三浦優子のIT業界通信

年賀状ソフトのNo.1を維持し続けるクレオ


 もはや、年末のパソコンショップには欠かせない商品となったはがき作成ソフト。パソコンショップにおける季節の風物詩であると共に、3カ月強の期間でトータル100万本のソフトが販売される、パソコンソフトの中で特出すべき大きな売り上げを誇るジャンルでもある。

 このはがき作成ソフト市場でトップシェアの座を維持しているのがクレオの筆まめだ。バージョンを重ねていく間にはパソコンを取り巻く環境も大きく変化し、競合製品も数多く登場したにも関わらず、同社がシェアナンバー1を獲得し続けるのはどんな要因からなのだろうか。


●日本の伝統にこだわった異例の黒いパッケージ

日本の伝統にこだわったデザインの「筆まめVer.14」 文箱に馴染むデザインの「筆まめ 豪華版 匠」

 パソコンソフトのパッケージらしからぬ黒いパッケージに、金色の文字で書かれた「筆まめ」の文字……パソコンショップに並ぶ筆まめVer.14のパッケージを見て、驚いた人も多いのではないか。

 クレオの大森俊樹 コミュニケーション事業本部筆まめソリューション部長も、「ある販売店さんから、ソフト売り場に置くだけなら違和感はないが、プリンタの隣に置くと異様な光景に見えると言われてしまった」と苦笑いする。

 特に今年は、通常製品に加え、「筆まめ 豪華版 匠」の名称の特別パッケージを用意。文机に溶け込むような引き出し型で、筆文字で「匠」と書かれたパッケージデザインは、パソコンソフトというよりも和菓子か、書道関連製品に見える。

 かなり、「日本の伝統」を意識したイメージを打ち出しているわけだが、このイメージ戦略の狙いはどこにあったのだろうか。

 この質問に大森部長はにっこり笑ってこう答える。

コミュニケーション事業本部
筆まめソリューション部長
大森俊樹氏
 「ずばり、日本独特の文化、伝統が今年のテーマだった。はがき作成ソフトのパッケージは各社各様、特徴をアピールするデザインとなっている。どのソフトも年賀状を作るという狙いは同じだが、その中で筆まめは『スタイルにこだわる』ことを考えた。

 年賀状を送るというのは日本独特の儀礼。宛名をパソコンで印字するというだけであれば、どんな体裁となっても宛名が読めればいい、年賀状が届けば用は足りるのだが、日本人は宛名は届くだけで十分とは考えていない。

 例えば、結婚式の招待状の宛名は、きちんと専門家に筆書きしてもらわないと駄目と考えている人もまだまだ多いでしょう? 書き方や文字の上手さといったところにもこだわる、そういう日本人ならではの独特の感性を表すことを狙って、ああいうデザインにしたんです」

 また、筆まめは、はがき作成ソフトの中でも年輩のユーザーが多いと言われているが、「60歳代、70歳代の人が、昨年の実績では前年2割増くらいになった」とさらに年輩のユーザーが増加。「そういうユーザーが多いことも、日本の伝統を生かしたパッケージデザインとした狙いのひとつ」だそうだ。

●MS-DOS時代の人気の秘密はプリンタドライバの搭載数

 Ver.14というバージョン名からもわかる通り、筆まめが最初に登場したのは'90年、13年前のことになる。当時はWindowsではなく、MS-DOSの全盛期であり、パソコンはもちろん、利用されるプリンタも現在とは全く異なっていた。

 「実は初代の筆まめは、住所録データを登録するという機能はなく、入力した宛名を即印刷するというスタイルだった。その後、住所録の保管、管理を行うデータベース機能が付け加えられ、バージョン6ではRDB構造で住所録データを保存するようになっている。実はこの機能進化は、パソコンにHDDが搭載され、しかも容量が大きくなっていったことに呼応したもの」

 プリンタについても、発売当初はドットプリンタが主流だったために、「ドットプリンタで、毛筆の印字をきれいにすることが重要なポイントだった。プリンタドライバも、ソフトメーカー自身で開発しなければならなかったために、「DOS時代の筆まめのセールスポイントが、他社よりも多くのプリンタドライバを搭載していることだった」のだという。しかし、数多くのプリンタドライバを搭載するためには、各社のプリンタを揃えてテストをする必要があった。「今と違って、ドットプリンタは印刷時の音もうるさく、筐体も大きかった。それを並べて、片っ端からテストするのだから、社内はもう大騒ぎ」

