1月23日Intelは、今年度のエンタープライズ・プラットフォームの戦略と展望に関する説明会を開催した。基本的には2003年度の回顧と、2004年に発表を予定している製品に関するロードマップのおさらいが話題の中心だったが、今後のサーバープラットフォームにおける技術展望も含まれていた。 ●新たな電力制御技術を導入
写真1は、IA-32とIA-64の両方に共通した、すべてのサーバープラットフォームを強化するための技術ロードマップだ。2004年の項の下にあるPCI-ExpressとDDR2メモリについては、すでに明らかにされている通り。今年の第2四半期に投入される、90nmプロセスに対応したサーバー/ワークステーション向けXeonプロセッサ(コード名Nocona)をサポートするチップセット(コード名はサーバー向けがLindenhurst、ワークステーション向けがTumwater)に盛り込まれる技術だ。注目したいのは、その上にある「プロセッサが電力消費を制御」、という項目だ。 これについては詳細は述べられなかったが、「Geyservilleテクノロジに類似した技術」らしい。'99年春のIDFでデモンストレーションされたGeyservilleテクノロジは、その後モバイルPC向けのプロセッサにSpeedStepテクノロジという名称で採用された技術だ。 元々SpeedStepテクノロジは、バッテリ駆動かAC駆動であるかをトリガにして、プロセッサの動作電圧と動作周波数を2段階(AC駆動の最高性能モードとバッテリ駆動のバッテリ最適化モード)で切り替える技術であった。現在、Pentium Mプロセッサ等で使われているEnhanced SpeedStepテクノロジは、2段階ではなく多段階の動作電圧と動作周波数による動作点を用意し、ソフトウェアにより切り替えるものである。これらがサーバー向けプロセッサにどうインプリメントされるのかは不明だが、プロセッサの動作周波数と動作電圧をダイナミックに切り替える技術が盛り込まれることは間違いないようだ。 ●キャッシュのリカバリ、複数の物理コアをサポート 2005年の項にある技術要素のうち、「2つの物理コア」という項目は、Montecitoというコード名で知られるプロセッサを指す。Montecitoには24MBものL3キャッシュが搭載されると言われているが、上にある「キャッシュのリカバリ」という項目は、こうした大容量キャッシュを信頼性を損なわずにサポートするための技術らしい。 1つの例としては、キャッシュメモリにエラーが生じた場合のリカバリが考えられるが、必ずしもエラーリカバリに限定された技術ではないという。また、下にある「ユーザ設定可能な電力しきい値」という項目は、サーバーを設置するラック単位で最大消費電力の上限を設け、それぞれのサーバーをその枠内で動作させる、といった技術らしい。となると、2005年の次の「次世代」にある「データ・センターの消費電力管理・制御」という技術も、この延長線上のものと考えて間違いないだろう。その下にある「機能強化されたI/O」については、現時点ではほとんど情報がない。PCI Expressのような内部I/Oを指すのか、ストレージのような外部I/Oを指すのかも不明だ。 次世代に挙げられている「複数の物理コア」は、Tukwilaというコード名が知られているプロセッサを指す。現在、買収した旧Alphaプロセッサの開発チームも加わって開発が進められているもので、65nmプロセス技術を用いたものではないかと考えられる。 現時点では詳細は不明だが、Tukwilaに内蔵されるプロセッサコアはIA-32より小さく、ダイ当たりIA-32プロセッサの2倍の数のコアを内蔵可能になるとされている(写真2)。これはIA-64が採用するEPICアーキテクチャでは、Out Of Order実行や分岐予測といった命令実行の並列度を高めるためのハードウェアが不要(これらはコンパイラが解決する)であることと無縁ではないだろう。 IA-64では、IA-32でハードウェア処理されていた機能の一部がソフトウェアに移されており、その性能はハードウェアの改良やクロックの引き上げだけでなく、ソフトウェアの改良によってももたらされる。並列動作に向いたアーキテクチャ、マルチコア化に有利なシンプルなハードウェア、ハードウェアとソフトウェアの同時改良といった要素により、Itaniumプロセッサの性能向上速度はムーアの法則の2倍以上になる、というのがIntelの言い分である。
