●Processor NumberをDothanで導入 Intelがモデルナンバーライクな性能指標「Processor Number(プロセッサナンバー)」を、ついに顧客に向けて大々的にアナウンスした。Intelは、GHzに代わって3桁の数字のProcessor Numberで、CPUの性能を表すようにする。数字は、CPUのブランド別に700番台、500番台、300番台の3段階になる見込みだ。AMDに続きIntelも「GHzよさらば」となる。 Processor Numberの導入は第2四半期中に行なわれる。まず5月中旬に発表される90nm版Pentium M(Dothan:ドタン)で初めて導入される。次に、6月に発表されるLGA775版Pentium 4(Prescott:プレスコット)やCeleron D(Prescott-V)でデスクトップにも拡大される(デスクトップ向けCeleronはPrescott-VベースからはCeleron Dと呼ばれるようになる)。また、6月にはバリューノートPC向けのCeleron M(Baniasベース)にも適用される。 つまり、5月以降に登場するIntelの新CPUは、いずれもGHzではなくProcessor Numberで表記されるようになるわけだ。大まかに言えば、90nm世代からがProcessor Numberという区分けになる(すでに発表してしまった分はのぞいて)。 Intelは、Processor Number導入後も、完全に周波数を隠すわけではない。しかし、CPU名称はProcessor Numberをベースにする。つまり、Intelとしては、CPUのグレードはProcessor Numberをベースにして欲しいというスタンスだ。Intelは顧客にも、Processor NumberをCPU名称として使うように(GHzは併記可)指導していくつもりらしい。 ●300/500/700の3段階のナンバー もう少し具体的に見てみよう。Intelは、デスクトップとモバイルの両方で3ランクのナンバー群を用意した。
◎デスクトップ向け
具体的には5または10刻みの数字が各CPUにつけられる。例えば、Pentium M(Dothan)の場合は2GHz版が755、1.8GHz版が745、1.7GHz版が735となる。ボトムの1.5GHzが715なので、そこを基準にナンバーがつけられたと推測される。周波数で1グレード(6~11%)アップすると、ナンバーも10ずつ上がるわけで、非常に単純だ。 また、FSB(フロントサイドバス)周波数やキャッシュ量の違いなどもナンバーに反映されるようだ。例えば、同じ1.6GHz版Dothanでも、FSB 400MHzは725、FSB 533MHzは730となる。そのパターンでいくと、おそらくFSB 533MHz 2GHzは760になると思われる。つまり、FSB 533を見越して、Dothanは1桁目が5になっていると推測される。 デスクトップでも基本は同じだ。Pentium 4(Prescott)では、3.8GHzが570、3.6GHzが560、3.4GHzが550、以下同様に、2.8GHzまで200MHz(6~7%)の差がナンバーで10に換算される。
バリューCPUはもっと面白い。デスクトップ向けのCeleron D(Prescott-V)は2.93GHzが340、2.8GHzが335、2.66GHzが330、2.53GHzが325。つまり、バリューCPUになると、各CPUの周波数の差が小さい(5%)から5ナンバーずつの差になるという論理だ。ちなみに、ノートPCのバリューのCeleron M(Banias)は1.5GHzが340で、1.4GHzが330、1.3 GHzが320と、7%程度の差がナンバーで10の差に換算されている。 ●ノートPCとデスクトップのずれ IntelのこのProcessor Numberスキムで特徴的なポイントが2つある。
(1)ノートPCとデスクトップPCではCPUセグメントとナンバーの対応がずれる CPUセグメントとナンバーの対応は次の通り。
誰の目にも一目瞭然な“変な点”は、ノートPCのPentium M(Dothan)が700番台なのに、デスクトップのPentium 4(Prescott)は500番台になっていることだ。だから、Processor Numberの数字の大きさだけを見ると、Pentium Mの方がPentium 4よりも上になる。同様に、ノートPCセグメントの中で比較しても、Pentium MはMobile Pentium 4よりも数字が大きい。どう考えても、Pentium Mの方がPentium 4よりも価値が高いように見える。 もっとも、こういう疑問に対する、Intel側のQ&Aマニュアルの中の模範解答も、なんとなく想像ができる。おそらく、Processor Numberは各CPUセグメントやノート/デスクトップの間を超えて、CPU同士を比較するためのものではないというのが、Intel側の答えになるだろう。つまり、デスクトップの5xxとノートの7xxを比べて、数字を性能の差だと解釈するのは意味がないし、それは意図ではないと。基本的には、各SKU(Stock Keeping Units)を差別化/明示化するための指標がProcessor Numberの位置づけだとIntelは位置づけると思われる。 ●比較するための数字と比較を拒む数字 現在、CPUという狭い世界でのモデルナンバー的手法の目的は大きく分けて2つある。(1)比較するため-自社と他社製品などを(自社に不利にならないように)比較できるようにする。(2)比較できなくするため-比較されたくない製品同士を単純に比較できないようにする。 この好例が、AMDだ。AMDのAthlon XP/64のモデルナンバーは、建前はどうあれIntel CPUと比較するためのものだ。