 現在でも、最新プリンタに迅速に対応することは筆まめの重要な課題のひとつ。「新しい技術が搭載されているのに、筆まめでその機能を使うことができないのではユーザーは不満が残る。常に最新のプリンタに対応することも筆まめにとって重要なミッションとなっている。

 また、バージョンの進化と共に利用するユーザーも、個人ユーザーだけにはとどまらなくなった。企業が年賀状印刷や、顧客へ郵便物を送るのに筆まめを利用したり、なかには顧客管理簿として筆まめを利用するケースすらある。

 「初期は、個人ユーザーが対象だったために、住所録データは1,000件登録できれば十分だったのだが、企業ユーザーが利用するケースが増えて、1,000件では足りないという声が増えていった。現在ではひとつのファイルで10万件のデータが登録可能になっている」

 ソフトの機能としても、ユーザーの声を聞いて改良を重ねるうちに、住所録をはじめ、ペイント、画像エフェクト、文字変形ソフト、文字の3D加工、カレンダー作成、地図作製、顔文字や絵文字の入力といった機能が加わり、実ははがき作成ソフトと言いながら、中身は住所録データベース+グラフィックソフトになっている。グラフィックソフトとしての機能はCPU負荷も大きいため、古いパソコンで利用しようとすると使いにくいくらいだ。

●ヘビーユーザーから初心者まで幅広いユーザー層に対応

 はがき作成ソフトの中身も変化したが、Windows 95以降は市場規模も劇的に大きくなった。9月頃に新しいバージョンの製品が発売されてから12月末までの期間に、おおよ100万本のはがき作成ソフトが売れていく。パソコン販売店に年末を告げる季節の風物詩とされてきたはがき作成ソフトは、売り上げ確保という面でも重要な商品となっている。

 市場規模が拡大していく中でクレオでは、トップシェアを維持し続けた。決して競合製品がなかったわけではない。アイフォーの「筆王」、マイクロソフトの「はがきスタジオ」、富士ソフトABCの「筆ぐるめ」、今年1,980円で販売を再開したソースネクストの「筆休め」など競合製品も数多い。

 それでもトップを維持し続けた理由を、大森部長は「冒頭に話したように、年賀状という日本的な文化にこだわるというスタンスを維持し続けてきたからではないか」と分析する。

 大森部長のいう「こだわり」は、冒頭に書いた「書ければいいというだけが年賀状ではない」ということを指すことばだが、筆まめの進化の歴史を聞くと、クレオの「筆まめ」という製品に対する「こだわり」が理解できるような気がする。

 筆まめを発売してからの歴史を振り返ると、「最初の5年、6年は、ヘビーユーザーから出てくる『こういう機能が欲しい』という声を聞いて、該当する機能を新たに付け加えていくことが中心だった。ところが、Windows 95の発売で、『とにかく、簡単に年賀状を作りたい』というユーザーが急増した」という。

 まさにパソコンがヘビーユーザー中心から、初心者ユーザーへと市場が拡大したことと合致する、ユーザー層の変化が筆まめにも起こった。

 数としては圧倒的に、「年賀状は簡単に作ることができればいい」という層が多いわけだが、クレオの場合、ヘビーユーザーから支持されてきた歴史がある。

 「自分で作り込んだこだわりの年賀状を作りたい人のために、筆まめペイントのようなツール類を充実させ、オリジナル年賀状作りができるよう機能充実していかなければならなかった。おそらく、現在ついている機能を一人で全て使いこなしている人はいないのではないだろう。だが、色々な目的をもったもった人が、色々なツールを組み合わせて使う場合が多いだけに、機能もたくさん揃える必要がある。例えると、色鉛筆のようなもので一般的には12色で十分なのだが、もっと工夫したいという人のために48色の色鉛筆として発売しているようなもの」

 こだわりがあったからこそ、筆まめは長い歴史を積み重ね、幅広いユーザー獲得が実現できたのだろう。それがトップシェアの座を維持し続けている秘密なのだ。


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(2003年12月25日)

[Text by 三浦優子]


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