会期:2月17日~19日(現地時間)
IDFは、初日にクレイグ・バレットCEOの基調講演が行なわれたが、引き続きデスクトッププラットフォームグループ 共同ジェネラルマネージャのルイス・バーンズ氏による“デジタルホーム”に関する基調講演も行なわれた。 この中で、バーンズ氏は2004年のコンシューマPCのあるべき姿として、HD(High-Definition、日本で言うところのハイビジョン)品質のコンテンツを再生できるPCが、2004年のトレンドになるという見通しを明らかにし、そうしたHDコンテンツの再生に耐えうるPCを設計するためのコンポーネントとして、同社のPrescott+Grantsdaleを2004年のプラットフォームとしての採用を、集まったエンジニアに訴えた。 ●デジタルホームに乗り遅れることは“没落”を意味する 日本では大画面テレビ、DVDレコーダ、デジタルカメラが“新三種の神器”と呼ばれ、昨年の年末商戦では飛ぶような売れ行きを見せた。こうした動きは日本だけではなく、米国においても同じで、やはり量販店では大画面TVが非常に好調な売れ行きを見せているという。これまで家庭内におけるデジタル機器の代表として見られてきたPCはこの新三種の神器には含まれておらず、PC業界にはこうした状況に危機感を見せる関係者も少なくない。 バーンズ氏の基調講演は、そうしたPC業界の危機感に対しての答えとなりうる非常にインパクトのあるものだったと言ってよい。 バーンズ氏は「現在家庭ではデジタル機器の普及が急速に進んでいる」と述べ、家庭におけるデジタル機器の普及が、従来考えられていたよりも急速に進んでいることを指摘した。その上で「現在の変化は実に根本的な変化であり、新しい業界の創造が始まっている。この流れに乗り遅れた会社は、現在それがリーダーシップを持つ会社であっても5年後には存在しなくなり、逆に耳にしたこともなかった企業がリーダーシップを取得するかもしれない」と述べ、デジタルホームの流れに乗り遅れることは、現在大きな力を持つ会社であっても没落する危険性があることを意味し、逆にそうした流れに乗ることができれば、新しい企業にとってはチャンスになると指摘した。 ●シンプル、シームレス、HDという3つの条件 それでは、PC業界がデジタルホームの流れに乗るにはどうしたらいいのだろうか? バーンズ氏によれば、デジタルホームに入っていくためのデジタル機器には3つの条件があるという。それは、「シンプルであること、無線を利用してシームレスに通信ができること、そしてHD(High Definition、ハイビジョン)コンテンツを再生できること、の3つの条件を満たす必要がある」(バーンズ氏)という。「これらの3つの要素を満たせば、ユーザーは喜んで購入してくれるだろう」とし、逆にこの3つを満たさなければユーザーに選択してもらうのは難しいと指摘した。 バーンズ氏は、同社が第2四半期に投入を予定している新チップセット「Alderdale」と「Grantsdale」(情報筋によればIntel 925XとIntel 915の製品名になるという)、そしてすでに同社がリリース済みの90nmプロセスルールで製造されるL2キャッシュ1MBのPentium 4プロセッサ(開発コードネーム:Prescott)により、それらの機能をすべて満たすことが可能であるという。 すでに本誌では既報の通り、AlderwoodとGrantsdaleは、PCに全く新しいアーキテクチャをもたらす。バーンズ氏はAlderwoodとGrantsdaleの新機能として、PCI Express X16による、より広帯域幅をサポートしたグラフィクスバス、ピクセルシェーダの機能を備えたDirect X9世代の内蔵GPU、DDR2-533のデュアルチャネルによる広帯域幅のメモリ、サウスブリッジへの広帯域幅バスとなるDMI、Serial ATAによるRAID機能(RAID0/1)、新しい24bitのコーデックチップによるHigh Definition Audio、Caswellと呼ばれるIEEE 802.11b/gの規格に対応した無線LANコントローラなどの機能を備えている。
●3つの条件を満たすためのPrescott+Grantsdale バーンズ氏は「これらのAlderdaleやGrantsdaleでは、BTXによる新しいプラットフォームをサポートする。これらによりユーザーはより簡単にPCを利用できる」と述べ、実例として、同社が2005年のリファレンスデザインとして提案する、開発コードネーム“Sandow”(サンドゥー)を紹介した。 Sandowは、Intelのポール・オッテリーニ社長兼COOが1月のCESで発表した「Entertainment PC」のこと。リビングに置いて大画面TVなどに接続して利用するための新カテゴリのPCとされ、2005年に想定されるデザインという。手前に操作用のタッチパネルなどが用意されており、より直感的に操作できる。IntelがFICと協力して開発したEntertainment PCもデモに利用され、10フィートGUIを実装したWindows XP Media Center Editionとリモコンを組み合わせて操作する様子がデモされた。 Entertainment PCには、IntelがGrantsdaleのサウスブリッジ「ICH6」のバリエーションモデル「ICH6W」でサポートされる無線LANの機能が搭載されているという。ICH6WにはIntelが提供するソフトウェアアクセスポイントの機能が用意されており、これと組み合わせて利用することで、PCを無線LANのアクセスポイントとして利用することが可能だという。 「こうした機能によりPCをデジタルホームのハブとして利用できる」(バーンズ氏)の言葉の通り、エンドユーザーは1~2万円追加して無線LANのアクセスポイントを購入しなくても、PCをアクセスポイントとして利用でき、無線LANの普及という観点からも大きな意味があると言えるだろう。
