Opteron、Athlon 64の新モデルが投入される一方で、発表以降、音沙汰のなかったAthlon 64 FX。今回、ようやく新モデルとなる「Athlon 64 FX-53」が登場した。AMD64製品のなかで最高のクロックを誇ることになった本製品を検証してみたい。 ●AMD64製品では最高クロックとなる2.4GHzで動作
今回発表されたAthlon 64 FX-53(以下FX-53)のスペックを表1にまとめたが、一見してFX-51と大きな違いがないことが分かる。唯一の変更点となるのが動作クロックで、これまでAMD64製品はOpteron x48シリーズ、FX-51、3400+といずれも2.2GHzで並んでいたが、FX-53は初めて2.4GHz動作製品ということになる(画面1)。 L1/L2キャッシュの容量、動作電圧、TDPなど、そのほかのスペックに変更点はなく、FX-51のクロックをアップさせた素直な進化形と考えていいだろう。 対応するマザーボードについては、AMDのWebサイトにある動作確認済みリストに掲載される。AMDからの情報によれば、現在FX-51で動作確認が取られている下記のマザーボードは、すべてFX-53のリストにも含まれる予定だそうで、(BIOSアップデートなどの必要はあるかも知れないが)すでに所有している人は安心してよさそうだ。 ・ASUSTeK SK8N、SK8V
●FX-53の評価キットを用いてベンチマーク このFX-53の検証にあたっては、AMDから同CPUの評価キットを借用したので(写真1、2)、この環境に揃える形で他のCPUのテスト環境も統一している。具体的な構成は表2のとおりだ。各環境の違いは、Athlon 64 FX-53がRegisterd DDR SDRAM(CL=2.5)を使っている点、RAIDコントローラが使用マザーにより異なる点の2点である。 【表2】テスト環境
●CPU性能 それでは最初に、Sandra2004を使ってCPU演算性能を見てみることにする。グラフ1が「CPU Arithmetic Benchmark」、グラフ2が「CPU Multi-Media Benchmark」の結果である。 浮動小数点演算テストのWhetstoneこそPentium 4 3.20E GHzの肉薄を許しているが、整数演算テストのDhrystoneでは圧倒。FX-53が優れた性能で、実クロックが1GHz近く違うCPUであることを忘れさせるほどの性能を発揮している。ただし、拡張命令(SSE2)を使うテストについては、Pentium 4 3.20E GHzがAMD64勢を20~40%ほど引き離している。SSE2が有効に働くシチュエーションでのPentium 4の強さを感じさせる結果である。
CPU単体のコンポーネントベンチとして、もう1つ。PCMark04の「CPU Test」の結果を見ておこう(グラフ3)。なお、このテストの内、「Grammar Check」に関してのみ、FX-53環境でエラーが発生し計測ができなかった点はご了承いただきたい。
結果についてはテストによってPentium 4が優秀だったり、FX-53が優秀だったりとまちまちなのだが、主に音声・動画のエンコード系テストにおいてFX-53がPentium 4 3.2E GHzを上回る性能を発揮している。 ●メモリ性能 続いてメモリ性能をチェックしていきたい。テストはSandra2004の「Cache & Memory Benchmark」で、グラフ4がその全結果、グラフ5が一部結果を抜き出したものだ。 まずグラフ4をざっくり眺めてみると、キャッシュの範囲内である1MB以内の領域では3.2E GHz、実メモリの範囲である4MB以上のテストではFX-53と3.2E GHzが、ほぼ同列といった具合である。 この差をグラフ5で具体的に確認してみると、実メモリ領域のパフォーマンスはFX-53が3.2E GHzを若干上回っているのだが、これは評価キットがCL=2.5のメモリを使っていることも影響していると思われる。なお、キャッシュメモリの性能差については、キャッシュメモリが実クロックと同じクロックで動作するためで、2.4GHzと3.2GHzという各CPUのクロック差が理由と考えていい。 ちなみに、FX-53とAthlon 64 3400+の比較だが、グラフ4を見るとFX-53のグラフは3400+のグラフを上に持ち上げたような恰好になっている。キャッシュ範囲ではクロック差、実メモリ範囲ではデュアルチャネルとシングルチャネルというメモリアーキテクチャの違いが出ているという別々の理由があり、折れ線グラフが並走するような形状になったのは、FX-53と3400+という組み合わせが生み出した偶然である。
