笠原一輝のユビキタス情報局

最新統合型チップセット「RADEON 9100 PRO IGP」でIntelに対抗するATI




 5月3日(現地時間)、カナダのATI Technologiesは、同社のGPU統合型チップセットであるRADEON IGPシリーズの最新版「RADEON 9100 PRO IGP」をリリースした。

 開発コードネーム“RS350”で呼ばれてきた本製品は、昨年リリースされたRADEON 9100 IGPの後継となる製品で、従来製品に比べてメモリレイテンシの減少や、サウスブリッジの機能強化などの改良が加えられている。


●統合型としてはかつてない3D描画性能を発揮するRADEON 9100 IGP

 ATIのRADEON 9100 IGPは昨年の6月に発表されたGPU統合型チップセットで、主にOEMメーカーのPCやノートPCなどに採用されてきた。RADEON 9100 IGPの最大の特徴は、RADEON 9000/9200相当のGPUがノースブリッジに内蔵されていることだ。

 従来のGPU統合型チップセットに内蔵されているグラフィックスコアの3D性能は、おもに2つの理由からあまり高くなかった。

 1つ目の理由はそもそも内蔵されているコアが世代の古いもので、最新の3D描画の機能を備えていなかったり、あるいは描画エンジンのパイプラインが1つしか装備されていなかったりと、最新のローエンドGPUと比較しても低い性能しか実現できていなかったのだ。

 2つ目の理由はメモリ帯域幅の制限だ。統合型GPUではビデオメモリとしてメインメモリの一部を利用するのだが、そもそも統合型チップセットではメインメモリの帯域幅が十分に確保されておらず、GPUがフレームバッファとしてテクスチャのデータなどを展開する時にボトルネックが発生し、結果的に描画性能が低下してしまっていた。

 そこで、RADEON 9100 IGPでは、そもそもGPUコアをバリュー向けのコアとして現役のRADEON 9000/9200相当のコアを内蔵した。ただし、実際には頂点演算を担当するバーテックスシェーダユニットは省略されており(頂点演算はCPUで行なう)、テクスチャの描画などを担当するピクセルシェーダユニットのパイプラインは半分の2パイプに制限されている。

 対応するDirectXはバージョン8.1で、ピクセルシェーダユニットはピクセルシェーダ1.4の命令セットに対応している。つまり、DirectX 8.1レベルのアプリケーションで高い処理能力を発揮するということができる。

 また、RADEON 9100 IGPでは、メインメモリはIntel 875P/865と同じようにデュアルチャネル構成で利用することができ、DDR400で利用した場合には6.4GB/secという現時点ではトップクラスの帯域幅を実現している。シングルチャネルの統合型チップセットに比べると、メインメモリの帯域幅が3D描画性能のボトルネックになりにくいと言えたのだ。

●メモリ周りとサウスブリッジの改良を実現したRS350

 ただし、RADEON 9100 IGPがリリース後すべて順調だったかと言えば、必ずしもそうではない。RADEON 9100 IGPにはリリース当初から2つの問題が指摘されていた。1つがメモリモジュールの互換性問題であり、もう1つがUSBの互換性問題だ。

 自作ユーザーであれば常識だと思うが、RADEON 9100 IGPはメモリモジュールにシビアで、動作するものとそうではないものが存在していた。

 また、USBの互換性に関してもかなり早くから指摘されており、実際マザーボードベンダがチャネル向けに出荷したマザーボードのほとんどは、RADEON 9100 IGPのサウスブリッジであるIXP200/250に内蔵されているUSBコントローラを利用せず、別途外部のUSBコントローラを搭載していたのだ。

 RADEON 9100 PRO IGPでは、この2つの問題が解決されている。ノースブリッジではメモリコントローラに手が入れられ、互換性問題もかなりな部分が解消されたという。

 実際、あるATIの関係者は「世界中のモジュールベンダからメモリモジュールを集め、動作検証を行なっている」と証言しており、RADEON 9100 IGPのような互換性の問題はほぼ解消しているという。また、メモリレイテンシに関しても手が入れられており、メモリ周りの性能がRADEON 9100 IGPに比べて向上しているという。

 サウスブリッジは、RADEON 9100 IGPで利用されていたIXP200/250から、IXP300という最新モデルへ変更されている。IXP300の特徴はIXP200に比べて、新たにSerial ATA-150のコントローラを2ポート内蔵し、USB 2.0のコントローラも全く新しいものに交換され、ポート数も8ポートへと増やされている。

 IXP300で採用されているUSBコントローラは、IXP200/250に採用されていたものとは異なる全く新しいもので、IXP200/250などで見られた問題はほぼ解消されているという。

 なお、RADEON 9100 PRO IGPはメモリの構成がデュアルチャネルになっているが、シングルチャネル版のRADEON 9000 PRO IGPも用意されている。

