■笠原一輝のユビキタス情報局■Intel、デジタルホーム向け新ブランド戦略“East Fork”を展開 |
World PC EXPOの基調講演において、富士通のEPCをDTCP-IPのデモに利用するIntelのパット・ゲルジンガー副社長兼CTO |
通称“EF”。今、IntelのOEMメーカーの間では、このキーワードが盛んに飛び交っている。それもそのはず、“EF”はIntelが2005年に立ち上げる新しいデジタルホーム向けブランドプログラムのコードネームで、巨額の費用を投入して実地する予定というのだ。
Intelに近い情報筋によれば、“East Fork"(イーストフォーク、内部コードネーム)と呼ばれているこのプログラムは、2005年の半ばに導入される予定で、2003年にモバイルPC向けに行なわれた“Centrino”に匹敵する壮大な計画ということだ。
2003年にIntelが導入したモバイル向けプロセッサ「Pentium M」では、Intel製品としては初めて、CPUだけでなくチップセット、無線LANも含めたソリューションとしてのブランド名“Centrinoモバイル・テクノロジ”(Centrino Mobile Technology:CMT)が導入された。
CMTは製品のブランドネームという側面とは別に、Intelの世界的なマーケティングプログラムという側面がある。IntelはCMTのブランドネーム構築のために巨額の費用を投入した。その費用には、Intel Inside Program(IIP)におけるメーカーの広告補助の増額、世界規模での広告宣伝費として、テレビCMや新聞広告、インターネットの広告、OEMメーカーとの共同マーケティング、報道関係へのPR費用、ホットスポット促進費用などが含まれており、2003年のIntelの予算の多くがCMTのマーケティングに費やされたという。
IntelがCMTプログラムで実現したかったのは、最終的にノートPCの出荷台数を増やすことだ(そして、もちろん、それにつれてPentium Mがたくさん売れることだ)。
CMTプログラムにより、多くのユーザーがモバイルPCを持ち歩き、それにつれてホットスポットが増え、いつでもどこでもノートPCでインターネットにアクセスできるようになり、ユーザーが便利さを実感し、さらにモバイルPCが売れる……という成功スパイラルが、そのシナリオである。
では現実にどうかと言えば、確かにホットスポットは増えつつあって、便利になりつつあるが、それでも「いつでも、どこでも」にはほど遠いし、モバイルPCを持ち歩くユーザーも増えたことは増えたが、爆発的に増えたと言える現状にはない。
ただし、日本ではほとんどのモバイルPCがCMTベースになったし、米国では企業向けノートPCの多くがCMTベースになった。結果的に、全世界でのノートPCの出荷は増えたのでIntelとしてはある程度の成功を納めたというのが妥当な評価ではないだろうか。
今回計画されているEast Forkは、言ってみればCMTの“それなりの成功”の“2匹目のドジョウ”を狙ったものなのだ。
●2005年の半ばに“East Fork”対応PCを各OEMメーカーが出荷
IntelのEast Forkプログラムは、主にPCを中心としたプログラムが組まれている。情報筋によれば、2005年の半ば以降に、IntelはOEMメーカーに対してEast Fork PC(以下EF PC)と呼ばれる、East Forkの条件を満たしたPCを導入するように奨めているという。
そしてEF PCはIntelが現在進めているEPC(Entertainment PC)の延長線上にあるようなデジタルホーム向けPCとなる。
情報筋によればEF PCになるには、以下のような条件を満たす必要があるという。
デスクトップPC | ノートPC | |
---|---|---|
CPU | PrescottベースのCPU | Yonah |
チップセット | Lakeport | Calistoga |
有線LAN | Intelの有線LANチップ(EkronないしはTekoa) | |
無線LAN | Intelの無線LANモジュール(Calexico2) | |
ソフトウェア | EF要件を満たすアプリケーション | |
OS | Windows XP(MCEはオプション) |
EF PCになるためには、CPU、チップセットのみならず、有線LAN、無線LANに関してもIntel製である必要がある。かつユニークなのは、EFが定める要件を満たすアプリケーションをバンドルしていなければならないという点だ。
現時点ではEFが定める要件というのは明らかになっていないが、情報筋によれば、UPnP AVやDTCP-IPといったIntelがデジタルホーム向けに奨めているソリューションが含まれるという。
OSに関してはWindows XPであることが定められており、Media Center Editionであることは必須ではなく、オプション扱いとなっている。なお、ほかのOSに関しては、Intelでも協議中であると説明されており、今後LinuxなどのOSをサポートする可能性も排除されているわけではないようだ。
