラットフォームとXNAを担当するJ Allard氏(Corporate Vice President, Chief XNA Architect)に、XNAとXboxの今後を伺った。


●ハードの能力を引き出すソフトウェアが必要

[Q] これまでゲーム機はハードウェアだけが注目されてきた。しかし、私は次世代ゲーム機では、ハードウェアではなく、ソフトウェアとネットワークが業界をドライブすると考えている。OS、開発フレームワーク、ネットワークバックエンドなどが重要になると想像している。XNAはまさにその方向を示すものだと理解している。

[Allard氏] あなたの分析は当を得ている。なぜなら、ゲーム機の技術は興味深い岐路にさしかかっているからだ。ハードウェアの機能を解放するために、高度なソフトウェアが必要なところに来ている。そのためには、開発ツールが非常に重要だ。

 我々のチームの作業には100人以上のクリエータが参加している。我々は、どうやって彼らの(開発)効率を上げるか、また、機能がどんどん向上しているハードウェアのテクノロジを、どうやって最大限に活かせるようにするのかを考えている。それは、ソフトウェアを通じて実現される。

 開発効率のアップは、非常に重要だ。それは、ゲーム開発のコストが高くなる一方だからだ。だから、デベロッパはパブリッシャーに自分のアイデアが素晴らしいと確信を持たせるために、できるだけ早く制作やプロトタイピングを進めなければならない。それにはソフトウェアの力が必要だ。

[Q] デベロッパにはXNAのメッセージは十分に伝わったと思うか。

[Allard氏] 興味深いのは、XNAを発表すると多くの人がうなづいて「そうだ、それは正しい、ソフトウェアは重要だ」と言ったことだ。デベロッパはXNAの価値を理解していると思う。だから、私は、報道陣の注目がどれくらい集まるかに関心がある。

 私は、XNAがWin32 API(Windowsの32bit API群)と同じように重要だとキーノートスピーチで語った。Microsoftの歴史で最も重要な日のひとつが、'92年にWin32を発表したときだったと思う。しかし、その時にはその場にジャーナリストはひとりもいなかった。本当の話だ(笑)。実際、我々は、その時のスライドを探そうとしたのだが、スライドはなかった。デベロッパしかいなかったから、必要がなかったからだ。当時は、我々はデベロッパと真の意味で対話をしていた。

 しかし、今はビジネスとしてのゲームに非常に注目が集まっていて、ジャーナリストやアナリストもGDCに大勢来る。彼らは「XNAはどうやって買えるのか?」とか「XNAはいつ出るのか」(笑)と、まるでXNAを製品の発表のように捉えた質問をする。我々は、彼らにも伝える必要がある。世界中にXNAの情報を伝えてもらうために。

[Q] XNAはプログラミングフレームワークだから、単一の製品ではないし、ユーザーからは見えるものではない(笑)。

[Allard氏] そうだ。もし我々がちゃんと仕事をすませれば、ゲーマーは誰もXNAを見ることはない。

 クルマに例えるとわかりやすいだろう。クルマを買ってもあなたはエンジンを見る必要はまるでない。見たい人もいるけど、私は見ない。自分の車のエンジンを見なければならないのは、なにかまずいことがあった時だ(笑)。

 今のゲームの世界は、クルマでいうエンジンの部分にフォーカスが当たりすぎていると思う。クルマだと、ドライブ体験やデザインに対してフォーカスが当たっているのに、(ゲームの世界では)その部分へのフォーカスが十分でない。

●XNAフレームワークはサードパーティが構築

[Q] XNAについてちょっと整理させて欲しい。次のような理解で正しいのだろうか。XNAは、Microsoftの新しいプログラミングフレームワークである。XNAでゲームタイトル開発を行なえば、開発効率がアップするほか、異なるプラットフォームに向けたタイトルでも簡単に開発ができる。例えば、Windowsと次世代Xboxにまたがるタイトルも開発できる。また、今、XNAでゲームタイトルの開発をスタートすれば、次世代のプラットフォームが登場した時にも、簡単に移行ができる。

[Allard氏] あなたは全ての答えをすでに言ってるじゃないか(笑)。全くその通りだ。それこそが、我々がフレームワークを構築する際のビジョンだ。Win32の時もそうだった。

 しかし、Win32とはちょっと違う点がある。重要なのは、Win32ではMicrosoftがコードを供給した。しかし、XNAフレームワークでは業界全体でコードを提供し、各ピースがXNAのフレームワークに適合するようにしたい。