こうしたソフトウェアによる機能実現の一例が、提供が始まったばかりのIA-32 Execution Layer(IA-32 EL)だ。IA-32 ELは、これまでハードウェアで処理されてきたIA-64プロセッサのIA-32互換機能を、IA-64上で動作するソフトウェアに移すもの。現時点ではWindows向けのみがリリースされているが、年内にRedHatおよびSuSEからLinux対応版がリリースされる予定となっている。 IA-32 ELによるIA-32アプリケーションの処理速度は、現時点で1.5GHzのXeon MP相当とされているが、今後Itanium用ネイティブアプリケーションの50~70%を実現するようになるとIntelでは予想している。IA-64上のIA-32互換ハードウェアは、IA-64自身のアーキテクチャ改良やクロックアップの恩恵を受けることはなかったが、IA-32 ELであればIA-64の性能向上にしたがってIA-32アプリケーションの処理性能も高まることになる(写真3)。 ●2008年にはIA-32 ELがIA-32を凌駕 さて、ここで1つの試算をしてみよう。Intelの言うとおり、IA-64プロセッサの性能がムーアの法則の2倍、すなわち18カ月で4倍の性能になると仮定して、IA-32 ELの性能を考えてみる。現在(2004年初頭)におけるIA-64のネイティブアプリケーションにおける性能を100、IA-32 ELにおける性能を50~70%という試算の中間である60%だと仮定する(現在のIA-32 ELの性能は50%にも満たないかもしれないが、その場合、下の試算はさらにIA-64/IA-32 ELに有利になる)。すると、ムーアの法則の1サイクルである18カ月おきの性能は、表1のようになる。 一方、IA-32プロセッサの性能についてIntelはムーアの法則の1.1倍程度と予想している。現在のIA-32プロセッサの性能をXとすると、IA-32プロセッサの性能は18カ月後に2.2倍、その18カ月後に4.84倍と、IA-64に比べるとはるかに穏やかな上昇にとどまる。 【表1】IA-64プロセッサの性能向上率
両者の関係がどうなるのか比較するため、現在のIA-32プロセッサの性能をIA-32 ELに換算してみたいと思う。IA-32 ELの性能がXeon MP 1.5GHz相当だとすると、Xeon MP 1.5GHzの性能が表の60相当ということになる。現在のIA-32プロセッサで最も高性能なものはPentium 4 EE 3.2GHzだが、Xeon MPと同じ2MBのL3キャッシュを搭載していることを考えれば、両者の性能比はほぼクロック比になると思ってよいだろう。とすると、Pentium 4 EE 3.2GHzの性能は、クロック比から128ということになる。 もちろん、現実の性能はアプリケーションに大きく依存するし、マルチプロセッサへの対応ということにも大きく依存する。加えて、Intelの比較に用いられたプラットフォームの価格は、一般的なPCより格段に高価なもので、プラットフォームの性能もかなり含まれているものと考えられるが、ここではあくまでも目安ということで、この数字をベースにしてみたい。それが表2に示した数字だ。 【表2】IA-32プロセッサの性能向上率
表1と表2を1つにまとめたのがグラフだ。IA-32プロセッサとIA-64プロセッサの性能差が顕著になるのは2007年あたりからで、2008年夏にはIA-32 ELの性能が実際のIA-32プロセッサを大きく引き離してしまう。2010年初頭では、比べられないような差になる。筆者の推定にはいくつか杜撰な部分があるので、時期については若干の変動があるだろうが、IntelがIA-64の性能向上はムーアの法則の2倍、IA-32の性能向上は1.1倍といっていることが示す最終的な意味は、このグラフとかけ離れたものではないハズである。
となると誰しもが思うのは、これだけの性能差があるのなら、なぜ将来のIntelプロセッサをIA-64にしないのか、あるいは将来のIntelプロセッサはみなIA-64になるとなぜIntelは言わないのか、ということだろう。 ●NetBurstマイクロアーキテクチャの後を見据えるIntel これまでIntelは、IA-32とIA-64は住み分けると繰り返し述べており、IA-64がIA-32の後継になるとは1度も言ったことがない。むしろ、筆者が個人的に受ける印象では、Desktop Platform Groupなど現在IA-32プロセッサを推進する事業部は、IA-64を嫌がっているようなニュアンスさえ感じる。 おそらくIntelの中には、IA-64アーキテクチャを推進するグループと、そうでないグループがあり、両者はある種の競争関係にあるのではないかという気がする(ひょっとすると意図的に競争させられているのかもしれない)。 このままいくと、IA-64との競争という関係だけでも(実際にはAMDとの競争という側面も加わるが)、現在のIA-32プロセッサが採用するNetBurstマイクロアーキテクチャは2008年から2010年あたりに陳腐化することになりそうだ。Pentium 4の発表時(2000年11月)に、10年使うことを目標に開発した、と述べられていたことを考えても、このあたりでアーキテクチャの寿命がきてもそれほど不思議な話ではない。 IA-64に対抗するグループは、2008年あたりを目標に次のアーキテクチャ(それが32bitなのかIA-64とは別の64bitアーキテクチャなのかは別にして)を開発しているのではないだろうか。もしそれが成功すれば、そのアーキテクチャが新しいメインストリーム向けプロセッサとしてデビューするだろうし、万が一失敗した場合もIA-64を下に降ろしてくるという「保険」が働くことになる。
□関連記事 (2004年1月23日) [Text by 元麻布春男]
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