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キヤノン EOS-1D Mark II


-高画質と高速のプロ用デジタル一眼レフ-



 キヤノンEOS-1D Mark II(以下、Mark II)は4月29日に発売されたプロ用デジタル一眼レフだ。名称どおり、EOS-1Dの後継機だが、“Mark II”というよりは、EOS-1Dの名称を変えてもいいぐらい内容は向上している。

 有効画素数415万画素のCCD(松下電器製)が、820万画素のCMOS(自社製)になっただけではない。撮影速度が毎秒8コマで最大21コマまでだったのが、毎秒8.5コマで最大40コマとなった。そのほか、各部に改良が加えられており、プロ用一眼レフとしては最速・高画質を誇る。

 今回は新しいEF28-300mm F3.5-5.6L IS USMを使いたかったが、発売が6月に延期された。このため、筆者のEF17-40mm F4L USMとEF70-200mm F4L USMをメインに、EF50mm F1.4 USMも使用した。

●デュアルスロットになった記録メディア

 Mark IIはいままでの1Dと比べると、そのままボディーを流用したように見えるが、よく見ると細かい部分の曲線などが異なる。新たに型を起こしたことがわかる。また、映像エンジンに「DIGIC II」を新たに採用した。これによって、ノイズを大幅に低減することに成功した。これについては実写レポートを見ていただきたい。

 操作系は1Dを継承している。各部は6面写真を見ていただきたい(写真A)。ちょっと見ただけでは1Dと区別がつかないが、細かくチェックするとちがいがわかるはずだ。

 ボディーのホールディング性はいい。ただ、背がかなり高いのは1Dそのままで、もう少し高さを縮めて欲しかったところだ。ずっしりとした重量感は金属ボディーとあいまって、信頼感を与えてくれる。実際、防塵/防滴構造になっていて、小雨やホコリには強い。

【写真A】 Mark IIの各部

 ボディー上面、右手側のレイアウトに大きな変化はない。液晶パネルがあり、その前に露出補正ボタンとイルミネータのボタンがある(写真B)。また、液晶パネルの後方、背面上部にはスポット測光ボタンとAFフレーム切り替えのボタンもある。なお、このボタンは拡大縮小再生ボタンも兼用している。ホールドすると、ぴったりフィットして、自然にボタンに指が行く。このあたりはキヤノンの一眼レフに慣れていれば、違和感なく操作できる。

 ボディー上面、左手側のスイッチも1Dとほぼ同じだ(写真C)。モード、AF、測光切り替えボタンは1ボタン1機能。ISO感度、オートブラケット、ドライブモードは2ボタン同時押しになっている。このあたりの操作性は基本的にはフィルム一眼レフのEOS-1から大きく変わっていない。そういう継続性を大事にするのがキヤノンEOS-1シリーズの思想だ。

 それは大事なことだと思うが、露出モードの切り替えなどはEOS 10Dのダイアル式のほうがはるかに便利だ。このあたり、思い切った操作系の見直しもあってはよかったのではないだろうか。

【写真B】 上部右手側には液晶パネル、露出補正ボタン、イルミネータ、そして拡大縮小ボタンなどがある 【写真C】 上部左手側にはボタン類が並ぶ。1ボタン1機能と、2ボタン同時押しの2種類になっている

 ボディー背面の液晶モニタも相変わらずアイピース直下ではなく、左にオフセットされている。その左に上からロック、MENU、SELECT、DISPLAY、拡大再生(記録メディア切り替えを兼用)のボタンが並ぶ(写真D)。また、下部には削除、画質、ホワイトバランス(WB)のボタンがあり、画質とWBの同時押しでWBブラケットが可能だ。

 このあたりも、1Dに慣れていれば、難なく操作できる。継続性はとくにプロにとっては非常に重要である。半面、メニューを選ぶのに、いちいちSELECTボタンを押しながらサブ電子ダイアルを回すという面倒くささがある。このあたりも、もう少しスピーディーに操作できるようにしたほうがよかったと思う。

 液晶モニタはもうひと回り大きくすべきだった。ライバルのニコンD2Hは2.5型を採用しているからだ。そのモニタの右にはおなじみ、というかEOSの象徴である大型サブ電子ダイアルがある(写真E)。その右には記録メディアのスロットがあり、下方にはタテ位置用のボタンなどがある。

【写真D】 液晶モニタの左側にはMENU、SELECT、DISPLAYや、画質、ホワイトバランスボタンなどがある 【写真E】 キヤノンEOSシリーズを象徴する大型サブ電子ダイアル。下方にはタテ位置用ボタンなどもある

 レンズマウントにも当然だが変更はない。大型のEFマウントは純電子制御で、フィルム時代のEOSシリーズで採用されたものだ。デジタル時代になっても余裕を持ったこのマウントの先進性は脱帽ものである(写真F)。

