コンパクトデジカメについては、撮像素子が小さく、ラチチュードが狭いといった欠点を指摘される場合が多いのだが、逆に利点として、明るく、高倍率のズームレンズを、小さく、安く、軽く作ることが出来るメリットもある。 それを生かして大人気なのが10倍ズームつきのデジカメである。今年、多くのメーカーがこの路線に参入し、各社出そろってきた10倍以上のズームつき機種だが、京セラからも沈胴式レンズを搭載するFinecam M400Rと、レンズが沈胴しないことで高速起動するFinecam M410Rが発売された。 ここではM400Rの実機をレビューした。 ●外形など 外形的には、オリンパスのCAMEDIA C-750 UltraZoom(C-750UZ)によく似ている。サイズ的にも同じくらいだ。C-750UZには外部ストロボ用のホットシューがあるが、M400Rにはなく、レンズはM400Rの方が明るいといった違いはあるものの、全体的に形はよく似ている。 M400Rには大きく張り出したグリップ部がついており、ホールディング性により配慮されている。パワースイッチはボディ上部、ストロボの脇についている。 モード切替ダイヤルは、セットアップ、再生、オート、オート連写、シーンモード、エキスパートモード、動画の切り替えを行なう。オートモードではセルフタイマーと、画素数、圧縮率の切り替えが出来るのみ。オート連写にすると、このほかに秒3.3コマの高速連写か、AFを行ないながら連写するモードかの切り替えが加わる。AF連写は被写体次第ではあるが、最大で秒2コマまで可能だという。 シーンモードはスポーツ、ポートレート、夜景、夜景ポートレートの4種類。最近は、様々な撮影シーンに対応するべく、20~30種類ものシーンモードを搭載する機種も増えてきている。しかし本機は10倍ズームのため、おそらくは動物園とか、運動会とか、スポーツ観戦などの用途を重視する人が購入するものと思われる。シーンモードが多いことはよいことではあるのだが、多いことが煩雑で面倒に感じることもあり、上記のような目的を限定したユーザー層を想定して、あえて少なくしてあるのかもしれない。 ストロボは背面のスイッチで行なう手動のポップアップ式。使いたいときにポップアップさせれば良く、逆に使いたくないときには閉じればよいのでわかりやすく、好ましい方式だ。 ズームレバーは背面に独立して装備されている。コンパクトタイプの場合には、シャッターボタンの周りにズームレバーが装備されている方が、ズーミングから撮影が素早く行なえて使いやすい。おそらく初心者をターゲットとして、細かくズーミングして撮影する人よりは、画角を決めてから撮影する人が多いと想定して、こちらの方式を採用したものだろう。 起動速度はゆっくりめ。3月にフォトエキスポで見たときには起動がきわめて遅く、これではM410Rを作るのも無理はないと思われたが、だいぶ改良されたのか、テスト機では起動は5秒ほど。我慢できないほど遅いわけではなくなった。 ●モニタは小さいが、EVFは見やすい ファインダーは液晶モニタとEVFの切り替え式。液晶が1.5型と小さいのが今時のデジカメとしては物足りないが、EVFの見え方はなかなか良い。視度補正もついている。セットアップの中で、起動時にEVFを使うか、液晶を使うかを選択するようになっているが、EVF/LCDの切り替えボタンで切り替えることもできる。 露出補正ボタンは独立しており、押すとリアルタイムヒストグラムも同時に表示されるので、露出補正の目安となる。ただ、露出補正ボタンを押しておいてメニューボタンを押すとメニューが表示されるのだが、その逆にメニューの表示中は、一度メニューを消さないと露出補正が行なえない。せっかく露出補正ボタンが独立しているのに、これではメニューの中に露出補正があるのと、操作性が変わらない。メニュー表示中でも、露出補正が行なえるようにするのが望ましかった。 ●高速なAF レンズは、KYOCERAブランドのズームレンズ。焦点距離5.7mm~57mm。35mm判カメラ換算で約37mm~370mm相当、明るさがF2.8-3.1。最短撮影距離は、マクロモードにして、ワイド側が10cm。テレ側で90cm。10倍ズームつきの中でも、比較的明るいレンズを搭載している。 M410Rのみ、レンズ前面に専用アダプターリングを装着すれば52mmフィルター、レンズコンバーターの使用が可能だ。コンバーターを使いたい人はM410Rをチョイスすればよいのだが、ちょっとした工夫でM400Rでもコンバーターを使うことは可能であったと思われるので、いささか残念なところだ。 