これらの条件を満たすことで、PCベンダは“EF”のロゴをPCに貼って出荷できるようになる。むろん、そのロゴを貼ることは、IIP(Intel Inside Program)におけるキャッシュバック率が上がることを意味しており、PCベンダにとってのメリットは小さくない。
ただ、このEF PCにノートPCを含めることに関しては、日本のOEMベンダなどを中心に反対意見が相次いでいるという。
というのも、せっかくここまでCMTのブランドを育てて、それなりに定着してきたのに、という思いが日本のPCベンダにあるからだ。
Intelとしては、CMTブランドでも増えてきたAV用途のノートPCをEFへ移行していきたいという意向があるようなのだが、これに関しては現在のところIntelとOEMベンダの間で綱引きが続いている状況だと言う。
●EF対応DMAやEF対応ソフトウェア実現に向けての動き
EFでは、単に“EF印のPC”というのを作るのではなく、周辺環境の実現プログラムも平行して続けられているという。具体的には、EF要件を満たすDMA(Digital Media Adaptor)とEF要件を満たすソフトウェアの2つのプログラムだ。
IntelはEF対応DMAとして、いくつかの要件を規定している。情報筋によればEF対応DMAは、DLNA v1のガイドラインに準拠し、かつNMPR(ニッパー)のバージョン2.0の要件(UPnP リモートユーザーインターフェイス、DTCP-IPへの対応)を満たしている必要があるという。
それに加えて、EF DMA独自の条件として、NMPRには規定されていないストリーミング形式への対応、使い勝手の改善、省電力機能などの追加要件も規定されている。
言ってみれば、DMAの“全部盛り”のような豪華な内容だ。IntelはEF DMAのガイドラインをすでにIHV(ハードウェアベンダ)に渡しており、来年の第1四半期以降にEF DMAの出荷を見込んでいるという。
また、EF対応アプリケーションでは、EF DMAに対応するUPnPメディアサーバーなどを意識しているという。現時点では、EF対応アプリケーションの要件がどうなるのかに関する情報はないが、当然UPnPリモートUIやDTCP-IPなどが要件になるものと見られている(そうでなければ、EF DMAがあっても意味がないからだ)。
現在Intelは、これらのプランをIHVやISV(ソフトウェアベンダ)に対して説明し、EF対応DMAやEF対応アプリケーションを作ってもらえるように働きかけている。実際、多くのISVやIHVがIntelから説明を受けているという。
●Intelが旗を振ってデジタルホームを加速させる
さらに、Intelはいわば“PC業界の身内”だけでなく、コンテンツプロバイダなどにも声をかけているという。これについての詳細はあまり伝わってきていないが、IntelがCMTの立ち上げの時にホットスポットのプロバイダと共同マーケティングを行なった前例を考えれば、こうしたコンテンツプロバイダと共同マーケティングを考えていることは容易に想像できるだろう。
また、重要なこととして、EFは決して対デジタル家電などというものではないことだ。EFの要件では、TCP/IPやDLNA、DTCP-IPといった標準化された技術を採用しており、そうした技術で作られた家電はもちろんEFの世界とリンクすることになる。つまり、デジタル家電も取り込んでいけるというのは重要なポイントだ。
このように、East Forkの最大の目標は、IntelがEFという旗を振ることで、PC OEMも、IHVも、ISVも、コンテンツプロバイダも、そして最終的には家電ベンダでさえも、すべてがデジタルホームの実現へ向けて加速していくという点にある。
それにより、立ち上がったデジタルホームにおいて、EF印PCの魅力が増し、コンシューマがPCをデジタルホーム向けに購入してくれれば、もちろんCPUの売り上げは伸びる……というのがIntelのシナリオだろう。だから、East ForkはCMTの“2匹目のドジョウ”なのだ。
むろん、解決すべき課題とて無いわけではない。EFに準拠できないサードパーティのチップセットベンダや、Ethernet、無線LANチップベンダからは反発がでるだろうし、すでに述べたように、CMTとの兼ね合いといった問題もある。
また、Intelが旗を振ったとしても、PCがデジタルホームにおいて存在できるのかということに疑問を示す人たちに、どうやってPCを買わせていくのか、という点も課題として残る。
実際、日本でPCの売り上げが下がっているのは、HDDレコーダなどのデジタル家電が伸びているからだとされている。また、DMAの相互接続性も、検証が始まったばかりであり、本当に問題がないのかどうかは、これから実際に立ち上げてみなければわからないという状況だ。
これらの課題もあり、現在Intelは顧客からのフィードバックを元に若干の修正を図っている状況にあると情報筋は伝える。ただ、おおむね、このようなマーケティングプログラムを実行していくことは間違いなく、2005年はIntelがデジタルホームで大攻勢に出る年となりそうだ。
□Pentium M/Centrino関連リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/link/centrino.htm
(2004年10月25日)
[Reported by 笠原一輝]