■笠原一輝のユビキタス情報局■見えてきたDLNAの課題と今後
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AV機器とPCから構築されるホームAVネットワークの標準策定を行なっている業界団体「DLNA」(Digital Living Network Alliance)はInternational CES期間中に、会場近くのホテルにおいて加盟企業などによるAnnual Member Meeting(定例総会)を開催、現在同団体が置かれている状況について報告した。
定例総会に参加した関係者によれば、今後のDLNAの進捗状況などについても報告され、7月に新しいガイドライン「v1.1」の最終仕様の策定、9月にはガイドライン「v2」に向けたユーザーシナリオの決定といった、今後のロードマップも明らかになってきた。
DLNAの関係者によると今回の定時総会では、DLNAガイドライン対応機器間の互換性実現について、それなりの時間を割いた報告が行なわれたという。なぜなら、DLNAが現在直面している課題が、まさにその互換性の実現だからだ。
12月にシャープからリリースされた「CE-MR01」、1月にソニーがリリースした新ルームリンク「VGP-MR100」のいずれも、DLNAガイドライン v1に対応したDMA(Digital Media Adaptor)だが、どちらも現在の表現は“対応予定”という微妙なニュアンスになっている。だが、両社の関係者とも、すでにソフトウェア的にはDLNAガイドライン対応が可能であることを明言している。ならば、なぜ“対応予定”という微妙な表現になっているのだろうか?
シャープの「CEーMR01」 | ソニーの「VGP-MR100」 |
これは“DLNAガイドライン対応”を名乗るために必要な手続きが影響している。DLNAガイドライン対応(英語で言うとDesigned To DLNA Guidelines、“D2G”と短縮されて呼ばれることもある)を名乗るためには、DLNAが開催されるプラグフェスト(日本語にすると接続確認イベント)でほかのデバイスとの相互接続性に問題がないことが確認され、“Pre-Certification”を獲得する必要があるからだ。
シャープのCE-MR01も、ソニーのVGP-MR100も、まだプラグフェストでPre-Certificationを獲得していないため“対応予定”という微妙な表現にとどまっているのだ。余談になるが、次のプラグフェストは3月に東京で開催される予定になっており、前述の2製品もそこでPre-Certificationを獲得することになるだろう。
●今年の第3四半期にはロゴプログラムと正式Certificationを開始
DLNAが検討しているロゴの案。色などは最終案ではないが、こうしたロゴをDLNAの正式認証を取得した製品につけることを計画している |
ところで、このD2Gこと“DLNAガイドライン対応”を名乗るために取るのは“Pre-Certification”だが、なぜ“Pre”なのだろうか? “Pre”とは英語の接頭語で“以前”とか“正式前の”などの意味を持つ言葉で、日本語にしてみれば“正式になる前の認証”とでもなるだろうか。となれば、当然“正式な認証”が別にあると考えるのが当然だろう。
実は、この計画は存在している。DLNAの関係者によれば、現在DLNAのCLS(Certification and Logo Committee)では、DLNAの正規認証とロゴプログラムについて議論を進めており、この詳細が第1四半期中に決定する予定となっている。
正規認証とロゴプログラムでは、DLNAが規定したテスト方法に通ったDLNAガイドライン対応製品に対して認証を与え、その製品にはDLNAのロゴを表示することを認めるという計画だ。この正規認証とロゴプログラムは第3四半期に開始されることが予定されているという。
DLNAによる認証、そしてロゴ添付の認可という取り組みは、Wi-Fi Allianceが無線LANで取り組んできた取り組みに近いものだと言える。無線LANも当初は、相互接続性がかなり心配されていたが、最終的にはWi-Fi Allianceによる認証を受けた製品に「Wi-Fiロゴ」を添付することで互換性を保証し、不安を取り除いた。その取り組みをDLNAでも行なおうというものだ。
