いよいよ東芝の新ブランドPC「Qosmio」が8月6日から出荷開始となる。
今回の製品は、東芝にとって第5世代の節目の製品と位置づけられる戦略的意味合いを持ったものだ。 '85年の世界初のラップトップPC「T-1100」の発売を皮切りに、'89年に世界初のノートPC「Dynabook」を投入することでノートPC市場を牽引してきた同社は、'92年にカラー液晶搭載のノートPC、'95年にのWindows 95搭載PC、そして'96年には世界初のミニノートPC「Libretto」と先進的な製品を継続的に投入してきた経緯がある。Qosmioはそれに続く、5つ目のエポックメイキングな製品として捉えているのだ。 節目の製品であることを裏付けるように、Qosmioは海外では「TECRA」、「Satellite」、「PORTEGE」と並ぶ、独立した別ブランドとして定義されている。日本でも当初は「dynabook Qosmio」としているものの、将来的には独立したブランドへと発展させることを意識したものだという。 そしてもう1つ、この製品に課せられたのは、下期からのPC事業の黒字転換を実現するための牽引役、そして、近い将来における全世界のノートPC市場におけるトップシェア奪回のための礎としての役割だ。
東芝の2003年度のPCおよび周辺機器事業は220億円の赤字となった。同社では今年度、これを一気に黒字化することを計画しているが、そのための施策として、コモディティ製品と、脱コモディティ製品の2つを明確に切り分ける戦略を打ち出している。 コモディティ製品に関しては、台湾のODMベンダーとの提携強化によって、低価格を意識した製品を積極的に投入する考えを示している。現在、出荷台数では、約3割を占めるコモディティ製品だが、将来的には半数以上をコモディティ製品にする考えだ。シェア獲得という点では、この製品群が切り札となるのは間違いない。 一方、脱コモディティ製品は、同社が持つ先進的な技術を採用し、他社との差異化を明確に図る製品を指し、AV技術をふんだんに盛り込んだQosmioはその代表ともいえる。今後、小型ストレージ、通信技術、燃料電池などの技術を搭載した製品が投入されるのは間違いない。 「これまでは、ノートPC市場を広げることに力を注いできた。そのため、当社の技術も惜しみなく公開してきた。だが、米国でもノートPCの販売比率が高まり、市場競争が本格化し始めたことを考えれば、これからは当社の独自の技術はなるべく囲い込むことも必要だと考えている。より他社との差異化が可能になる」と、PC&ネットワーク社の社長を務める西田厚聰取締役執行役専務は語る。 ●AVとPCの融合を目指したQosmio Qosmioが目指したのは、PCとAVを融合したAV PCである。これは東芝の岡村正社長が中期経営計画の発表でも言及してきた言葉だが、最近ではAVノートPCという言い方を前面に打ち出しはじめている。 このAV PC(=AVノートPC)というのは、従来のTV PCとは一線を画したものだと同社では説明する。 「従来のTV PCは、PCにTV機能を“統合”したに過ぎない製品。TVの画質は、PCだから一般の液晶TVよりも劣っていても仕方がないという認識だった。だが、AV PCはTVの画質も一定の基準に到達し、液晶TVと比較しても遜色がないレベルの品質を実現することを目指した。まさに、PCとAVが“融合”したもの」と、東芝PC&ネットワーク社PC第一事業部PCマーケティング部 長嶋忠浩部長は、AV PCの狙いを語る。 同社は2001年10月の段階で、PCの主力工場となる青梅工場の中に、デジタルメディア開発センターを設置した。同センターでは、他社に先駆けPC部門とAV部門の技術者を1つの建物の中に集結させることで、ホームサーバーを始めとするAV技術を取り入れたPC製品群を世の中に送り出してきた。今回のQosmioの製品化にあたっては、これを一歩進展させたといえる。 具体的には、Qosmioプロジェクトを発足させ、青梅工場のPC技術者の約半数にあたる50人がこれに参加。同時に、同プロジェクト内に「PC画質改善委員会」を設置して、PCとAVの技術者が週1回以上集まって、PCの画作りについて、侃々諤々の議論を繰り広げた。 特に、PC画質改善委員会は、PC&ネットワーク社副社長の吉田信博執行役常務を委員長とするほどの力の入れようで、社内の関係者によると、東芝社内では「TVの神様」とも呼ばれるAV関連技術者までもが、委員会に参加して、東芝が薄型TV「FACE」などで培った映像ノウハウを、今回のQosmioの画作りのために注入したという。 もちろん、音に関してもこだわりを持った製品化が進められた。 