 前のインタビューで、ドイツのレポータが「XNAはDNAのようなものかと」と質問した。そのとおり、わざとそう呼んでいる。なぜなら各ゲームはそれぞれ固有の遺伝的形質を持っていると思うからだ。XNAにより、あなたは、あなた自身の遺伝形質で、あなた自身の製品を構築できる。みんなが同じ遺伝形質を使うわけではない。様々なベンダーのコードを組み合わせることができる。あなたのゲームの遺伝子はカスタムメイドだ。

 そこが、Win32とは違う点だ。Win32はMicrosoftが基本のコードを提供し、サードパーティが拡張できる構造だが、XNAはサードパーティが構築し、定義するものと考えている。

[Q] それはMicrosoftの従来のやり方とは随分違う。実際、GDCでは、あなたは20社のXNAパートナーを発表した。XNAフレームワークの中には、パートナーのツールやミドルウエアはどのようにはめ込まれるのか。

[Allard氏] じつは、まだ答えは出ていない。Win32にとっての'92年のように、我々はまだ出発地点に立ったばかりだ。

 今回のGDCで我々が行なったのはこういうことだ。我々は問題点を指摘し、「この問題を解決するよう手伝う」と約束した。ここから、(業界との)ディスカッションが始まる。まず、我々は問題を整理して、どの問題が最も重要でどれが重要でないか、プライオリティをつける。次に、まずプライオリティがトップの問題から解決にかかる。

 仮に一番の問題が、ゲームエンジンにフィジックス(物理シミュレーション)エンジンを統合することだったとしよう。実際、誰もがそれについては不平を言っているわけだが。すると、我々は物理エンジンのデベロッパを全部集めて「みんなでフィジックスエンジンのAPIを定義しよう」と呼びかけるわけだ。各社はそれぞれ独自のインターフェイスをすでに持っているが、それを捨てる必要はない。標準としてXNAのフィジックスAPIも作りましょうと呼びかける。

 これがうまく行くと、様々なフィジックスエンジンが、同じAPIで利用できるようになる。ゲームエンジンに携わる人なら、同じAPIを通じて使えるフィジックスエンジンの利点はわかるだろう。どのフィジックスエンジンでも、自分のゲームエンジンにプラグインすればすぐ動く。すると、カスタムのフィジックスが簡単に実現できるわけだ。

●API定義の目的はフォーマットとプロトコル

[Q] APIを定義することで、アプリケーション産業を発展させるのは、Microsoftのお家芸だ。あなた自身、過去にはWinsockやInternet Server API (ISAPI)を作ってきた。それをXNAでも継承するわけか。

[Allard氏] 他にもある。2つ目は、(データ)フォーマットの定義だ。

 例えば、あるツールで作成したデータを、ゲームに落とし込む場合に、ひとつのフォーマットから別なフォーマットへ、さらにもうひとつ別なフォーマットへとデータを変換しなければならない場合があるとしよう。もし、これをひとつの標準フォーマットで通せるのなら、非常にパワフルになる。

 PCのアナロジーを使うと、HTML、XMLなどは非常にパワフルなフォーマットだ。それらのフォーマットの上で、サイト、コンテンツ、広告などを作っている人々は皆、同じ方法で考えることができる。同じことを実現して行きたい。

 3つめはプロトコルだ。例えばネットワークプロトコルを考えてみよう。私はXbox Liveで成したことに誇りを持っているが、まだ完璧ではない。別の企業が、例えば、素晴らしい課金ソリューションを提供できるかもしれない。彼らがその課金ソリューションをXbox Liveにフィットさせようと思ったら、どうしなければならないか。

 多分、我々は、課金システムにパケットを送ることができるインターフェイスを作らないとならないだろう。そうすれば、VISAのような他の会社が課金システムを作りビジネスすることができるようになる。プロトコルがあればデベロッパは選択ができるようになる。

 これらはWebの仕組みと同じだ。WebではHTMLフォーマットがあり、HTTPプロトコルがある。また、インターフェイス標準としてのAPIの集合体もあると思っている。つまり、フォーマット標準、ドキュメント標準、プロトコル標準、API標準がある。それをXNAでも実現して行く。さらに、XNAではビジネス標準でも合意できるかもしれない。

[Q] ビジネス標準とは何を指しているのか?