十字型に配置されたボタンでは、上がストロボモード、下がマクロ、無限遠の切り替えになる。無限遠設定を省略しているデジカメもあるが、飛行機や鳥、あるいは打ち上げ花火の撮影では無限遠の設定は必要である。背面の最下部にあるディスプレイボタンで、露出補正モードにしなくても、常時ヒストグラムを表示することが可能だ。 オートフォーカスは、意外といっては何だがかなり速い。また精度も良く、この点に感じては十分合格点を与えられる。最高秒2コマというAF連写から見ても、最短では0.5秒以下でAFが合うと言うことだ。実感としては、10倍ズームつき機種の中で、コニカミノルタのDiMARGE Z2のジェットAFについでAFが速い印象を受けた。
●電池と書き込み速度 電源には単三型乾電池を4本使用する。アルカリ電池、ニッケル水素充電池などを使用できるが、CR-V3は使えない。バッテリーの持続時間の参考に、今回まず最初に話題の新製品であるパナソニックのオキシライド乾電池を使用してみた。次に日立マクセルから発売になった新型のアルカリ乾電池、イプシアルファを使用した。この間、液晶とEVFは半々程度の使用。ズーミングやメニュー操作は頻繁に行ない、フラッシュはほとんど使用していない。撮影中電源はオンのまま。メディアはサンディスクの256MB SDカードを使用した。 結果的にオキシライドは107分間で295枚。イプシアルファは95分で136枚の撮影が行なえた。枚数的にはオキシライドが圧倒的に多いが、これは連写を多用したためで、参考にはしない方がよい。むしろ使用可能時間がオキシライド107分、イプシアルファ95分であったことを重視したい。いずれにしても今回は電池そのもののテストではなく、使用条件も違い、それぞれ1回しかテストしていない。これらの電池を使えば、M400Rは1時間半から2時間弱程度の使用が可能なのだと、理解されたい。 その後はニッケル水素充電池を使用しているが、やはりニッケル水素充電池の方が使用可能時間は長いように思われるので、費用の面から見ても、普段はニッケル水素充電池の使用をお薦めする。カメラ映像機器工業会ガイドラインに基づく撮影画面数は、新品単3形アルカリ電池使用、常温で約100画面である。 パナソニックの10M/bps SDカードなどの指定されたカードでは、メディア容量いっぱいまで連写が行なえる。指定外のサンディスクの256MB SDカードを使用した場合は、スムーズな連写は4枚まで。その後は1秒に1コマ程度の撮影になるが、4枚撮影した時点から書き込み終了までの時間は3秒程度。これなら通常の撮影では、どのSDカードでもストレス無く使用できる書き込み速度だ。 ●もう一工夫ほしいセルフタイマー カラーモードは、カラー、白黒、セピアの3種類。彩度、コントラストは標準のほか、プラス、マイナスに設定が可能。シャープネスは5段階に設定できる。フォーカスはスポットとワイドAFの切り替え。長時間露光はメニューから、2秒、4秒、8秒の設定が出来る。測光モードは評価測光、中央重点、スポットの3種類。AEモードはプログラムと、絞り優先、シャッター速度優先が選べ、絞り優先とシャッター速度優先では、十字ボタンの左右のキーでそれぞれの設定値が変更できる。 ドライブモードは単写、高速連写、AF連写と、3枚のオートブラケット撮影が行なえる。オートブラケットでは、ワンシャッターで3枚連写してくれるので、使いやすいだろう。
画質はファインとノーマル。画素数は2,272×1,704ピクセルのほか、1,600×1,200/1,280×960/640×480ピクセルが選択可能。 セルフタイマーは2秒と10秒の切り替えだ。2秒というのは、三脚に据えて長時間露光などを行なう場合、シャッターを押すときにカメラがぶれてしまうことを防ぐのに使うもの。ただ、10秒のセルフタイマーと違い、2秒の場合はこのような使い方をするので、連続して何枚も撮影することが多く、その都度セルフタイマーモードがリセットされてしまうのは不便。この仕様は他社も同じことなのだが、一工夫あればさらによかった。
●VGA動画撮影が可能 動画は、320×240ピクセルと、640×480ピクセルの2サイズ。それぞれ15fpsと30fpsの撮影が行ななえる。指定されたSDカードを使用した場合には、メディア容量いっぱいまで撮影が可能。 サンディスクの256Mのカードを使用した場合、640×480ピクセルでは15秒ほどで撮影がストップしてしまうし、画像そのものもややもたつく感がある。640×480ピクセルで撮影する場合は、指定されたSDカードの使用をお薦めする。それ以外のカードでも、320×240ピクセルでは、問題なく撮影できるようだ。
