ソニーのVAIO type Aは、従来バイオノートGRシリーズとして発売されていたハイエンドノートPCの後継となる製品で、VAIOノートのフラッグシップとなるハイエンド製品だ。 CPUには、10日に発表されたばかりのPentium M 735(1.70A GHz)が、液晶には17型ワイドが採用されPCとしてのスペックとしてはもちろん、バンドルされている「AVパワーアップステーション」を使えばTVの録画が可能など、フラッグシップとしてふさわしい設計となっている。 今回レビューに試用したのは最上位モデルのVGN-A70Pという、Pentium M 735(1.70A GHz)を搭載した製品だが、CPUには実際の製品と異なるBaniasコアのPentium M 1.70GHzが採用されていた試作製品であったため、ベンチマークテストなどは行なっていない。他の部分でも、実際の製品とは異なる場合があることをお断りしておく。 ●“巨大”という形容がふさわしい超弩級ノートtype Aの第一印象は、“巨大”だ。何人かに見せても、最初の一声は「でかい」とか「でけぇ~」で統一されていた。 本体に17型ワイド液晶を搭載しているだけに、横幅も大きく、アップルのPowerBook G4の17型モデルと並ぶ最大級のノートだろう。 ちなみに本体サイズは、約405.5×280.1×42~45.2mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約3.9kg。AVパワーアップステーションのサイズは約370×198×63mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約1.7kg。さらにあとで触れる外付けスピーカーも付属しているので、設置面積はそれなりのスペースが必要だ。 もちろん、この大きさは、単なるこけおどしではなく高品質なAV機能を実現するためのものだ。では、本体から順番に機能を見てみよう。 ●CPUはモバイルPentium 4からPentium Mへと変更VAIO type A(以下本製品)と、従来のバイオノートGRシリーズの最上位モデルであったGRTシリーズを比較した主な違いは、以下のとおりだ。
CPUは従来製品であるGRTがHTテクノロジに対応したモバイルPentium 4 3.20GHzであったのに対して、本製品ではPentium M 735(1.70A GHz)へと変更されている。 前者はメディア処理などの処理能力は高いものの消費電力が大きく、シャシーを大型化しなければならないうえ、バッテリ駆動時間が短い。後者は消費電力が低くシャシーの小型化とバッテリ駆動時間の延長が可能だが、クロックは低く、HTテクノロジーに対応していないため、動画エンコードなどの用途でモバイルPentium 4にくらべて処理能力が低くなる。 本製品がメディアファイルの作成や編集という用途に利用されることを考えると、CPUがPentium Mに変更されたのはやや不思議に思えるかもしれない。 おそらく、CPUの変更はデザイン上の理由だと考えられる。本製品では、バイオノートZシリーズのデザインに似た、スタイリッシュな流線型のデザインを採用している。こうしたデザインは格好は良いものの、熱設計の観点からはあまり好ましいものではない。熱設計の効率を良くするのであれば、本体を厚くして大型のヒートシンクを内蔵させる必要があるからだ。 もちろんPentium Mに変更することで、バッテリ駆動時間は伸びている。従来モデルのバッテリは14.8V、4Aで59.2Whという電力量だったが、本製品では11.1V、4Aで44.4Whという電力量になった。バッテリ駆動時間はGRTがメーカー公称値で1.5~2時間であるのに対して、本製品では2.5時間となっており、バッテリ容量が減っているのにバッテリ駆動時間は延びている。つまり、CPUやチップセットなど周辺部分を含めて変更した効果がここにでていると考えられる。 なお、HDDに関してもハイエンドにふさわしく5,400rpmの「HTS548080M9AT00」が採用されており、容量は80GBとなっている(パーティション構成はCドライブ15GB、Dドライブ65GB)。 光学ドライブはソニー製のDW-U55Aが採用されている。DW-U55AはDVD+Rが最大2.4倍速、DVD+RWが最大2倍速、DVD-Rが最大4倍速、DVD-RWが最大2倍速で書込可能なDVD±RWドライブだ。 また、メインメモリは標準で512MBのSO-DIMMがキーボードの下にあるメモリソケットに挿入されており、本体底面に用意されているSO-DIMMソケットを利用して増設することができるほか、標準の512MBを1GBモジュールに交換して、さらにもう1つの1GBモジュールを増設することで最大2GBまで増設可能だ。
