今回のIDFでは次世代のサーバ用メモリと目されるFB-DIMM(Fully Buffered DIMM)がモノとしての形をとって登場してきた。 IntelはFB-DIMMの実用化にあたり、周到に半導体業界に根回しを行なったようで、2月のIDFの時点でMemory Implementers Forumという業界団体まで立ち上げていた。すでにFB-DIMMについては標準化作業はJEDECに移されており、サーバ・ワークステーション向けメモリの1つの標準として確立されるものと思われる。 FB-DIMMそのものについては、2月のIDFの時点で取り上げた時と基本的な部分で変化はない。簡単におさらいしておくと、DIMM上にAMB(Advanced Memory Buffer)と呼ぶチップを設け、このチップとチップセット間をPCI Expressに類似したPoint-To-Pointのシリアルインターフェイスで接続し、AMBチップとDRAMチップ間をこれまで通り汎用DRAMチップのパラレルインターフェイスで接続する、というものだ。レジスタードDIMMがレジスタチップによりクロックとアドレスをバッファリングしているのに対し、データも含めてすべてをバッファリングしていることからこの名前がつけられた。 FB-DIMMでは、高速化に伴い接続可能なデバイスが減少したり、線路長を一定以上に伸ばすことが難しくなるDRAMのパラレルインターフェイスをDIMMの基板上のみに限定できる。このため、チップセットのメモリチャネルあたりに接続できるDIMMの数の制約が大幅に緩和される。今回のIDFでは、DDR2の次のDDR3 SDRAMではアンバッファの場合メモリチャネルに接続できるDIMMの数は1本になる、という話があったくらいでメモリチャネルあたりに接続可能なDIMMの数を増やすことはサーバにとって極めてクリティカルだ(さすがにチャネルあたり1本では、デスクトップPCでも厳しい気がするのだが、Intelには何かアイデアがあるのかもしれない)。FB-DIMMなら容易にこの問題をクリアできる。 加えて、シリアル化によりチップセットとDIMMを接続するピン数が大幅に減るため、チップセットにインプリメントすることが可能なメモリチャネル数を増やすことも可能だ。この2つの相乗効果でチップセットあたりのメモリ搭載量、ひいてはサーバシステムあたりのメモリ搭載量を飛躍的に増やすことができる。IntelはFB-DIMMを採用したシステムで最大192GBのメモリを実装可能だと述べているほどだ。今まではメモリの高速化に伴い、接続可能なメモリデバイスの数、メモリ容量は減るばかりだったのだが、FB-DIMMを用いることでこの流れを押し戻せる。 もちろん、AMBチップのようなデバイスをはさむことで、メモリアクセスのレーテンシは増えるだろう。しかし、メモリチャネルを増やすことでレーテンシの増大を隠すことができる。さらにIntelではプログラムを実行する本スレッドとは別のスレッドで、本スレッドが必要とするデータをメインメモリからキャッシュメモリに先にプリフェッチしておくヘルパースレッドなどソフトウェア的なソリューションも研究している。おそらく自信はあるのだろう。このFB-DIMMの実用化は2月の時点では2005年だったように記憶していたのだが、今回の話では2005年に実用化されるのはAMBチップやFB-DIMMそのものといったパーツレベルの話で、システムレベルの実用化は2006年になる、ということのようだ。ものがサーバだけに、バリデーションに時間がかかるという理由もある。
それはともかく、誰しもFB-DIMMの話を聞いて思い出すのはDirect RDRAMを用いたRIMMではないだろうか。Direct RDRAMのインターフェイスはシリアルではないが、バス幅を狭くして(通常のDIMMの64bitに対し16bit)高速化を容易にする、という点では共通している。おそらく狙っている技術メリットも共通点が多いハズだ。で、思うのはなぜ大半のDRAMベンダはRDRAMを拒絶して、FB-DIMMを受け入れたのか、ということだ。 FB-DIMMが受け入れられたおそらく最大の理由は、DRAMチップそのものは汎用品のままでよい、ということだろう。メモリベンダにとってDirect RDRAMの問題は、メモリチップそのものにRambusインターフェイス(RAC、Rambus ASIC Cell)を組み込まなければならない、という点にある。RACを組み込むことで、製品にライセンス料の支払いというコストアップ要因が加わるだけでなく、シュリンク等のコスト削減を自由に行なうことが難しくなる。Rambusライセンシーにより勝手にRACに触ることはできないのだ。しかもRACを組み込むことによる問題は、モバイルからサーバまで、すべてのセグメントに発生する。RACのような「異物」を取り込まないで済むFB-DIMMにはこのような問題は存在しない。 もちろんFB-DIMMの場合も、IntelがチップセットとDIMM間のシリアルインターフェイスからライセンス料を徴収しないとはいえ、AMBチップというコストアップ要因が存在する。AMBチップを製造するのは、Intel、NEC Electronics、Infineonといった会社で、必ずしもDRAMベンダが用意するものではない。AMBチップを買う(コスト増要因にお金を払う)のはモジュールベンダ(DRAMベンダであることもあるが、モジュール専業ベンダであることも少なくない)であり、必ずしもDRAMベンダが負担する必要はない。