【お詫びと訂正】記事初出時、撮影時の動画ファイルではなく、加工後の動画ファイルが掲載されておりました。現在掲載されているものは、リネームのみを行なった、撮影した動画ファイルそのものです。お詫びするとともに訂正させていただきます。 ●メニュー メニューの操作性はまあまあだ。可もなく不可もなし。基本的にメニューと言うものには素早い操作を求めない項目を集めてあるはずなので、本機のメニューボタンを押し、左右キーで項目を選び、セットボタンを押し、上下キーで内容を選ぶ方式でも大きな減点とは思わないが、中間のセットボタンを省略して、項目を選んだらそのまま上下キーで設定内容を変更できても良かっただろう。 ただ問題なのは、メニュー表示を出してあると、先に述べた露出補正や、マクロモードへの切り替えなどが行なえず、一度メニューボタンを押して消す必要がある。この点はマクロや露出補正を独立ボタンにした意味合いが薄れてしまうので、改善の余地がある。
●A4サイズまでの印刷なら実用的 撮像素子は、有効画素数400万画素、1/2.7型正方画素原色フィルターインターレース読み出し方式CCD(総画素数423万画素)である。撮像素子が小さいと、高性能レンズを小さく作れるので価格も安く、カメラ全体も小さくなる。背景がぼけにくい代わりに、ピンぼけも起こしにくいし、マクロにも強い。画素数が多くなればより精密な描写が可能だ。 フィルムのコンパクトデジカメとは、比較にならないほど高性能なコンパクトデジカメが、作れるのである。皆さんが手にするごく普通のデジカメでも、フィルムのコンパクトより遙かに明るく高性能なレンズで、マクロに強いのである。そのため小さい撮像素子で画素数を上げることも、一概に否定するわけにはゆかない大きなメリットがある。 とはいうものの、さすがに1/2.7型で400万画素ともなってくると、画素の小型化による感度低下、ラチチュードの狭さ、すなわち白飛びを起こしやすいといったデメリットも、無視するわけにはゆかなくなる。 今回試用してみると、危惧したほどには白飛びを起こさない。やはり技術は進歩しているわけで、画素数が増えてデメリットだけがどーんと出てきたというわけではない。それなりの対策は行なわれており、ほどほどの所には収まっている。 ただ全体に色乗りが薄く、かなりあっさり目の味付けに思える。また感度設定が、AUTO、ISO100、ISO200、ISO400、ISO800相当となっている。本来このくらい小さい画素であれば、ISO50、あるいは25などの感度設定が好ましいと思えるのだが、10倍ズームのため感度を低く設定すると手ぶれが心配になる。そのため最低感度でもISO100であり、撮像素子の大きさから考えると、かなり高感度な設定となっている。 高感度設定で気になるノイズだが、ISO100でもモニタで見ると暗部にノイズが目立つ。ただ、他の機種でも一般的に言えるのだが、モニタで見るのと印刷するのではかなり印象が違うもので、ISO100でもA4印刷では特にノイズが多いという印象は受けず、実用になる画質である。本機の購入者は、400万画素の機種を選ぶ以上は印刷にも重点があるものと思われるので、Webサイトでのみノイズを判断するのではなく、実際に印刷してみて判断をされた方がよいだろう。 ただしISO200、400となるにつれてどんどんノイズは増えてくる。目的、被写体次第ではあるが、ポートレートや赤ちゃんの肌などを対象とするなら、ISO100固定で使用された方がよい。被写体が動物園であるとか、印刷サイズが小さい場合には、ISO200、400でも実用になる場合がある。しかしISO800まで増感すると、相当ノイズが増えてしまうため、非常用と考えた方がよい。ISO800まで使えるという理由で本機を選択するのは、お薦めとは言い難い。 AFの速さ、正確さ、書き込みの速さなど評価できる。白飛びも良くコントロールされている方だ。ただし増感時にはノイズが増えてくるので、そのあたりをどう考えるかが、選択のポイントになるだろう。10倍ズームなのでレンズはどうしても大きく、沈胴式といってもポケットに入るような小ささにはならない。とすれば、個人的には起動の速いM410Rの方が好ましいように思える。 □京セラのホームページ ■注意■
(2004年5月19日) [Reported by 安孫子卓郎]
【PC Watchホームページ】
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