●従来製品では本体側にあったTVチューナをドッキングステーションに移動そしてGRTシリーズからの2つ目の大きな進化点が、“AVパワーアップステーション”と呼ばれるドッキングステーションがバンドルされていることだろう(最下位モデルのVGN-A50Bには付属しない)。 従来モデルのGRTでは、TVチューナとMPEG-2エンコーダチップを搭載したTVチューナモジュールが本体に内蔵されていた。ところが、本製品では、TVチューナとMPEG-2エンコーダチップを搭載したTVチューナモジュールはAVパワーアップステーションに搭載された形となっている。なお、AVパワーアップステーションと本体は電源を入れたままの取付、取り外しが可能で、使い勝手は良好だ。 このため、従来モデルではバッテリ駆動状態でも、TVチューナモジュールがONになっていたが、本製品ではACアダプタに接続されている状態、つまりAVパワーアップステーションに接続している時だけTVチューナが利用可能になった。 つまり、バッテリ駆動時には使用頻度の低いTVチューナに無駄に電力を消費されることが無くなるのだ。ただし、実際にはこうした構造にしたことで、別の問題を抱えることになる。というのも、取り外せてしまうので、例えばテレビ予約をした時間になっても本体をAVパワーアップステーションにドッキングするのを忘れていた時には、せっかく予約をしていても録画できなくなってしまう。 従って、実際にはあまりAVパワーアップステーションからは取り外さず、たまに取り外しても、用が済んだらすぐに戻す、という使い方が前提になっていると言えるだろう。 なお、意図しない取り外しを防ぐためにAVパワーアップステーションにはロックスイッチも用意されている。テレビを予約しているときなどには、家族などが誤って取り外さないよう、ロックスイッチで本体をロックしておくとよいだろう。 内蔵されているTVチューナモジュールは、前モデルのGRTと同じように3次元Y/C分離回路やデジタルノイズリダクションなどの高画質化の回路を搭載したもので、ノートPC用としては高画質が実現されている。 なお、ノートPCとしては珍しく、Sビデオ/コンポジット入力だけでなく、Sビデオ/コンポジット出力端子が用意されており、本体で再生可能な動画を外部テレビに映し出すことが可能になっている。 このほかAVパワーアップステーションにはパラレルポート、USB 2.0×4、スピーカー端子、オーディオ入出力、光デジタル出力(角形)、Ethernet端子、アナログRGB、DVI-Dなどの端子が用意されている。
●ノートPCとしては最大級の17型ワイドWUXGA液晶を採用本製品の3つ目の強化点が、液晶ディスプレイだ。従来のGRTでも16型/UXGA(1,600×1,200ドット)の液晶が搭載されており、WindowsノートPCとしては最大級の部類に属していたが、本製品ではさらに17型ワイドに大きさが引き上げられ、解像度もWUXGA(1,920×1,200ドット)となった。液晶がワイドになった分、ドット数が増えた形だ。 液晶は従来製品と同様のクリアブラック液晶が採用され、ノートPC用の液晶としては明るめのものとなっている。さらに今回は液晶の下部に“ルミナスセンサー”と呼ばれる明るさを感知するセンサーが入っており、液晶ディスプレイの輝度を“自動”に設定しておくと、センサーが周りの明るさを感知し、液晶ディスプレイの輝度を自動的に調節してくれる。 GPUはATI TechnologiesのMOBILITY RADEON 9700が採用され、ビデオメモリは64MBが搭載されている。MOBILITY RADEON 9700は、デスクトップPCでいえばRADEON 9600に相当し、4パイプラインのピクセルシェーダエンジンと2つのバーテックスシェーダエンジンを備えるノートPC向けとしては最強のGPUだ。 