会期:4月7日~8日 「プロセッサナンバーにより、コンシューマユーザーにプロセッサの持つ機能を説明することがより容易になる」とIntel 副社長兼モバイルプラットフォームグループ ジェネラルマネージャのアナンド・チャンドラシーカ氏はプロセッサナンバーのメリットについて言及した。 日本においてIntelの幹部が“プロセッサナンバー”に関して言及するのは初めてだが、それがモバイルプラットフォーム、つまり「Centrinoモバイル・テクノロジ」(CMT)を取り仕切るチャンドラシーカ氏だったというのが、このプロセッサナンバーの導入理由を象徴していると言ってよい。基調講演でチャンドラシーカ氏は「CMTは今年、コンシューマ市場にも進出する」と説明し、CMTのコンシューマ市場への普及に向けてIntelが大きく舵を切ったことを集まった日本のOEMメーカーの関係者に印象づけた。 ●プロセッサナンバーの目標はコンシューマの選択を容易にすること 「今年はCMTをより多くコンシューマ市場に展開していく。今年はそのためにいくつかのマーケティング活動を行っていく。その1つとして、新しいプロセッサナンバーの仕組みを導入する」とチャンドラシーカ氏は、基調講演の後半でプロセッサナンバーについての説明を始めた。
「プロセッサナンバーでは、Celeronは3xxシリーズに、Pentium 4は5xxシリーズに、Pentium Mは7xxと定義される。プロセッサナンバーの目標は非常にシンプルで、コンシューマユーザーが自分の目的にあったCPUを簡単に選べるようにすることだ。これらの数字は、CPUのクロックやアーキテクチャ、キャッシュサイズ、さらにはHyper-Threading TechnologyやLaGrande Technologyなどの新しい技術などにより象徴されるものとなる」と述べ、プロセッサナンバーーを導入する目的には、難しいことがわからないコンシューマでも簡単に正しいCPUを選択できるようにすることだと強調した。 Intelがプロセッサナンバーを導入するというのは、以前、後藤氏や筆者がコラムで触れたとおり。第2四半期にDothanと、SocketーTと呼ばれるLGA775に対応したPrescott(以前のPrescottと区別するためにPrescott-Tと呼ばれることもある)を導入するタイミングで、プロセッサの名称を7xx、5xx、3xxといった3桁の型番にする。 OEMメーカー筋の情報によれば、現時点でのスケジュールではIntelは5月にDothanを、6月にPrescott-Tを発表することを予定しており、それらにあわせて導入されることになる。 ●パワーユーザーに誤解を生じさせかねないプロセッサナンバーの危うさ だが、テクノロジーに詳しいユーザーにこの仕組みを説明するのは、Intelといえども容易ではなさそうだ。というのもこの数字は、微妙に性能を説明しているが、それも何か根拠があってそういう数字になっているという種類のものではないからだ。 情報筋によれば、現在IntelがOEMメーカーに説明しているロードマップでは、第2四半期にリリースされるDothanは755、745、735の3製品で、それぞれクロックスピードは2GHz、1.80GHz、1.70GHzになるという。 さらに第3四半期には725、715が追加され、クロックスピードは1.60GHz、1.50GHzとなる。第4四半期には770、760、750、740、730の5モデルが一挙に追加され、システムバスが533MHzに引き上げられ、クロックが2.13GHz、2GHz、1.86GHz、1.73GHz、1.60GHzとなる。
整理すると表のようになる。見てわかるように、おそらく数字が上のモデルの方が性能が高いのだろうということは容易に想像できるが、かといって、“5”刻みの数字に根拠がある訳ではないことがわかる。実際、基調講演後に行なわれた記者会見では、報道陣から「この数字の根拠はなんだ」とか「この数字を導き出したベンチマークの結果は公表されるのか」という質問が出ていた。 こういう誤解をされるのも無理はない。Intelは本当に大事なことを、技術をよく知るパワーユーザーにうまく説明し切れていないからだ。このプロセッサナンバーの本質は、Intelが技術をよく知らないユーザーに対して自社のプロセッサの位置づけを示すための“型番”であり、あくまで方便にすぎないからだ。 コンシューマは、後から出てきた(と思われる大きな数字の)型番の方がよい製品であると、直感的に理解することができる。だから、同じ2GHzのDothanでもシステムバス400MHzのモデルは755となり、システムバス533MHzは760に設定される。