●シングルスピンドルは筆者の好みではないはずだが……
この2月に開かれたIDFで筆者が新しいClie、PEG-TH55を重宝したのは以前にこのコラムで取り上げた通り。今回は、その母艦について取り上げてみたいと思う。 今回筆者がIDFに持ち込んだノートPCは、NECのLaVie J(LJ700/7E)である。これはメーカーであるNECのご厚意により、通常の試用よりも長期に渡って貸し出してもらったもの。超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載した12.1型液晶ディスプレイ搭載のシングルスピンドルのモバイルノートPCだ。 12.1型液晶を採用したノートPCは、以前このクラスで主流だった10.1型液晶のものより一回りサイズが大きくなるため、ピュアなモバイルノートPCではない、というむきもある。メーカーによっては、このサイズをB5ファイルサイズと呼んだりもするのだが、実際はB5というよりは限りなくA4変形に近い(ちなみにNECはA4とかB5といった呼称は公式には用いていないそうである)。 このコラムを長く読んでいる方なら、ここであることに気づいたハズだ。LaVie Jはお前の趣味から外れるのではないか、と。確かに、筆者の好みは2スピンドルノートPCである。そして英語キーボードと、スティックタイプのポインティングデバイスをこよなく愛する(LaVie Jは日本語キーボードにタッチパッドだ)。筆者の好みに変わりはないのだが、せっかく長期貸し出ししてもらったのに、実際に外に持ち出して使わなければマシンにもメーカーにも失礼というもの。IDFのお供はLaVie Jに務めてもらうことにしたのだ。 ●標準サイズのキートップが好印象
LaVie Jでもいけるかな、と思ったのにはいくつか理由がある。1つはカンファレンスの資料の配布形態がCD-ROMからダウンロードに変わったため、必ずしもCD-ROMドライブが必要でなくなったこと(OSのインストールやリカバリ等、あるいは飛行機の中での利用を考えると、今でも2スピンドルの方が筆者の好みではあるのだが)。もう1つはLaVie Jのキーボードがこのクラスとしてはちゃんとしており、何とかなりそうな気がしたからだ。 筆者はキートップの大きさが変則的なキーボード(のついたPC)はまず使わないのだが、モバイルノートの中には日本語の「け」や「む」、あるいは「ろ」といったキーが小さくなっているものが少なくない。この手のキーボードはカナ入力者には使いづらいし、ローマ字入力者にはこんな使わないキーははずしてしまえ(英語キーボードにしてしまえ)ということになりがちだ。 そこで筆者はキートップが変則サイズのキーボードを、誰も幸せになれないキーボード、と呼んでいるのだが、LaVie Jについては特殊キーを除き、原則的にすべて同じピッチのスクエアキーが使われている。キートップが若干滑りやすいという声を聞かないでもないのだが、筆者はあまり気にならなかったので、これで原稿は書けるだろう、という結論に達したのだ。 ポインティングデバイスに関しては小型のマウスを別途用意することにした。やはりパッドは好きにはなれないのだが、どうしても使わなければならないこともある。LaVie Jのパッドを使う機会も多々あったのだが、いくつかの点で妥協可能だと感じた。 1つは両手をホームポジションに置いた時に、左手の親指がパッドの上に乗らないことだ。このサイズのノートPCでは、サイズの制約もあり、自然に手を乗せた状態で左手の親指がパッドにかかってしまうものが少なくない。 右利きの筆者はパッドを右手親指か、右手人差し指で操作するのだが、左手の親指がパッドにかかっていると、カーソルがスムーズに動いてくれない。それを避けるために左手親指を不自然に曲げなければならないようだと、集中力がそがれる。筆者は平均よりは手が大きい方だと思うが、それでも左手親指がパッドにかからないのは助かる。また、付属のドライバはUSBのマウスが接続されると自動的にパッドを無効にする設定が可能なのも気が利いている。
●非常に静かな動作音
そんなこんなで、2月のIDFにはLaVie Jを持っていこうと決めた。2スピンドルノートPCがいいと言うくらいだから、筆者はノートPCにそれほど小型軽量を望んでいるわけではなく、3Kg以下なら文句は言わないのだが、軽くて困るものでもない。 実際のところ筆者が海外取材に行く際の荷物は、機内持ち込みできるサイズのバックパック1つ。これに、ノートPCから着替えまで、全部詰め込んでいくのが筆者のスタイルだ(以前はローラーで引っ張るタイプのバッグだったが、それでも機内持ち込み可能なサイズのバッグ1つだったことに変わりはない)。荷物を小さくまとめる上で、ノートPCが小さければそれに越したことはない。 というわけで、IDFにLaVie Jを持っていき、現地で3本の原稿を無事書くことができた。実際に仕事に使ってみて感じたことを若干書いておきたい。 まず最初に気づいたのは、PCが静かなこと。LaVie Jはファンレス設計ではないものの、普通に仕事をしていて冷却ファンが回ることはほとんどない。 このところ筆者の米国取材中の生活パターンは、夜8時から9時には寝て、明け方3時起床、7時までに原稿を1本書いて、そのままキーノートに出る。6時くらいにホテルに戻ってきたら、若干の整理(デジカメ画像の吸い上げ、ボイスメモのMP3変換etc)をしたら食事に行き、また8時から9時くらいには寝る、というもの。このパターンを米国滞在中続けるのだが、仕事をするのはいつも真夜中ということになる。ノートPCの静けさにイヤでも気づくというわけだ。 最初、LaVie Jのスペックを聞いた時は、わざわざコストパフォーマンスの悪い超低電圧版Pentium Mねぇ、などと思ったのだが、あまりバッテリ駆動をしない筆者にとっても静音という部分で利点があった(価格に見合うのかどうかはよく分からないが)。 加えて、内蔵する富士通製の80GBハードディスク(MHT2080AT)も静かで、ほとんど動作音が気にならない。全体に静かな部類に入るPCだろう。 ●実際に使ってみると……
