PalmOneが4月28日に発表した「Zire 72」は、Intelの最新XScaleプロセッサ「PXA270(Bulverde)」を初めて採用したPDAだ。 Zire 72は、以前このコーナーで紹介した「Zire 71」の後継にあたる。Zire シリーズは一般向けの普及クラスの機種だが、120万画素のデジタルカメラを内蔵しており、メモリ32MB、320×320ドットのカラー液晶を装備している。 米国での予想小売価格は、299ドル。WinHEC取材時に、シアトル郊外のFry's Electronicsで入手した。 ●落ち着いた外観 Zire 72は、ブルーと銀の匡体を持つ。従来機種であるZire 71も同様だったが、72には濃いブルーが使われており、また銀色の部分は金属感があるがつや消しで、Zire 71に比べると落ち着いた雰囲気になっている。 ブルーの部分の塗装はしっとりとした手触りの塗装になっており、プラスティックながら、ツルツルした感じはない。また、背面のレンズのまわりには、パンチングメタル(穴を打ち抜いた金属板)が使われている。この部分には、スピーカー、マイクが内蔵されているが、昔のポータブルラジオ風である。 Zire 71では背面部分がスライドしてレンズ部分をカバーするようになっていたが、Zire 72にはそうした機構はない。レンズ部分は少し窪んでおり、さらに保護用らしき透明なカバーが組み込まれているため、レンズを破損してしまうようなことはないと思われる。もっとも、うっかり保護カバー部分を指で触ってしまうことはありえるので、注意は必要だが。 側面からみると、全体は、なめらかなカーブで構成された2つの面を合わせたような形になっているが、背面上部にあるパンチングメタルの部分が四角く出っ張った格好になっている。 Zire 72は、Graffiti領域を持つ、スタンダードなPalm機のスタイルで、前面には、4つのハードウェアボタンと5way Navigationキーがある。4つのハードウェアボタンは、「スケジューラ」、「アドレス帳」、「カメラ」、「MP3プレーヤ」に割り当てられており、それらを意味するイラストが印刷されている。また、本体側面には、ボイスレコーダ用のボタンがある。液晶は、320×320ドットTFTで、16bitカラー表示。 Zire 72で大きく変わったのは、本体底面部分である。従来のPalm機では、ここにUSBや電源などをまとめたPalm Universalコネクタが装備されていたのだが、このZire 72は、底面にUSBミニBコネクタとACアダプタ用コネクタが装備されている。つまりこの機種は、従来のクレードルも利用できないし、その他のシリアルインターフェースを使う周辺機器も接続ができない。 もっともクレードル以外は、現在では外付けキーボード、アナログモデム程度しか周辺機器はなく、あまり困ることもないと思われる。またPalmOneは、IrDA接続の外部キーボードを製品化しているので、外付けキーボードは利用可能だ。
付属のスタイラスは、プラスティック製のもので、右側面にスタイラスホルダがある。Tungstenシリーズで使われている伸縮式の金属スタイラスは利用できないが、太さは、Palm Vなどで使われていたものと同じであり、同じ太さのサードパーティ製スタイラスなら装備できそうだ。このほか本体上部にSDカードスロット(SDIO対応)、電源スイッチ、IrDA、ステレオヘッドホンジャックを装備している。 ●ソフトウェアは地道な改良が続く Zire 72のPalm OSは5.2.8で、Tungsten T3よりもバージョンが上がっている。それに伴い、内蔵ソフトウェアなども少し変更されている。標準PIMソフトは「Calendar」、「Contacts」、「Memos」、「Task」などで、Tungsten T3と同じくOutlookと互換性を高めたアプリケーションが採用されている。また、アドレス帳であるContactsに関しては、登録項目に画像を入れることができるようになった。