RADEON 9100 PRO IGPを搭載したリファレンスマザーボード 新サウスブリッジとなるIXP300

●描画性能でIntel 865Gを大きく凌駕するRADEON 9100 PRO IGP

 今回は、RADEON 9100 PRO IGPのリファレンスボードを入手したので、簡単なベンチマークテストで、ライバルとなるIntel 865Gと比較してみたい。なお、比較の意味で、RADEON 9100 PRO IGPをシングルチャネル構成にしてRADEON 9000 PRO IGP相当とした結果も掲載してあるので参考にして欲しい。

 グラフ1はPCMark04(Build 1.1.0)の結果だ。グラフにはないが、総合結果(PCMark04)ではIntel 865Gが3,938であるのに対して、RADEON 9100 PRO IGPでは4,181と上回っている。ただ、グラフに載せたように各項目を詳しく見ていくと、Intel 865Gがほとんどの項目で上回っていることが見て取れる。

 CPU、メモリ、HDDの各項目はいずれもIntel 865Gが上回っているが、唯一グラフィックス周りだけはRADEON 9100 PRO IGPが上回っており、ここのリードが全体の結果を押し上げていると考えられる。

 グラフ2は3DMark03(Build340)の結果だが、ここではRADEON 9100 PRO IGPがIntel 865Gを大幅に上回っている。これは、Intel 865GがDirectX 7世代のGPUしか内蔵していないことが大きな原因であると言えるだろう。

 というのも、表1は3DMark03の詳細な結果だが、Intel 865GはDirectX 7世代のテストであるGame1こそ実行できているが、DirectX 8世代のGame2、Game3に関しては結果も出ていない。また、Game1での結果にも大きな差があり、そこで大きな差がついていると考えることができる。ただ、RADEON 9100 PRO IGPの方も、Game2、Game3に関しては1桁台のフレームレートしかでていないので、あまり意味がないということもできるが。

 グラフ3は、Unreal Tournament 2003のテスト結果だが、ここでもRADEON 9100 PRO IGPはIntel 865Gに大きな差をつけた。実際、フレームレートは30fpsを上回っており、ぎりぎり実用に耐えうるレベルだと言っていいだろう。

【グラフ1】PCMark04(Build 1.1.0) 【グラフ2】3DMark03

【グラフ3】Unreal Tournament 2003
【表1】3DMark03の詳細結果
 Intel 865GRADEON 9000 PRO IGPRADEON 9100 PRO IGP
3DMark03133483797
Game118.328.550.7
Game2N/A3.45.4
Game3N/A3.24.9
Game4N/AN/AN/A

●今年の後半にはDX9世代GPUとPCI Expressに対応したRS400を計画

 このように、グラフィック性能面ではIntel 865Gを凌駕しているRADEON 9100 IGPシリーズだが、前モデルではメモリ周りとUSB周りの問題が指摘されていたのはすでに述べたとおりだ。それが解決されてきたRADEON 9100 PRO IGPは、Pentium 4における選択肢の幅を広げる意味がある。

 ただし、いくつかの課題もある。1つはその価格だ。ATIのRADEON IGPシリーズにおける価格戦略は、Intelの統合型チップセットを上回る3D描画性能を実現しつつ、若干安いというものだ。実際、情報筋によればIntelのIntel 865Gは30ドル台の後半という価格設定になっているが、RADEON 9100 IGPシリーズはそれよりも若干安いという。

 これに対して、SiSやVIAなどの統合型チップセットは20ドルを切るような安価な価格に設定されている。統合型チップセットの一番の利用価値は、低価格なPC用としてのものだ。このため、30ドル台という統合型チップセットとしては高価な価格設定がされているRADEON IGPシリーズは、統合型チップセットのメイン市場である低価格PCの市場にはいまいち切り込めなかった。

 そこで、今回RADEON 9000 PRO IGPというシングルチャネル版を導入することで、その問題に1つの答えを出してきたと言える。それでも、VIAやSiSよりは高い価格に設定されていると業界関係者は指摘しており、この点は課題として残るだろう。

 また、もう1つの課題としては、まもなくIntelがリリースするGrantsdale-Gと呼ばれる次世代統合型チップセットに対してどうやって対抗するかが課題となる。Grantsdale-Gでは、DirectX 9世代のGPUが内蔵されており、3D描画性能でRADEON 9100 IGPを上回ってくる可能性が高い。

 情報筋によれば、ATIは次世代チップセットとして、今年の後半にRS400という製品を計画しているという。RS400では、DirectX 9世代のGPUを内蔵し、デュアルチャネルのDDR2、PCI Expressなどに対応するチップセットになるという。また、少し遅れてRS400のAthlon 64版となるRS480も計画しており、こちらとあわせてラインナップの強化を行なう計画だ。


□関連記事
【2003年6月25日】【笠原】ATIの戦略製品RADEON 9100 IGPの正体
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0625/ubiq13.htm

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(2004年5月7日)

[Reported by 笠原一輝]


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