命令セットレベルではバーテックスシェーダ2.0、ピクセルシェーダ2.0に対応しており、DirectX 9に対応した3Dゲームにも対応可能だ。一般的な3Dゲームであれば十分満足できる3D描画性能と言えるだろう。 ポート類だが、背面には左からUSB 2.0×2、Gigabit Ethernet、AV出力端子(ミニプラグ)、アナログRGBが用意されており、本体右側面には光学ドライブとモデム、本体左側面には左からマイク、ヘッドフォン、IEEE 1394(4ピン)、USB 2.0、PCカードスロット(Type2×1)が用意されている。 さらに前面には無線LAN(IEEE 802.11a/b/g対応)のON/OFFスイッチと、メモリースティックPROスロットが用意されている。メモリースティックのスロットはユニークで、アダプタを利用しなくてもメモリースティックDuoを挿入して読み書きできるように工夫されている。 なお、別途PCカードのメモリカードリーダ/ライタがバンドルされており、スマートメディア、SDカードなどの読み書きも可能。
●付属の2ウェイスピーカーで高音質な再生が可能
本製品の4つ目の強化点が、スピーカーの強化だ。従来のGRTシリーズでは、スピーカーは本体に内蔵されているものだけで、外付けのスピーカーが用意されているデスクトップPCなどに比べ、メディアファイルの再生機としてはやや不満があった。 本製品のような17型の大画面液晶を搭載した製品は、ほとんどの場合デスクトップPCの代換、つまりDeskTop Replacement(DTR)として使われることがほとんどだろう。そうした場合、スピーカーが内蔵のものだけというのでは、やや寂しい。 そこで、本製品では、外付けのスピーカーがバンドルされている。しかも、AVステーション内部にはソニーが“S-Master”と呼ぶオーディオ回路を応用した10W+10Wのデジタルアンプが内蔵されており、スピーカーはそのアンプを利用して駆動されている。 スピーカーは、デスクトップPCにバンドルされているものと比べても大型のもので、高音用のツイーターと低音用のウーハーが別になっている2ウェイスピーカーとなっている。 通常PC用のスピーカーだと、コスト上の理由からフルレンジのユニットが使用されることが多いが、本製品のように分離することにより、再生帯域が拡がり、より高音質な再生が可能になるのだ。 本製品には本体側にもスピーカーが内蔵されており、それと外付けスピーカーを聞き比べてみると、明らかに外付けスピーカーを利用した方が低音も、高音もしっかり鳴っているというのがわかる。 スピーカー部はリモコンの受光部もかねており、本体をAVパワーアップステーションに接続している時にはリモコンを利用して操作できる。本製品にも、Do VAIOと呼ばれる10フィートGUIが導入されており、TV、録画、音楽、写真などの閲覧はすべてリモコンで操作可能だ。 AVパワーアップステーションに本体を取り付けた時、自動的に外部ディスプレイへ表示を切り替える設定にすることも可能だ。例えば、アナログRGB接続で液晶テレビなどに接続するような設定にしておけば、AVパワーアップステーションに接続した時には液晶テレビでコンテンツを楽しみ、外した時だけ本体側のディスプレイを利用する、という使い方も可能だ。 ●本体をはずして持って行けるAV対応の省スペースPC以上のように本製品は、TVチューナやデジタルアンプなどを内蔵したAVパワーアップステーションや2ウェイスピーカーなどを標準でバンドルすることで、ノートPCとは思えない強力なAV機能を備えている。 ハードディスクや光学ドライブといったスペースの都合で追いつけない部分を除けば、デスクトップPCのフラッグシップであるtype Rに匹敵する機能を備えており、VAIOのノートPC製品のフラッグシップにふさわしい製品に仕上がっていると言えるだろう。 さらに、本製品ではCPUにPentium Mを採用したことで、本体自体もスタイリッシュなデザインになっている。重量が3.9kgと重量級であることを考えると、モバイルノートとして使うにはちょと厳しいが、部屋から部屋へ移動してDTRノートPCとして使うことは可能であるといえ、家庭内で1台2役として使えるだろう。 □関連記事 (2004年5月18日)
[Reported by 笠原一輝]
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