注目? の入力環境だが、キーボード以前にパームレストの冷たさがちょっと気になった。サンフランシスコはそれほど寒冷な土地ではないが、手をパームレストに乗せた瞬間目が覚める、と言ったら大げさだろうか。 肝心の入力だが、最後までとまどったのはカッコの位置。英語キーボードと1つずれていることになかなか対応できなかった。「@」や「:」など、ほかの記号類についてはそれほど時間がかからず対応できたのだが「(」と「)」は最後までひっかかった。 タッチパッドに代わって使ったポインティングデバイスはMicrosoftのMobile Optical Mouseだったのだが、ホテルの机がガラステーブルで、あわててマウスパッドを探すハメに。初日は雑誌で代用し、IDF併催の展示会でXeonのマウスパッドをもらって急場をしのいだ。これはLaVieのせいではないと思うが、このMobile Optical Mouse、時々カーソルがとぶような気がするのだが、筆者だけだろうか。 筆者は、基本的にLaVie Jはホテルの部屋に置いておき、会場で持ち運ぶことはしなかったのだが、初日だけは会場まで持っていった。子機であるPEG-TH55が会場の無線LANに接続できることを確認するためだ。 PEG-NX73V + CF無線LANカードと異なり、PEG-TH55の内蔵無線LANはゼロコンフィギュレーションだし、IDF会場の無線LANは特別にセキュリティが設けられているわけではないのだが、万が一接続できなかった場合、トラブルシュートはPCを使った方が断然楽である。もちろん会場ではPEG-TH55(802.11b)、LaVie J(802.11g)ともに簡単に無線LANに接続できた。 ホテルの部屋では1日9.99ドルのEthernet接続だが、もちろんLaVie JはEthernetポートを内蔵している。Ethernetによる高速インターネットが普及して嬉しいのは、その帯域もさることながら(資料をダウンロードしなければならないのだから、帯域は重要なのだが)、いちいち出先ごとに設定を変更しなくて良いことだ。 ダイヤルアップ接続では、まず所在地を設定し、エリアコードと外線発信番号を入力して、とこまごました設定が面倒くさい。つながらない時は、外線発信番号と電話番号の間にもう1個カンマを入れてみるか、みたいな不毛な作業を余儀なくされる。それがなくなっただけでもブロードバンドの普及はありがたい。 話をLaVie Jに戻すと、小さい割には作りも比較的良好だと思う。少なくともPCをパッとつかんでもミシミシ音をたてるようなことはない。ノートPCを開く際、液晶部を持ち上げると本体部がまで持ち上がってしまうのは愛嬌というところだろうか。ヒンジ部の強度が確保されている、とポジティブに考えたい。光学ドライブ(CD-R/RW + DVD-ROM)をACアダプタなしで駆動できるよう、USBポートに隣接させて専用電源コネクタを用意するなど、細かい工夫もある。 ●よくまとまっているが地味な印象
全体に良くできたノートPCだと思うが、どうも地味な印象が否めない。このPCで「華」となる機能を探すと、このクラスとしては強力な3Dグラフィックス(MOBILITY RADEON 7500 32MB)ということになるのだろうが、それもあくまでも「このクラスとしては」という注釈つきの話。MOBILITY RADEON 7500は最新のGPUではないし、やはりゲームをやるのなら2スピンドルの方が都合がいい。 搭載する液晶が、今流行のツルピカ液晶でないのも地味な印象を与える一因かもしれないが、仕事用のPCはむしろこの方が都合がいい(ただ、視野角はもう少し広くても良い気がする)。いずれにせよ、これがあるからLaVie Jを買う、という決め手を見つけにくいのは否めないところだ。 表はLaVie Jをはじめとする12.1型液晶を採用したシングルスピンドルのPentium MノートPC(主要機種)の主だったスペックをまとめたものだ。個人的にはこのクラスのトップランナーはThinkPad Xシリーズだと思っているが、東芝と松下は軽量という武器で戦おうとしていることが良く分かる。この2社のPCは明らかに軽量で、PCを日常的に持ち運びたい人にとって、これは何よりのポイントだろう。LaVieはまじめに作った佳作だと思うし、80GBの大容量ハードディスクの実用性は高いのだが、飛びぬけた部分がないのが惜しまれるところだ。 【シングルスピンドルノートPC比較表】
【お詫びと訂正】記事初出時、dynabook SS SX/210LNLWのHDDを1.8インチと記述しましたが、正しくは2.5インチでした。お詫びして訂正させていただきます。 □関連記事 (2004年3月17日) [Text by 元麻布春男]
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