前回の本連載では、Intelが6月にリリースを予定しているPCI Express世代のチップセット「Alderwood/Grantsdale」のスケジュールに関する見通しについてお伝えした。 その後の取材によりもたらされた情報によれば、PCI Express周りに抱えていた問題は先週OEMメーカーなどに供給された新しいステッピングによりおおむね解決した模様だ。これを受け、IntelはOEMメーカーに対して、6月の第4週にAlderwood/Grantsdaleの発表を行なうと伝えてきたという。 ●PCI Express周りに抱えていた問題はB1ステップで概ね解消
先週の記事の最後で、新しいB1ステップでは問題が解消される見通しだと述べたが、その後、OEMメーカー筋の情報によれば、PCI ExpressネイティブGPUとの間に抱えていた問題は概ね解消したという。 その情報筋によれば、IntelがB1ステップのGrantsdaleを供給するのと同じタイミングで、GPUベンダが新ステッピングのネイティブPCI Express GPUをOEMメーカーに対して供給してきたこともあり、多くの点で問題が解消され、安定動作が望めるようになったという。OEMメーカーに搭載された製品に関してはうまくいけば、発表と同時あたりにリリースされる可能性がでてきたと言える。 ただし、それが即大量供給につながるかと言えば、疑問視する関係者は少なくない。 実際、台湾のマザーボードベンダの関係者は「チャネルに大量に供給されるのは発表から少したってからではないか」と指摘する。というのも、Grantsdaleの供給量は当初はさほど多くないとIntelが通知してきているそうで、まずはOEMメーカーに対して優先的に供給され、その後チャネル向けに供給される可能性が高いからだという。 こうした状況を受けて、IntelはAlderwood/Grantsdaleのリリース時期を決定した模様だ。情報筋によれば、Intelは先週あたりまで、Alderwood/Grantsdaleのリリース時期を6月の第3週から第4週とやや幅広く指定していたそうだが、今週になって6月の第4週の頭あたりと具体的な日付を通知してきたという。従って、6月上旬に行なわれるCOMPUTEX TAIPEIにおいてお披露目し、6月末に発表・出荷というスケジュールとなる。 このタイミングでは同時にLGA775版Pentium 4(開発コードネーム:Prescott-T)も投入されることになる。このLGA775版Pentium 4では、プロセッサナンバが導入され、560(3.60GHz)、550(3.40GHz)、540(3.20GHz)、530(3GHz)、520(2.80GHz)の各グレードが投入されることになる。
IntelにとってAlderwood/Grantsdaleは、今後数年のPCプラットフォームを決定づけると言ってもよい、非常に重要な製品となる。そのことは、Alderwood/Grantsdaleに付けられる製品名からもうかがい知ることができる。 情報筋によれば、これら2つの製品にはIntel 925X(Alderwood)、Intel 915(Grantsdale)というこれまでの8XXから3桁目が1つ繰り上がった製品名を予定しているという。'99年に4XXから8XXへ移行した時のように、大幅なアーキテクチャの転換期に当たるというわけだ。 さらに情報筋は、IntelはこのAlderwood/Grantsdaleのバリエーションとして、Intel 925X、Intel 915P、Intel 915G、Intel 915GV、Intel 910GLの5つの製品を用意していると伝える。Intel 925X、Intel 915P、Intel 915GがパフォーマンスPC向け、Intel 915GVがメインストリーム向け、Intel 910GLがバリューPC向けという位置づけとなる。各製品のスペックは以下の表のようになるという。 【表1】Alderwood/Grantsdaleの予想スペック(筆者予想)
Alderwood/Grantsdaleは同社にとって、“デジタルホーム”市場へ乗り出していくための強力な武器になる。そのキーは4つある。それがPCI Expressに代表されるリッチなグラフィックス環境、AzaliaコーデックによるHD Audio、柔軟なRAID構成も可能な4ポートのSerial ATA、さらにはバンドルされる無線LANとソフトウェアアクセスポイントという4つだ。 ●HDコンテンツを扱うための武器となるPCI Express X16とIntel GMA 900