こうした取り組みに向けて、DLNA関連のソフトウェアに取り組むデジオンは、相互接続性を確認するラボを自社内に設立し、ハードウェアベンダに対して公開する方針を明らかにするなど、DLNA関連企業の相互接続性実現への取り組みは熱心に行なわれている。
●DLNAガイドラインが曖昧なのは弱点ではない
DLNAの年次総会でも、相互接続性検証の問題は一番最初に報告されたという。そうしたことからもわかるように、DLNAに参加している企業の最大関心事は、本当に相互接続性が実現できるのかという点にある。なぜなら、そもそもDLNAガイドラインが、規格(Standard)ではなくガイドライン(Guideline)になっているからだ。
DLNAでは、デバイスそのものの詳細な仕様まで規定していない。物理層にEthernetや無線LAN、プロトコルとしてTCP/IP、UPnP、UPnP AV、HTTPなどを利用すること、さらにはファイルフォーマットの形式を決めているだけで、細かな部分の規定はあまり決めていないのだ。ただ、このままだと、コンテンツ呼び出しの手順などで非互換性がでてしまい、問題があるので、奨励仕様、つまりガイドラインを提示しているに過ぎないのだ。
ガイドラインに留めていることに対して、“曖昧だ”という批判があるが、確かにその通りと言える。
例えば、DLNAではユーザーインターフェイスの仕様などは一切規定していない。だから、どのようなメニューを用意するかなどは、すべて機器ベンダ側の選択によっている。A社の機器にはものすごく深い階層のメニューがあるのに、B社にはそれがない、ということが容易に起こりうる。
だが、DLNAではこれらをある程度想定しつつ、わざと“曖昧”なガイドラインに留めている。なぜなら、それが“家電ベンダ”の要求だからだ。家電ベンダは、ユーザーインターフェイスや使い勝手という点で差別化したいと考えている。同じDVDプレーヤーであっても、ユーザーインターフェイスがソニーと松下電器で異なっているのはそういうことだ。その違いで、ユーザーに選択肢を提供したいと考えている。
DLNAでガチガチに規格化してしまい、差別化は価格だけで、ということになってしまったら、家電ベンダは引いてしまう。だからDLNAのガイドラインは“曖昧”なのだ。
そうした背景があるため、DLNAでは相互接続性について業界全体で取り組み、ロゴプログラムなどによって互換性を保証していく、という展開になっている。いくらメーカーの独自性を出すことが重要であったとしても、相互に接続できなければ、本末転倒だからだ。
●7月リリース予定のDLNAガイドライン v1.1では携帯端末のデバイスモデルを規定
DLNAがCES期間中に開催した技術セミナーにおける今後のDLNAガイドラインのロードマップ。DLNAガイドライン v1.1では主に新しいデバイスモデルの設定を議論していく |
DLNAの年次総会では、今後のDLNAのロードマップについても報告が行なわれた。現在DLNAのTechnical Committeeにおいて議論されているのは、昨年の6月にリリースされたDLNAガイドライン v1の進化版となる「v1.1」だ。
DLNA ガイドライン v1.1では、新たなデバイスモデルの定義が行なわれている。それが、DMC(Digital Media Controllers)、DMR(Digital Media Renderers)、DMPr(Digital Media Printer)の3つだ。
DLNAガイドライン v1では、デバイスモデルとしてDMS(Digital Media Server)とDMP(Digital Media Player)という2つのモデルが定義されている。DMSはUPnPのメディアサーバーが内蔵されているサーバー用のデバイスモデルで、DMPの方はメディアクライアントとコントロールポイントと呼ばれるユーザーが操作するソフトウェア(リモコンのソフトウェア版のようなものだと考えればよい)が内蔵されている、クライアント用のデバイスモデルだ。なお、DLNAの規定では、1つの機器の中にDMSとDMPが共存することが可能になっている。
DMCはコントロールポイントだけを独立させたデバイスモデルで、DMRはユーザーインターフェイスを持たない再生プレーヤーのデバイスモデルということになる。これにより、リモコンだけの機能を持つDLNAガイドライン対応デバイスや、DMCによりコントロールされ、再生だけを担当するDLNAガイドライン対応デバイスなどが可能になる。
