●デュアルコア一色だったCPU
IDF 2日目のクライアント関連のキーノートスピーチでは、話題となっているデスクトップ版デュアルコアCPU「Smithfield(スミスフィールド)」のライブデモを公開。モバイルCPUでも、次世代デュアルコアCPU「Yonah(ヨナ)」のフロアプランをスライドで示した。これで、初日のサーバー向けデュアルコアCPU「Montecito(モンテシト)」のデモと合わせて、3カテゴリ、3アーキテクチャでのデュアルコアCPUが一応出そろったことになる。さらに、ロードマップでは4コア以上のマルチコアCPU世代であるIA-32「Whitefield(ホワイトフィールド)」とIA-64「Tukwila(タックウイラ)」までが示された。 デュアルコア一色となった今回のIDFでは、デュアルコア化に伴う課題であるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の抑制や、デュアルコア化とともに展開される新機能であるバーチャルマシン支援ハードウェアといったトピックスについても説明が行なわれた。
一方、IDFの裏舞台では、IntelのライバルであるAMDもデュアルコアCPUのデモを公開。Intelより先にデュアルコアを唱え始めた同社の存在を誇示した。 ●デスクトップではSmithfieldが登場 Intelは現在、デスクトップCPU、モバイルCPU、サーバーCPUそれぞれに、異なるマイクロアーキテクチャのCPUファミリを持っている。この3系列アーキテクチャの併存は、デュアルコア自体も当面は続く。つまり、Intelは3つの異なるマイクロアーキテクチャのデュアルコアCPUを、並行して開発している。 デスクトップ市場では、Intelは2005年中盤に、NetBurstベースのデュアルコアCPU Smithfieldを投入すると言われている。今回のIDFでは、Smithfieldというコードネームこそ出さなかったが、デスクトップ向けデュアルコアCPUのデモが行なわれた。Intelのデスクトップ部門を担当するウイリアム(ビル)・M・スー(William M. Siu)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)は「量産品ではない、エンジニアリングサンプルだが、シミュレーションでは何でもなく実際のデュアルコア(のシリコン)がIntel 915チップセット上で機能しているところを見せた」と説明した。その説明通りだとしたら、IntelはすでにSmithfieldのシリコンを完成させたことになる。 Smithfieldは年内にサンプルがOEMにも提供される見込みと言われている。そのスケジュールを考えると、時期的には、すでにファーストシリコンがあってもおかしくはない。製品投入の2~3四半期前にはシリコンが完成していないと、検証とバグフィックスが間に合わないからだ。通常、検証→マスク修正→サンプルの1サイクルで1四半期ほどかかってしまう。ただし、Intelが実際のチップやそのフロアプラン図を示さなかった理由は明確ではない。 現時点でシリコンが存在するということは、Smithfieldが90nmであることを証明している。Intelの65nmプロセスはSRAMの試作に成功した段階で、CPUの試作にこぎつけるには、まだ時間がかかるからだ。また、現在チップがあるということは、Intelが非常に迅速にSmithfieldを設計できたことを示している。そのことは、Smithfieldが既存のCPUコアの設計を流用した可能性が非常に高いことを示している。 Intelが90nmプロセスで持っている成熟したCPUコアはPrescott(プレスコット)コア。そのため、SmithfieldがPrescottコアを使った可能性は高い。その場合、Smithfieldも「Hyper-Threading」、セキュリティ機能「LaGrande」、バーチャルマシン支援機能「Vanderpool」、64-bit拡張「EM64T(Clackamas)」も全て備えていることになる。もちろん、イネーブルにされるかどうかは別な話だが。 ちなみに、Smithfieldはダイサイズ(半導体本体の面積)を考えるとL2キャッシュ量を増やすことは難しい。Intelは、過去数世代、パフォーマンス/メインストリームデスクトップ向けCPUのダイを200平方mm台の前半に納めようとして来たからだ。Prescottコアをデュアルで搭載すれば、それだけで計算上は200平方mmを超えてしまう。しかし、2つのコアによるバスの競合のペナルティを減らすためにはキャッシュを一定量から減らすことはできない。おそらう、L2キャッシュ量は合計2MB程度だと推測される。
●L2キャッシュ量が推定できるYonahのフロアプラン