画像を管理するアプリケーションは「Media」という名称となり、静止画像だけでなく動画も扱えるようになった。Tungsten T3にあった画像ブラウザ「Photo」に比べて、画像の拡大縮小表示や、スタイラスによる書き込みなどが可能になっている。サムネイルの表示や画像の拡大縮小もスムースに行なわれる。 PXA270は、WirelessMMXが使えるため、メディア関連の処理に有利である。デジタルカメラで撮影した2,080×1,560ピクセルの画像を表示する際に、400MHzのPXA255を搭載するTungsten C/T3では、描画しているところが見えるような表示になるのに対して、Zire 72では瞬時に表示される。液晶は320×320ドットではあるが、拡大表示が可能なので、画像の細かい部分をみることもできる。この程度のパフォーマンスがあれば、デジカメの画像を確認する用途にも使えそうである。 Mediaは、複数画像をアルバムとしてまとめ、アルバム単位でSDカードにコピーしたり、IrDA、Bluetooth経由で送信する機能も搭載されている。BluetoothでGSM系携帯電話と接続した場合には、MMS(MultiMedia Messaging System。SMSのマルチメディア版)で送信することもできる。 このところのPalmOneの製品は、ソニーの「CLIEオーガナイザー」のような大物ソフトが搭載されることはないが、内蔵ソフトウェアの細かな改良を続けており、徐々にではあるが機能が向上し、使い勝手も良くなっている。たとえばアドレス帳にある電話番号やメールアドレス、Webサイトなどの登録項目を使って、ダイヤラー、Webブラウザ、インスタントメッセンジャー、地図ソフト、電子メール、SMS/MMS送信といったソフトを起動するできるようになっている。もちろん、対応ソフトウェアやインターネット接続は必要になるが、すでに登録してある情報を有効活用するという点ではPC用ソフトウェア以上の出来である。
●120万画素カメラは? このZire 72は、120万画素(1,280×960ピクセル)のデジタルカメラ機能を持つ。撮影は、同ドット数の静止画のほか、最大320x240ドットの動画撮影も可能だ。 カメラ機能としては、ホワイトバランス(オート、白熱電球、蛍光灯、デイライト)やデジタルズーム(2倍)、増感機能などがあるほか、コントラストや明るさ、シャープネスなどを設定する機能もある。 動画は、SDカードにしか記録できず、記録はASF形式となる。音声も同時に記録し、ファイルはそのままWindow Media Playerで再生できる。 カメラの起動は、3秒程度、シャッターボタンを押してから、4秒で撮影が終了し次の撮影が可能になる(外部SDカードへの書き込み時)。プレビュー表示は、VGA解像度だったZire 71とほとんどかわらない。少しギクシャクするものの、それなりの速度で表示されている。使用感としては、2世代ぐらい前の普及価格帯のデジカメ程度だ。解像度は120万画素で、風景を入れて記念写真を撮っても、人の顔がちゃんと判別できる。 ただ、クオリティとしてはいまいち。細部で色のにじみが見られたり、室内撮影だとノイズが目立つ。また、ホワイトバランスをデイライトに指定しても、少し赤みがかった画像になってしまう。画質的には、トイカメラ程度である。あまり明るくないところでも撮影が可能なので、メモ的に使うには便利だ。 撮影画像は、外部SDカードに書き込む場合には、JPEG形式となるが、内蔵メモリの場合には、Palmのデータベース形式となり、HotSync後にPalmDesktop側でJPEG形式に変換する。ただ、残念なことに生成されるファイルは、Exif形式ではないため、撮影時間などが記録に残らない。ファイル名に日付と通し番号を入れる機能はあるのだが、あとはSDカードに記録させてファイルのアトリビュートとしての最終変更日時としてしか記録が残らない。デジカメは、撮影日時が自動的に記録されるのがメリットの1つ。できれば、時分秒を含めたファイル名にするか、Exif形式で保存してほしいところ。