●アプリケーション性能 さて、CPU・メモリのコンポーネントテストに続いて、実際のアプリケーションを利用したベンチマークを見ていきたい。まずは複数のアプリケーションを実行する「SYSmark2002」(グラフ6)、「SYSmark2004」(グラフ7)、「Winstone2004」(グラフ8)の結果を見てみると、一部の結果では3.2E GHzに抜かれることはあるものの、ほとんどの結果でFX-53がトップの数値を出している。
FX-53は3400+と200MHzしか違わないわけで、こうした一連の結果はメモリの帯域幅の差が大きいのではないかと想像される。併せていえば、3400+がPentium 4をあらゆる面で上回ろうと思うと、この部分の強化が不可欠ということになる。 続いては、MPEGエンコーダである「TMPGEnc」の結果である。グラフ9が現行バージョンのVer.2.512、グラフ10が次期バージョンのβ版3.0.0.7のテスト結果だ。TMPGEncはマルチスレッドの効果が非常に高いアプリケーションであり、3.20E GHzが優秀な成績を出している。ただし、β3.0.0.7のMPEG-1についてはFX-53が3.20E GHzを上回った。これは3.20E GHzのSSE3を有効にしても、それを上回るパフォーマンスを見せており特筆できる。 【お詫びと訂正】初出時に、FX-53の結果が上回ったのはMPEG-2と誤って記載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。
●3D性能 それでは最後に、3D性能をチェックしておこう。テストは「Unreal Tournament 2003」(グラフ11)、「3DMark03」(グラフ12)、「AquaMark3」(グラフ13)、「3DMark2001 Second Edition」(グラフ14)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 2」(グラフ15)と掲載している。 結果を見てみると、3DMark03を除いてはいずれもFX-53環境がもっとも良い結果を出している。併せて言えば、AquaMark3は3400+と3.20E GHzがほぼ同列ではあるものの、全般にAMD64勢の3D性能が光る結果だ。過去に紹介した3400+のテストと同様、Unreal Tournament 2003で3Dキャラクタを動作させたときの性能であるBotmatchにおいても相変わらずの高性能ぶりであり、体感的には大きな違いがあると思われる。
●さすがにワンクラス上の実力を持つFX-53 以上のとおり、Athlon 64 FX-53のベンチマークをお伝えしてきた。今回比較対象とした製品よりも、さらに上のパワーユーザーを対象としたCPUなだけに、さすがともいうべき高い性能を発揮している。特に、これまでPentium 4が有利と言われ続けてきた動画エンコード系のベンチマークでも、3.20E GHzを上回る速度を見せる場面があったことはインパクトのある結果だ。 もちろん、値段のほうも今回の比較対象よりもワンランク上で、1,000個ロット時単価が84,295円に設定されているが、それでもPentium 4 Extreme Edition 3.20GHzよりは安価である。また、マザーボードも最安値レベルなら25,000円強ぐらいで手に入る。Socket478よりも将来性があることを思えば投資と割り切るのも悪くないだろう。 一方で、FX-53が素晴らしい性能を発揮しているのを見ると、Athlon 64 3400+のシングルチャネルメモリインタフェースに限界を感じるのも率直な感想で、以前も3400+の数字はアピールが強すぎると指摘したが、環境が変わったテストを実施しても印象は大きく変わらない。 今回のFX-53の性能を見れば、デュアルチャネルメモリインターフェイスの搭載で一気にパフォーマンスアップを狙えるのは間違いないように思え、その意味では次のAthlon 64(NewCastle)が待ち遠しい。64bit版Windowsのトライアル版も公開されたことだし、近々AMD64環境を……と思っている人が今すぐ買うなら、文句なしの性能を見せるFX-53、軍資金が寂しい場合はちょっと我慢してNewCastle待ち、というのが最善の道ではないだろうか。 (2004年3月19日) [Text by 多和田新也]
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