■笠原一輝のユビキタス情報局■Intel パット・ゲルジンガー氏基調講演
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Intel 副社長兼CTO(最高技術責任者)のパット・ゲルジンガー氏 |
WPC EXPOも開催3日目を迎えたが、昨日までの2日間で10万人を超える来場者を数えるなど、開催初日が台風に直撃された割には多くの来場者を集めている。
そんな中、Intelの研究開発部門を率いる立場にあるCTO(最高技術責任)のパット・ゲルジンガー副社長が、WPC EXPOにあわせて来日し、基調講演に登場した。
この中でゲルジンガー氏は「いわゆるエンターテインメントをデジタル化するデジタルホームは、第一歩に過ぎない。その先にはデジタル化された生活“デジタル・ライフスタイル”がある」と述べ、“デジタル化”された将来の生活に関するIntelのビジョンを日本のユーザーに語り出した。
ゲルジンガー氏は、ここ数年、Intelの幹部が同社のビジョンを語る際の常套句となった“コンバージェンス(融合)”に関する話から始めた。
Intelの幹部がコンバージェンスという言葉を使うときは、コンピューティング(演算)とコミュニケーション(通信)の融合という意味合いで使っており、ここ数年Intelが積極的に推し進めてきた戦略の1つでもある。
ゲルジンガー氏は「今年は全世界でデータ通信対応携帯電話のシェアが音声専用携帯電話のシェアを逆転した。また、Centrinoモバイル・テクノロジの登場により、ほぼ100%のノートPCに無線LANが搭載されるようなるなど、すでにコンバージェンスは現実のものとなった」と述べ、業界は次のステップへと向かうべきだと指摘した。
また、ここ数年のブロードバンドの爆発的な普及についてふれ「日本では、ここ数年で我々がうらやむほどブロードバンドの普及が進んだ。今後はどんどんダイヤルアップ接続が減っていき、ブロードバンドがインターネット接続方法の主流となるだろう」と述べ、ブロードバンドという新しいインフラの普及が、人々のデジタルへの意識を変えていると指摘した。
「すでに、さまざまな事象がデジタルになりつつある。以前であれば、何かを調べようとしたら本を引っ張りだしていたが、現在はGoogleを利用して検索すれば一発だ。そうしたこともあり、デジタルデータはムーアの法則(18~24カ月でトランジスタが倍になる法則)を上回る勢いで増え続けており、18カ月で倍になり続けている」とし、今後もさまざまな“デジタル化”の勢いは止まらないだろうという認識を示した。
データ通信可能な携帯電話が音声通信だけの携帯電話を追い越すなどすでにコンバージェンスは現実のものになった | Centrinoモバイル・テクノロジの登場も、コンバージェンスの実現に一役買っている |
米国のIDFで紹介された携帯電話型PCもコンバージェンスの例として紹介された | ムーアの法則を上回る勢いでデジタル化は進んでいる |
“デジタル化を推進する”ための方法におけるIntelの“イチオシ”が、言わずと知れた“デジタルホーム構想”だ。
デジタルホーム構想は、家庭内にあるデジタル機器をIPベースのネットワークで相互に接続し、その機器同士がお互いのコンテンツをやりとりし、ユーザーがどこにいるのかを意識することなく「いつでも、どこでも」(家の中であれば)コンテンツを再生できるようにするものだ。
Intelは、Microsoft、松下電器産業、ソニーなどのITベンダや家電ベンダなどと共同でDLNA(Digital Living Network Alliance)という業界団体を立ち上げ、相互接続性を確保するという取り組みを行なっている。
その取り組みの1つとして、ゲルジンガー氏は、DTCP-IP(Digital Transmission Content Protection over IP)の技術を紹介し、実際にその使い方をデモしてみせた。
デモは、PCにダウンロードした著作権保護されたプレミアムコンテンツ(有料で販売されるコンテンツのこと)を、DTCP-IPに対応したDMAでネットワーク越しに再生するものだったが、その内容そのものは、9月に米国で行なわれたIntel Developer Forum(IDF)の基調講演で行なわれたものと同じだった。
