会場:Las Vegas Convention Centerなど 1月8日(現地時間) 開催 International CESは明日9日(現地時間)より、米国ネバダ州ラスベガスで開催される。開幕前日の8日には、キックオフキーノートとして、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSAの基調講演が行なわれた。 この中でゲイツ会長は、動画、静止画、音楽ファイルなどにアクセスし、TVに表示するネットワークメディアプレーヤー“Windows Media Center eXtender”、これまでMedia2Goと呼ばれてきた動画、静止画、音楽ファイルなどを持ち出して外出先で再生可能な“Portable Media Center Device”、SPOTと呼ばれる技術を採用した、パーソナライズが可能なインテリジェント時計“SmartWatch”などのネットワークデバイスを公開。PC用の周辺機器でMicrosoftがリビングに進出するという方向性を強調した。 ●「ソフトウェアの果たす役割は大きい」とゲイツ氏 2000年に、一度Intelのクレイグ・バレット社長兼CEO(当時)に譲り、初日の基調講演に回った以外、ここ数年ゲイツ氏は、毎年CESのオープニングキーノートスピーカーをつとめている。 家電向けの展示会であるCESのオープニングをつとめるということは、ゲイツ氏にとっても、Microsoftにとっても大きな意味がある。というのも、家電分野に進出し、同社のソフトウェアを家電に搭載することはゲイツ氏、そしてMicrosoftの悲願だからだ。 今年もゲイツ氏は家電分野における“ソフトウェア”の役割について語り出した。「コンピュータは我々の生活の一部となり、デジタル生活における中心の役割を果たすようになってきている。しかし、ユーザーインターフェイスという意味ではまだまだ十分ではない。より優れたソフトウェアにより、よりリッチなユーザーインターフェイスを実現する必要がある」と、現在のデジタル家電などでユーザーが得られるメリットはまだまだ十分な物ではないと指摘した。 そこで、「我々のビジョンとしては、ユーザーがいつでもどこにいてもシームレスにコンテンツに対してアクセスが可能なソフトウェアを供給していくことだ」と述べ、同社のソフトウェアによりユーザーがいつでもどこでもコンテンツにアクセス可能な環境ができると強調した。
●MSN Premiumでより使いやすいネットワークサービスを提供 家庭内で、シームレスなコンピューティングを実現する要素として、ゲイツ氏は同社が推進する複数の構想を明らかにした。今回、ゲイツ氏が基調講演の中で明らかにしたのは、同社が提供しているネットワークサービス「MSN」の新サービス「MSN Premium」や各種メディアプレーヤーデバイスなどだ。 ゲイツ氏はMSN Premiumと呼ばれる新サービスについて、次のように語った。MSN Premiumはサブスクリプション(購読)モデルが採用されており、利用するには月額9.95ドル(日本円で約1,100円程度)、年額で99.95ドル(同約11,000円程度)で利用できる。 様々なサービスが提供され、例えば、MSN Premiumに加入することで、NetworkAssociatesが提供するMcFee Personal Firewall、AntiVirusなどが利用できるようになるほか、ユーザーが他のユーザーに写真ファイルをメールで送信する場合、自動で圧縮して相手には小さいファイルサイズで送信、実際の大きなサイズのファイルはWebサイトに自動的にアップロートされ、必要に応じて見てもらう、ということもできる。 また、Outlookは、Microsoftが企業向けに提供しているExchangeサーバーと組み合わせることですべての機能を利用できるが、MSNのサーバーを利用することで個人ユーザーでもExchangeサーバーを利用しているのと同じような機能が利用できる「Mail Connector」と呼ばれる機能も提供されるという。 このCES期間中に販売が開始された「SmartWatch」と呼ばれる、SPOTの技術を応用した腕時計を利用するサービスとして、MSN Directというサービスも別途提供される。 Fossilなどの時計メーカーが提供するSmartWatchは、FM放送に載せて送られるデータを受信し、ユーザーが希望する様々なデータを表示できるようになる。それらのデータはチャネルとしてユーザーが自由に設定可能で、天気を受信したいユーザーは天気のチャネルを、スポーツの結果を常に知りたいユーザーはスポーツのチャネルを受信できるようにしておけばよい。 MSN Directでは、そうしたチャネルの設定が可能になる。つまり、SmartWatchを利用してデータを受信するにはMSN Directに加入する必要があるというわけだ。こちらもサブスクリプション(購読)モデルになっており、月額9.95ドル(日本円で約1,100円)ないしは年額59ドル(同約6,600円)となっている。