●HDコンテンツ再生を標準的なPCで実現するためのGrantsdale バーンズ氏がこの基調講演の中で最も時間を割いて説明したのは、GrantsdaleにおけるHDコンテンツの再生についてだ。バーンズ氏は「強力な統合型GPUやDDR2の持つ高性能を利用することで、PCにおいてHDクオリティのビデオやオーディオを扱うことができる。これによりPCにおけるコンテンツの再生環境は飛躍的に向上する。」と述べ、今年はハイエンド向けの製品だけでなく、GPU統合型を採用しているようなメインストリーム向けやバリュー向けのPCでもHDクオリティのビデオやオーディオを再生できるようになると述べた。 というのも、Grantsdale(Intel 915)では、前世代のIntel 865Gなどの統合型チップセットに比べて強力な内蔵グラフィックスを持っているからだ。IDFの技術セッションでは、その仕様が公開された。 Grantsdaleの内蔵グラフィックスはDirect X9に対応しており、4本のピクセルパイプを備えるピクセルシェーダエンジンを備えている。ビデオメモリも最大で228MBまで対応可能で、大容量のメモリを搭載している場合にはビデオメモリに大容量を割いて、ビデオ処理にかかる性能を向上させることができる。特に、Grantsdaleでは、DDR2-533のデュアルチャネル構成が可能になっており、最大構成時で8.4GB/secの帯域幅をサポートしており、内蔵グラフィックスコアにも十分な帯域幅を割り当てることができる。 従来の内蔵グラフィックスでは、HDのビデオなど高解像度なビデオを扱うには、内蔵グラフィックスの性能が十分ではなかった。このため、HDのコンテンツを再生するとコマ落ちが発生したりという問題が発生していたのだが、Grantsdaleのように高い処理能力を持っていれば十分HDクオリティのコンテンツを再生したり、HDビデオを録画したりという作業が、単体のGPUがなくても十分可能になる。 また、Grantsdaleではこれまで開発コードネームAzalia(アゼリア)で呼ばれてきた24bit/192kHzのオーディオを再生可能なコーデックを利用できる。Intel High Definition Audioと呼ばれるこのオーディオ機能では、ユーザーは7.1チャネルのオーディオを再生できるようになるほか、24bitオーディオをデコードできるようになるため、ソフトウェアでDVDオーディオを再生することなどが可能になる。 今回の基調講演ではドルビーラボラトリーズの関係者も招待され、ドルビーサラウンドやドルビーマスタースタジオなどの、ドルビーの技術を採用したPCに対してドルビーのロゴを添付することを許可するプログラムを開始することなども発表された。 ●日本ではPCにおけるHDコンテンツの供給が課題 このように、オーディオにせよ、ビデオにせよHDのコンテンツが再生できることを強調したバーンズ氏だが、肝心なHDのコンテンツがなければ、箱はあるが中身がないという状況となってしまう。 だが、バーンズ氏はそれも心配ないと強調する。「すでにMovieLinkが映画を配信するサービスを提供しており、試用期間中に99セントで映画を見られるサービスを行なったところ、実に多くのユーザーがこれを閲覧した。今後はハリウッドのようなプレミアムコンテンツで映画を配信するという動きを見せているところもあり、今後は家庭で封切りと同時に映画を見れるようになる」と述べ、近い将来にはHDのコンテンツがインターネットで配信されることは可能であると強調した。 実際に、米国におけるプレミアムコンテンツのPCへの配信を巡る環境は大幅に変わりつつある。例えば、AppleがiTuneでの音楽配信サービスの立ち上げに成功したなどの例も出てきつつある。実際ハリウッドの映画会社の中にも2005年には映画館で公開するのと同時に、家庭に映画を配信しようという動きを見せているところもある。PCでもHDを、というのは必然的な流れになりつつあるのだ。 米国での状況に対して、日本ではHDコンテンツ配信サービスの立ち上げに関して明確になっていない。唯一のコンテンツである地上デジタル放送やBS/CSデジタル放送はコピーワンスの仕組みによりPCユーザーは録画できないし、NECのVALUESTARのように録画できるようにしても、現在の地上波放送とあまり変わらない480pでしかTVに出力できないなど問題を抱えている。 そういう意味では、日本ではEntertainment PCが成功するかは、今のところ明確ではない、どちらかと言えば厳しい状況だ。このあたりは、日本PCメーカーにとっては今年も頭が痛い問題として残っていくと言わざるを得ず、Intel、Microsoft両社の日本法人も含めて何らかの対策を検討していく必要があると言えるだろう。 □IDF Spring 2004のホームページ(英文) □関連記事 (2004年2月19日) [Reported by 笠原一輝]
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