●デュアルコア一色のIDF 今回のIDFで最もメインストリームな話題といえば、プロセッサのデュアルコア化についてのものだろう。プロセッサのデュアルコア化自体については、すでに過去のIDFでも語られてきたし、RISCアーキテクチャでは製品化も行われている。Intel自身がシングルコア製品に見切りをつけ、全面的にデュアルコア化をはかることも、5月に開かれたアナリストミーティングで明らかにされている。話自体は新しいことではない。 新しく公開されたのはデュアルコアで動作するMontecito(来年リリースされる予定となっている次世代のIA-64プロセッサ)のデモとダイ写真、モバイル向けのデュアルコアプロセッサの開発コード名(Yonah)とそのダイ写真、それからデュアルコアプロセッサの出荷見通し、といった情報だ。そして、デスクトップ、サーバ、モバイルの3ラインで、それぞれのセグメントに固有のデュアルコア/マルチコアプロセッサの開発を行なう、という表明である。
そのデスクトッププラットフォーム事業部だが、当初はキーノートに参加する予定だった共同事業部長の1人であるLouis Burns副社長が家庭の事情で欠席、もう1人の事業部長であるBill Siu副社長とモバイルプラットフォーム事業部のAnand Chandrasekher副社長が肩代わりすることとなった(両副社長とも最初からキーノートが予定されていたから、負担が増えたことになる)。 ●Celeronが売れる日本の現状 そのSiu副社長と日本から出席したプレス関係者との間で短いミーティングが行なわれたのだが、その席上、Siu副社長は声を大にして不満を述べた。それは、成熟市場を抱える先進国中、日本だけが突出してCeleronの比率が高い、ということであり、日本でPentium 4よりCeleronが売れるのは、われわれ日本のプレス関係者の怠慢にあるのではないか、というものだった(文字にするとニュアンスが伝わりにくいので補足するが、ユーモアを交えてであったと理解していただきたい)。 Siu副社長によると、日本で販売されるデスクトップPCは、全体予算のうちディスプレイや記録型DVDドライブといった周辺機器の占める割合が高く、プロセッサにはあまり予算が回っていないのだという。 Intelのデスクトッププラットフォーム事業部長としては、不満を感じるのももっともな話だが、筆者としては無理もないことのようにも感じている。ご存知のように、日本で売られているPCの多くにTVチューナが内蔵され、しかも大半がハードウェアMPEG-2エンコーダを備えている。こうしたPCを利用しているユーザーが、プロセッサのパワーを実感できる利用場面がどれくらいあるだろう。TVを見る、録画するのはもちろん、メールやインターネットのブラウズ程度でCeleronとPentium 4の違いを体感することはあまりない。 ビデオ編集にしても、その対象がプロが編集した成果物であるTV番組であれば、ユーザーが行なうのはCMカット程度で、プロセッサパワーよりHDD性能の方がボトルネックになる傾向の方が強い。それを残しておくには記録型DVDが欲しくなるし、最新の高速なドライブが望ましいのは当然のことだ。もちろん、きれいなディスプレイはTVやビデオを見るのに重要であり、誰もが一目見て分かる差別化ポイントである。要するに、日本のユーザーは自分の利用スタイルにおいて、体感できる差別化ポイントにはきちんとお金を払っている。一般ユーザーに対してCeleronが売れて、Pentium 4が売れないのは、Pentium 4に変えて明らかに分かる違いがないからだ。 ●デュアルコアCPUがもたらす果実 ここで話を戻すと、果たしてデュアルコアのプロセッサはユーザーが直ちに体感できるような何かをもたらしてくれるのだろうか。 サーバ分野において、デュアルコアの効果が明らかなのはマルチプロセッサシステムの実績を見れば分かる。多くのユーザーからの様々なジョブを処理しなければならないサーバでは、デュアルコアの効果は高いだろう。しかし、クライアントPC分野でどこまでデュアルコアの効果が実感できるのかは難しいところだ。また、そうであるからこそ、IntelやPCベンダはクライアントPC向けにマルチプロセッサシステムの販売を行なってこなかったのではないか。それが手のひらを返したようにこれからはデュアルコアだと言われても、なかなかハイそうですか、とはいかない。 多くのユーザーが同時利用するサーバと異なり、クライアントPCのユーザーは基本的にディスプレイの前に座る1人だ。筆者が原稿を書いていても、人間の思考速度、キーボードをたたく手の速度には限界があり、おそらく大半の時間CPUはアイドルに近い状態にあると思われる。いわんやTVパソコンでTVを見ている間、CPUは開店休業状態のハズだ。そんなPCにもう1つCPUを追加したところで、効果は知れている。 確かに、アンチウイルスソフトやファイヤーウォールソフト、あるいはインスタントメッセージングソフトなど、ユーザーが直接利用する以外のアプリケーションがバックグラウンドで動作する機会は増えている。しかし、それらを処理するためにもう1つプロセッサコアが必要なのか、Hyper-Threadingではマルチスレッド処理の能力が足りないのか、と言われると考え込んでしまう。現在のデュアルコア化、特にクライアントPC向けプロセッサのデュアルコア化は、ユーザーニーズに即したものというより、作る側の都合によるものではないかと思わずにはいられない。 もちろん、作る側の都合で加わる性能や機能が必ずしも悪いといっているわけではない。それならそれで、今までできなかったことのうちどんなことが可能になるのか、あるいは全く新しい何かが可能になるのかをちゃんと説明してくれなくては、Celeronとの差額を正当化できない。Intelはデュアルコアプロセッサを活用するシナリオをいくつか提示しているものの、あまり現実、それも日本の現実に即したものとはいえないのが実情だ。この答えが見つからない限り、Siu副社長の悩みは尽きないことだろう。
□関連記事 (2004年9月11日) [Text by 元麻布春男]
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