昨年末から話題になっている商品の1つに、ファイル再生機能を持ったDVDプレーヤーがある。I/Oデータ機器の「AVeL LinkPlayer」、長瀬産業の「DVX-500」、バッファローの「LinkTheater(PC-MP2000/DVD)」などがそれだ(最近NEXXの「NDVP-73OH」というのも発表された)。 こうしたプレーヤーは、通常のDVD-Videoや音楽CDを再生できるだけでなく、MPEG-1/2/4、DivX、XviDといったPCでポピュラーなビデオCODECによりエンコードされた動画ファイル、あるいはMP3やWMAなどのCODECによりエンコードされたオーディオファイルの再生機能を備える。要するに、面倒なオーサリングをしなくても、そのままキャプチャしたデータを再生し、家庭で一般的なTVに映し出すことができるプレーヤーなのである。 ●パソコンにあるデータをTVで再生
いわゆるTVパソコンやTVチューナカードの普及で、PCのハードディスクには少なからず動画データが眠っている。そのままPCで再生するのであれば何ということはないのだが、TVで見たいと考えるとちょっと大変だった。 PCにTV出力があればそれを使うのも手ではあるのだが、PCの設置場所とTVの設置場所は必ずしも同じとは限らない。かといってDVD-Videoに仕立てるというのは、オーサリングの手間を考えるとあまりやりたくない作業の1つだ。 それでもライブラリとして残したいコンテンツならばオーサリングを厭わないユーザーも多いかもしれないが、見たら消すような番組をわざわざオーサリングして、書き換え可能なDVD-RWやDVD+RWに書き出すというのは負担が大きい。PCに溜め込んだビデオを簡単にTVで見たい、という要求はかなりあったのではないかと思う。上述したファイル再生機能を備えたプレーヤーなら、オーサリングせずに、そのままPCのビデオデータをTVで再生することができる。 もう1つこの種のプレーヤーの利点は、ビデオファイルを読み出すメディアとして、CDやDVDといったリムーバブルメディアに加え、ネットワークが利用可能なことだ。ブロードバンドの普及で、多くの家庭にルータが入り、無線、有線を問わず、ネットワークが構築されているのも珍しくなくなった。ネットワーク経由でファイルを読み出せば、いちいちメディアに書き出さなくて済む。 ただ、ネットワークが普及したといっても、実効レートが3~5Mbps程度の802.11bが現時点で最も普及した無線LAN規格であるように、必ずしも様々なビデオデータに十分な帯域が確保されているわけではない。 番組の種類に応じて用いるCODECやビットレートを変え、それによってネットワーク経由でファイルを読み出すか、メディアに書き込んでデータを運ぶか選択できた方が便利だ。その時でも、この種のファイルプレーヤーならオーサリングの手間が省ける。DVD-RWやDVD+RWへの書き込みをOSが標準サポートしていないため、エクスプローラーだけで完結できないのは残念だが、MPEG-2ファイルをライティングソフトにドラッグ&ドロップするだけでメディアに書き出せるというのは、やはり簡便ではないかと思う。 どれくらい便利なのかは実際に試してみるよりない。というわけで、バッファローのLinkTheaterを試用してみることにした。 ●さまざまなフォーマットに対応するが制約も
現在LinkTheaterシリーズには、ファイル再生をサポートしたDVDプレーヤー本体である「PC-MP2000/DVD」(標準価格29,800円)と、これに個人向けのNASであるHD-H120LANをセットした「HD-H120LAN/MPD」(同54,800円)が用意されている。 今回用いたのはHD-H120LAN/MPDの方だ。DVDプレーヤーとしては最近良く見かける薄型タイプで、本体の操作ボタンではごく基本的な操作しかできない。ほとんどの操作はリモコンで行なうことになるのだが、使い勝手はごく普通。ボタンが押しにくくてイライラすることはないが、TVの操作まで1つのリモコンで可能なタイプでもない。 実は、この種の製品は、かなり見た目も似通っていて、いくつかの製品は明らかに同じOEMメーカーが製造していることが見て取れる(トレイの位置、ボタンの配置など)のだが、ファームウェアや細かい仕様、あるいはリモコン等はOEM先によって若干の違いがあるようだ。 特に映像出力オプションには結構バラつきがあるので、自分の利用形態に合ったものであることを確認しておかねばならない。PC-MP2000/DVDの場合、映像出力は色差コンポーネント出力端子、S映像出力端子、コンポジットビデオ出力端子の3系統、音声出力はアナログステレオ(RCAピン)とデジタル音声出力(光角型および同軸)となっている(ただし同時使用は、映像、音声ともに1系統のみ)。