Athlon XP/64の場合、CPUの周波数でPentium 4と比較すると不利になる。そのため、AMDはわざわざ周波数に近いモデルナンバーをつけた。だが、その一方で、Athlon 64 FX/Opteronでは、周波数を連想させるモデルナンバーは避けた。つまり、比較の指標を与えるのではなく、比較の指標を取り去ったわけだ。単純な比較ができないようにすることで、ユーザーの目を他の指標(ベンチマークなど)に向けさせるのが狙いだったと思われる。 IntelのProcessor Numberは、表向きは(2)の比較できないようにするためのものに属する。そのため、“わざわざ”かけ離れた数字を使っている。 例えば、GHzでは、Pentium 4の2.8GHzとCeleron Dの2.8GHzは同列に並ぶが、Processor NumberならPentium 4 2.8GHzは520、Celeron D 2.8GHzは335になる。明瞭に数字が違うので、GHzと異なり、安直に比較ができないというわけだ。 だが、IntelのProcessor Numberが微妙なのは、“かけ離れ過ぎてはいない”点だ。AMDのAthlon 64 FXのように、完全に隔絶された数字になると、比較することが全くできない。ところが、Intelは同じ3桁の数字で上下をつけている。Intelがなんと言おうと、7xxの方が5xxよりもエラく見えるわけで、そこには明瞭な意図が感じられる。つまり、Processor Numberによって「こっちのCPUセグメントの方が上だ」というのを数字で明確化しているわけだ。 ●Processor Numberの狙い では、IntelのProcessor Numberの真の狙いはどこにあるのか。おそらく、次の4点だ。
(1)Pentium M系CPUとPentium 4系CPUの位置づけを逆転させる。 すでに述べたように、Pentium MとPentium 4に対する操作は露骨だ。Pentium Mが7xxでPentium 4が5xxというのは、「Pentium Mを買いましょう」というメッセージにほかならない。周波数の不利で、日本以外のコンシューマ市場では苦戦していたPentium Mを、これで普及させるというのが戦略だろう。 同じことはバリューCPUにも言える。Pentium M系のCeleron MとPentium 4系のCeleron Dでは同じProcessor Numberでも周波数が大きく異なる。ナンバー340の製品が、Celeron Mなら1.50GHzなのに、Celeron Dだと2.93GHz。つまり、Pentium M系コアは2倍の周波数のPentium 4系コアと同等性能に見える仕掛けだ。そうすると、スペックでは同じCeleron系の340で、Celeron Mはスリムで、Celeron Dは厚いということになる。 PentiumとCeleronの差別化も同様だ。CPUの高周波数化が鈍化しているため、Pentium系とCeleron系は周波数が重なりつつある。そのため、従来のGHz指標だと、両ブランドの差別化が難しかった。だが、Processor NumberではCeleron系は3xxに押し込められたため、数字で明確に区分けができる。 Processor Numberを使うことで、従来のようにGHzを無理に引き上げる必要性も薄れた。FSBを速めたりL2キャッシュ量を増やした場合にも、ナンバーに反映できるからだ。こうした流れを反映するように、Intelは次世代CPU「Tejas(テハス)」の計画を若干変更。L2キャッシュ量を1MBから2MBに増やしている。 また、IntelのCeleron Dもそれで救われた。もともとの計画では、IntelはmPGA478版のCeleron D(Prescott-V)を3.06GHzで投入する予定だった。しかし、よく知られているようにmPGA478のPrescottの高クロック品は出荷量がタイトな状況が続いている。そのため、Intelは計画を変更、Prescott-Vを2.53/2.66/2.8GHzで投入することにした。つまり、既存のCeleronからのクロック上昇はほぼなくなってしまったわけだ。しかし、Celeron Dは325/330/335というProcessor Numberになるため、見かけ上はこのつまづきは隠蔽される。 そして、これらすべては、「Merom(メロム)」ベースの次々世代デスクトップCPU投入の布石だと推定される。Meromは、もともとモバイル系として設計がスタートしたデュアルコアCPU。消費電力当たりのパフォーマンスに優れると推定される。それをデスクトップに持ってくるには、CPUの性能指標を切り替える必要がある。そして、デスクトップとノートPCの両CPUがMeromベースに統一されると、もはやIntelは現在のような複雑なProcessor Number構成を取る必要がなくなる。同列に並べればすむようになる。 というわけで、Intelの抱える様々な事情を反映したProcessor Numberが、もうすぐ登場する。市場やメーカーの反応が、Intelにとって次のステップだろう。また、同じPrescottでも、mPGA478はGHz、LGA775はProcessor Numberというアンバランスも発生する。Intelにとってまだまだ前途は平坦ではない。 また、今回のProcessor Numberで、付帯的に明確になったこともある。それは、IntelがPentium 4 Extreme Edition(XE)系列を継続するつもりでいることだ。今後のPentium 4 XEがどうなるのかも、興味深い。
□関連記事 (2004年3月19日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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