Alderwood/Grantsdaleのノースブリッジは、GPUとの接続にPCI Express X16をサポートする。PCI Expressでは1レーンで250MB/secの帯域幅を実現するので、16レーンのPCI Express X16では4GB/secの帯域幅を実現する。これは、現在GPUとノースブリッジ間の接続に利用されているAGP 8Xの2.1GB/secの約2倍の帯域幅となる。 ただし、AGPが上り下りの帯域幅を共有するシェアードバスであったのに対して、PCI Expressは上り下りがそれぞれ別々に帯域確保されるポイントツーポイントのバスになっており、上り下りを考慮に入れるなら8GB/secと言い換えても良い。 もう1つのPCI Expressのメリットとして、上り(GPUからノースブリッジへ)の帯域幅がAGPに比べて余裕があることがあげられる。 AGPでは、CPUからGPUへのデータ転送が重視されていたため、下り(ノースブリッジからGPU)こそ2GB/secというフルの帯域幅が実現されていたが、上りでは266MB/sec程度という非対称になっている。 このため、上りという観点で考えれば、PCI Express X16の帯域幅(双方向4GB/sec)は実にAGPの15倍ということになる。この点は、ビデオエンコードなどのアプリケーションでは非常に効いてくることになる。 例えば、ATI Technologiesのリック・バーグマン氏(デスクトップビジネスユニットジェネラルマネージャ)は「リアルタイムでHDクオリティのビデオをGPUでエンコードするには、上り下りとも250MB/secの帯域幅を必要とする。現在のAGPでは十分ではない」と指摘しており、今後HDコンテンツの編集などをGPUで行なうようになれば、この差が生きてくることになる。 また、Grantsdale-G(Intel 915G)に内蔵される新しいGPU(Intel Graphics Media Accelerator 900、Intel GMA 900と呼ばれることになる)も、Grantsdaleの大きな武器になる。 Intel GMA 900は、4パイプラインを備えるピクセルシェーダユニットを備えるDirectX 9世代のGPUで、バーテックスシェーダに関してはCPU側で処理を行なう。 動作クロックは333MHzに引き上げられており、800MHzのシステムバス(6.4GB/sec)の帯域幅を上回る帯域幅を実現するデュアルチャネルDDR2-533(8.4GB/sec)と組み合わせて利用することで、これまでのIntelの内蔵GPUとは桁違いの3D描画性能を示すと言われている。情報筋によれば、IntelはOEMメーカーに対して、Intel 845Gの4倍という説明を行なっているという。 なお、システムバスに関しては、Intel 875P/865と同様に800MHz、メモリに関しては新たにDDR2-533/400に対応する。AlderwoodとGrantsdaleの違いは、このメモリ周りが最も大きく、AlderwoodはIntel 875Pと同じようにPATの機能、ECCに対応し、メモリレイテンシの削減といった機能が追加される。ただし、最初のリビジョンのAlderwoodは、ECCのサポート周りに若干の問題を抱えているらしく、ECCサポートの機能が削られて出荷されるが、一般ユーザーにはあまり関係のない機能といえ、大きな問題ではないだろう。 ●4モデルが用意されるサウスブリッジ
サウスブリッジのICH6に関しても大幅な強化が行なわれる。ノースブリッジとの接続はDMI(Direct Media Interface)と呼ばれる2GB/secのバスに変更される。これはPCI Expressと同じ物理層を利用し、プロトコルだけをIntel独自のものに変更したもので、事実上PCI Expressだと考えて良い。 ICH6には4つのラインナップが用意されている。それがICH6、ICH6R、ICH6W、ICH6RWの4つだ。それぞれ、オリジナル版、オリジナル版+RAID、オリジナル版+無線LAN、オリジナル版+RAID+無線LANという位置づけとなる。 【サウスブリッジの種類】
無線LANはチップセット側の機能というよりは、Caswellという開発コードネームで呼ばれるIEEE 802.11b/gに準拠した無線LANモジュールがバンドルされることになる。同時にソフトウェアアクセスポイントのソフトウェアも提供されるので、ICH6W、ICH6RWを搭載したPCを持っていれば、今後アクセスポイントを購入する必要がなくなる。 ICH6ではSerial ATAの機能が強化され、Intel 875P/865の2ポートから4ポートへとなる。逆に、Ultra ATA/100のチャネル数は2から1へと減らされる。 つまり、ICH6以降はHDDは基本的にはSerial ATAへ移行することを前提にされており、Ultra ATAなどに関しては光学ドライブなどSerial ATAへの移行が済んでいないデバイス用とされることになる。 ただ、光学ドライブメーカー側では、今年の後半頃から徐々にSerial ATAに対応したドライブをリリースする予定で、次期にSerial ATAへ移行することになるだろう。 さらに、ICH6RおよびICH6RWではRAID機能もサポートする。Matrix RAIDと名付けられた機能もサポートされており、2つのドライブの中にRAID0(ストライピング)とRAID1(ミラーリング)の2つのボリュームを混在させることも可能だ。