デスクトップPCでは、TVチューナを搭載し、テレビ番組の視聴や録画が可能なAVパソコンが主流となっているが、ノートPCでは、TVチューナ搭載機はそれほど多くはない。しかし、主にデスクトップPC代わりに使われるA4サイズのノートPCでは、TVチューナ搭載機の割合が少しずつ増えてきている。 東芝から新たに登場した「dynabook Qosmio E10」シリーズは、高画質化エンジンや高輝度液晶を搭載するなど、東芝のAV技術をフルにつぎ込んだ新製品であり、液晶テレビに匹敵する高画質を実現していることが特徴だ。 今回は、dynabook Qosmio E10シリーズの中でも最上位となるdynabook Qosmio E10/1KLDEWの製品版を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。 ●下位モデルでもDVDスーパーマルチドライブを搭載「Qosmio」は、東芝のノートPCの新サブブランドであり、日本国内だけでなく世界共通のグローバルブランドとして展開されることになる。 東芝は、今回のQosmio投入について、'85年のT1100、'89年のDynabookを初めとするノートPCの立ち上げ、'92年のカラーノートPC投入、'95年のWindows 95搭載ノートPC投入、'96年のLibretto投入という4つのパラダイムシフトに並ぶ、5つめのエポックメイキングな製品として捉えているという。Qosmioは、東芝がAV機器で今まで培ってきた技術やノウハウを惜しげもなくつぎ込んだ、いわば「本気」のマシンなのだ。 今回登場したdynabook Qosmio E10シリーズ(以下Qosmio E10シリーズ)は、Qosmioブランドの第一弾となる製品で、15型液晶を装備したA4サイズノートPCだ。ボディサイズは338×285×43.1mmとかなり大きく、重量も約3.7kgあるが、基本的にデスクトップPCの代わりとして使われる製品なので、問題はないだろう。
Qosmio E10シリーズは、CPUやチップセット、無線LANの有無などによって、3モデルが用意されている。今回試用したQosmio E10/1KLDEWは、その中でも最上位となるモデルで、CPUとしてPentium M 715(クロック1.50GHz)を搭載する。Pentium M 715は、90nmプロセスルールで製造されるDothanコアを採用しており、BaniasコアのPentium Mに比べて、L2キャッシュが2倍の2MBに強化されていることが特徴だ。 なお、中位モデルのE10/1KCDEと下位モデルのE10/1JCDTは実クロック1.40GHzのCeleron M 330を搭載している。 チップセットとしては、Intel 855PMを採用。メモリはPC2700をサポート。標準で256MB実装しているが、SO-DIMMスロットを2基装備しており、最大2GBまで増設が可能だ(2GBに増設する場合は、標準で実装されている256MB SO-DIMMを外して、代わりに1GB SO-DIMMを2枚装着することになる)。 ビデオチップとして、NVIDIAのGeForce FX Go5200を採用している(下位モデルは統合型チップセットのIntel 852GMを採用)。ビデオメモリは64MBである。 GeForce FX Go5200は、CineFXエンジンを搭載し、DirectX 9に完全対応している。GeForce FX Goファミリーの中では、下位に位置するが、統合型チップセットに比べれば3D描画性能ははるかに高い。 HDD容量も80GBと余裕がある(3モデルとも80GB)。また、3モデルとも光学ドライブとして、DVDスーパーマルチドライブを搭載していることも評価できる。DVD-RAM/R/RW、DVD+R/RWの全ての記録型DVDメディアに対応しており(カートリッジ入りのDVD-RAMメディアを除く)、最大記録速度もDVD-RAMが3倍速、DVD±Rが8倍速、DVD±RWが4倍速と高速である。
●2灯式バックライト採用で、高輝度を実現
Qosmio E10シリーズは、AV機能を重視したAVノートPCであり、液晶パネルにもこだわっている。Qosmio E10シリーズで採用されている液晶パネルは、高輝度Clear SuperView液晶と呼ばれるもので、いわゆるツルピカ液晶の一種だが、内光の拡散を抑えるハードコート層と外光の映り込みを軽減する低反射コーティングの二層からなるダブルコーティング構造を採用し、黒が引き締まった鮮やかな表示を可能にしている。 さらに、E10/1KLDEWとE10/1KCDEでは、バックライトを2灯利用することで、600cd/平方メートルという業界最高水準の輝度を実現した(下位モデルのE10/1JCDTは1灯バックライトを採用しており、380cd/平方メートルとなる)。 東芝の液晶テレビ「Beautiful Face20LS20」の輝度は500cd/平方メートルなので、液晶テレビの明るさをも上回っている。輝度は、キーボード上部に用意されている輝度ボタンやリモコンによって、8段階に調整が可能だ。 輝度が高いだけでなく、視野角も広いため、非常に見やすい。ただし、解像度は1,024×768ドットで特に高解像度というわけではない。 ●独自開発の「高画質化TVチューナ」と「QosmioEngine」を搭載Qosmio E10シリーズは、テレビ放送やDVDビデオ、外部入力映像、Windows上で再生する動画など、あらゆる映像ソースを美しく表示できることが最大のウリである。その高画質を実現するために搭載されたのが、「高輝度Clear SuperView液晶」、「高画質化TVチューナ」、「QosmioEngine」である。高輝度Clear SuperView液晶についてはすでに解説したので、残りの2つの要素を取り上げよう。 高画質化TVチューナは、東芝自社設計によるもので、ゴーストリデューサ、デジタルノイズリダクション、10bitA/Dコンバータ、3次元Y/C分離、タイムベースコレクタという5つの高画質化機能を搭載するほか、ハードウェアMPEG-2エンコーダも内蔵している。 QosmioEngineは、新開発の高画質化専用エンジンで、デジタルシャープネス、デジタルオーバードライブ、デブロッキング処理、エッジエンハンサ、インタレース・プログレッシブ変換、ブラック/ホワイトエンハンサなど、全部で11種類もの高画質化機能を装備している。これらの高画質化機能は、テレビやDVD-Video、外部映像入力だけでなく、Windows上での映像にも有効である(ソースによって利用される高画質化機能は異なる。また下位モデルではQosmioEngineの機能が一部簡略化されている)。 実際に、テレビ放送やDVD-Video、ストリーミング動画などを再生してみたが、通常のPCで再生する場合に比べて、はるかに高画質だと感じた。
●Windowsを起動せずに、テレビの視聴/録画やCD/DVDの再生が可能Qosmio E10シリーズは、Windowsを起動せずに、ワンタッチでテレビの視聴/録画やCD/DVDの再生が可能な「QosmioPlayer」機能を装備している。 キーボード上部に、「フロントオペレーションパネル」と呼ばれる10個のボタンが用意されており、電源OFFの状態から「TV」ボタンを押せばテレビの視聴/再生を行なう「QosmioPlayer(TV)」が、「CD/DVD」ボタンを押せば、メディアにあわせて「QosmioPlayer(CD)」または「QosmioPlayer(DVD)」が起動する(リモコンからの起動も可能)。 操作は、フロントオペレーションパネルのボタンやキーボード、リモコンによって行なう。リモコン受光部は本体前面に内蔵され、使い勝手はよい。 QosmioPlyaer(TV)の起動時間も実測で約8秒と高速だ。Windowsを起動せずにテレビの視聴やCD/DVDの再生が可能なノートPCは、ほかのメーカーからも発売されているが、Qosmio E10では、単にテレビを見られるだけでなく、Windowsを起動せずに、QosmioPlayer(TV)で録画やタイムシフト再生(番組の視聴を中断しても、戻ってから続きを楽しめるお好み再生と、録画中の番組を頭から再生できる追っかけ再生)を行なえることが特徴だ。 家電感覚で利用できるので、PCの操作に慣れていない人にもありがたい。テレビ番組だけでなく、ビデオ入力端子からのソースの再生や録画もできる。 QosmioPlayer(TV)では、HDD上に録画用領域として4.3GB分を確保しており、高画質(bitレート約8Mbps)では約70分、標準画質(bitレート約4Mbps)では約130分、長時間(bitレート約2Mbps)では約250分の録画が可能だ(ただし、1タイトルあたりの最長録画時間は約180分)。 QosmioPlayer(TV)で録画したデータを、MPEGファイルに変換してWindows上で取り扱うこともできる。録画品質も、標準以上なら満足できるレベルである。 また、Windows起動中でも、フロントオペレーションパネルやリモコンは有効で、「TV」ボタンを押すと、「WinDVR 3 for TOSHIBA」が、「CD/DVD」ボタンを押すと「QosmioUI」が起動する。QosmioUIは、東芝オリジナルのマルチメディアアプリケーションランチャーで、ソニーの「DoVAIO」とコンセプトはよく似ている。
●高音質なステレオスピーカーを搭載Qosmio E10シリーズは、AV機能を重視したノートPCであり、映像(Visual)だけでなく、音(Audio)にもこだわっている。スピーカーとして、有名オーディオメーカー「Harman international」のharman/kardonステレオスピーカーを搭載。従来に比べて、スピーカー口径が18mmから30mmに大きくなり、低音再生域が大幅に向上。出力も2W+2Wと余裕があるため、大迫力のサウンドを楽しめる。 また、立体音響を実現するSRSサラウンド機能を搭載。DVD-Videoなどの5.1chソースを2つのスピーカーで擬似的に再現するほか、低音を無理なく再生するTruBass技術も搭載されている。 A4サイズノートPCなので、キーボードも余裕がある。キーピッチは19mmで、キーストロークは2.7mmと十分だ。キー配列も標準的なのでタイピングしやすい。ポインティングデバイスとしては、タッチパッドを採用。パッドの面積も大きく、使い勝手は良好だ。光学式マウスも付属している。
