大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本HP、コンシューマPC市場再参入の勝算


馬場真 取締役副社長

 日本ヒューレット・パッカー株式会社(日本HP)が、今年秋にもコンシューマ市場に再参入する。

 一昨年11月にコンパックと合併し、新生日本HPが誕生して以降も、コンシューマ市場に関しては、避けて通っていた感があった同社。そればかりか、それ以前の、旧日本HP、旧コンパックの時代には、いずれにおいても、コンシューマ事業では失敗の繰り返しだった。

 日本HPで、パーソナルシステムズ事業を担当する馬場真副社長は、自ら旧コンパック時代に、コンシューマパソコン事業を率いた経験を踏まえて、「旧コンパックも、旧日本HPも、コンシューマパソコン事業では一度も赤字を脱し得なかった」と振り返る。成功を収めている米国市場に対し、国内におけるコンシューマPCは鬼門となっているのだ。

 最近では、旧HPの事業を継続しているプリンタ事業において、コンシューマ市場をターゲットとした戦略を展開し、徐々に成果をあげつつあるが、残念ながら、先行するエプソン、キヤノンの牙城を崩せずにいる。やはり、コンシューマ事業では厳しい環境に置かれているのが実状だ。


●惨々たるコンシューマ事業の実績

 振り返れば、過去の旧コンパック、旧日本HPのコンシューマ事業における失敗は、まさに惨々たるものだった。

 かつて、コンパックは、コンシューマ市場向けの製品として米国で投入していたプレサリオシリーズを日本市場に投入すると決定した際に、コンシューマ系の販売店に強い流通ルートを持つキヤノン販売と独占販売契約を結ぶとともに、低価格性を打ち出すことで他社との差別化を図った。

 このときに、日本市場向けに投入した製品は、日本からの要求を反映した製品仕様が前提とされ、実際に、キヤノン販売からも日本市場に適した要求仕様が出され、これが盛り込まれたものとなった。また、人気グループのTOKIOをイメージキャラクターに使った広告展開まで行ない、話題を集めたものだ。

 だが、当時、世界最大のパソコンメーカーであったコンパック、国内最大規模の販売網を持つキヤノン販売、人気グループTOKIOとのコラボレーションを持ってしても、先行する国産勢をキャッチアップすることはできなかった。コンパック製品に対して、「低価格」のイメージが先行したことも、当時の日本のユーザーにはマイナス要素になったといえる。結果として、コンシューマ市場では台風とはなりえないばかりか、最終的には、大量に膨れ上がった店頭在庫の処分に追われることになってしまったのだ。

コンパックが日本市場専用に投入した省スペースデスクトップ「Presario 3500」 TV CMに登場し、プレサリオの発表会にも参加したTOKIO

 一方、日本HPも同様に、コンシューマ事業戦略では苦汁をなめている。

 同社は、米国のコンシューママーケットにおいて、同市場向けの「パビリオン」シリーズが高い人気を誇っていたが 日本国内への投入に関しては、コンシューマ向けの販売ルートが確立できないとして、長い期間に渡って、投入を見送っていた経緯があった。だが、2000年になって、ソフトバンクという強力なパートナーを獲得。同社と提携することで、まさに満を持しての日本市場への製品投入となった。

 会見には、ソフトバンクの孫正義社長と、米HP本社のカーリー・フィオリーナ会長が並んで出席。パビリオンシリーズの投入が戦略的なものであることを印象づけた。

 だが、結果は厳しいものとなった。米国で流行っていた無料パソコンあるいは超低価格パソコンの販売手法を習って、ソフトバンク系列子会社とプロバイダ契約した人は月額3,480円で購入できるというビジネスモデルを主力に、単体でも90,000円で購入できるという低価格路線を打ち出したが、結果として、この手法が日本では受け入れられずに、大量の不良在庫を抱えるという結果に陥った。

 最終的には、ディスプレイ込みで90,000円のパソコンが49,800円で販売されるという有様で、その後のコンシューマパソコン事業の撤退へとつながっている。

前回の家庭向けPC参入発表時は、孫正義氏とのツーショットで話題をまいた 最終的には、ディスプレイ込み49,800円で販売された「pavilion 2000」

 このように、旧日本HP、旧コンパックのいずれにとってもコンシューマパソコン事業は、まさに鬼門ともいえる状況にあったのだ。

●樋口社長自らがコンシューマ事業に意欲

 しかし、現在、日本HPの社長を務める樋口泰行社長自身が、かつて、旧コンパックおよび、その前に在籍したアップルコンピュータで、自らコンシューマパソコン事業を担当していたこともあって、樋口社長自らもコンシューマ市場への再参入は大きな課題と位置づけていたようだ。

 昨年5月の社長就任直後にも、インタビューでは、「コンシューマ市場は、失敗すると取り返しがつかないような大きな痛手になる。やるならば慎重にやらなくてはならない」と、樋口社長自らの経験をもとに、コンシューマ事業の難しさを訴えなからも、再参入には強い意志を示していた。

 樋口社長は、社長就任直後の昨年6月には、コンシューマ向けの地盤づくりのひとつとして、ソフトバンクBBが出店しているBB SHOP!店頭の端末から、個人ユーザーがパソコンを購入する際の購入相談をテレビ電話を通じてオンラインで行なう「HP Web Attendant」といった取り組みを、樋口社長の号令のもとに開始していたほどである。これは米国にもない、日本独自の先行した取り組みともいえるものだった。