 記録メディアのスロットはMark IIで大きく変わった点だ。1DのTyep2 CFカードに加えて、新たにSDカードが加わり、ダブルスロットとなった(写真G)。これによって、CFとSDの同時記録、あるいは片方から片方へのコピーができる。SDを採用した理由としてキヤノンは「SDのほうが書き込みが高速」と言っている。これについては実写のときに検証しよう。

 電池は1Dと同じニッケル水素電池で互換性もある(写真H)。ただ、能力は向上して、寿命が長くなった。

【写真F】 キヤノンEFマウントは銀塩一眼レフのEOS650('87年)から不変だ。純電子制御のマウントである 【写真G】 記録メディアはダブルスロット 【写真H】 電源は1Dと同じニッケル水素電池で、互換性を重視している
【写真I】 再生画面でINFOにすると、ヒストグラムがRGBごとに表示される。また、撮影情報も表示

 再生では拡大・縮小(サムネイル)のほかに、INFOを選ぶと、RGB別々にヒストグラムを表示できる(写真I)。これは非常に便利な機能である。もちろん、撮影情報も表示される。

 メニューは5つに別れており、このうち3つを掲載する(写真J)。階層が深いのと、前述のように、いちいちSELECTボタンを押しながらという点が気になる。


【写真J】 MENU画面は5つあるが、そのうちの3つ

 Mark IIは操作系に関しては1Dをほぼ受け継いでいて、とっつきやすい。ただ、初めて使用するユーザーにはややとまどう面もあるだろう。

●ノイズが大幅に減ったのが大きな改良点

 さて、いつもとおりの実写だが、結論を最初に言ってしまうと、ノイズが大幅に減り、画質は向上した。また、とうぜんだが415万画素の1Dに比べて解像感が向上している。ただし、偽色が出たり、1D同様にゴミが目立ちやすいなど気になる点もある。

 おなじみのビルの実写では17~40mmと70~200mmを使用した。17~40mmの広角側では、わずかだが前ピンである。もちろん、45点自動選択などではなく、中央1点測距でピント合わせをしている。どのカメラでも広角では前ピンになったり、後ピンになる。このテストはなかなかむずかしいようである。F8に絞り込めば、画面全体にいい画質となる(写真1)。

 気になったのは、手前にたまたま駐車していた2台の荷物車のうち、右側の車の車体に、若干の色モアレ(偽色)が出た点だ。このようにクルマが駐車していたのは今回が初めてだったので、ほかのカメラではどうなのかわからないが。左上の白い看板を見ると、白飛びをしていないし、ダイナミックレンジは広いようだ。

以降に掲載する作例のリンク先は、撮影した画像データそのものです(ファイル名のみ変更しています)。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。
特に記載がない限り、クリックすると3,504×2,336ピクセルの画像が別ウィンドウで表示されます
【写真1A】 超広角ズームの広角側。絞り開放にするとわずかに前ピン気味
17~40mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100
【写真1B】 絞りF8ではいい画質になる
17~40mmF4L、絞りF8、絞り優先AE、ISO100

 40mm側でも絞り開放ではわずかに前ピンだ。しかし、F8に絞り込めばきわめてシャープな画面となる(写真2)。露出もぴったりだが、絞り開放とF8では1/3絞り違って見える。これはたぶん実効絞り値のちがいだろう。

【写真2A】 超広角ズームの望遠側。絞り開放ではやはりわずかに前ピン
17~40mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100
【写真2B】 F8に絞れば非常にシャープだ
17~40mmF4L、絞りF8、絞り優先AE、ISO100

 70~200mmの70mm側ではほんのわずかに前ピンであるが、実用上問題はない。絞りF8に絞り込むと、全画面シャープになる(写真3)。この場合には絞り開放も絞り込んでも露出はぴったりだった。

【写真3A】 望遠ズームの短焦点側では、やはりわずかに前ピン
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100
【写真3B】 絞り込めば非常にいい画質だ
70~200mmF4L、絞りF8、絞り優先AE、ISO100

 200mm側では絞り開放からピントを合わせた窓にぴったりピントが合っている。F8に絞り込むと、もう理想的と言ってもいい画質になる(写真4)。ただし、露出値は同じなのに、F8のほうが1/3露出が多く見える。これも実効F値のためだろう。

【写真4A】 望遠ズームの長焦点側では、絞り開放だとやはりわずかに前ピン気味
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100
【写真4B】 絞り込むと画質は非常にいい
70~200mmF4L、絞りF8、絞り優先AE、ISO100

 定点撮影の夜景は30秒という長時間露出だ。しかし、それにも関わらず、ノイズはほとんど目立たない(写真5A)。ノイズリダクションをオンにした状態(写真5B)と大きな差がない。つまり、DIGIC IIでのノイズリダクションが有効だということだ。ただし、F22と絞り込んだせいもあって、ゴミが目立ってきてしまった。

【写真5A】 夜景の定点撮影。ノイズリダクションオフでもノイズは目立たない
70~200mmF4L、絞りF22、30秒、ISO100
【写真5B】 オンにしてもそれほど変わりはない。ただし、ゴミがかなり目立った
70~200mmF4L、絞りF22、30秒、ISO100