Intelが今回示したデュアルコアCPU群のうち、モバイル向けのYonahだけは65nmプロセスだ。そのため、デモが行なわれたMontecitoやSmithfieldとは異なり、Yonahのデモは行なわれなかった。その代わり、Yonahのフロアプランが示された。 Yonahのフロアプランからわかることは、L2キャッシュの量が相対的に少ないことだ。CPUコアとの比率で見る限り、YonahのL2キャッシュは2MB。現在の90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)と同量で、1CPUコア当たり1MB相当だと推定される。もっとも、Yonahの場合はL2キャッシュは2つのCPUコアで共有となると言われている。つまり、2コアで2MBのL2キャッシュを共有すると見られている。L2キャッシュ量が増えるのはYonahの次のMerom(メロン)アーキテクチャからで、Meromでは4MBになると言われている。 Intelは、YonahのCPUコアが現在のモバイルCPU Dothanの設計の流れを引き継ぐと説明しているという。実際、Yonahでは仕様の大幅な拡張は行なわれていない。比較的実装が容易なLaGrandeとVanderpoolだけが実装されている。 Yonahでのデュアルコアの使い方は、以前、このコラムでレポートした通り。2つのCPUコアを動的に切り替えることで省電力化を実現する。省電力モード時には、片方のコアを停止させることで、電力消費を抑える。省電力インターフェイスの次世代バージョン「ACPI 3.0」では、そのためにコア数の動的な制御を行なうことができる。
また、Intelは65nmプロセス自体に、リーク電流の抑制のためにさまざま工夫をしている。プロセス技術だけでなく、回路設計技術でもスリープトランジスタなどリーク電流を抑える仕組みを取り込む。そのため、65nm世代のYonahでは、トランジスタ増加分の電力消費の増大をある程度抑えることができると見られる。 ●約1年半でサーバーのほとんどをデュアルコア化 3分野でデュアル/マルチコア化を進めるIntel。しかし、デュアル/マルチコアの浸透の速度は、3つのカテゴリで大きく異なる。 Intelは3分野全てで2005年中にデュアルコアCPUを出荷。2006年末までにサーバーの85%以上、パフォーマンスデスクトップ(この場合はパフォーマンスとメインストリームの総称と見られる)の40%以上、パフォーマンスモバイルの70%以上をデュアル/マルチコアにするという。図にすると、下のようになる。図中の2007年の部分は推測だ。
このうち、サーバーでのデュアル/マルチコアの浸透が速いのは、市場を考えれば当然と言える。元々マルチスレッド化されたソフトウェア環境で、ダイ(半導体本体)が大きく価格の高いCPUが許容される。そのため、デュアル/マルチコア化は、ウルトラデンスのブレードなど一部の分野を除けばすんなり進むだろう。 ここで興味深いのは、Intelは2006年のサーバーでは、デュアルコアという言い方をしないで、デュアル/マルチコアという言い方をしている点。つまり、2006年中にデュアルコアだけでなく、マルチコアも出荷される可能性があると見られる。Intelのマルチコアは、IA-64のTukwilaと、IA-32のWhitefieldだ。 また、サーバー市場ではデュアル/マルチコアだけでなく、SMTまたはCoarse-Grain Multithreadingといったコアのマルチスレッド技術も併用されると見られる。これは、これらの技術がメモリレイテンシの隠蔽に効果があるためだ。サーバー全域で、デュアル/マルチコア+SMT(or Coarse-Grain Multithreading)へと移行していくと見られる。それに対して、デスクトップではHyper-Threadingの併用を行うかどうかは、まだ明らかにされていない。 ●デュアルコア化が遅いデスクトップCPU サーバーと比べるとデスクトップCPUのデュアルコア化のペースはずっと緩い。2006年末の時点でもパフォーマンスデスクトップ(Pentium系ブランド)の40%以上と、デスクトップ全体で見れば1/3以下のデュアルコア率に留まる。これには複数の理由があると考えられる。 ひとつは、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の制約のために、デスクトップではデュアルコアCPUのシングルスレッド性能が、シングルコアCPUに劣ると考えられる点。PC環境では、シングルスレッド性能が重要であるため、ユーセージモデルによってはデュアルコアのアドバンテージを示しにくい。そのため、IntelはデュアルコアCPUとシングルコアCPUを併存させて提供しなければならない。