●コンシューマ事業に再参入する3つの背景

 こうした経緯を経て、今年秋には、いよいよ日本HPが、日本のコンシューマ市場をターゲットとした事業を再開する。

 馬場副社長は、その背景を次のように解説する。

 「ひとつには、米国において当社のコンシューマ・エレクトロニクス製品が出揃ったこと、2つめには、日本におけるビジネス市場向けでの地盤が整ったこと、そして、最後に、今後の日本HPの成長を考えた場合に、コンシューマ市場への参入なしには、その成長が考えられないこと」

 米国では、今年1月のCESで、大型LCDをはじめ、アップルからOEMを受けて投入するiPod、次世代ディスクであるBlu-ray仕様のBD-ROMドライブ搭載セットトップボックスなどの投入を発表している。

CESの基調講演で、HP版iPodを掲げるフィオリーナ会長兼CEO CESで公開された、HPのディスプレイとホームサーバー 国内市場への投入計画。大型ディスプレイも含まれる

 日本で、これらの製品をそのまま投入するとは考えにくいが、こうした製品の品揃えが米国市場で進んでいることは、一部製品の日本での投入を含めて、日本におけるコンシューマ事業推進の大きなポイントになるのは間違いない。アップルが日本で成功しているiPodを、HPブランドで日本市場に持ち込むだけでもメリットはあるだろう。

 また、馬場副社長が指摘したビジネス市場向けの基盤の確立では、同社のパソコン出荷台数が前年比40%増と高い伸びを達成。業界全体の成長率が5%増であったことに比べると、それを大幅に上回る成長となっていることや、昨年10~12月の出荷実績では、ノートパソコンでは前年同期比2.4倍、デスクトップパソコンでは50%増という驚くべき伸びを見せたことなどを指している。

 「昨年1年間で、売り上げ、利益、そして、HPのブランドイメージは予想以上に確立できたと考えている」と馬場副社長は語る。

 いよいよ日本市場において、ビジネスパソコンとしてのブランドイメージが定着してきたというのが馬場副社長の判断なのだ。

●再参入にはネット直販を積極活用か?

 では、コンシューマ事業にはどんな形で取り組んでいくことになるのだろうか。

 対象となるのは、コンシューマ向けパソコンの投入に加えて、当然、米国で発表したコンシューマ・エレクトロニクス製品のいくつかも投入対象となることは間違いないだろう。

 そして、その参入手法に関しては、ネットによる販売を主軸にする考えのようだ。

 「かつての失敗は、流通施策にあった。店頭に大量の在庫を抱えてしまったことで、それが不良在庫となり、赤字へとつながった。この点の解決が、コンシューマ市場に再参入するための重要なポイントになる」と馬場副社長は語る。

 その解決手法として位置づけているのが、同社のネット通販である「ダイレクトプラス」を活用した取り組みだといえる。

 パソコンショップ店頭では、デルが展開しているような「デル・リアル・サイト」のようなショールーム機能とし、製品の発注などは、すべてネットを通じて行なうということも検討材料のひとつになっているようである。

 確かに、日本HPにおいて、ウェブ直販の販売比率はかなり高まっている。すでに、同社のパソコン出荷量の55%が、ウェブ直販を通じたものだという。このなかには、ディーラー販売とウェブ直販とを組み合わせたコラボレーション型の販売も含まれており、この手法も、コンシューマ市場への再参入は生かされることになりそうだ。

 「日本HPのウェブ直販価格で、つきあいがある地元の販売店から購入したいという企業系のユーザーも少なくない。こうした要求に応える形で実施ているのがこのコラボレーション型の販売手法。製品を当社からユーザーに直接配送することで、販売店も在庫を持たずに、短期間に配送が可能になる」というわけだ。

 この手法がコンシューマ向けにも導入されれば、販売店の在庫負担という最大の課題をクリアすることになりそうだ。

 しかし、同社では、今年後半からのコンシューマ市場への再参入とはいえ、一気に事業を加速するつもりはないようだ。 馬場副社長は、「まず今年は、コンシューマ市場における当社の存在感を訴えられればいい」として、本格的な売り上げへの貢献は、来年度以降と見込んでいるようだ。

 今度は失敗が許されない日本HPのコンシューマ市場への再参入。いまから、綿密な計画が練り上げられている。

□日本HPのホームページ
http://www.hp.com/country/jp/ja/welcome.html
□関連記事
【1月21日】日本HP、今年秋にもiPodの国内投入へ
~馬場副社長が個人向け事業の本格化を宣言
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0121/hp.htm
【1月9日】【CES】フィオリーナ会長がHP版iPodを披露
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0109/ces06.htm
【2003年5月28日】【大河原】日本HP、樋口社長率いる新体制発足
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0528/gyokai61.htm
【2000年6月15日】日本HP、家庭向けPCに参入。Eコマース販売でソフトバンクECと提携
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000615/hp.htm
【2000年10月5日】日本HP、個人市場向けデスクトップの第一弾
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001005/hp.htm
【2000年12月13日】ディスプレイ込み5万円PC「HP pavilion 2000」購入記
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001213/hp.htm
【'98年1月30日】コンパックとキヤノン販売、「プレサリオ」の販売などで業務提携
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/980130/compaq.htm
【2000年3月16日】コンパック、国内にプレサリオ製品開発センターを開設
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000316/compaq.htm
【2002年5月21日】コンパック、845G搭載デスクトップ「Presario 3900」
~SOHO/企業向けに直販も開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0521/compaq.htm

バックナンバー

(2004年3月8日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp 個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.