あえて誤解を恐れずに言うならば、Intelが自分の製品を説明するために付けるのがこのプロセッサナンバーなのだが、だから根拠など無いのは自明の理だろう。 ただ、指摘しておかないといけないのは、ビジネスの世界で、自社の製品に自社の都合の良いよういに型番を付けるのは、別に不思議なことではない。チャンドラシーカ氏によれば、Intelは今回のプロセッサナンバーを7、5、3というBMW風の表示にすることで、BMWに連絡をとったそうだが、その自動車業界でもこうしたナンバーリングは普通に行なわれている。 元々同じ鉄から作られた車なのに、どうして7、5、3というナンバーーが振られるのだろうか? それに対して疑問を抱く人というのは多くはないと考えられる。プロセッサナンバーに関してもそれと同じことだ。あくまで、チャンドラシーカ氏が言うように「コンシューマユーザーにわかりやすくするためのもの」、それこそがプロセッサナンバーなのだ。 逆に、よく知っているパワーユーザーには混乱の元となる。しかし、パワーユーザーに対して「これはマーケティングのための方便だ」とは説明すれば、反発されることは目に見えている。ここにIntelにとってもジレンマがある。 ●ポータビリティ市場もCMTへと移行させていくIntel それでも、Intelが“プロセッサナンバー”を導入しなければならない理由がある。 現在コンシューマ向けノートPC市場の大半を占めているのは、15~17型の大型液晶を搭載し、厚さも1インチ(25.4mm)以上の、「DTR」(DeskTop Replacement)または「トランスポータブル」と呼ばれる厚さがあるノートPCだ。これらの製品ではいずれも、CPUとしてモバイルPentium 4やAthlon 64、デスクトップPC向けのPentium 4やAthlon 64などが採用されている。 これらのDTRのメインターゲットは、その名の通りデスクトップPCの置き換えで、基本的にはデスクトップPCでできることをすべて実現するというのがこのカテゴリーだ。だから、CPUもビデオチップもメモリも、すべてがデスクトップに匹敵するものでなければならない。 しかし、ここで問題になっていたのが“クロック神話”だ。IntelとAMDの1GHz戦争の時がそうだったように、CPUベンダは過去、“クロック数”にフォーカスしたマーケティングをしてきた(どこで転換したのかという点はまた別の議論だが……)。これが思ったより効いていて、特に米国市場では「クロックの数字が小さい」のと「性能が低い」は同義になってしまっていたという。 1.7GHzのPentium Mが、3GHzを越えるPentium 4にこの点で負けてしまうというのが、これまでのDTR市場だった。DTRが大きな位置を占めるコンシューマノートPC市場にCMTを普及させるには、この壁を乗り越える必要があった。このためのマーケティングツールが“プロセッサナンバー”なのだ。そうした意味で、“Centrino”プログラムと同列のものだと考えることが可能だろう。 チャンドラシーカ氏はこの新しいマーケティングツールを利用して、コンシューマノートPC市場にCMTを普及させることが可能だと考えているようだ。「今年の後半、特にSonomaプラットフォームが登場するタイミングでは、より多くのCMT製品が登場し、ユーザーの選択肢が広がるようになるだろう」(チャンドラシーカ氏)と、基調講演では2004年にはCMTがメインストリームになるという目標を掲げたスライドも公開された。 ●2004年の合い言葉は“Centrinoをコンシューマへ” 今後、「今後小売店への働きかけなどの積極的なプロモーションを行なっていく」(チャンドラシーカ氏)など、コンシューマにCMTを普及させるための様々な施策を行なう方針を、チャンドラシーカ氏は基調講演で明確にした。 また、基調講演後の記者会見では「日本市場に関しては米国市場よりもより早くコンシューマ市場へのCMTの浸透が図られると思う」(チャンドラシーカ氏)との認識も示し、「おそらく20を越えるコンシューマ向けCMTノートPCが市場に登場するだろう」と具体的に数までを示して、日本市場での成功に自信を示した。 “Centrinoをコンシューマへ”、これがIntelのモバイル事業の合い言葉となりそうだ。そうしたことを日本のOEMメーカー関係者に印象づけた、そんなチャンドラシーカ氏の基調講演だった。
□Intel Developer Forum Japan Spring 2004のホームページ (2004年4月8日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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