[Allard氏] これは非常にエキサイティングな考えなのだが、私はあまり方向性を与えすぎないよう注意している。業界が方向を決めて欲しいからだ。だから、これから話すことは、単なる例と考えて欲しい。

 まず、3年後のゲーム市場を想像して欲しい。XNAのおかげで、業界が(APIやフォーマット、プロトコルで)合意して、XNA互換ツールを得て、誰もが今より効率的に開発できるようになったとしよう。それでも「問題はいいアイデアはあるが金のない者が参入できないことだ」となるかもしれない。

 今のゲーム業界の問題は、作るのにカネがかかることだ。例えば、音楽業界なら、音楽アルバムの録音にはそんなに金はかからない。もちろん、パブリッシュは難しいが、作ること自体は難しくない。ところが、ゲーム業界では、ツールやゲームエンジンのライセンスビジネスはとても値が高い。これがハードルになっている。

 でも、もしXNA互換ツールがタダだったら? つまり、プリプロダクションの間、つまりプロジェクトに青信号がともるまでは、無料だったら? どうなるだろう。

[Q] 低コストにプロトタイプが作れるようになる...?

[Allard氏] そう。例えば、あなたと私が仕事を辞めて、2〜3カ月間ゲーム設計に取り組んで、プロトタイプを作って、それをActivisionやナムコやEAといったパブリッシャーに持ち込む。この段階では、金はまだ全然かけなくてすむ。

 それで、パブリッシャーが「すばらしい、このゲームを作ろう」と言って500万ドルの予算がついたとしよう。それで初めてツールの代金を払って本格的な開発に入るわけだ。こういうのは素晴らしいだろう?

 いったん、テクニカルスタンダードが確立してしまえば、このように、ビジネスでも同様に進歩できるかもしれない。もちろん、私が話したのは作り話で、そのようには行かないかもしれない。でも、こうした可能性を考えるとエキサイティングだ。実現できたら、業界に大きな変化をもたらすことができるかもしれない。

●XNAは10年越しの夢

[Q] ちょうどWebで多くの人がインターネットを利用して様々なアイデアを発表できるようになったのと同じように見える。

[Allard氏] そうだ。インターネットの偉大な点は、標準とシンプルなツールがあるおかげで、誰でも簡単に利用できたことだ。人はただインターネットに行って、自分を表現すればいい。ドットコム現象は、アイデアを現実にする非常にローコストな手段だった。

 PCの例ではなくゲームの例を話そう。ゲームでは似たような例は残念ながら少ないが、例外のひとつは「Myst」だ。Mystはゲーム業界を変えたが、Mystのマジックはハイパーカードにあった。

 知っての通り、ハイパーカードは大変簡単なプログラミングツールだ。そして、素晴らしいアイデアを持った2人の人間がMystとなるゲームのストーリーボードを描き、その世界の概観の最初の15分をハイパーカードで作ってみた。“クリック、クリック、クリック、クリック(笑)”、彼らは全然プログラミングなんかで悩まなかった。プログラムの書き方もよく知らない2人の男が、素晴らしいゲームを作れることをMystで実証して見せた。

[Q] XNAでも、同様にプリプロダクションなどを簡単に実現できるようにする?

[Allard氏] 簡単にアイデアを実現できる方法について、XNAでも色々考えている。(Microsoftのツールでは)Visual Basicもひとつの例だが、ではXNAでVisual Basicにあたるものは何になるだろう? Mystをもっと産み出すには、どうすればいいだろう? 真にクリエイティブだが、ほとんどコンピュータを知らない人々を、どうやって成功に導くことができるだろうか。

 Webはそれを達成した。今、Webではあるレベルのツールがあれば、あなたは簡単にWeb雑誌を創刊できる。出版は劇的に簡単になった。

 でも、ゲームを作り始めることは、まだ簡単ではない。私がXNAを考え始めてから、10年越しの夢として考えているのは、まさにそのことだ。XNAでWebのように簡単にゲームを作れるようにする。

 10年前からレコードを作るのは簡単だった。今は、ビデオカメラとPCがあれば映画を作るのは簡単だ。だから、10年後にはゲームを作るのを同様に簡単にする。コンピュータを知らなくても、誰でも簡単にゲームが作れるようにする。そうすれば、ベストアイデアが勝つようになる。それがこの業界のイノベーションをドライブするだろう。

 非常にエキサイティングだと思わないか? だから私は自分の仕事が好きだ。


□XNAのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/xna/
□関連記事
【3月25日】次世代Xboxのためのゲーム開発プラットフォーム「XNA」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0325/kaigai078.htm
【3月23日】次期ゲーム機のカギを握るのはOSとネットワーク
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0323/kaigai076.htm

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(2004年3月31日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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