例えば、台所にDMRに相当する防水のテレビを埋め込み、操作はDMCに相当するPocket PCで行なったり、携帯電話で行なったり、ということが現実になる。
DMPrはまだ詳細が明らかになっていないものの、プリンタのためのデバイスモデルだ。例えば、PCにつながっているプリンタを、居間あるDLNAガイドライン対応テレビから利用するなどの利用形態が考えられる。これを利用すれば、リビングで写真を見ている時に、気に入った1枚を書斎にあるPCに接続されたプリンタで印刷、といったことも、メーカーに依存せず行なえる可能性がある。
このほか、ポータブルプレーヤーへの対応も議論されている。現在のDLNAガイドラインでは、常にホームネットワークに接続している据え置き製品のみが対象となっているが、v1.1ではiPodのようなポータブルオーディオプレーヤーやPortable Media Centerのようなポータブルメディアプレーヤーといったポータブル機器に関しても、DLNAでガイドラインを用意し、異なるベンダ同士での相互接続を実現する。
具体的には、バーチャルサーバーのような形を定義し、家庭内にあるメディアサーバーのコンテンツをポータブルプレーヤーのサーバーに仮想的にコピーする。そして、ポータブルプレーヤーは、そこにDLNAのメディアサーバーがあるかのようにアクセスすることが可能になる。
このほか、アップロード/ダウンロード機能の追加、QoS(帯域保証)の実現、プレイリストのガイドラインなどが議論されており、これらがDLNAガイドライン v1.1に実装される予定になっているという。なお、CESで行なわれた年次総会ではv1.1のリリースは7月を予定していることが明らかにされている。
●DLNAガイドライン v2の策定は当初予定よりややずれこむ
DTCP-IPの実装が目玉とあって注目されるDLNAガイドライン v2の策定状況だが、当初予定されていた今年半ばから、今年の終わりから来年にずれ込みそうだ。
DLNAの年次総会では、DLNAガイドライン v2については、現在方向性が承認されたという段階で、これからユースケース(ユーザーの想定利用環境)の検討される。承認されるのは今年の9月になるという。その後、ガイドラインの策定というスケジュールになるので、v2の策定は早くても今年末から来年初頭にずれ込むことになりそうだ。
DLNAが決定したv2の方向性では、v1で目標とされた相互接続性の実現をさらに発展させつつ、ユーザーの利便性や、よりよい体験を実現するなどが盛り込まれている。現在Technical Committeeでは、この方向性のもとで、ユースケースの策定が急がれている。
現在策定されているユースケースでは以下のような仕様を盛り込むことが検討されているという。
●新しいA/V機能
・レジューム再生などの再生機能の強化
・TVチューナやEPG予約のネットワーク越しの操作
・コンテンツブラウズ機能の強化(メタデータのサポート)
・コンテンツ同期機能
・新しいファイルフォーマットのサポート(MPEG-4 AVCなど)
●セキュリティ機能の強化
●ホームネットワークインフラの強化
・より簡単なセットアップ
・インフラ系デバイスの定義
・省電力
・EthernetのQoS実装
●リモートUIの定義
●ホームネットワークへのリモートアクセス
●コンテンツ保護の実装(DTCP-IPなど)
などに関しての議論が行なわれており、これらに関するユースケースをTechnical Committeeで話し合い、9月に出される最終的なv2のユースケースを下にDLNAガイドライン v2の策定が行なわれることになる。
Intelは、今年の半ばまでにDTCP-IPを実装したいという意向を示していたが、DLNAの仕様策定はやや遅れてということになる。ただ、DTCP-IPの仕様自体はすでに固まっており、各社が独自に実装していくという形で進行していくことになるだろう。その上で、DLNAガイドライン v2リリース時に各社ともファームウェアのバージョンアップなどで対応していく、というスケジュールになっていくと考えられる。
□関連記事
【1月10日】立ち上がるDLNAガイドライン対応のホームAVネットワーク
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0110/ubiq92.htm
(2005年1月26日)
[Reported by 笠原一輝]