しかも、コストを負担するのは現時点ではサーバ用のモジュールのみで、モバイルPCやデスクトップPC用のモジュールは影響を受けない。そもそもサーバ用のメモリは、クライアントPC用のメモリに比べ高価であるため、AMBチップによるコスト増を吸収しやすいと考えられる。また、クライアントPC向けのメモリに比べれば、スポット市場の占める割合が低く、価格変動の割合が小さい。これはFB-DIMMの市場リスクが小さいことを意味する。 結局、FB-DIMMのコスト増とそれを負担する構造は、現在のサーバ向けメモリであるレジスタ付DIMM(Registered DIMM)と変わらない。その気になればDRAMベンダはサーバメモリのコスト増(レジスタチップやAMBチップによるコスト増)から無縁でいることができるし、すくなくともコスト増要因を市場リスクの大きい汎用DRAMから分離できる。DRAM市場の6~7割を占めるPC向けメモリがDirect RDRAMになった場合、Direct RDRAMは間違いなく価格が市場で決まる市況製品となる。この場合、DRAMチップの原価にはライセンス料という固定費が組み入れられるため、市場リスクはさらに拡大してしまう。DRAMベンダがDirect RDRAMを嫌った理由は、単なるライセンス料の支払いというより、その負担が市場リスクにより拡大されてしまうというあたりにあったのではないかと考えられる。 ただ間違ってはいけないのは、DRAMベンダのコスト増が直接エンドユーザーの購入価格に跳ね返るわけではない、ということだ。上で述べたように、PC用メインメモリはその規模の大きさから否が応でも市場で価格が決まる市況製品となる。市況製品の価格を決めるのは、主に市場での需給関係とさまざまな思惑であり、作り手のコストとはほとんど関係ない。この数年を考えてもPC用メモリモジュールの価格は時に乱高下したが、価格がコストにより決まっているのであれば、こうした乱高下は起こらないハズだ。一定期間を経過した半導体工場の製造コストが短期的に大幅に上下することは通常考えられない。 Direct RDRAMに反対していたベンダは、このことをうまく包み隠し、コスト増=消費者にとっての価格アップというイメージと、最大のシェアを持つIntelに取り入ってボロ儲けを狙う悪のRambusというイメージを植えつけることで、勝利を勝ち取った。それはそれで見事なプロパガンダ戦であったことは事実だし、逆にRambusが自らの技術を過信していたこと(そしてその態度が嫌われていたこと)も間違いないと思う。 さて、サーバ向けメモリはFB-DIMMに向かう流れができつつある。現時点でAMDがどのような方向性にあるのかは不明だが、今後のインターフェイス高速化を考えると、同様な仕組み(メモリバスの狭バス幅化あるいはシリアル化)はいずれ必要になるだろう。すでにFB-DIMMの標準化がJEDECに移っていることを考えれば、似て非なるものを別に立ち上げるより、FB-DIMMを採用した方が良いと思うのだが、AMDのプロセッサにはメモリコントローラが内蔵されているというIntelにはない事情がある。とはいえ、すでにAMD製プロセッサのメモリインターフェイスも事実上2系統(レジスタ付とアンバッファード)になっていることを考えれば、レジスタ付をFB-DIMMに置き換えるのはそう突飛な話ではないだろう。 ●DDR2の次の選択 今回のIDFでIntelが公にしたメモリロードマップでは、DDR2の途中からFB-DIMMがオーバーラップしてくる。サーバに関してはDDR3世代では最初からFB-DIMMが使われる見込みだ(DDR2では最初にレジスタ付DIMMがあり、次にFB-DIMMへの切り替えが行なわれる)。また、DDR2は800MHzまで引っ張られ、DDR3はそれにクロスオーバーする形で登場する。基本的にはDDRからDDR2への切り替え時と同じスタイルだ。 その一方でRDRAMもPC800とPC1066が残っているが、これはもっぱら通信機器向けのもの。PC1200やPC1333といったさらに高速なRDRAMは、通信向けにも採用される予定はない。
こうした状況であるにもかかわらず、今もRambusがIDFのゴールドスポンサーに名を連ねているのは、RaSerに代表される同社の高速インターフェイス技術がエンドユーザーの目に見えないところで採用されていることが大きな理由だと思われる。が、DDR3の次のメインメモリの座を狙っていると考えられなくもない。上で述べたようにDDR3でメモリチャネルに接続できるDIMMが1本になるといわれていることを考えると、少なくともDDR3の次の世代では、DDR~DDR3のようなEvolutionary(漸進的)な改良では足りず、Revolutionary(革命的)な改良が必要になるだろう。 現時点で候補として見えているのはFB-DIMM(あるいはその改良型)であり、RambusのXDR(あるいはその改良型)であることは間違いないところだ。FB-DIMMをより市場規模が大きく、より市場リスクの大きいクライアント向けに提供することは、メモリベンダは現状では望んでいないだろうが、将来XDRとの二者択一となった時、果たしてどちらを選ぶのだろうか。
□関連記事 (2004年9月11日) [Text by 元麻布春男]
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