対応するメディアはDVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RW、CD-R/RWで、DVD-RAMには対応しない。またVRフォーマットもサポートしないため、民生用のDVDレコーダーと組み合わせるより、そのままファイルとして書き出せるPCとの組合せの方が相性が良い。 ビデオCODECでサポートされているのはMPEG-1/2(最大10Mbps、最大フレームレート30fps)、Ver 3.11~5までのDivXおよびXviD(最大1.5Mbps、最大フレームレート30fps)で、音声CODECはAC3あるいはMPEGオーディオ(MPEG-1オーディオレイヤー1~3)となっている(ほかに非圧縮のリニアPCMも可)。 細かく見ていくと、DivX 5.xのQuarter PixelやGMCオプションには対応していなかったり、ファイル名に日本語を使っていると正常に表示できない場合があったり、結構制約があることが分かるが、どうしても耐えられないほどのものではない。 ●LinkTheaterのセットアップ
さて気を取り直して接続だが、通常のDVDプレーヤーとしての接続以外にLANケーブルの接続が必要になる(スタンドアロンのプレーヤーとして利用するなら不要だが、それでは本製品を買った意味が半分くらいはなくなるだろう)。 IPアドレスの設定はマニュアルも可能だが、基本的にはDHCPサーバー(ブロードバンドルータ)からの自動割当を利用する。特に、本機をインターネット接続されたPCと組み合わせて利用する場合(ファームウェアのアップデートにインターネット環境が必要)は、必ずDHCPサーバー機能を持ったルータを用いるようになっているが、おそらくこれが現在では最も一般的なネットワーク構成だから、大きな問題はないハズだ。 加えてPC-MP2000/DVDからネットワーク経由でファイルを読み出すには、ファイルを保存してあるPC側でPCast Media Serverというソフトウェアを実行しておく必要がある(画面1)。このPCast Media Serverで動画(ビデオ)、音楽(ミュージック)、写真(フォト)それぞれのデータを保存しておくフォルダを指定する。 なお、写真データのみ、データディレクトリは2階層に制限されており、それ以上深いと再生できないので注意が必要だ。 このPCast Media Serverで厄介なのは、当然のことではあるがPCast Media Serverを動かしているPCは常時動作していないければならない、ということだ。そこで出番なのが今回用いたセットに含まれているHD-H120LANだ。 HD-H120LANをPC-MP2000/DVDに付属のCD-ROMに収められている最新版ファームウェアにアップデートすると、管理画面にPCastというメニューが現れる(画面2。このバージョン1.33のファームウェアは、現時点でHD-HLANシリーズ用には提供されておらず、PC-MP2000/DVDに付属しているのみのようだ)。 ここでフォルダを指定することで、HD-H120LAN上のフォルダをPC-MP2000/DVDから参照可能になる。もちろんHD-H120LANの電源を落とすことはできないが、PCを通電しっぱなしにするより低消費電力だし、平均的なデスクトップPCに比べればノイズも気にならない。
●無線LANを使ってNASをバッファに
もう1つネットワークにハードディスクを追加して受けられる恩恵は、バッファの用途だ。たとえばPCが設置してある部屋のLANとリビングルームのLANが802.11bで接続されているような場合、リビングルームに設置したPC-MP2000/DVDからPCのハードディスクを読み出す速度は802.11bがボトルネックとなる。 筆者の自宅がまさにこのような環境で、LAN間の速度は3.5Mbps程度しかないため、リビングルームのPC-MP2000/DVDから、PCにあるMPEG-2のファイルを直接読み出すには帯域が厳しい(DivXならいけるが、ライブラリとして残すMPEG-2とDivXと両方用意するのは別の意味で負担がかかる)。しかし、リビングルームにHD-H120LANを設置して、MPEG-2ファイルをコピーしておけば、802.11bのボトルネックから開放される。 そう考えて実行に移してみたのだが、あまり良い結果にはならなかった。確かに、リビングルームのHD-H120LANに蓄積したハードディスクのMPEG-2ファイルは何の問題もなく再生できた。が、MPEG-2を通せないような無線LANの帯域では、ファイルのコピーにも長時間かかるという、ごく当たり前のことをすっかり忘れていた。 753MBのMPEG-2ファイルをHD-H120LANにコピーするのに、ローカル(100BASE-TX接続)なら2分強で終了する(約5.5MB/sec)のに、無線LAN経由だと約28分かかるのだ(約0.45MB/sec)。このファイルは正味25分程度の番組(民放の30分番組からCMをカットしたもの)だから、実時間以上かかってしまう。これではあまりメリットがあるとはいえない。これならばUSBのポータブルHDDでデータを持ち運ぶカノープスのMTPlayer(USB 2.0対応、ただプレーヤーとしては対応するCODECが少なくMTV純正オプション色が強まる)か、ファイル再生対応DVDプレーヤーでUSBポートを備えたNEXXのNDVP-730HにUSBのポータブルHDDを接続した方がマシかもしれない(ただしこちらはUSB 1.1対応なのでコピーに時間がかかりそう)。 というわけで、筆者のような環境なら、NASにバッファの役割を期待するより、まず802.11bを置き換えることが先のようだ(実効レートがどのくらいになるか分からないので、イマイチ踏み切れないでいるのだが)。ファイル再生プレーヤーとNASを組み合わせて有効に利用するには高速なネットワーク環境か、ファイルのコピーを夜間バッチか何かで処理する覚悟が必要だと思われる。 ●それでも欲しくならない理由
