●Longhorn延期の影響で
前回触れたように、機能セットを縮小しても出荷を早めることはしないという決断を下したことで、Longhornの正式出荷はかなり先になりそうだ。 この決定がいつなされたものかは分からないが、Longhornの正式出荷が今から最低でも2年、おそらくは3年ほど先になったことは、今回のWinHECそのものに大きな影響を及ぼした。新しい話題が大幅に減ってしまったのである。 Microsoftは、Serial ATAのAHCIモード、PCI Expressのネイティブモード、NGSCB、UAA(Universal Audio Architecture)など様々な新しいハードウェア関連の機能に対するサポートをLonghornで行なう予定だ。これらのほとんどについて、Microsoftはすでに昨年のWinHECやPDCで概要を説明している。 本来であれば今回のWinHECでは、ベータ版を前提にもう一歩踏み込んだ実装について取り上げるところだったのだろうが、ベータ版のリリースが1年先ではそれも難しい。現在動作しているアルファ版(WinHEC会場等でデモに使われているバージョン、本当は何と呼ぶのか分からないが、慣例に従いベータ版の前のものということでこう呼ばせてもらう)から1年後のベータ版まで、仕様が変わらないということは考えられないからだ。 そういう理由かどうかはともかく、当初配布されたアジェンダに掲載されていたLonghorn関連のセッションの一部は、会場にきてみるとキャンセルされていた。こうした部分のアップデートはベータ版のリリース待ちということになりそうだ。来年のWinHECに間に合えば良いのだが。 ●クライアント向けも用意されるx64対応Windows XP
このLonghornより先に登場するハズなのが、AMD64/Intel EM64TをサポートしたWindows XP 64-Bit Edition for 64-Bit Extended Systemsだ。Microsoftでは64bitプロセッサのアーキテクチャについてIA-64系のプロセッサをIPF(Itanium Processor Family)、64bit拡張システム系をx64と呼んでいるので、筆者もこれにならうことにする。 これまでIPF用にリリースされてきた64bit版のWindowsは、各国言語用にローカライズされたものがなかったり、32bit版のWindows XPが備えている機能をサポートしていなかったり(Windows Mediaテクノロジ、パワーマネージメント、.NET Framework、デスクトップテーマ等)といった、欠点があった。これはサポートするIPFの価格や用途(バックエンドサーバ向け)を反映したものだと思われるが、メインストリームを意識したx64版ではほぼ32bit版と同じ機能が盛り込まれることになる予定だ。
特にクライアント向けのWindows XPでは、Windows Media Playerが実装され、32bit版同様サードパーティ製のMPEG-2デコーダさえあればDVDの再生もできる。Movie MakerやMessengerといった32bit版でお馴染みのアプリケーション類もほぼすべてサポートされる見込みだ(ただし.NET Frameworkのサポートは2005年前半になる)。もちろん、サーバ版、クライアント版ともにローカライズ版として日本語版の提供も行なわれる。 このx64対応Windowsのリリース時期だが、クライアント向けのWindows XP 64-Bit Edition、Windows Server 2003 64-Bit Editionともに今年の後半にリリースされる。Jim Allchinグループバイスプレジデントは、ハッキリとした日付について明言しなかったが、まず最初にWindows Server 2003 64-Bit Editionが32bit版のWindows Server 2003 SP1と同時にリリースされ、次にそれをベースにしたWindows XP 64-Bit Editionがリリースされるものと思われる。 ●クライアント向けは年内はムリ?
x64対応Windows XPの具体的な時期についてMicrosoftのプレスリリースは、これまで通り2004年第4四半期と繰り返しているが、前回掲載した図(Jim Allchin氏のキーノートにあったクライアントPCのロードマップ)を見ると、かなり微妙な描き方をしていることに気づく。
リリース時期は青の波状のグラデーションで示されており、x64向けWindows XP 64-Bit Editionは2004年のプロダクトということになっているわけだが、パッと見れば2005という数字の真下にあり、2005年のプロダクトと勘違いしそうなる。 誰がどう見ても2004年にリリースされるとしか見えないサーバ版のロードマップと比べると、何かの「意図」を感じずにはいられない。RTMが2004年末、実際にユーザーの手元に届くのは2005年などというトリックが潜んでいたとしても筆者は驚かないだろう。 実際、64bit版Windowsのセッションを行なった担当者は、Athlon 64ベースのノートPCに64bit版のWindows XPのベータ版をインストールしたマシンでプレゼンテーションを行なったが、まだ無線LANが利用できない(ドライバがない)と述べていた。第4四半期(2004年10月~12月)まですでに半年を切っているというのに、無線LANのような基本的なドライバがないようで間に合うのかと心配になる。 これも、まずWindows Server 2003から、というスケジュール上の優先順位の問題かもしれないが、半年でドライバだけでなく、無線LAN関連のユーティリティ(Windws XP SP2で改良が加えられることになっており、64bit版Windows XPもほぼ同等の機能をサポートする)も含めた、十分なテストができるのだろうか。きちんとしたテストを行なわないでリリースすることは、Trustworthy Computingに反する行為だ。 ●64bit版へのアップグレードパスは
この64bit版Windows XPの提供形態は、32bit版のWindows XPとは独立したパッケージになることが予定されている。価格は機能性が同等ということで、Windows XP Professionalと同じ水準になる模様。Home Editionの存在は疑問だ。 また、少なくともWindows XP(Windows Server 2003)の世代においては、32bitから64bitへのアップグレードも提供されない。これは、32bit版からのアップグレードインストールがサポートされないということであると同時に、アップグレード向けのパッケージをMicrosoftが用意しない、ということでもある。 したがって、現在32bit版のWindowsをプリインストールして販売されているAthlon 64/OpteronベースのPCのユーザーが、店頭で64bit版Windowsへのアップグレードパッケージを購入し、64bit版へアップグレードすることはできない、ということになる。基本的には64bit版のフルパッケージを購入し、32bit版と別にインストールせねばならない。ただし、場合によっては64bit版Windowsの優待販売等を行なう可能性(Microsoftが行なわなくてもシステムベンダが行なう可能性)も考えられるので、対応を待ちたいところだ。 次のLonghorn(クライアント向け)では、32bit版と64bit版は同じ1つのパッケージになると見られる(少なくともOEM向けのOPKは1つになる見込み)。当然Windows XPからLonghornへのアップグレードパスは提供されるハズであり、それが32bit版Windows XPから32bit版Longhorn、64bit版Windows XPから64bit版Longhornの組合せに限定されるのもおかしな話である。 Microsoftは64bitアーキテクチャへの移行を推奨しているが、それは性能面でのスケーラビリティや単なる売り上げ的な意味合いだけでなく、レガシー(DOS/Win16といった16bitサブシステム、OS/2サブシステム、POSIXサブシステムや、IPX/SPXをはじめとする古いネットワークプロトコル等)の排除という点でもメリットがあるからだ。そうである以上、AMD64/EM64T上で動作している32bit版Windowsから64bit版Longhornへのアップグレードは、Microsoftが提供しなければならない機能に違いない。
□WinHECのホームページ(英文) (2004年5月7日) [Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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