●PXA270のパフォーマンス PXA270を採用したPDAは、米国でDellも発表しているが、このZire 72は、4月28日発表であるため、一応、世界で初めてPXA270を採用した機種となる。 PXA270はさまざまな面で強化されており、同クロックのPXA255よりも性能が向上しているという。実際にさわってみても、400MHzのCPUクロックを持つTungstenT3やCに比べて遅さを感じさせないばかりか、デジカメ画像の表示などではむしろ高速である。体感速度的には、400MHzのPXA255と同等以上という感じである。 カメラ機能は、おそらくPXA270が持つQuick Captureを採用していると思われる。Quick Captureには撮影素子からのデータをLCDに直接表示させるプレビュー機能があるので、120万画素という高解像度撮像素子を使いながら高速なプレビューが可能なのであろう。 またPXA270は、SDカードのインターフェースが4bitになり、高速転送が可能になった(PXA255は1bit)。ためしに合計で1.3MBになるアプリケーションを、メインメモリとSDカードの間で転送してみた。その結果が(表1)である。 比較対象にしたのは、同じXScaleファミリのPXA255 400MHzを採用した「Tungsten C」である。ApplicationにあるCopyメニューを使い、1.3MBのアプリケーションプログラム(付属データを含む)をメインメモリからSDへ(Write)、SDからメインメモリへ(Read)とコピーし、その時間を手動で測定した。 すると、どの場合も、Zire 72のほうが高速という結果が出た。CPUクロックで見れば、Zire 72のほうが88MHz低いが、SDカードインターフェースの違いなど、デバイス自体として見るとPXA270はPXA255よりもパフォーマンスが向上しているようだ。 ちなみにTungsten T3(400MHz PXA255)では、同じファイルの読み込み(Read)でも、23秒程度とTungsten Cよりも遅かった。T3とCは同じ400MHzなのだが、どうも内部動作は違うようである。
●Zire 72の中身は? さて、Zire 72だが、中を開けてみると、以下のようなデバイスから構成されている。
また、これに加え、音源チップや電源コントロールIC、バッテリ充電用ICなどが搭載されている。メイン基板は、バッテリ部分を切り欠いたような形になっており、筐体内部にぴったりとはまるようになっている。スイッチやハードウェアキーもすべてメイン基板上に配置されている。 基板の表(匡体内で液晶側になる方)には、CPUやメインメモリ(RAM)、Bluetoothモジュールなどが配置されており、背面には、フラッシュメモリやSDカードスロットなどがある。 CPUは、BulverdeであるPXA270。デバイスには、「PXA270C0C312」という印刷がある。これは「PXA270のC0ステップ、産業用温度等級(一般製品用)、クロック312MHz」という意味だ。 この面には、AC97互換の音源デバイスが載っている。正面(液晶側)から見て右上、金属板でシールドされたBluetoothモジュールの反対側である。これは、Wolfsen MicroelectronicsのWM9712で、このデバイスは、スピーカやマイク用のアナログ回路などを含んだもの。内部にはミキサやAD/DAコンバータなどが入っているが、MP3などのデコード回路は含まれない。PXA270は、ある程度のパワーがあるため、デコードなどはCPU側でやっていると思われる。RAMには、Samsungの128Mbit SDRAM(モバイル用)K4S381633Dを2つ搭載している。合計容量は16bit×8Mword×2個=32MBである。 背面側には、Intelのフラッシュメモリ(28F640J3)があり、これは、64Mbit(8MB)の容量がある。そのほか、こちら側には、XScale用の電源コントロールIC(Maxim社のMAX1586B)やバッテリ充電用のIC(同MAX1874)が配置されている。この充電用ICは、ACアダプタだけでなく、USBの電源ライン経由でのバッテリ充電を行なう機能を持っているのだが、Zire 72ではその機能は使われていない。 Zire 72は、カメラ内蔵で、そこそこの性能があり、オールラウンドに使える普及機種である。Palmの本来の姿を継承したPDAといえる。予定やToDOの利用が中心で、MP3や画像も、といった使い方なら困ることはないだろう。国内での正式販売は今のところ望めそうにないが、輸入品という形で国内でも入手は可能だ。 □関連記事 (2004年5月31日)
[Text by 塩田紳二]
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