●RDPでメディアを制御する“Windows Media Center eXtender” また、ゲイツ氏はこれまで同社がOEMベンダなどと協力して開発してきたデジタル家電を公開した。その中でも、TVに接続してPC内のメディアファイルを再生するセットトップボックス“Windows Media Center eXtender”(Windows MCX)と、動画/静止画/音楽ファイルなどを再生するポータブルプレーヤー“Windows Media Center Mobile”が大きな注目を集めた。 Windows Media Center Extenderは、Windows XP Media Center Edition 2004が動作するPC(以下MCE PC)に接続し、MCE PCのチューナカードを利用してライブテレビを再生したり、録り貯めた動画ファイル、保存されている音楽ファイル、静止画などをテレビなどに出力するというセットトップボックスだ。 日本ですでに発売されている、ソニーのルームリンクやアイ・オー・データ機器のAVel LinkPlayerに近い、いわゆるネットワークメディアプレーヤーと呼ばれる分野の製品となる。 ただし、ルームリンクやAVel LinkPlayerなどとWindows MCXが決定的に異なるのは、Windows MCXがRDP(Remote Desktop Protocol)の仕組みを利用していることだ。ルームリンクやAVel LinkPlayerでは、Universal PnPやP2Pのソフトウェアを利用してPCからファイルリストを取得し、それを元にファイルそのものをプレーヤーに流し込んで再生している。このため、ユーザーインターフェイスはプレーヤー独自のものとなっている。 これに対してWindows MCXでは、いわゆるRDPを利用したリモートデスクトップの仕組みを採用しており、プレーヤーはWindows XP Media Center Editionにリモートデスクトップ接続する。このため、ユーザーインターフェイスはWindows XP Media Center Editionと全く同じで、違和感なく利用できる。 現在のWindows XPでは、RDPを利用してリモートデスクトップ接続する場合には2つの制限がある。1つは、リモートデスクトップ接続を利用して接続した場合は、接続を受けたPCはロックされ、他のユーザーは使えなくなる。このため、リビングで他の家族がWindows MCXのデバイスを利用している間、書斎に置いてあるPCをお父さんが使う、という使い方ができない。 もう1つの問題は、現在のRDPはMPEG-2やオーディオなどのストリームデータを転送できないことだ。 Microsoftは、今年の前半にリリースを予定している、Windows XPのServicePack2で、これらRDPの制限を撤廃する予定で、PCとMCXの同時利用や、AV Streaming Extentionsと呼ばれる仕組みを追加することで、オーディオやビデオを画面とは別にストリームデータとしてクライアントに送信できるようにする。従って、MCXの投入も、ServicePack2の投入以降と考えることができるだろう。 なお、MCXそのものは、Windows CE .Netのコアを利用したOSで動作しており、リファレンスデザインでは、Ethernetなどのネットワークポート、赤外線リモコン、USB 2.0ポート、TV出力(Sビデオ端子、コンポジット端子)などを備えており、多くの製品がこうしたリファレンスデザインを採用することになる。 ゲイツ氏の基調講演ではセットトップボックス以外に、テレビに内蔵したタイプ、さらにはXboxにMCXの機能を持たせた“Xbox Media Center Extender”なども紹介された。Xbox Media Center Extenderがどのような拡張なのかは紹介されなかったが、RDP経由でMCE PCにアクセスするというMCXの性格上、おそらくソフトウェアでそうした機能を持たせると考えるのが妥当だろう。 なお、MCXはDell、Gateway、HP、SamsungなどのPC OEMベンダからリリースされる予定になっており、今年のクリスマス商戦頃に実際の製品が投入されると明らかにされた。
●Windows Portable Media Centerで、いつでもどこでもメディアファイル閲覧を実現 ゲイツ氏はもう1つの注目デバイスとして、これまでMedia2Goのコードネームで呼ばれてきた持ち歩き可能なメディアプレーヤー“Windows Portable Media Center”を公開し、クリエイティブテクノロジーの製品を利用したデモが行なわれた。 Windows Portable Media Centerは、Windows Mobile、つまりWindows CE .NetベースのOSが動作しているデバイスとなっている。4型程度のディスプレイ、1.8インチのHDDドライブ、テレビ出力端子などを内蔵し、CPUにはIntelのXScaleなどが採用されている。