 特急列車の通過を撮影する定点観測はこのMark IIには朝飯前という感じだ。毎秒8.5コマの威力で、スタートからギリギリまで軽快に追うことができた(写真6)。この場合だけは45点測距自動選択にしているが、最後のコマもぴったり合焦している。さすがと言うべきだろう。

【写真6】 特急列車の通過を連写したうちの最後の3コマ。毎秒8.5コマの威力で、ここまで追えている。また、ワイドAFのために最後まで合焦している
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100

 逆光でレフを使っての人物撮影もオートホワイトバランスがよく効き、また全体の色再現性もいい。70~200mmの絞り開放だが、ボケ味もきれいだ。ホワイトバランス自体は晴天モードにしたら、なお良くなった(写真7)。

【写真7】 逆光の人物で手前からレフを当てている。AWB(左)よりも、晴天モード(右)のほうがよりきれいだ。全体として色再現性が良く、ボケ味もいい
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100

 しかし、場所を変えて撮影してみると、AWBのほうがきれいである。晴天モードではやや黄みがかかった(写真8)。この場所ではどのカメラもAWBのほうがいい。

【写真8】 場所を変えてみると、今度はAWB(左)のほうが、晴天モード(右)よりも色がいい。晴天モードは少し黄色いのは露出がわずかに違うせいもある
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100

 タングステン光照明での撮影ではAWBでもかなり追尾する。ほかのカメラのようには赤くならない。しかし、やはり白熱電球モードにしたほうがさらにきちんと補正される(写真9)。厳密に言うと、この白熱電球モードでもまだ補正が少し足りない。

【写真9】 タングステン光照明では、AWB(左)でもあまり赤っぽくならない。かなり追尾していることがわかる。また、白熱電球モード(右)ではかなり補正されているが、それでももうひとつ物足りない
50mmF1.4、絞りF1.4、絞り優先AE、ISO100

 蛍光灯照明での撮影ではAWBと蛍光灯モードの差がほとんどなかった(写真10)。これはほかのカメラではない経験である。それだけ、AWBの精度が高いということである。

【写真10】 蛍光灯照明では、AWB(右)とマニュアルの蛍光灯モード(左)の差がほとんどない。AWBが有効だという証拠である
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100

 掲載はしないが、腕時計を被写体に、CFカードとSDカードの書き換え速度の差をテストしてみた。22コマ連写してみて、書き込みの赤ランプが消えるまでの時間を繰り返し計測した。そうすると、CFカード(SanDisk Ultra II)は平均約40秒、SDカード(パナソニック製、256MB、転送速度10MB/sec)は平均約50秒だった。つまり、CFカードのほうが書き換え速度が速いことになる。SDカードの採用は書き換え速度の問題よりも、バックアップとか、次世代規格をにらんでのことではないだろうか。

 ISO感度はMENUで拡張モードを選ぶと、L(ISO50)とH(ISO3200)に設定することができる。このうち、関心の高いのはHだろう。いつもと同じ超高感度用の被写体では、ノイズがほとんど目立たない。これはいままで撮影した中でベストである(写真11)。長時間ノイズも高感度ノイズも両方とも少ないというのは非常にいいことである。

 黒っぽいものと白っぽいものを同一画面に入れてみたが、両方ともそれなりに再現されている。このカメラの測光の良さを証明すると同時に、ダイナミックレンジの広さも示している(写真12)。

 タングステン光撮影の結果から、このカメラで夕日や朝日をきちんと出したいなら、晴天モードにしたほうがいい(写真13)。絞りを開けているが、ちょっとゴミが写ってしまっている。

【写真11】 超高感度のときにはいつも撮影している被写体。H(ISO3200相当)で、これだけノイズのないのは立派だ
17~40mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、AEロック、ISO3200
【写真12】 黒っぽいものと白っぽいものが混在するシーンだが、AEまかせでちょうどいい露出になった。ダイナミックレンジの広さもわかる
17~40mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO100
【写真13】 このように夕日(または朝日)をそれらしく写すためには、やはり晴天モードにしたほうがいい。ノイズはないが、ちょっとゴミが写ってしまった
70~200mmF4L、絞りF4、絞り優先AE、ISO800

 結論として、キヤノンEOS-1D Mark IIは偽色が少し気になったが、ノイズの少なさ、画質の高さ、高速連写性、完成度など、1Dよりも格段に良くなったカメラだと言える。それで価格が575,000円前後(税込み)と安くなっている。プロ、ハイアマチュアには自信を持っておすすめできるデジタル一眼レフだ。

□キヤノンのホームページ
http://canon.jp/
□製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/eosd/1dmk2/index.html
□関連記事
【21月29日】キヤノン、820万画素で秒間8.5コマ連写の「EOS-1D Mark II」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0129/canon.htm

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(2004年5月11日)

[Reported by 那和秀峻 / モデル 汐瀬 ナツミ]


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