おそらく、90nm/65nmプロセス世代では、パフォーマンス面からデュアルコアCPUへと完全に移行させることができないだろう。 じつは、この事情はAMDも同様だ。AMDはAthlon 64 FXラインで、90nmプロセスのシングルコア版「San Diego(サンディエゴ)」に続いて、2005年中にデュアルコア版の「Toledo(トレド)」を投入する。しかし、ToledoはSan Diegoを置き換えるわけではなく「デュアルコアとシングルコアは並行して提供される。市場に異なるニーズがあるからだ」(AMD、Jonathan Seckler氏、Senior Product Manager, Microprocessor Business Unit, Computation Products Group)という。 もうひとつのファクタはダイサイズだ。コアが小さなPentium M系に比べると、NetBurst系はCPUコアが大きい。そのため、デュアルコア化するとダイが大きくなり製造コストが高くなってしまう。Intelの収益から言えば、ダイが小さいCPUが高く売れた方がいい。そのため、同じ価格なら、デュアルコアCPUよりシングルコアCPUを売る方が利益になる。 ただし、半導体ビジネスの常として、Fabへの先行投資が大きいため、単純にダイが小さい方がいいとも言い切れない。Fabへの投資によって、一定の製造キャパシティが確保されてしまっているため、Intelはキャパシティを埋めるだけの製品が必要になる。シングルコアCPUだけを製造して製造キャパシティが余っても、それはFabへの投資を考えるとロスになってしまうわけだ。そのため、Intelは製品の供給量を決定する場合、FabのキャパシティとCPUのダイサイズを計算している。 そのため、パフォーマンスデスクトップCPUでデュアルコアが40%という数字は、キャパシティを考えた場合、これ以上デュアルコアの比率を高めると、CPU全体の製造数が需要に満たなくなってしまうというラインだと考えられる。逆を言えば、65nmプロセスへの移行がさらに進み、その先の45nmプロセスの製品が出てくるようになれば、Intelはキャパを埋めるためにデュアルコアCPUの比率を高めて行くだろう。 こうした事情を考えると、デスクトップPCでは、デュアルコア化は緩やかに3~4年かけて進むと見られる。 ●デスクトップよりも早いモバイルのデュアルコア化 意外に見えるかもしれないが、IntelのモバイルCPUは、デスクトップCPUよりデュアルコア化のペースがずっと速い。これは、Intelがデュアルコアを、省電力化のために使うからだ。動的にコア数を切り替えることで、性能とバッテリ駆動時間の両立を図る。 また、原則的に言えば、デュアルコアCPUの方がシングルコアCPUより、パフォーマンス/消費電力効率が高い。デュアルコアをそこそこの周波数で動作させた方が、シングルコアを高速に動作させるより消費電力が低くなるからだ。高周波数駆動のためにはCPUの駆動電圧も上げなければならないため、消費電力への影響は大きい。 もうひとつの要素はダイサイズだ。もともとコアが小さいPentium M系のYonahは、Smithfieldと比べてダイサイズがはるかに小さいと予想される。そのため、Intelはモバイルでのデュアルコア比率を高めても、製造キャパシティに対するインパクトが小さい。これは、Intelがモバイルのデュアルコア化を進める最大の理由だと推定される。 また、IntelはモバイルCPUではHyper-Threadingを実装していない。そのため、マルチスレッド性能を高めるためにはデュアルコア化する必要がある。 もっとも、YonahにはデュアルコアのYonah-2PとシングルコアのYonah-1Pがあり、バリューCPUや超低電圧版はYonah-1Pになると見られる。特に、超低電圧は長期にわたってシングルコアのまま残る可能性が高い。そのため、モバイルは当面は完全にデュアルコア化することはないだろう。 すでにシリコンがあるMontecitoとSmithfieldに対して、Yonahはまだシリコンがない。製造プロセスは、まだ量産開始されていない65nmプロセスだ。そのため、Yonahは登場がMontecitoやSmithfieldよりも、ややずれる可能性がある。 こうしてみると、デュアルコア化のペースは3つの市場でばらつきが大きいことがわかる。特に日本の場合、最初に買うデュアルコアシステムがノートPCというケースも多いかもしれない。
□IDF Fall 2004のホームページ(英文) (2004年9月11日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
【PC Watchホームページ】
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