米シアトルで開催中のWinHEC 2004において、Microsoftのモバイルプラットフォームディビジョン ビジネスデベロップメントマネージャのマッチ・スォッコ氏は、同社が2005年にβリリースを予定している次世代OS「Longhorn」に統合するモバイルPC関連の機能を明らかにした。 その中で、ノートPCが使われている場所に合わせて設定などを自動で切り替える「Location Awareness」機能、省電力やネットワークの設定などをプロファイルにして切り替えられる「Mobility Center」機能のほか、ファイルの同期機能など、モバイルPCの使い勝手を向上させる新機能が紹介され、大きな注目を集めた。 ●ロケーションに応じてプロファイルの切換ができるLonghorn時代のノートPC
2006年には、ユーザーは自分の居場所を意識せずとも、PCがそれを教えてくれるかもしれない……そんな冗談のような話が現実のものになろうとしている。Microsoftのスォッコ氏が来場者に語った“Location Awareness”の機能はまさにそうした機能をPCに実装するものだ。 “Location Awareness”をそのまま日本語にするならば“場所に応じて”とか“環境に適合して”ということになるだろう。スォッコ氏はこの機能に関して「例えば、学校では勉強用のデスクトップに変更し、自宅に帰ってきたら遊び用のデスクトップに切り替える」と説明する。 なるほど、確かにそれは便利だろう。会社勤めの人であれば、会社では仕事用デスクトップに、自宅ではエンターテインメント用のデスクトップに自動で切り替えるという使い方が考えれる。 問題は、そのノートPCがどこにあるのかをどうやって測位するのかだ。スォッコ氏は「あるOEMはGPSを選択するだろうし、別のOEMはSSIDで認識するのではないだろうか」と説明する。 実は、GPSをノートPCに搭載するというアイディアは、すでにほとんどのOEMベンダが検討している。実際、昨年の12月に日本IBMのThinkPadの開発責任者である小林氏へインタビューした際も、同氏がGPSをノートPCに搭載する時の問題点について言及している。日本IBMに限らず、他のノートPCベンダでもGPSの搭載について研究を行なっているという。それは、この機能に備えてということになるだろう。 もちろん、GPSでは測位できる場所が屋外に限られるなど問題点が無いわけではない。しかし、屋外から屋内へ移動する前に測位しておき、その位置データを利用したり、携帯電話とBluetoothで接続し、その位置情報データを利用するというソリューションなど、いくつかの解決策は考えられる。 ●Intelのデュアルコア戦略ともリンクするロケーション機能
Location Awarenessは実に様々な使い方が考えられる。例えば、自宅と会社をACアダプタで使うプロファイルに登録しておいて、それ以外の場所をバッテリ駆動の場所としておけば、例えば省電力やネットワークのプロファイルを自動で切り替えて利用することも可能になるだろう。 スォッコ氏は省電力設定やネットワークの切換をプロファイルで行える“Mobility Center”というプロファイルを紹介し、これを利用すれば簡単に省電力設定やネットワーク設定の切換を行なえるということを紹介した。 日本で発売されているノートPCの多くには、こうした省電力やネットワーク設定をプロファイルで切り替えるツールがバンドルされているが、Microsoftが標準で同等機能のツールを付けることになる。Location Awarenessと連動するようにすれば、プロファイルをユーザーが切り替える必要が無くなる。 Longhorn世代では、IntelがYonah世代で導入すると見られている、バッテリ駆動時にデュアルコアとシングルコアを動的に切り替えて省電力を実現する機能もOS側で標準的にサポートされる。 Longhornでは、新しいACPIのバージョンであるACPI 3.0が実装されるが、拡張されたプロセッサ省電力機能(拡張PPM、Enhanced Processor Power Management)が実装されるという。ACPI 3.0ではマルチプロセッサに関するPPMの機能が実装されると説明されており、Px、Cx、Txという各ステートが用意され、CPUの負荷やバッテリの状況などによりCPUコアをスロットリングできると説明されている。