このため、重要なデータをRAID1のボリュームに、重要ではないものはRAID0にという使い方も可能になっている。 さらには、Serial ATAの標準インターフェイスであるAHCI(Advanced Host Controller Interface)をサポートしており、ホットプラグや省電力などの新しい機能を利用することが可能になる。 これらにより、例えば、常に2つのディスクでミラーリングしておき、1つのディスクが壊れたらそれをPCが動いた状態で交換するといった使い方が可能になる。今後デジタルホームでPCがホームサーバーとして利用される上で重要な機能となるだろう。 また、Azaliaのコードネームで知られるHD Audioのコーデックを利用すれば、標準で7.1チャネルのオーディオ環境を実現することができる。また、DolbyからOEMメーカーに対して提供されるソフトウェアによる、Dolbyデコーダのソフトウェアを利用すれば、Dolby ProLogic IIをPCで実現することが可能になるなど、オーディオ環境も強化されることになる。
●デジタルホーム戦略に傾倒していくIntel
気になるマザーボードやPCの価格だが、昨年のIntel 875/865が登場した段階の価格とほぼ変わらないだろう。OEMメーカー筋の情報によれば、チップセット単体の価格は基本的にはIntel 875P/865と同じレベルにとどまっているという。 現在Intel 875Pの1,000個ロットあたりの単価は50ドルだが、Alderwoodに関してもほぼ同レベルに、Intel 865G/865PEの昨年5月発表時の1,000個ロット時価格は41/36ドルだったが、Grantsdaleもこれと同レベルになると見られている。 また、ICH6Rの場合は3ドル程度、ICH6Wの場合には5ドル程度、ICH6RWの場合には7ドル程度の価格上昇が加えられるという。 なお、すでにOEMメーカーは次世代のチップセットに向けた設計を開始しているという。情報筋によれば、Intelは2005年の第2四半期にAlderwood/Grantsdaleの後継としてGlenwood(グレンウッド)とLakeport(レイクポート)を計画しているという。 GlenwoodがAlderwoodの後継となり、LakeportがGrantsdaleの後継となる。すでに、OEMメーカーにはデザインガイドのバージョン0.5が配布されており、各ベンダとも設計に取りかかっているという。なお、サンプル自体は第4四半期が予定されており、今年のAlderwood/Grantsdaleと同じようなスケジュールで動いているようだ。 いずれの製品も、大幅なバージョンアップではなく、ハードウェア的にはわずかな進化にとどまるという。現時点でわかっている強化点は、 (1)1,067MHzのFSBをサポート に対応するという。Intel 875/865からAlderwood/Springdaleへのジャンプに比べればたしかに小さな変化だろう。しかし、その強化の目的は非常に明確で、そこにはIntelがどこに向かおうとしているのかを見て取れる。 情報筋によれば、IntelはLakeportの内蔵GPUによるビデオのトランスコード(コーデック変換)をサポートするという。この点に関してはサポートするという情報だけ伝わってきており、どういう実装が行なわれるのかは明らかにはなっていないが、GPUのプログラマブルなピクセルシェーダを利用して、というのは十分に考えられることだ。 これにより、例えば、OEMメーカーはPCI Express X16のスロットにチューナ部分だけを実装し、エンコードやトランスコードはLakeportに内蔵されているGPUで行なうなどの実装が考えられる。別途ハードウェアエンコーダチップを搭載するよりもコストを抑ええつつHDTVチューナなどを実装することが可能になるなどのメリットがある。 このほか、Lakeport世代の内蔵GPUでは、HDMI(High-Definition Multimedia Interface)もサポートする。HDMIはDVIとの下位互換を実現しながら家電向けの機能を実装したインターフェイスで、今後大画面テレビなどに実装されることが予想されている。 HDMIでは、デジタル画像信号の暗号化方式“HDCP”にも対応するなど、今後PCがデジタル家電になっていくために必要なインターフェイスと言える。 これらの機能は、いずれもIntelが“デジタルホーム”におけるPCの存在感を強めていくために必要な武器と言える。つまり、GlenwoodやLakeportは、デジタルホームにおいてPCをデジタル家電に対抗させていくための武器であり、そこにはIntelの“デジタルホーム”に対して“本気”で取り組んでいるという姿勢が見て取れる。 □関連記事
(2004年4月23日) [Reported by 笠原一輝]
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