OSはWindows CE .Netベースとなっているが、ユーザーインターフェイスに関しては、Pocket PCなどとは異なり、シェルはWindows XP Media Center Editionと同じインターフェイス(いわゆるFreestyle)が採用されている。 Windows Portable Media Centerは動画再生、音楽再生、静止画再生という3つの機能を持っている。サポートされるファイルは、動画がWMV、静止画がJPEG、オーディオがWMAとMP3となっている。MPEG-2がサポートされないのは残念だが、これはHDDが20GBと、容量が十分でないことが理由の1つかもしれない。 データの転送は、USB 2.0ポートを利用してPCと接続して行なう。転送にはWindows XPで次世代のWindows Media Playerをサポートしていることが条件となる。これは、Windows Portable Media CenterはSmartSyncという同期ソフトを利用してPCからデバイスにメディアファイルの転送を行なうのだが、SmartSyncが導入されるのが、次世代Windows Media Playerとなるからだ。 Windows Portable Media Centerでは、Microsoft Portable Device Digital Right Managementという著作権保護の仕組みを採用している。そのため、デバイスから他のPCにデータを出力することはできないようになっており、著作権保護も考慮された設計となっている。 また、今回公開された第1世代の製品では、特にPIM機能を持たせた製品などはない。しかし、Microsoftが昨年5月にWinHECで行なった説明では、ハードウェアベンダが独自のアプリケーションを搭載したり、Pocket PCの機能を持たせたり、ということも不可能ではないと説明されている。今後はそうした製品が登場する可能性もあると言えるだろう。
Windows Portable Media Centerは、クリエイティブテクノロジー、Samsung、三洋電機、iRiverなどが開発意向を表明しており、今年の後半頃製品が投入される見通しだ。 なお、ゲイツ氏はWindows Media Connect Technologiesと呼ばれるAPIを将来導入していくことを明らかにした。これは、昨年のWinHECで発表されたMTP(Media Trasfer Protocol)と呼ばれるポータブル機器などをコントロールする仕組みで、DirectXのようにハードウェアを仮想化することで、ソフトウェアからはどのメーカーデバイスであっても同じようにコントロールできるようになるもの。 例えば、現在は東芝のHDD音楽プレーヤーとDellのHDD音楽プレーヤーはそれぞれ別のアプリケーションを利用してファイルの転送などを行なっているが、Windows Media Connectが導入されれば、機器のデバイスドライバをインストールするだけで、Windows Media Connectに対応したすべての音楽アプリケーションからファイルを転送することが可能になり、使い勝手が向上する。 Windows Media Connectは、Windows XPで徐々に一部機能が追加されていき、最終的にはLongHornにすべての機能が搭載されていく予定だ。
●PCセントリックなデジタル家電ネットワークの実現を目指すMicrosoft 今回ゲイツ氏が基調講演で公開した製品、サービスなどはいずれもPCがあることを前提としたものだ。 PCセントリックか、非PCセントリックかというのは、ネットワーク化されるデジタル家電を語る上で避けられない議論だが、こと日本に関しては、家電メーカーのお膝元ということもあり非PCセントリックになるのが当然という議論が少なくない。しかし、米国の展示会では、どちらかと言うとPCセントリックな議論が少なくない(というか、PCなしの議論はあり得ない)。 どちらが優れているかというのを語り出すと切りがないのでここでは議論しないが、どちらが優勢になるのかで、MicrosoftやIntelに代表されるPCベンダが生き残っていくか、逆に日本の家電メーカーが生き残っていくかの分かれ目となるだろう。 Microsoftは今回、PCセントリックにかけるという姿勢を明確に打ち出してきた。デジタル機器が相互に接続され、高度にネットワーク化されていくという将来が語られている中で、ゲイツ氏は日本の家電メーカーなどが目指しているPC抜きのデジタル家電ネットワークなどあり得ないと宣言したことに等しい。果たしてどちらの選択が正しいのか、明日には家電メーカー陣営の代表として松下電器の基調講演も予定されており、CESを舞台に両陣営の火花が散ることになりそうだ。 □2004 International CESのホームページ(英文) (2004年1月9日) [Reported by 笠原一輝]
【PC Watchホームページ】
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