それ以外にも、Longhornではいくつかのモビリティ機能の強化が行なわれる。例えば、省電力機能の強化としては、省電力ツールをよりわかりやすいものにする。 Longhornではスライドバーと呼ばれる新しい表示ツールがデスクトップに追加されるが、そこにバッテリの残量をグラフィカルに表示できるようにするほか、省電力ツール自体をよりビジュアルにし、ユーザーが直感的に設定できるようにする。 ただし、省電力の設定は、バッテリの最大利用、自動、最大処理能力の3つのプロファイルしか用意されないという。これは、ユーザーによりわかりやすくということでこうなっているようだが、自分で設定できるユーザーにとっては不満が残りそうで、そうしたことを可能にするサードパーティ製のツールなどが流行になるかもしれない。 Longhornでは、ACPIの最新バージョンである「ACPI 3.0」に対応する。これにより前述したCPUコアの増減への対応などに加えて、GPUの省電力もOSでコントロールできるようになるなどコントロールできるデバイスの種類が増えている。 さらに、ACPI 3.0ではDPPE(Device Power Policy Engine)と呼ばれる機能が実装されており、なんらかの状況変化、AC/バッテリ駆動の変化、サーマル環境の変化などがデバイスに通知されて、処理能力をスロットリングしながら消費電力を下げていくという取り組みなどが行なわれるという。
このほかにも、“Mobile Entertainment”と呼ばれる機能も搭載されている。この機能を利用すると、Windowsにログインしなくてもメディアファイルの再生ができたり、PCからPCへとメディアファイルの転送を行なえるようになる。 さらには、現在のWindows XP Media Center Editionに搭載されている10フィートGUIが搭載され、ノートPC自体をPortable Media Center(PMC)として利用することが可能になっている。 また、Longhornでは、新しい同期ソフトウェアが追加される。この同期ソフトウェアでは、お気に入りやドライブそのもの、Outlookのデータなどのファイルレベルでの同期や、携帯電話、ノートPC、Pocket PCといったデバイスレベルでの同期もサポートされるようになっている。 つまり、ファイル同期ソフト+ActiveSyncが1つのソフトウェアに統合されて搭載されることになる。特にPCレベルでの同期がサポートされることで、例えばデスクトップPCとノートPCの同期がより簡単になることが期待される。なお、この他にも、ペン関連の機能強化が行なわれるが、それに関しては別途Tablet PCに関するレポートでお届けしたい。 さらに、LonghornではMicrosoftがAuxiliary Displayと呼ぶメインのディスプレイとは別の外部ディスプレイを搭載する機能がサポートされることになっており、Outlookの予定や電波の状況、時計、バッテリの残量などを表示できるようになっている。これは、IntelもEMA(Extended Mobile Access)としてIDFなどで公開している技術で、そうしたサブディスプレイもLonghorn世代ではOS標準でサポートされることになる。
このように、Longhornでは、モバイル環境での利用時にメリットがある機能が多数搭載される。 ロケーションに応じてプロファイルを切り替えるLocation Awareness機能、新しいACPI 3.0によるCPUコア増減も含めた強力な省電力機能、ファイル/デバイスの同期が簡単に行なえる同期マネージャソフト、サブディスプレイなど、モバイルユーザーなら今すぐにでも欲しい機能が搭載されているのは、期待が高まるところだ。 Longhornがリリースされると見られている2005年末~2007年にかけては、モバイルPCのプラットフォームも新時代に突入している時期にあたる。Intelは2005年後半に、デュアルコアのYonahを採用したSonomaの後継プラットフォーム「Napa」を投入するし、2006年の後半にはYonahの後継となるMeromを搭載した「Santa Rosa」プラットフォームを投入する。 この時期に合わせて各OEMメーカーはNapa/Santa Rosaプラットフォームに最適化した革新的な筐体を投入してくると考えられている。Napa/SantaRosaプラットフォームの革新的なノートPC+Longhornという組み合わせは、モバイルPCに新しい地平をもたらすことになるのではないだろうか。 □関連記事
(2004年5月7日) [Reported by 笠原一輝]
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