やや余談になるが、Intelは9月のIDFでDTCP-IPのデモを異なる基調講演の中で、1回ずつの計2回行なっている。また、この記事でもわかるように、CEATECにおけるルイス・バーンズ副社長(デスクトッププラットフォーム事業部 ジェネラルマネージャ)の基調講演でも、やはり本日行なわれたのと同じデモが行なわれたという。つまり、Intelにとって、今最もアピールしたい技術がDTCP-IPだといっても過言ではないだろう。
「デジタルホームでは相互接続性を確保することが何よりも重要だ。DTCP-IPに対応することで、コンテンツプロバイダ側がどのようなDRM(著作権保護技術)を採用していたとしても、ネットワークでやりとりする時にはDTCP-IPで暗号に変換されてDMA(Digital Media Adapta)へ転送される。つまり、DMA側はDTCP-IPにさえ対応していれば、DRMで保護されたプレミアムコンテンツを再生できる」と述べ、DTCP-IPに対応することの重要性を訴えた。
CEATECに続き、再びDTCP-IPに関するデモが行なわれた。Intelにとって最もアピールしたいのが“DTCP-IP”であると考えることができるだろう | DTCP-IPに対応したDMAを利用して、PCに保存してあるプレミアムコンテンツを再生している様子。DMAとPCの間はDTCP-IPを利用してコンテンツ保護が実現されている |
ゲルジンガー氏はデジタルホームに関する説明を終えたあと、おもむろにホームケアについて語り出した。
「現在医療の世界は転換点を迎えている。すでに世界の人口の10%は60歳以上の高齢者となった。これが2050年には、世界の人口の20%が高齢者となる。こうした問題に対処するため、デジタルの技術が活用できる」とゲルジンガー氏は述べ、Intelが医療業界と協力してデジタル技術を導入していくことを明らかにした。
「医療の分野はPCの普及が最も遅れているジャンルの1つ。ここにIntelの強みが出るIT技術を投入することで、医療分野におけるデジタル化に貢献していきたいと考えている」と、同社が参入する理由を語った。
ゲルジンガー氏は「デジタルホームが実現することで、家庭内にできる“ホームネットワーク”というインフラは、何もエンターテインメントのためだけに使われるものではない。デジタルホームは第一歩であり、今回紹介した医療分野の例のように、デジタル化により便利になる“デジタル・ライフスタイル”を実現することが最終的な目標となる」と、デジタルホームで実現したホームネットワークが、別の分野のデジタル化も促進していくことが重要であると述べた。
デジタルホームの先には“デジタル・ライフスタイル”があるとゲルジンガー氏 | 2050年には世界の人口の20%が高齢者になり、医療をどうするかが問題になる | 医療のデジタル化に向けて、医療関係の企業などとIntelは協力していくという |
最後にゲルジンガー氏は、遠い未来について語った。「さらにこの先というと、もう新しいニーズは無くなり、さらなる技術革新は不可能だという人もいる。しかし、“未来を予測する最善の方法は、未来を作り出すことだ”というアラン・ケイ氏の言葉の通り、進歩は今後も作っていくことができるし、“いつでも、どこでも、誰でも”というデジタル社会を実現するにはまだまだ時間がかかる」。
ゲルジンガー氏は、デジタル化された世界を実現するには、PCが現在のギガバイト級のデータだけでなく、テラバイト級のデータを処理できる必要があり、「未来には、現在のスーパーコンピュータで実現しているようなテラバイト級のデータ処理を、1チップで行なえるようにしていく必要があり、今後も革新が必要だ」と、今後もIntelは“スーパーチップ”の開発を続けていくという方針を示して、講演を締めくくった。
有名なアラン・ケイ氏の言葉である「未来を予測する最善の方法は、未来を作り出すことだ」を紹介し、未来に向けて新しいデジタル社会を実現していくことが重要であるとゲルジンガー氏 | 将来には現在のスーパーコンピュータの機能を1チップにするような“スーパーチップ”が実現されるのだろうか |
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【10月5日】Intel、ルイス・バーンズ副社長がCEATECで基調講演
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/1005/intel.htm
(2004年10月22日)
[Reported by 笠原一輝]