実際にファイル再生をサポートしたDVDプレーヤーを使ってみての率直な感想だが、事前に考えていたほどは欲しくならなかった。もちろん、それは画質が悪いからではない。画質は少なくとも価格なりのクオリティはあると思う(DivXの再生時、筆者は目に負担を感じたが、これがプレーヤーのせいかどうかは分からない。そうでなくても筆者はあまりDivXの画質が好きではない)。 動作の安定度もそれなりに良好で、ファイル再生中に早送りや巻き戻しを行なった時、レスポンスがなくなることがあったが、最新のファームウェアでは改善された。また、古いファームウェアであっても、とりあえず電源スイッチが利かなくなることはなかったし、電源を再投入すれば確実に機能性を取り戻せた。それで当たり前のように思うかもしれないが、筆者の手元にはフリーズすると電源プラグを抜くしかなくなる、困ったちゃんのS-VHSデッキ(某国内有名メーカー製)だってある。リモコンから電源がいつでも切れる、というのはそれなりに評価できることなのだ。 それより個人的にはディスクメディアで認識できる拡張子が決め打ちになるのが辛い。本機が認識するファイルの拡張子は、ネットワーク経由(PC、LinkStationへのファイルアクセス)の時は幅広く対応しているのだが、ディスクメディアの場合は極端に少なくなる。 たとえば、MPEGファイルは必ず拡張子が.mpgでなければならないのだが(.mpg以外の拡張子のファイルは表示されない)、デフォルト状態のMTV1000/2000が出力するファイルの拡張子は.M2Pである。これを最初から.mpgの拡張子で出力するよう変更することは可能だが、筆者の手元にはすでに.M2Pの拡張子のファイルとしてDVD-Rに焼いたメディアが100枚ほどある。これをいちいちハードディスクにコピーして、拡張子を変えないと再生できないかと思うと、結構憂鬱である。
ちなみに、筆者が以前MPEG-2のファイルをそのままDVD-Rに焼いて保存していたのは、オーサリングが面倒というだけでなく、音声フォーマットの問題があったからだ。 MTV1000/2000のようなキャプチャカードが生成するMPEG-2ファイルは、音声もMPEGオーディオとして記録されるのが一般的だ。しかし、NTSC地域のDVD-Videoは、リニアPCMかドルビーAC3の音声を持っていなければ規格にのっとったディスクとは呼べない(MPEGオーディオはオプション)。これは実際のプレーヤーで音声がMPEGオーディオのDVD-Videoが再生できるかどうか(おそらくかなりの割合のプレーヤーが再生できるだろう)の問題ではなく、ライブラリを規格外のディスクとして残すべきかどうか、という問題だ。 昨年の半ばあたりまでは、安価なPC用オーサリングソフトでMPEGオーディオをドルビーAC3に変換する機能を持ったものがほとんどなかったため、オーサリングする気にはなれなかった。規格に沿ったDVD-Videoを作ろうと思うと、音声を非圧縮のリニアPCMに変換しなければならず、メディアへの収納効率が悪くなるからである。この理由もあって、筆者は100枚上、.M2Pファイルの収録されたPCでしか再生できないDVD-ROMディスクを作成してしまったわけだ(もちろんPCのDVD-ROMとしては規格に沿っている)。 ところが、昨年末に「TMPGEnc DVD Author」がドルビーAC3に対応した。これ以来、筆者は音声をMPEGオーディオからAC3に変換した上で、DVD-Video互換のオーサリングを施して残すように変えた。これならどんなDVDプレーヤーでも再生できるから、特にファイル再生機能がなくても良くなったのである。 とはいえ、ファイル再生機能付DVDプレーヤーに魅力がないわけではない。今使っているDVDプレーヤーが壊れて買い換えるとしたら、ファイル再生機能がないものより、ある方を選ぶだろう(あるいは、専用プレーヤーはやめてすべてDVDレコーダーにしてしまうか、だが)。 その時にファイル再生機能付DVDプレーヤーに欲しい機能は、拡張子のカスタマイズ(もちろん.M2Pファイルで書き込んだライブラリを救うため)、見たファイルを消す機能(もちろんネットワークドライブ上のものだけでいい)、DVD-RAMの読み出し対応(PCで書き込むメディアとしてお手軽)、VRフォーマット対応(CPRM対応も含めて。そうでないと今後地上波デジタルやBSデジタルを録画した番組の再生ができないのだが、わが国固有の問題であったりもする)といったところだろうか。DVD-RAMやVRフォーマットへの対応はDVDレコーダーなら実現している上、DVDレコーダーの価格は着実に下がっている。DVDプレーヤーという製品ジャンルが生き残るには、こうした部分も押さえておく必要があるハズだ。 【お詫びと訂正】初出時に動画および音声ファイルのディレクトリ階層が2階層までしかサポートされないという記述がありましたが、誤りでした。ご迷惑をおかけした関係者の方々にお詫びして訂正させていただきます。なお、写真ファイルの再生時はディレクトリ階層は2階層に制限されます。□関連記事 (2004年3月15日) [Text by 元麻布春男]
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