●D映像出力端子も装備インタフェース類も充実している。USB 2.0×4、IEEE 1394(4ピン)、外部ディスプレイ出力、S-Video出力、アンテナ入力、ビデオ入力、マイク入力、光デジタルオーディオ出力/ヘッドホン出力に加えて、D映像出力端子(D2対応)を装備していることがユニークだ(下位モデルでは省略)。テレビに接続して、DVDプレーヤー代わりとして使う場合でも、プログレッシブ出力が可能なので、より高画質での表示が可能になる。 PCカードスロット(Type2×1)のほか、SDカード/メモリースティック/メモリースティックPRO/xD-ピクチャーカードを直接挿入できるブリッジメディアスロットを装備していることも評価できる。PCカードスロットのフタは、ダミーカード式ではなく、内側に倒れ込むようになっているので、紛失する心配もない。 通信機能として、Ethernetと56kbps対応モデムを内蔵しているほか、最上位機種のE10/1KLDEWでは、IEEE 802.11b/g準拠の無線LAN機能とBluetooth機能も装備している。無線LANやBluetoothは左側面のワイヤレスコミュニケーションスイッチでON/OFFでき、動作状況を示すワイヤレスコミュニケーションLEDも用意されている。
●L2キャッシュが倍増されたことにより、高いパフォーマンスを実現参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMobileMark2002、SYSmark2002、Futuremarkの3DMark2001 SE、3DMark03、id softwareのQuake III Arena、スクウェア・エニックスのFINAL FANTASY XI Official Benchmark 2を利用した。 MobileMark2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEやQuake III Arena、3DMark03、FINAL FANTASY XI Official Benchmark 2では、3D描画性能を計測する。MobileMark2002については、電源プロパティの設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、それ以外のベンチマークについては、電源プロパティの設定を「常にオン」で計測した。 結果は下の表にまとめたとおりである。比較対照用にPentium M 1.50GHz(Baniasコア)を搭載したVAIO type S VGN-S70BとFMV-BIBLO MG75Gの結果も掲載してある。 E10/1KLDEWのMoblieMark2002のPerfomance ratingは171で、Pentium M 1.50GHzを搭載したVAIO type S VGN-S70BやFMV-BIBLO MG75Gに比べて1割程度高い。E10/1KLDEWに搭載されているPentium M 715も動作クロック自体は1.50GHzで同じなのだが、L2キャッシュが1MBから2MBに増えているため、パフォーマンスが向上しているのだ。 バッテリ駆動時間を示すBattery life ratingの値は141(2時間21分)とかなり短めだが、比較対照用に挙げている製品と違って、持ち歩いて使うための製品ではないので、問題はないだろう。公称駆動時間も約2.7時間でそれほど長いわけではない。 SYSMark2002のInternet Content CreationのスコアもVAIO type S VGN-S70BやFMV-BIBLO MG75Gに比べてかなり高い。ただし、Office Productivityのスコアはそれほど向上していない。 3DMark2001 SEでは、DirectX 9対応のGeForce FX Go5200を搭載しているだけあって、Intel 855GMEを搭載したFMV-BIBLO MG75Gの3倍近くのスコアをたたき出している。Quake III Arenaのフレームレートについても同様である。3D描画性能は、MOBILITY RADEON 9200を搭載したVAIO type S VGN-S70Bをやや上回る程度であり、MOBILITY RADEON 9600/9700搭載機にはかなわないが、ノートPCとしては高い3D描画性能を持っているといえる。 【Qosmio E10/1KLDEWベンチマークテスト結果】
●テレビ放送やDVD-Videoの画質を重視する人にお勧めQosmio E10シリーズは、東芝が満を持して投入したAVノートPCであり、テレビ放送やDVD-Videoの再生画質は非常に高い。リモコンの使い勝手も優秀であり、家電感覚で利用できる。 液晶の輝度も高く表示は見栄えがするのだが、解像度がXGAなので、複数のウィンドウを同時に開いたりするとやや解像度が足りないという印象を受ける。このあたり、仕事で使うためのマシンというより、ホームユースをターゲットとして設計されていることがうかがえる。 GeForce FX Go5200やDVDスーパーマルチドライブの搭載など、機能的にも充実しているので、さまざまな用途に対応できる。AV機能重視で、ノートPCを探しているのなら、ぴったりの製品だ。 □関連記事 (2004年8月23日)
[Reported by 石井英男]
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