同社では、従来製品からharman/kardonのステレオスピーカーを搭載しているが、Qosmioでは、従来の約2倍となる30mmの大口径化によって、最大出力、最大音量を向上。さらに低音250Hzまでの再生を可能にすることによって再生音域を拡大した。これも液晶TVに負けない音質を実現するために同社が取り組んだ課題だったといえる。 そのほか、キーボード部分を操作性を損なわないまま、極力、フラットな形状とし、DVDなどの再生時にキーボードが、目に煩わしく映らないように配慮するなどの、AV機器としての完成度を追求した改善にも取り組んでいる。 ●世界戦略を担うQosmio 実はQosmioの最初の製品コンセプトは、昨年8月に発売したTV機能搭載ノートPC EXシリーズの後継機という位置づけだった。つまり、PCにいかにAV機能を付加していくか、ということを想定した製品でしかなかった。 だが、昨年9月に、東芝の岡村正社長自らが発表したPC事業の抜本的改革策に則り、製品コンセプトの見直しが図られ、EXシリーズの後継機とはまったく異なる製品コンセプトへと大きく転換したのだ。 そのコンセプトの転換によって、先にも触れたようにAVとPCの機能を融合したAV PCとしての完成度を追求するための体制づくりが行なわれるとともに、もともと国内だけを対象としていた市場ターゲットを、海外戦略を強く意識したものへと移行することになったのである。 海外戦略を強く意識した製品づくりとしては、例えばチューナがある。Qosmioに搭載するために新開発したチューナは、日本だけを対象にしたものではなく、欧州や米国でも利用できるように、PAL方式などの各国の放送方式にも対応。1つのチューナで、全世界への展開が可能な設計とした。これによって、地域ごとにチューナを開発することなく、しかも、世界規模での出荷台数を見越した量産効果が期待できるようになるのである。 これも当初の日本市場だけをターゲットとしたEXシリーズの後継機というコンセプトのままでは考えられなかった手立てだといえる。 ●来年、ノートPC投入20周年を迎える東芝 Qosmioは、今回の製品を第1弾として、3つの方向へ進化を図ろうとしている。 1つは、ブロードバンドAVコンテンツを実現するパーソナル端末、2つ目は屋外に持ち出して利用するモビリティ型の端末として、そして3つ目は家庭内におけるAVコンテンツの一元管理を実現するホームサーバーとしての方向性である。いずれにおいても、基本コンセプトとして、AV機能を徹底的に追求した物作りを目指すということに変わりはない。 特に、家庭向けのパーソナル端末としては、家庭内の無線LAN環境などを利用しながら、ネットワークでAVコンテンツを閲覧するための個人専用機としての普及を図る考えだ。 同社では、リビングに置かれるTVは、液晶やプラズマ、あるいは同社が2005年以降に投入するSEDによる大型の薄型TVが主流になると考えている。だが、個人ごとにそれぞれの部屋で閲覧するために利用する機器には、AV PCが最適だと位置づけているのだ。 「20型を越えるものは、家庭用TVの事業部門が担当する。そして20型以下は、PC事業部門が担当するという考え方もできる」と、西田取締役執行役専務は話す。 もちろん、TV事業部門からも20型以下のTVは引き続き投入されるだろう。だが、個人が楽しむという点では、ブロードバンドにも接続でき、AVのコンテンツをネットワークで自由に持ち運んで利用でき、それでいて画質/音質がTVに劣らないAV PCの方が最適であるというシナリオを東芝では想定しているのだ。 これを浸透させるのは、TVとAV PCの価格差を埋めるだけの付加価値を提供できるかどうか、という点にかかっているといえよう。ここにQosmioの大きな挑戦があるといっても過言ではない。 東芝が第5世代という節目の製品として放ったQosmioは、果たして家庭の中に浸透することができるのか。 来年、東芝は第1号ノートPCとなった海外向けノートPC T-1100の市場投入から20年目を迎える。記念すべき20周年を笑顔で迎えることができるのかどうかは、このQosmioの成否にかかっているともいえるだろう。 □関連記事【7月22日】東芝、新グローバルブランドPC「Qosmio」発表会 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0722/toshiba2.htm 【7月22日】東芝、新ブランドAVノートPC「Qosmio」 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0722/toshiba1.htm (2004年8月2日)
[Text by 大河原克行]
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